第23話 後藤さん!早く逃げて!
「ふぅ、今日はこれくらいにしましょうか」
「あ、ありがとう、ございます……」
一言で表すなら、満身創痍だろうか。
俺の状態がね?
あの後、若干怒った感じのユキナのスパルタ特訓(という名のシゴキ)を受けた俺は、見るも無惨(二回目)な有様であった。
いや、服とかボロボロなんだけど……。普段着なのに……。
「しかし、本当に最後まで付いてこれましたね。少し驚き……いや、かなり、ですね」
「いや、服を見て?膝とかむき出しなんだけど。ギリギリ繋がってるだけ。ダメージジーンズなんてレベルじゃねーぞ」
「恭平さん、失礼でなければスキルを教えていただけないですか?」
「……は?」
俺のスキル……?
「いや、俺の言葉を──」
「もちろん誰にも漏らしませんし、対価になるかわかりませんが私のスキルもお見せします。いかがですか?」
──剣神のスキルを、見れる?そんなの、土下座したって叶わない願いだろう。なんなら金払ってでも見たいやつがいるんじゃないか?
……ユキナが嘘をつくとは思えない。彼女がそう言い切る以上、本当に誰にも言わないし、本当に見せてくれるだろう。そして正直、第三者の目ってのはありがたい。
「……誰にも言わないなら、見せるよ」
「ありがとうございます。それでは、私から切り出した話ですし、先に私のスキルをお見せしますね」
いつもの無表情が、ほんの少し崩れる。ちょっとだけ、口角が上がった気がした。……嬉しかった、のかな?
そのまま迷い無く自身の腰に付けたポーチから、マイナンバーカードを取り出して俺に見せてくる。いや、本当にテキパキしてて迷いねぇな。
「どれどれ……」
『冒険者適性アリ』
『職業:剣神』
『スキル:剣神・空間把握(37)・気配感知(15)・魔力操作(5)』
四つ……だけ?しかも気配感知と魔力操作は俺より低い。たったこれだけで……いや、剣神がそれだけ強いスキルってことか?
「その……少し恥ずかしいですね。こう、まじまじと見られるのは……」
「──っ!ご、ごめん。ありがとう」
いや、見せるって言い出したから気にせず見ればいいんだけどね?こう、モジモジされるとさぁ、見ちゃダメなもの見てる気分になっちゃうよ。
「い、いえ、私が見せると言ったので……。では、恭平さんのを見ても?」
「あ、ああ……はい。どうぞ」
「…………なんですかこれ」
なんかちょっと怒ってる?表示がミスったのか?
ユキナの言葉にちょっぴり心配になったので、自分でもカードを見てみる。
『冒険者適性アリ』
『職業: 』
『スキル:早熟・遅咲・剣術(22)・遠見(15)・気配感知(20)・マップ(12)・危機感知(21)・気配遮断(20)・超回復(20)・鎚術(20)・挑発(20)・空間把握(20)・槍術(20)・斧術(20)・短剣術(20)・盾術(20)・弓術(20)・拳術(20)・杖術(20)・魔力操作(20)・魔力回復(20)・疾走(20)・跳躍(8)・魔剣術(20)』
「あ、剣術上がってる」
「いや、そういう問題じゃないでしょう!!」
「おおっ!?」
今までに聞いたことないレベルの大声に、慌ててマイナンバーカードを戻して辺りをうかがう。
「ユキナ!声!でかい!」
「──あ、し、失礼しました……」
あ、これは本気で恥ずかしがってるな。さすがに俺でもわかる。
ユキナも辺りを見回してから、耳打ちするように小声で話し始める。
「恭平さん、あのスキルの数、どういうことですか?」
「どうって言われても……やったら覚えるんだよ」
「それにしても、あの量は異常です。どう考えても……」
うーん、いいか?ユキナだし、大丈夫だよな?モルモットにされたりしないよな?いいか、言っちゃえ。
「いや、実は俺さ、職業欄が空白なんだよね。ほら」
一旦戻したカードを取り出して、ユキナへと向ける。
「……確かに。先ほどはスキルに目が行ってしまいましたが……職業もですか」
「も、ってなんだよ。スキルもおかしいみたいに言うなよ」
「十分おかしいでしょう。……しかしこれは、さすがに……」
そう言って考え込むユキナ。え?まさかクランマスターに言うとかないよね?信じてるよ?
気まずい空気のまま、無限に感じる数秒を耐えたあと、バッと顔を上げてユキナが口を開く。
「恭平さん。このこと、他の方には?」
「ここまで細かくは言ってない……と思う。職業欄は、面接と足立区の総合販売所で話したことはあるけど」
「わかりました……。ありがとうございます。これだけのことを打ち明けてくれて……その、総合販売所の人とは?」
「えっと、後藤さんっていう、受付の人。メガネかけてて仕事できそうな感じの──」
「──女性、ですか?」
「ひゅ」
危機感知!!最大級ぅ!!
「女性ですね?」
「はひ」
「なるほど」
ビックリするほど冷たい目で俺を見るユキナ。
なんだよぉ!受付は大概女の人だろぉ?勘弁してよぉ!!
自分が的外れと気付いたのか、再び無表情に戻るユキナ。ふはは、だんだんわかってきたぜ。
「ふむ……では本当に今日はお開きにしましょう。一日拘束するのも気が引けますしね」
「お、おお、そうだな。じゃあ、俺はダンジョンにでも寄って帰るよ。手持ちのお金も心許ないし」
「お気をつけて……は余計ですね。恭平さんなら大丈夫でしょう。では、次回の予定が決まったら、またご連絡しますね」
「うん。今日はありがとう。かなり勉強になったよ」
軽く別れを告げて、クランハウスを後にする。次もここかなぁ……。ここだろうなぁ……。
そうして、俺の初めてのクラン訪問は無事(?)終わったのだった。どれくらい頑張ったら、あんな所に住めるんだろうな。……とりあえず足立区から出るところからか?どっちにしても金だな!
「さて、近くのダンジョンで、軽くお金稼ぎますかね」
今の俺なら大抵のところでやれるはず。適当に目に付いたところに入ろーっと。
◇◇◇
「足立区……総合販売所……後藤……と」




