第30話 竜胆スミレ
「……確か、そこそこ金持ってるはずだよな」
「素手でどうするつもりだよ」
「なぁ、早くやろうぜ」
三人組の冒険者は、ジリジリと近付いてきている。まだ、十メートルは離れてるけど、もうそろそろ突っ込んできそうだな。
魔法使いの子──竜胆スミレだっけ?──は、動く気配はない。というか、こっちを見ずにずっと下を向いてる。両手を合わせて、なんというか……祈ってる?
「スキありっ!!」
意外、というと失礼かもしれない。俺が彼女の方に目をやっているのを正確に把握して、そのスキを突いてくるとは思わなかった。剣士の奴、リーダーっぽいし一番強いのかな?まぁ──
「お前が突けるスキなんてねぇよ」
真っ直ぐ、俺の顔を狙った突きを、スウェーで躱す。
そして伸びきった片手剣の腹へと、渾身の左フック。
「オラァ!」
「うっ、ぐ──」
片手剣を手放さないようにした結果、俺の拳の勢いに押されて、剣士の体が右へと流れていく。スキだらけだな?
「──フンッ!」
ダッキングで素早く剣士の懐へと潜り込み、右手でボディーブローを見舞う。
「ご、お、おぇぇ!」
鳩尾にめり込む拳と、骨が折れる感触。続いて剣士の嘔吐。きったねぇな。ちょっとかかったじゃねぇか。
「てめぇ、やりやがったな!」
間合いの外から怒りと共に槍を突きこもうとする男へ向かって、めり込んだままの拳を振り抜くことで剣士を押し付ける。
「ほれ、面倒見てやれよ」
「う、うおおお!」
突きをキャンセルして、ゲロまみれの剣士と倒れていく。美しい友情だね。
「死ねおらあああ!」
鎚使いの男が、頭上へと振りかぶった鎚を俺目掛けて振り下ろす。
重たい鎚だ。まともに当たればひとたまりもないんだろう。でも──
剣士をふっ飛ばした右腕を引きながら、その勢いを利用して腰を捻る。右腕、腰で溜めた力を、左の拳に乗せて──放つ!!
「シャアアアア!」
全力のアッパーと金属の塊がぶつかり合う。左手の皮が裂け、骨が軋むが、負けるかよっ!
「押し切ったらああああ!」
「うおおおっ!?」
振り下ろすはずだった鎚を上へとかち上げられて、理解が及んでいなさそうな鎚使いへと向かって、右足を大きく踏み込んで。
手を伸ばせば届く距離。脇を締め、肘を畳んだまま。素早く、鎌のように、肘を振り抜く。
「フッ!」
──コッ!
「あが──」
鎚使いの顎と、俺の右肘が軽く打ち合う。
目の焦点が合わなくなった鎚使いが、膝から崩れ落ちていくのを見送りながら、手に持っていた鎚を借りて──残るは一人だ。
未だに剣士を退かそうと仰向けのまま必死になった槍使いへと、鎚を大きく構えて──
「ま、待って!待ってくれ!頼む!」
「オラアアアア!」
槍使いの顔目掛けて──
「い、いぎゃあああああ!!」
──ドゴオオォォォ!
打ち込むのは、やめといた。槍使いの顔の横に、大きなクレーターを作るだけで終わった。
「あ、ああ……」
もう気絶してるみたいだし……どうも失禁もしたようだ。
「さて、一丁上がりだな」
魔法使いの女の子へと目をやると、今までの惨状を見ていたのか、震えながら俺を見ている。
長い前髪のせいでほとんど顔が見えないけど、ひどい汗だ。彼女に危害を加えるつもりはないんだけど、信じてもらえる気がしない。
「えっと……竜胆スミレさん、でよかったかな?」
「ひいっ!こ、殺さないでくださいっ!お、お願いします、お願いします!」
恐ろしく速い土下座。ビックリするほどスムーズ。こいつ、やり慣れてるな?
「あー、えっと、謝る必要はないよ。どう見てもあの三人組に無理やりやらされていたんだろうし」
「あ、謝ってもダメってことですかっ!?もう許すつもりはないと!?ここで私も殺して証拠隠滅です!?──ああ、お母さん、先立つ不幸をお許しください。スミレは親不孝者でした……」
「聞けぇ!」
──スパァン!
「いだぁ!?」
めちゃくちゃ手加減したチョップを、土下座した頭へと叩き込む。優しくね?
「──んんっ。無理やり従わされていた人を責めるつもりはないよ。だけど、あいつらを連れていくのを手伝うくらいはしてほしいんだけど?あと、誰も殺してないよ」
「こ、殺してない?ほ、ホントですぅ?」
ようやく俺の言葉が耳に届いたのか、地面に擦りつけていた顔を上げて、恐る恐るこちらを窺う竜胆(?)さん。
──率直に言って、ビックリした。
紫掛かった前髪から覗く潤んだタレ目。ローブに隠れて気付かなかったが、非常に女性らしい体付きをしている。冒険者だとは、正直思えないくらいに。
ダンジョンなんかにいなければ、アイドルになっていてもおかしくない。そう思えるくらいには、衝撃的だった。
男の庇護欲をそそるタイプだ。自覚はなさそうだけど。
「あ、ああ……その、竜胆、スミレさん、でいいのかな?」
「はぁい……竜胆スミレと申しますぅ。アットホームパーティー所属の魔法使いですぅ……」
「アットホームパーティぃぃぃ?」
これが俺と、後に国内三人目となる神スキル持ち、魔神・竜胆スミレとの出会いだった。




