第36話 奥多摩の三層、たまげた感想
──ゴリ、ゴリ
石畳を擦る音が、少しずつ近付いてくる。視聴者のみんなも気付いているんだろう。息を呑むように静かになってしまった。
──ゴリ、ゴリ
今、あの角の向こうだな。こっちから行くか。
初めての迷宮型のダンジョンだ。道に迷うと大変なので、マップスキルと後藤さんの地図を照らし合わせながら慎重に進む。
壁の突き当りを、右に曲がった先。十メートルほどのところに、音の主が足を止めていた。まだ、こっちには、気付いてなさそうだ。
全身が石でできている、ストーンゴーレム。成人男性ほどの背丈に、その倍はある横幅。相撲取りみたいな丸い体つき。それら全てが石ならば、初心者が近付かないのもわかる。
『おおお……』
『初めて見た』
『ザ・ゴーレムって感じだな』
「じゃあ、試させてもらおうか」
魔鋼製の片手剣へと魔力を注ぎ込む。眩く輝き出す刀身。十全に篭った魔力が、震えだす。
更に、自身の腕へと魔力を込めて──剛力スキル、発動。
今の俺ができる最大火力だ。しっかり味わって逝けよ。
片手剣を大きく後ろへ振りかぶる。テレフォンパンチならぬ、テレフォンスラッシュってな。
「──ふっ!」
ビキビキと腕がしなる。技術もへったくれもない力だけの一撃を、中途半端に上がった剣術スキルが補佐してくれる。
そして、十メートルの距離をなくすための、最後の一手。残った魔力の全てを足へと注ぐ。
──縮地!
十メートルの距離が一瞬でゼロになる。目の前に突然現れた俺に反応して手を伸ばそうとするが、もう、遅い!!
「おっ、らあああぁぁぁぁあ!」
「ゴッ──」
魔力によって強化された刃は、石程度では減速すらせずに、圧倒的な切れ味だけを発揮しながらゴーレムの体を通り抜けていく。
『うっわぁ……』
『剣士泣かせを一撃か』
『俺が育てた』
『あ?』
『やべ』
『死神いて草』
「──ふぅ、剣でもやれるな」
全身を襲う軽い倦怠感──魔力が減ったせいだ──が、少しずつなくなっていくのを感じながら周囲を窺う。足元には魔石と、手のひらサイズの石っころ。
うん。敵はいないな。
『つーかここに何しに来たんだ?』
『たしかに、ここってご飯取れるとこだろ』
「あー、別に言ってもいいかな?……実は装備を更新したくて」
『装備?』
『ミスリルか!』
『死神対策?』
『確かに武器は大事だしな』
『なんだそれ、ツマンネー』
『今日はどこまで行くんだ?』
「あー、今日はとりあえず試しですね。アイアンまで行ってみようかな?」
『この感じならアイアンも余裕だろ!』
『もっと行こうぜ』
『オリハルコン希望』
『きつくね?』
「時間もかかるからね?さすがに今日は無理無理」
コメントを適当にあしらいながら、奥へと進んでいく。石で囲われているからか、空気がヒンヤリとしている気がする。
──カツン、カツン
靴が石畳を叩く音だけが響く。ストーンゴーレムはあんまりいないみたいだ。こりゃ確かに、旨味がないね。
◇◇◇
「せいっ」
気配遮断を使いながら、ストーンゴーレムへと忍び寄って頭からお尻まで唐竹割りにする。
こいつら感知系が大したことないのか、全然気付かないな。
落とすアイテムは使いみちのよくわからない石ころだし、なんのために存在してるんだか。
「もうすぐかな──っと、あった」
石造りの壁に大きく空いた穴。その奥に見えるのは、下への階段だ。
『なんか今日手際よくない?』
『地図持ってるっぽいな』
『バーサーカーにあるまじき行為だな』
コメントがうるさいが、こんな魔物もいない階層をウロウロしたって仕方ないだろ。
階段を見つけたらさっさと降りる。それが正解である。
◇◇◇
「ゴガ」
「オラァ!」
──ゴギン
金属と金属がぶつかる鈍い音が、洞窟に響く。
三層に降りた俺を迎えたのは、ストーンゴーレムよりも一回り大きくなった鉄の巨人──アイアンゴーレムだった。
「ビックリしたぁ……階段の近くにいるのはなしだろ」
どうもこの階層……アイアンゴーレムが多そうだ。そこかしこに気配を感じる。鉄の塊を殴るようなもんだから、どうしたって騒がしくなるし、見つかるのは避けられないな。
周りの様子を確認してから、アイアンゴーレムが落とした鉄鉱石を拾って、ポーチへと突っ込む。洞窟っていうか、鉱山とか、坑道かな?むき出しの岩肌にいくつか茶色い鉄錆のような石がある。天井までは五メートルくらい、道幅は十メートルってところか。戦うのに気を使うことはなさそうだけど……。
奥にある三叉路へと目をやる。
薄暗い道の先に、動く影が……たくさん。
「ま、あんだけ音立てりゃ、そりゃやってくるか。よく響くし」
そう言っている間に、道の向こうからドンドン集まってきている。狭い通路で挟まれるよりは、ここで戦ったほうがマシだな。
『ちょ、ちょっと多くないか?』
『三十くらい?』
『いや、もっといるだろ。つーか後ろから追加来てるし』
『これ、このフロアのゴーレム全滅させないと終わらないんじゃ』
『佐藤くん!戻りなさい!』
『お?新規?』
あ、今の後藤さんか。心配してくれてるんだな……ありがたい。
魔鋼製の片手剣をポーチに戻して、その代わりに槍を取り出し、軽く振り回して具合を確かめる。うん。問題ないな。
「さぁ来い無機物ヤロウ共、格の違いを教えてやるよ」
お前ら全員、漏れなくリサイクルしてやる!




