第39話 奥多摩リベンジ、健啖便利?
「健啖?佐藤くん、健啖スキル取れたの?」
バカみたいに頼んで騒いだ翌朝。後藤さんが俺にそう確認を取る。
「え?後藤さん知ってんの?」
「知ってるもなにも、あれでしょ、お嬢様系大食い冒険者の、城ヶ崎彩芽……だっけ?あの人が持ってたって噂のスキル」
「じょう……?なに?」
「城ヶ崎彩芽ね。昔有名だった冒険者よ。ダンジョンで倒した魔物の肉をその場で調理して食べるっていうのがウケてたの。食べる量が異常でね、晩年に健啖っていうスキルを持ってる、って告白したんじゃなかったかな」
「食べる量が異常……ね」
「でも、そのあと誰も健啖スキルを持ってるっていう人が出てこなくてね。本当はそんなスキルなんてないんじゃないかって。でも、あったのね」
ふーむ。
ポケットからスマホを取り出して、じょ、う、が、さ、き、っと。
『はぁ〜い、紳士淑女のみなさまぁ〜、お元気ぃ?今日は──』
ババアやんけ。思わずブラバしちゃったよ。
「あ、最後の方の動画ね。もう随分前に亡くなったはずだけど、最期まで元気なおばあちゃんだったらしいわよ」
最期までねぇ。スキルの効果もそのへんかな?健康でいられるなら是非もなし。どっちにしても手に入れたんだし、切り替えていこう。
「んじゃ、今日は本格的にミスリルゴーレム狙いで行くよ」
「オッケー。一応言っておくけど、ミスリル鉱石は売らないでよ?私の方で話つけておくから。売ったら順番待ちだからね?受付で粘られても売っちゃダメよ」
「わかってるよ。どんだけ信用ないの?」
「ストーンゴーレム」
「ゔっ」
「一個二十万」
「ぐゔっ」
「……ちゃんと帰りのことも考えてね。絶対に今日じゃないとダメってわけじゃないから」
「うん、ありがと。じゃー行ってくるよ」
「うん。行ってらっしゃい。気をつけて」
◇◇◇
さくさくさくっとダンジョンを通り抜けて、アイアンゴーレムのいる三層へとやってきた。昨日よりも疲れにくいというか、全然疲れないな。
『昨日より速くない?』
『速い』
『スタミナ上がってる?なんかのスキルか?』
『また増えたん?』
「どうなんでしょうねー?」
再びの三層ということでアイアンゴーレムを警戒していたが、どうやら近くにはいないみたいだ。
『再湧きは?』
『さすがに、まだだろ』
『昨日潰したのが夕方くらいだっけ?』
『朝イチだしまだだな』
なら今のうちにさっさと通り抜けるか。アイアンゴーレムは旨味ねぇからなぁ!!
『なんか怒ってない?』
『あれだろ、昨日のドロップ』
『あー鉄鉱石売ったのか』
『今どんな気持ち?』
煽り性能高くなってない?つーか知ってたなら言えよな。……まぁ俺でも黙ってるけど、面白いから。
気を取り直して前を見る。辺りにアイアンゴーレムの気配はなし。足音も……聞こえないな。
後藤メモを取り出して、ルートを確認する。
あー行って、こー行って、こう!だな、覚えた。ノンストップゴーゴー!
◇◇◇
「だらっしゃらぁ!おらコラァ!」
魔鋼メイスを振り回して、アイアンゴーレムの体を砕く。鉄鉱石は無視!さっさと、先へ進む──
「っと、階段か」
むき出しの岩肌の中にポツンと空いた大きな穴。三層は実入りも少ないしさっさと降りちまおう。
『お、次か』
『四層は魔鋼だっけ』
『マジックゴーレムだな』
そう。次は今俺が使っている武器と同じ、魔鋼でできたゴーレム。マジックゴーレムだ。魔法を使うわけじゃないけど、マジックゴーレムなのだ。
自然そのままの整えられてすらいない岩をえっちらおっちら降りていく。ちょっと薄暗いし、歩きにくいなこれ。
大小入り乱れた岩をしばらく降りた先。薄暗い穴を進んだ先に明かりが見え始めた。
「お、おお……これが」
さっきまでの鉱山チックな洞窟と、見た目は同じ。違いは、岩肌の所々に見える金属の種類と──
「おおい!そっちに行ったぞおおお」
「任せろおおあああ!」
男たちの野太い声と──
「────!」
マジックゴーレムの声にならない悲鳴。
『めちゃ混みやん』
『釣りしてる奴もいるぞ』
『あちゃー』
うっわぁ、これ、どうしようもないか?
呆然と階段前で立ち尽くしていると、指示役だろう腕を組んで見ていた男がこちらに気付いて近付いてくる。
「おう、なんだ。横取りは御法度だぞ」
「あ?いや、そんなつもりはないですよ。俺が行きたいのはこの下なので」
「この下ぁ?…………お前が?見たところ一人のようだが、冗談だろ?」
「……?いや、本気ですけど」
「…………ふ」
「ふ?」
「ははははははっ!おおい!聞いたか!ミスリルゴーレムの挑戦者だぞ!!」
「はぁ?ソロで?」
「自殺志願の間違いだろ」
指示役の声に周りの男の注目が集まる。敵意というよりは、嘲り。
『ガチ勢か』
『だなー』
『無視して先行こうぜ』
そう、だな……。ここでこいつら説得する意味なんかねーし、さっさと行くか。
マジックゴーレムはちょっと気になるけど、揉めるだけだ。むしろ露払いご苦労!!ガハハハ。
「お前、何笑ってやがる。頭イカれてんのか」
『鋭い指摘』
『否定できない』
『むしろ肯定しちゃいそう』
『でもまだバサカってないから(震え声)』
「いえいえ、ちょっと記念にミスリルゴーレムを見てみたいと思って……通っても大丈夫ですか?」
「……まぁ、死にたいなら勝手にしろ。おい、こいつが変なことしねぇか見張ってろ」
「うす。おい、下行きの階段はあっちだ。付いてこい」
どっから見ても下っ端の剣士が、洞窟の奥を指差しながら歩いていく。
えー?これ大丈夫?付いていったら罠にハメられたりしない?
「おい、早く行け。それともここでヤる気か?」
「へいへい」
もういいや。なるようになーれ、ってな。
◇◇◇
「ほら、ここが階段だ。さっさと降りろ」
「…………はい」
何もないんかい!
「……おい、早く行け」
「わかってるよ」
下っ端剣士は階段から距離を取っている。俺が戻ってこないか、それだけを気にしてるって感じか。
おフザケは終わりだな。階段の先から、これまでとレベルが違うプレッシャーを感じる。危機感知が動くの、久しぶりだな。
「すぅ────ふぅ」
深く吸って、吐く。
よし、行くか。




