第21話 ユキナです
「さぁ、佐藤君。もう用事は済んだかな?ここは、クランメンバーしか居てはいけないところなんだ。そろそろお引き取り願えるかな?」
拍手の最後に手を大きく叩き、周囲の視線を自身に集めたあと、俺に帰れと言い放つクランマスターさん。
「あ、え?は、はぁ……」
あれぇ?月城さん、許可取ったとか言ってなかったっけ?ウソつくタイプじゃないと思うんだけど……。
「待ってくださいマスター。許可は取ったはずです、なぜそのようなことを?」
「二股疑惑が掛かってるからね」
「はい?」
「なんでもないよ」
なんかこの人、思ったのとちょっと違う……?なんというか、月城さんを見る目が、ねっとりしてるというか……。
俺がそうやってマジマジと見ているからだろう。クランマスターが、その整った顔からは想像できないほどの冷たい目つきで、こちらを睨んできた。
「何かな?もしかして、ユ、月城君のことが好きなのかい?」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ。男と女がいたらそういう風に見えちゃうお年頃か?恋愛脳?
「えーっと、俺と月城さんは、そういう関係じゃないですよ」
とりあえずはっきり否定しておこう。月城さん、ファン多そうだし、クランマスターとしてはそういうのも気になるんだろうな。
「……ウソ、ではなさそうだね。月城君?」
「……はい。今は特段そういった関係ではないです。それと、許可については私が先日お伝えした際に、いいよぉ!と仰っていただきました」
「篠原ぁ、お前また適当に返事したんじゃねぇだろうなぁ!」
あ、鬼塚さんが加勢に入ったぞ。これは形勢が決まったか?
「あ、あはは?そ、そうだった、かなぁ?」
「テメェなぁ……剣神がお気に入りなのは構わねぇけどよ、許可出しくれぇは覚えとけよ!あと共有しろや!」
「えへぇ、ごめんね鬼塚くん」
もしや、鬼塚さん結構苦労人か?これは誤解してたかもしれん。心の中で謝っておこう。ゴメンネ鬼塚くん。
「おう、佐藤よぉ、悪かったなぁ。まぁ俺に勝ったわけだし、俺が許すから好きなだけ訓練していけや。篠原、それでいいな?」
「うーん、月城君たっての願いなら否やはない。群がるハエなら叩き潰そうかとも思ったけど……」
なんか物騒なこと言ってないか?誰がハエだ誰が。
「まぁ、鬼塚くん一人にあれじゃあ、特にうちのクランにとって脅威にもならなさそうだし、月城君もそのうち飽きるでしょ。じゃ、鬼塚くん、後はよろしくね。私はもう寝るよ」
「ああ、そういやぁダンジョン帰りか。わざわざよく来たな。つーかさり気なくディスんなよ」
鬼塚さんと軽い言い合いをしたあと、こちらを振り返ることなく去っていく篠原さん。なんかああいうやり取りいいな。戦友って感じで。
「……話は済んだようですし、早速訓練を始めましょう」
「月城さん、マイペースって言われない?」
「よくご存知ですね。母からもよく言われます」
「まぁ、そうだよね」
鬼塚さんは……周りの観客を散らしてくれてる。もう俺と月城さんにどうこう言うつもりはなさそうだ。
「やりましょうか。訓練」
さっきよりも少し距離を詰めた月城さんが、催促するかのように繰り返す。なんだか圧が強い。
「……怒ってる?」
「怒ってはいないです。ただ、私が連れてきたのに、鬼塚さんと先に剣を合わせたのは不服でした」
「……ごめんね?」
「いえ……鬼塚さんが人払いしてくれましたし、始めましょう。さぁ、どうぞ」
そう言って木刀を右手に握ったまま、構えすらしない月城さん。
それなのに、危機感知は最大級の危険を俺に告げている。
「これは、死神以来、かな」
「はい。私も、神スキル持ちなので」
「はは、確かに。……じゃあ、胸をお借りします」
「どうぞ、お好きに」
様子見なんてする必要はないだろう。今の俺の全力を、彼女を信じて叩き込む。それだけだ。
木刀を握り、上段に構える。見え見えだろうけど、ちょっとだけ楽しみでもある。
月城さんとの距離は、数歩もあればゼロになる。彼女はこれから散歩にでも行くかのように、自然体で立ったままだ。
ほんの少しの静寂のあと、風が吹いて彼女の髪を揺らした、その瞬間──
「だりゃああああ!」
全身全霊の振り下ろし。まともに当たれば木刀でオークでも殺せそうな勢いでもって、月城さんへと襲いかかる。
「──お見事」
「ごっへっ!?」
──なん、だっ!?
月城さんへ切りかかったと思った瞬間、俺のことを月城さんが上からのぞき込んでいた。
「見えては……なさそうですね」
「う、ぐ……今、何して……?」
「佐藤さんの木刀の勢いをお借りして、お返ししました。後は方向を調整して、地面に」
月城さんの簡潔な説明を聞きながら、目をシパシパとさせる。
な、なるほど、ね?これが、剣神か……。何言ってるのかわかんないけど、とんでもなく強いってことはわかった。
「さぁ、続けましょうか。次は私から行きますね」
「へ、アキラと戦うなら、これくらいで音を上げる訳にはいかないしね」
ピクリ、と月城さんの眉が動いた気がした。
「……アキラ?死神のことを、名前で呼んでいるんですか?」
「へっ?ああ、アキラ──死神から、そう言われて」
なんだろう、なんかさっきよりも、言葉が鋭くなったような……。
「わかりました。私のこともユキナと呼んでください。私も恭平さんと呼ばせてもらいます」
「──はい?月城さん?」
「ユキナです」
「……ユキナさん」
「ユキナです」
「……ユキナ」
「はい。では続けましょうか、恭平さん」




