第19話 剣神の献身、剣聖の牽制
「うお、これ美味いな」
高級車にパンくずを落とさないように、膝で挟んだバングルから盾を展開してその上で食べている。
そんなおかしな光景に一切ツッコミを入れず、サンドイッチを食べる俺を凝視している月城さんへと、味の感想を伝える。
「そうですか、良かったです」
「このサンドイッチ、手作りだよな?早起きしたん?」
「そうですね。コカトリスの肉を照り焼きにして卵と一緒に挟みました。三時間ほどかかりましたが、美味しくできていたようで一安心ですね」
「…………今日は何時起き?」
「二時です」
楽しみすぎて早起きとか小学生か?言わないけど。ていうか、コカトリス?高級食材だぞ。
「ちなみに、卵もコカトリスです。栄養価が高いので」
「親子かぁ……」
「はい。巣で卵を温めていたところを狩りました」
「自給自足か。剣神だもんな」
「そうですね。流通量も少ないですし、自分で獲った方が早いので」
良い人なんだよなぁ。良い人なんだけどなぁ……。
「なんか、ズレてるよなぁ……」
「……?道は合っていますよ?」
「人生の方かな……」
「なるほど、就職の件ですか……」
「もうそれでいいよ。ふぅ、ごちそうさまでした」
「はい。お粗末さまです」
まだかなぁ……。
◇◇◇
「着きました。降りましょう」
「代官山だっけ、クランハウス」
「そうですね。まぁ塀は高いですし、こちらから外は見えないので、どこでも同じです」
高い塀に囲まれた、東京の一等地に設けられたまるで豪邸かと見間違えそうなクランハウス。建物だけで、俺のボロアパートの何倍だ……?そして建物以上に広い庭には多種多様な花が咲き誇っている。冒険者的に無くても構わないものに対する力の入れ方じゃないな……日本でも有数のトップクランだからこそできる、とんでもないクランハウスってところか。いくらくらいするんだろ。土地だけでも相当だよな……。いや、維持費もか。
あと多分、どこでも同じと思ってたら代官山には作らないと思うぞ。月城さん的にはどこでも同じなんだろうけどね。
「では、まずはクランマスターに挨拶しましょうか」
「挨拶って、まだ七時とかだぞ?怒られない?」
「普通に挨拶するだけですし、大丈夫でしょう」
嫌な予感しかしない。だが俺に月城さんを納得させるだけの理屈もない。
眉間にシワを寄せながら渋い顔をする俺を気にも留めずに引っ張っていく月城さん。マジで止まる気はなさそうだ。
剣神様に抵抗しても無駄なので、素直に付いていくことにする。
花で作られたアーチを通り抜けて、洋風の──物語で出てきそうな──豪邸へと向かっていく。
人が五人は並べそうな大きな扉は、すでに開かれている。そして、その扉の前に、腕を組んで立つ一人の男。
「月城ぉ!テメェ何部外者を入れてんだぁ!!」
「マスターの許可は取ってありますが?」
「そういう問題じゃねぇんだよ!クラン入りして数日のテメェが、何イキってんだコラァ!」
おお……新人イビリだ……。なんか甲冑着てるし、腰に刀差してるし、剣士なのかな?剣神入ってきてポジション取られないように、的な感じか?
「そんなことより、マスターはいらっしゃいますか?彼を紹介したいのですが」
「必要ねぇなぁ!俺から伝えといてやるから、お帰りいただけよ」
「……鬼塚さん。退いてはいただけないのですか?」
チキ……
威嚇だろう。月城さんが、腰の刀に手を伸ばす。
「おいおい、俺は先輩として、お前に助言してやってるんだぜ?お前は無抵抗の先輩に、刀を向けるのか?」
「……無論、そのような無体はしません。しませんが、邪魔をするなら私にも考えが──」
「待ってくれ、月城さん。ここは俺に任せてくれよ」
「ああ?テメェ何勝手なことほざいてんだコラ」
「……佐藤さん。お気持ちは嬉しいですが、鬼塚さんはベテランの剣聖です。残念ながら佐藤さんでは」
すごく申し訳なさそうな顔で首を振る月城さん。ウッソォ、マジで?小物じゃないの?
恐る恐る鬼塚……さんを見ると、こめかみをヒクヒクさせながら俺を睨んでる。
「おう、テメェにゃ何もする気はなかったがよぉ、切った張ったの冒険者稼業、ナメられたらお終いなんだよ。身の程知っとくか?アァ?」
これって、もしかしなくても、手遅れ?
「……佐藤さん」
「あ、月城さん……」
代わってくれる!?
「あなたの覚悟は受け取りました。骨は私が拾います」
「あ、わぁ……」
終わったああああ!!
◇◇◇
「ん……?何か騒がしいな」
仮眠室で目を閉じていたが、クランハウス全体がどこか浮足立っているように感じる。
仮眠室から出て、廊下を歩くクランメンバーを捕まえる。
「慌ただしそうだが、何かあったのか?」
「っと、すみません、マスター。どうも月城のやつがまた何かやらかしたみたいで」
「何か?彼女が何かしたのかい?」
「いや、自分も詳しく知らないんですけど、何でもあいつが連れてきたお客さんが鬼塚さんとバチバチらしくて、今から模擬戦するらしいっすよ」
「ほう……彼女が客を?珍しいこともあるものだね」
「なんで、みんな急いで模擬戦見に行こうとしてるんです。どんな奴なんですかね、佐藤恭平チャンネル」
「……ん?佐藤恭平?」
「ああ、はい。マスターは知ってますよね。あの死神に気に入られてる奴です」
「佐藤恭平が……私も見よう。まだ始まってないのかい?」
「わかんないです。鬼塚さんなんで、もう終わってるかも」
「なら急ごうか」
ユキナたんに手を出す奴。私の曇りなき眼で見極めねば。




