第20話 見るも無惨な結果でござい
半径十五メートルほどある円形の石畳の上で、鬼塚さんと向かい合う。
なんで庭の一角にこんなのがあるんですかね……。
ここに来てから、鬼塚さんの目が据わってんだよなぁ……。やだなぁ……。
しかも何か人集まって来てないか?見世物じゃん。暇ならダンジョン行けよ。
「それではこれより、佐藤恭平と鬼塚健治による模擬戦を行う。立ち会いは私、月城ユキナが務める。二人とも、準備は?」
「出来てる。いつでもいいぞ」
「はい……大丈夫です……」
「この模擬戦以降、禍根は残さないように。勝敗はどちらかの戦闘不能、もしくは続行の意思の消失によって決まる。それでは模擬戦──始め!!」
月城さんが一切の遠慮なく、テキパキと模擬戦を始める。心なしか口調すら変わってない?お前覚えてろよ。
開始の合図があったにもかかわらず、動く気配のない鬼塚さんを見る。
木刀を居合抜きするかのように構えながら、腰を沈めている。いわゆる後の先というやつだろうか。
対する俺は両手に短めの木刀を二本。長くてもどうせ使いこなせないし、それなら普段慣れてる長さの方がいいだろう。
「ほれ、先手は譲ってやる。来いよ」
「……じゃあ、ありがたく。失礼しまっす!」
油断せず、居合の構えのせいで前に出ている右腕を狙う。大怪我してはダメだろうと、緩めに振ったのがいけなかった──
「テメェ、ナメてんのかっ!!」
危機感知が激しく反応する。
俺の温い一撃を秒で弾き返して、そのままの勢いで俺のこめかみへと木刀が横薙ぎに振られる。
──や、べ
「ぬうううう!!」
必死で頭を横に倒して、鬼塚さんの木刀を躱すが、僅かに側頭部を掠めていく。
「ぐっ、ラァ!」
弾かれた手とは逆の左手で、これまた体重の乗っていない一撃を放つ。
「だ、か、ら、ナメてんじゃねぇ!」
居合の動きから流れるように返す刀で弾かれてしまう。
そのタイミングで、仕切り直すかのように月城さんが間に入ってくる。俺の方を見つめているが、心配している素振りはない。
「佐藤さん。まだやりますか?」
「やるに決まってるっ!つーか、まだ何もやってない!」
「かしこまりました。では──再開っ!」
鬼塚さんを見ると、再び居合の構えに戻っていた。この野郎……。
「おう、死神だ剣神だに構われて、大っきくなった気がしたか?これがお前の現在地だ。お代はいらねぇから、覚えて帰れや」
悔しいけど、こいつの言うとおりだ。俺はまだ、何者にもなっちゃいない。
「確かにそうだな。剣聖と剣術で勝負なんて、あんたを舐めてるわ。俺も本気でやる」
俺の今持っているスキル。全部駆使してあんたに迫る。
空間把握を、鬼塚さんにだけ集中する。あの人の呼吸、衣擦れ、筋肉の緊張状態、全部を、把握しろ。
続いて魔力を足へと集め、疾走を意識する。
「これは……」
月城さんが驚いたような顔でこちらを見ているが、相手をしている余裕はない。
「──行くぜ」
疾走スキル全開で、鬼塚さんへと向かっていく。
数メートルの距離が一瞬でゼロになり、俺に反応する鬼塚さん。
止まる呼吸、右手に力──来るっ!
「っ!オラァ!」
裂帛の気合と共に、木刀を振り抜く鬼塚さん。関節のきしむ音が、彼が本気で振っていることを俺に伝えてくれる。
でも、そうくるってのは、こっちもわかってんだよ!!
姿勢を低く、前に倒れるのを我慢しながら落としていく。このままじゃ鬼塚さんの居合は顔面直撃、当たれば一撃でお陀仏だろう。
「──っ」
ピクリと月城さんが動くのを感じるが、ギリギリで思い留まったようだ。ありがたい。
「は、たまんねぇなぁ!」
自身の頭へと左手をかざして、手首にはめたままのバングルへと魔力をつぎ込む。ボタンを押さずとも展開できる、魔力操作様様である。
「なにぃ!?」
一瞬で展開された透明な壁に阻まれて、鬼塚さんの木刀がへし折れる。折れた木刀に注意が散った──今だ。
気配遮断、跳躍!
姿勢を低くした俺を見ていた鬼塚さんは、自身の足元を警戒しながら俺の姿を探している。
回転する視界の中、月城さんが目を見開いてるのに気付く。
──どう?俺だって、意外とやるだろ?
「だりゃああああ!」
「ぐっうぅぅぅ!?」
鬼塚さんの頭上から背面へと回り込みながら、木刀で彼の背中を叩く。
不意打ち百パーセント!最高だぜっ!
だがしかし、鬼塚さんを叩くことに集中していた俺は、着地のことなんて全然考えていなかったのである。
その結果は見るも無惨。背中から地面にごっつんこなのだった。
「ぐべっ!」
地面からの衝撃に押し出されるかのように、肺から空気が抜けていく。
「そこまで!……でよろしいですか、鬼塚さん」
「ああ?剣聖が剣折られて、まだやれってか?」
「そういうルールなので」
「やらねぇよ。俺の負けだ」
「では──鬼塚健治の降参により、佐藤恭平の勝ちっ!これにて模擬戦を終了するっ!」
勝者は這いつくばってるけどなぁ!!
「佐藤さん、そろそろ訓練を……何を?」
「起こしてくれ……」
「はぁ……どうぞ」
月城さんの手を掴んで起き上がったその時、大きな声が模擬戦場に響く。
「いやぁ!!素晴らしかったね!!佐藤恭平君、思った以上に楽しめたよっ!!」
拍手をしながら近寄ってくる……白ラン着た……女?
「マスター、見ていたのですか」
「マスター!?」




