第34話 そらそうなりますわ
私の所属するクラン、アットホームパーティー。そのクランマスターの執務室に呼び出された私は、突然のことに理解が追いつかなかった。
「あ、え、そ、その、じょ、冗談ですよ、ね?」
「──冗談?」
クランマスターの冷ややかな目に、身がすくむ。
「ひぐ、だ、だって、私、何もしてない……」
「はははっ!わかってるじゃないか。何もしていない。そう。その通りだよ、竜胆さん」
執務室の大きなデスクに座ったまま、両手を叩いて笑うマスター。なんで?なんでそんなに、楽しそうに言えるの?
──バン!
「ひっ」
机を叩く音が部屋に響く。
「何もっ!クランに利益をもたらすようなことは何もしていない癖にっ!その癖に家族であるクランメンバーを売る!お前みたいな奴を、疫病神と言うんだ!」
マスターの目が怒りに満ちる。その目で睨まれると、私は何もできなくなる。ずっと、そう。下を向いて、嵐が過ぎるのを待つだけだ。
「う、うぐ、す、すみま、せん……」
ふっ、とマスターの圧が無くなる。恐る恐る顔を上げて覗き見るマスターの顔は、笑っていた。
「わかってくれたかい?竜胆さん」
「あ、は、はいっ、あの、私、これからもっと頑張って──」
「今日中に出ていってくれるかな。クランハウスに置いてある私物もまとめて、全部」
「え、え?マ、マスター?」
「今月の締め日はまだだし、給料はいらないよね?まさか、迷惑かけておいて、欲しいなんて言わないと思うけど」
笑ってない。目が、本気だ。
ようやく私は、自分の置かれた状況を理解した。
──捨てられる。
「ま、待ってください!私、な、なんでも、ちゃんとやります!だから──」
「ちゃんと?今まではちゃんとしてなかったのかい?遊びで働かれても、迷惑なんだよ」
「──ふ、ふぐ、う、うああああっ!」
──あの事件から一ヶ月後の今日、私は全てを失った。
◇◇◇
「うっひょおおお!」
「ちょっと、窓開けないでよ。髪が乱れるじゃない」
サングラスをかけた後藤さんが、ハンドルを握りながら言う。
髪を耳にかける仕草がセクスィーだ。ヒューヒュー!大人の女ぁ!……フザケてる場合じゃねぇか。
「さーせん」
「もう、車に他人乗せるの嫌いなのよ。土とか持ち込んでないでしょうね?」
「あ、後藤さん、ハンバーガー屋さんある。ドライブスルーしようぜ!」
「しないわよ。臭いつくでしょ。バカじゃない?」
「五七五で悪口言われたっ!」
うまひどい!
でも、楽しいな!
「っていうか、出発してまだ五分よ?落ち着いてくれない?遊びじゃないの。私は今回の遠征で自身の生涯年収を稼いでFIREするんだから」
「あれ、後藤さん仕事辞めんの?」
「そのうちね」
「ふーん」
仕事といえば……竜胆さん元気かなぁ。ちゃんと働けてたらいいんだけど。
あのパーティーはあんまり合ってなさそうだったし、新しいパーティーではもうちょいこう……。
「考えても仕方ないか」
今度見かけたら、それとなく聞いてみよう。あんまり行くダンジョン被ってないっぽいけど。
「〜♪」
後藤さんはご機嫌。カーミュージックはノリノリだ。天気は快晴。
我らは一路、夢と大金が待つ、奥多摩ダンジョンへ!
向かうのだ!!
「あと二時間くらいかかるわよ」
「うえ〜」
「今のうちにスキルでも見直しといたら?そこそこ上がってるんでしょ?」
うーん、どうせ後藤さんが見たいだけだろぉ?とは思うものの、他にやることもない。収納に入れたままのカバンから、マイナンバーカードを取り出す。
どれどれ……。
『冒険者適性アリ』
『職業: 』
『スキル:早熟・遅咲・剣術(23)・遠見(20)・気配感知(20)・マップ(20)・危機感知(21)・気配遮断(20)・超回復(20)・鎚術(20)・挑発(20)・空間把握(20)・槍術(20)・斧術(20)・短剣術(20)・盾術(20)・弓術(20)・拳術(20)・杖術(20)・魔力操作(20)・魔力回復(20)・疾走(20)・跳躍(20)・魔剣術(20)・暗殺術(20)・収納(20)・魔力感知(20)・剛力(20)・不壊(20)・縮地(20)』
増えてないなぁ……。というか見辛い。とても見辛い。ソート機能ないんかこれ。
でもって、見事に20で止まってる。結局、この一ヶ月で伸びたのは剣術が1だけ?このままのペースだと、剣術に集中して上げても30に行くかどうか、ってところか。
「あー、足りねぇなぁ。もっとぴょーんと強くなれたらいいのに」
「冒険者が聞いたらブチ切れるわね」
「いや、アキラとユキナはこんなレベルじゃないし」
「神スキル持ちと比べてどうすんの。あ、同じ穴のムジナか」
「……あれと同じと思われてんの?」
「私からすりゃ、おんなじね」
「そっかぁ……」
◇◇◇
山と山の間、ぽっかりと空いたデッカい穴。そこにダンジョンはある。避暑地とはいえ、夏真っ盛りな日差しは強い。
そんな大自然に、真っ向から逆らう存在が一つ。
「でっけぇホテルー」
「奥多摩の駅前にわざわざ作るんだから、本気っぷりが伝わるわね」
下手したら山よりも大きいんじゃないだろうか。と思うぐらいのサイズ感だ。
「そんなに人気なの?奥多摩第四ダンジョン」
「低層で食料が落ちるからね。国の政策込みで大人気よ」
「へぇ、何が出んの?」
「米と小麦」
「主食じゃん」




