第12話 嵐のあとに
「で?恭平はこんなとこに何しに来たんだ?アタシに逢いに来たのか?連絡してくれりゃー、迎えくらい出したのに」
「どっからそんなポジティブな考えが浮かんでくるんだ?俺とお前の出会いは最悪だったろうが」
俺の言葉に反応するかのように、上唇をペロリと舐める死神こと小紅アキラ。
視界の端に映る受付の女性が俺をガン見してるけど、構う余裕はない。
「くはっ♪いいねぇ!配信見てたし、心配はしてなかったけど、折れてねぇみたいで安心だわ」
「骨はバッキバキに折れたけどな。絶対に痛い目見せてやるから、覚悟しとけ」
「ふひひ、アタシにボコられてそこまで言い返すのは恭平が初めてだぜ?」
少しずつ空気が張り詰めていく。まさかここでやらねーよな?やめろよ?常識だぞ?
「くふ、くふふ、一昨日よりも強くなってる、しかも、かなり。たまんねぇ……半年すりゃどうなっちまうんだ……」
「おい、そんなことより、いい加減その人を解放してやれよ」
いつまでもヘッドロックされ続けて、顔青くなってるぞ。
「あ、忘れてたわ。おい、返すぞ」
「ぐぇっ」
「へっ?えっ、わ、キャア!」
無造作に抱えてた店員さんを受付の女性へと放り投げる小紅アキラ。マジで自由だなこいつ。
「って、所長!?だ、大丈夫ですか!?」
おい、よく見たらあの店員さん、朝俺を注意したおっさんじゃねーか。なんだ、小紅アキラにボコられたのか。
「アイツが気になるか?なんかアタシを呼び出して、足立区のダンジョンで暴力なんて振るうなとよ。アタシは何もしてねーのにな?」
そういたずらっぽく笑うが、こっちは全然笑えない。
「つーかお前、やっぱカメラの画角わかってたんだな」
「当然だろ?基本だぜ、基本」
イカれてるわ。うん。
「そんなことよりよー、恭平」
放り投げられた所長にはもう興味がないのか、こちらへと振り向いて俺と正対する。相変わらず露出の多い格好だな。下着よりはマシだけど、恥ずかしくねーのかね。
「アタシのことは、アキラって呼べよ」
「へ?」
「アキラだよ、アキラ。アタシだけ名前で呼んでたら変だろ?わかったな?」
「……わかったよ、アキラ」
「あはっ♪これで仲良しだな?次はデートしようぜ、ダンジョンデート♪」
「前向きに考えとくよ……」
「ひひっ、約束だぜ?じゃ、アタシはダンジョン行ってくるわ。じゃ〜な〜♪」
好きなだけ喋って、そのまま俺が入ってきた自動ドアから出ていくアキラ……。え?ここほったらかし?それを許していいのか冒険者協会。
「う、ぐぐ……ひどい目にあった……」
「あー、大変でした、ね?大丈夫です?」
受付の人に介抱されながら、よたよたと起き上がるおっさんへと声をかける。所長って言ってたっけ。
「ぐ、君が死神から助けてくれたのか……ありがとう、感謝……ん?君は……今朝の……」
あ、バレテーラ。誤魔化してもムダだな。
「あ、その節はどうも、ご迷惑を……」
「いえいえ!私の方こそ不躾に、あのようなことを言ってしまい申し訳ない。それにあの死神から助けていただいた訳ですし。ところで、今日は何の用で?」
「ああ、実は武器を買いに来たんですけど、そこの人に売らないと言われてしまってですね」
「ギクゥ!」
「む……君、本当かね?販売所が武器を売らんとは何事だ」
おっさんの言葉に慌てたように両手を振り始める受付さん。
「あ、いえ!違うんです!その、そこの方が、初心者向けの武器を全部買うと言うので……」
「なにぃ?全部だと?……本当かい?」
「あ、えっとぉ、自分の可能性を確かめたかったっていうか、試さずに諦めるのも違うかなって……ね?」
俺の言葉を聞き逃すまいとじっと見つめてくるおっさんへと、精一杯の自己弁護を行う。く、苦しいか……?
「すばらしい!!」
「ほ?」
「最近の若者はやれ剣士だ槍使いだ、自分の職業がわかればそれしか使わない!だが果たしてそれが冒険と言えるのか!?自分の得意なことしかやらないのが冒険者だと!?笑止!!やはり冒険者とは、自分の限界を定めずに突き進むその精神性にこそ──」
「しょ、所長、その辺で……」
「おっと失礼。後藤君、そういう訳だから、彼が希望するものを販売してあげなさい」
「は、はぁ……かしこまりました」
「君は真面目で素晴らしい職員だが、もっと冒険心をだね──」
「はい!かしこまりました!はい!早く救護室行ってください!」
おお、受付の──後藤さんが、所長さんをグイグイ押して隣の部屋へと追いやっていく。まぁ、あの人アキラにヘッドロック極められてたからな、できれば俺としても行ってほしいところである。
所長さんを押しやるというミッションを完遂した後藤さんが、目を逸らしながら早口にまくし立てる。
「はい、それでは一応所長の指示ですのでっ!お売りいたしますっ!」
「……照れてる?」
なんか顔赤くない?恥ずかしいの?
「いいから早く選んでください!ほら、こちらですよ!」
所長さんが押されていったドアとは違うドアを開けて、早く入れと目でメッセージを送ってくる。
「はいはい、失礼しま──おお」
さすがは総合販売所といったところだろうか、体育館ぐらいの広さに整然と並べられたたくさんの武器。これ、百じゃきかないよな……?
「あれ?つーかこんなに広いの?」
「この部屋はダンジョンの中なので。外からの見た目は参考になりませんよ」
「ええ……どういう技術?」
「知りませんけど。というかそのへんは技術課の仕事ですし。ほら、早く選んでください」
「えーっと、じゃあこれとか……」
そう言いながら近くにあった鉄製の槍を手に取る。五万か。まぁこれくらいなら大丈夫だろう。
「……?素振りはされないんですか?」
「……へ?していいんです?」
「いや、そりゃ買うなら素振りくらいはしないと。命預けるわけですし」
そうか……素振りしてもいいのね?それなら遠慮はいらない。なんなら全部試してやんぜ。
「では遠慮なく。……でぇい!」
槍を両手で握りしめ、捻るようにしながら突きを放つ。
──槍術スキルを獲得しました。
「うーん、あんまり合ってないんじゃないですか?剣に専念した方が──」
「そいっ!」
──槍術スキルのレベルが上がりました。
「──ん?んんっ?」
「らぁっ!そりゃ!うるぁ!」
──槍術スキルの──槍術スキルの──槍術スキルのレベルが上がりました。
「え?え?え?どんどん鋭く──」
「だららららららら!!」
──槍術スキル──槍術スキル──槍術──槍術──槍術スキルのレベルが上がりました。
「ウソでしょ……夢でも見てるの?」
気持ちいいーーーーーー!!次はどれにしよっかなぁ!!




