第29話 魔法はすごい、パーティーはひどい
「おお……これが噂の……」
『階段か』
『なに?二層行くの?』
ダンジョンをウロウロすること一時間ほど、土で囲まれたダンジョンに階段が現れた。
『ここの二層って何が出るん?』
『ゴブリン上位種』
ダンジョンの突き当たり、高校の教室と同じくらいの大きさの空間にある階段は、石でできていた。
「ちょっと一旦休憩します。配信一回切りますねー」
『乙』
『乙』
『オツカリー』
ドローンのスイッチを切り、リュックやチョークバッグを外して、その場にあぐらをかいて座る。次にいつ休憩できるかわからないからな。配信も切ったし、収納を気にせず使える、数少ないチャンスだ。
「えーっと、水出して、ご飯……」
ダンボールからペットボトルを取り出す。二十四本入りのやつ。フタを開けて一気に飲み干す。
「ふぅ、さて……軽く腹に入れとくか」
保存食……いわゆるバランス栄養食だ。ブロック状の、食べると口がモサモサするやつ。袋を開けて口に放り込む。
……うん。とりあえず口に入れば何でもいいと思ったけど、ずっとこれだと気が滅入るかもしれないなー。今日はいいとして、また考えよう。
「ふぅ、ごちそうさまでした。…………ん?」
気配感知が複数の存在を知らせてくる。ゴブリンよりも大きいな。ドローンに手が伸びたところで、話し声が聞こえてきた。
「あー!ようやく休憩できるぞ!」
「疲れた……早く休もうぜー」
「おい、早く来いよ」
「す、すみません……」
冒険者、か……。四人組、前衛三人と魔法使い?のパーティー。最後尾でひどく疲れてる様子の女の子。大きなリュックを背負い、安っぽいローブを着て自分の身の丈ほどの杖をつきながら歩いている。
「あ?先客か」
先頭を歩いている、剣士っぽい男と目が合う。後ろには、鎚を持った奴と槍を持った奴が続いている。
「どうも」
「一人……ソロか?」
「隠れてる奴はいねぇぞ」
「んだよ、ビビらせるなよ」
周りをキョロキョロと見て、警戒を解く三人。早々に装備を外して、地面に座り込んでいる。
……まだ魔法使いの子が、歩いてんのにな。
「おいっ!スミレ、水」
「は、はい。水生成」
女の子が鎚使いの声に反応して、そちらへと手をかざす。
空中に水の塊が突然発生し、鎚使いの男がコップをその中へと突っ込んで水を汲んでいる。
おお、あれが、魔法……初めて見た。
そうやって俺がまじまじと見ていたからか、鎚使いの男が不愉快そうにこっちを睨みつけてくる。
「おい、なんか用か」
「ああ、魔法を初めて見たので、すみません」
「初めて……?クランに入ってたら、見る機会なんていくらでも──」
「おい、そいつ、あれじゃねぇ?死神のヒモ」
槍使いが俺を指差しながらとんでもないことを言い出す。
お前今とんでもないこと言ったぞ!
とんでもねぇな!!
「お……?おお、マジだ。配信で見たやつじゃん。ホンモノ?」
「ここがそのダンジョンだろ?じゃあホンモノじゃん?」
「あ、あの、あまり他の方とトラブルは……」
「うるせぇよ。おい、ドローン止めとけ」
「へ?いや、でも」
「いいから止めとけって、竜胆。今から休憩するんだから、止めたって構わねえんだし」
「そうそう、別に魔物の取り合いでも何でもない。お話してるだけなんだからよ」
「わ、わかり、ました……」
申し訳なさそうにこちらをチラリと見てから、ドローンのスイッチを切る魔法使いの女の子。どうでもいいけど、あれ俺と同じドローンだな。
ドローンが停止したのを確認してから、嬉しそうに立ち上がってこちらへと歩いてくる三人組。
「へへ、なぁ、どうなんだよ、死神に囲われるのは」
「お小遣いは結構もらえんだろ?ママ活ってやつ?」
「なぁ、俺らにもオコボレ、分けてくれよ」
「ああ……?オコボレだぁ?」
あまりにもフザケた言い分に、イライラしてしまう。こいつら、ここに何しに来たんだ?命懸けだぞ?
「代わりたいなら代わってやってもいいぞ。もっとも、アキラはお前らに興味なんか、これっぽっちも無いだろうけどな」
実際、なんで俺が気に入られてるのかは知らないけどな。代わってもいいのは本当。
「あぁ?お前、立場わかってる?」
鎚使いがイライラしたように言う。
「知ってるか?ダンジョンって、事故が多いんだよ」
槍使いが脅しをかける。
「なぁ、仲良くやろうぜ?片意地張っても仕方ないだろ?」
剣士が、諭すように話しかける。
言い方は変わっても、性根は変わらない。
……こいつら、俺を舐めてるよな。
何だったら、アキラのことも。
なんだろう。
──ムカつく。
「あ?お前……ヤんのか?」
「マジ?三対一だぜ?」
「あーあー、おい、竜胆!結界張っとけ」
「で、でも──」
「いいから張れよ」
「──ひっ、は、はい。拒絶領域」
魔法使いの女の子が目を潤ませながら杖をかざすと、何かがこの部屋を覆うように広がっていく。
それを確認してから、得物を構えてジリジリと近付いてくる三人。相対する俺は、武器を戻しちまったから丸腰のままだ。結界のせいか、さっきからドローンのスイッチも反応がない。収納スキルを使えばいつでも武器は出せるけど、こいつらにスキルのことバレたくないな。
三人に正対したあと、体を半身にして拳を上げる。ボクシングスタイルだ。
「ぎゃはは!やる気じゃん!丸腰のクセに!」
「調子乗りすぎだろ」
「殺す?殺したほうがいいよな?あとが楽だし」
ゴブリンの上位種と思ったら、これかよ。
相変わらず運が悪いぜ。




