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第35話 奥多摩の奥まで


「じゃ、とりあえずホテル取るわよ。一人部屋二部屋でいいわよね?」


「もちのろん。むしろそれ以外ないでしょ」


 ◇◇◇


 大理石調の床、壁に、だだっ広いホール。天井は吹き抜けになっていて、とんでもなく開放感がある。中庭……というかあれは訓練場だろうか。ガラスで仕切られた向こうでは冒険者だろう男たちが手合わせをしているみたいだ。


 ……で、そのホールの端っこにあるこぢんまりとした受付で、後藤さんが部屋を押さえようとしてるわけだけど。


「生憎と、パーティー用の八人部屋しか空いておりませんでして……」


「ぐ、じゃ、じゃあ、それで……」


 後藤さんが拳をフロントに押し付けながら唸る。相部屋イヤなの?お前失礼な奴だな?


「では、一ヶ月で二百万円になります」


「にっ、二百ぅ!?」


 一人で騒ぎすぎじゃない?無いならしょーがないじゃん。


「はぁ……Bペイでお願いします」


「ちょっと佐藤くん!ここ素泊まりなら最安八千円よ!?暴利よ暴利!」


「いや、八人部屋一ヶ月で二百万ならそんなもんじゃない?暴利じゃないじゃん」


「二人なのよ!四倍よ四倍!」


「いや、俺が自腹切るからさ──」


「部屋を案内してもらえるかしら」


「は、はぁ……」


 このクソアマァ……!自分が払わないってなった途端これか!?金が全てか!?


「どうしたの、佐藤くん。おか、ミスリルは待ってくれないわよ!」


「今お金って言った?言ったよね?ねぇ!」


 後藤さん、本性出過ぎだろ!


「お、お部屋はこちらで〜す……」


 ◇◇◇


「悪くないじゃない」


「そりゃ一ヶ月二百万だし」


 広い。それに尽きる。


 八人が座れる(当たり前)ダイニングテーブル。

 八人が座ってもなお余裕がありそう(当たり前)なソファ。

 八室ある個室(当たり前)。


 二人では確実に使い切れない。


 そんな俺の思いは知らず、後藤さんは持ってきたキャリーケースからパソコンやらモニターやらを取り出してダイニングテーブルへとセッティングしている。


「何してんの?」


「ここで配信見ようと思って」


「誰の?」


「佐藤くんの」


「俺の?」


 後藤さん、冒険しないの?


 てっきり一緒に行くものだと思ってたけど、そういえばそうとは言ってなかったか?


 俺が北千住でのことを思い返している間も、後藤さんはテキパキとセッティングをしていく。止まんねぇなコイツ。


「まぁいいや。後藤さんいたら収納誤魔化しやすいと思ったけど、しゃーないな」


「ん、これ貸してあげるわ」


 俺が一人でボヤいていると、後藤さんがキャリーケースからポーチを取り出してこちらへと投げてきた。お?これ、もしかして。


「テントやら水やら、必要そうなものは色々入れといたから、後で確認しときなさい。あと、休むときは必ず複数パーティーがいるところで休むのよ」


 あれ、なんか後藤さんが、変だ。


「優しい!?」


「はぁ!?私は元々優しいですけどぉ!?」


「変だ!変っ!」


「クソガキィ!ポーチ返せっ!」


「嫌ですぅ!」


 後藤さんと、広い室内を二人で走り回る。なんか後藤さんとこういうことすんの、楽しいなー。


 ◇◇◇


「あっ、あんた、ふ、ふざけてんじゃ、ないわよ……」


「ははは、鍛え方が足りませんな」


 床に大の字になって倒れた後藤さんに、勝利宣言。イェイ。


「じゃ、一回軽ーく、ダンジョン行ってみるよ。もう昼過ぎだから、数時間くらいかな」


「きっ、気をつけ、なさいよっ、ゆっ、油断、禁物だからね」


 息整えてから喋ればいいのに。なんだかんだ心配してくれるから、俺も甘えてしまうわけだが。


「わかってる。じゃ、行ってくるね」


「いってら〜」


 ◇◇◇


 田園、といえば良いだろうか。山あいの村……は違うか。建物はないし。そこら辺に点々としてるテニスコートくらいの大きさの田んぼから、人型をした稲の塊が湧いてきてる。


 それと同じくらいの数の畑からは、多分同じような麦の塊。


 腰につけたポーチから、後藤さんのメモを取り出して見る。


「えーっと……田んぼから出るのが、ライスゴーレム……畑はウィートゴーレム……見た目じゃわかんねぇな」


 ちなみに、一つの田畑にはだいたい四人くらいの冒険者がスタンバイしているので、俺がすることはない。あ、倒した。


「ふむ、雰囲気を掴んだらさっさと二層に行けと……で、これが地図ね。用意いいな」


 どうやら、この田畑の大群を抜けた先に、二層への階段があるそうだ。メモによると二層からは一気に人がいなくなるらしいから、そこからが本番だな。


「じゃ、メモ通りサクッと行きますか。まずはドローンを、ポチッとな」


『お』

『あれここって』

『奥多摩か?』


 やっぱ有名なんだな。そこら辺でゴーレムと戦ってるし、一目瞭然なのかね。


「はい、本日は奥多摩第四ダンジョンに来てまーす」


 バレてるし隠してもしゃーないしな。何回も聞かれても面倒だし。


「じゃ、サクサク行きますよー」


 両足に魔力を集めて、疾走スキルを発動する。


『うおお、相変わらず速えええ』

『酔いそう』

『画面見ないほうがいいんじゃね』


 左右の田畑で狩りをしている間を通り過ぎていく。時折こちらに気付いた冒険者がビックリした顔でこちらを見ているのがちょっと気持ちいい。


 結構速いだろ、俺。


 ……ま、アキラはもっと速いんだけど。


 ◇◇◇


『ここが二層かー』

『奥多摩の二層って初めて見るかも』

『あんまり行くやついないしな』


 一層とは打って変わって、石造りの迷宮って感じになったな。


 広さは……槍振り回すくらいなら出来そうだ。弓の出番はないかな。


 ──ゴリ、ゴリ


 静まり返ったダンジョンに、硬い何かが地面を擦る音が響く。


 ダンジョンへ入る前にポーチに移した片手剣を取り出して、軽く握る。


 さて、奥多摩の奥まで、突っ切っていくぜー!


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