1-15-4 記憶(4)
「はて、ここにワシの家があったと思うんだがな。」
薬屋の横の路地の奥には瓦礫が積み上がっていた。ここに家があったかどうかは知らないが、瓦礫の内容物からして、ここはゴミ捨て場などではなくちゃんとした家が建っていたのだろう。
『……どう見ても瓦礫の山ですが……。』
“……アンデッドの襲撃でもあったのかもしれませんね。”
それにしては、その手の足跡は少なく、代わりにやけに狭い二本の轍掘れのような跡があの瓦礫に向かって深く刻まれている。
『この幅、人の両足ぐらいの幅だし、跡自体の横幅も、足の大きさぐらい……お前の足よりは大きいぐらいだから……。』
…………足の大きさでイメージできる大体の人物像として、160センチぐらいの人か。160センチったら多いよな。
……多いよなとか以前に、こんな繋がった後を残すということは何等かで滑走して行ったということで、風に乗った巨大な凧に引っ張られる人とか、思いっきり走って行って停まれずに……ありうるか?
「まぁ、どうだってえぇわ!! アコニ嬢の薬屋が安全だな。一旦そこに運び込むぞっ!!」
本当は教会が良かったんだが、まだその周りには集落の人々が集まり、中々近づけるような状況ではなかった。それに全員が全員、善人というわけでは無いのだろうから、事が落ち着く間はあの薬局の方がいいだろう。角砂糖も、爺さんも居るし。
◇◇◇◇◇
何とか、アンデッド騒ぎも落ち着いたけど、この人等全然帰らないわね。邪魔くさいったらありゃしないわ。
「コハル様、次はこっちも頼むっ!!」
「うっ…………痛い…………早く、助けて……。」
「分かりました、こちらが済み次第急いで駆け付けますっ!」
あー……あんな半端な体で治癒魔法なんて使ったらまた体内に蓄積しちゃうわ。原因は不明だけどこの前までほぼ100%だったのが、何故か三分の一ぐらいまで減ってたからキャパは十分にあるけど、そんなに使っちゃまた直ぐに満杯になるわよ。
……願わくば、範囲治癒魔法は使わないように……あれは個単位での制御が利きにくいし、コハルちゃんの威力だと必要以上に病魔を吸い取ることになるから一発でキャパオーバーよ。
「…………おい、クソムシ。」
“うん? どうしたの?”
「………………コハルってやつ、いつもあんな感じなのか?」
“そうよ。聖女様びっくりの聖女様ぶりよ。”
「……そうか。チッ……。」
そのまま心変わりしてくれたらいいんだけど、してくれたとして、素直に喜べるとか、そんなこと絶対にないのよね。この子にはこの子の事情があるし。
……あのクソドラゴン、あとクソバト、いつまで待ってくれるのかしら。
『コハルさま、これ使っちゃいましょうっ!!』
「あっ…………それは…………。」
「ぎゃあああああああああっ!!!! 出たぁっ!!!!!!」
“あらあらあらあら、大混乱ね。テルミナちゃん、それ絶対に開けちゃ駄目。あと、あなたは地下で座ってなさい。”
「あいつ、何でのっぺらぼうなんだ? それに妙に白いし、兎の耳みたいなやつが付いてるし……。」
“あっ、テルミナちゃんね、気にしないで。色々と深い理由があるから。”
「深い理由ね……。あれだけ懐いてやがるし、まずあいつが黙っちゃいないだろうな。チッ……クソが……。目の前に居るってのに……。」
ただ、速度だけは間違いなくパロマちゃんが勝つわね。加えて時空属性も規格外だから、停められたらそれこそ完封だわ。
事の全ては、全属性の中でも非常に高度でチート級の扱いである時空属性に懸かっている。それを自覚してしまえばコハルちゃんも奪われかねない。わたしが言うのもアレだけど、規格外って何が起こるのか分からないのよ。
“大変大変っ!!”
プラムちゃんが戻ってきた。
“ねぇ、さっき集落のお薬屋さんの近くでルピナスちゃんとかノアちゃんとか見かけたけど、ジョンさんが知らない子を背負ってたよ。”
“知らない子? ちょっと、特徴を教えてくれる?”
“赤黒い長い髪で、ルピナスちゃんみたいな黒基調の服を来た小さな女の子だった。”
……う~ん、わたしのデータベースには無いし知らない子ね。一体何処から来たのかしら。
“分かったわ。あなたはパロマちゃんに付いてなさい。”
「……チッ。」
“分かったわ。”
…………何だか嫌な予感がするのよねぇ。単なる勘だけど、何か……ややこしいことに巻き込まれてなければいいけど。
◇
薬屋の奥の部屋にあるベッドに寝かせる。静かに寝息を立てているが、無事目覚めてくれるのだろうか。
「ワシが入ると窮屈だな。出ておいたほうがいいか?」
「あっ、あぁ。可能ならそっちで変な奴にこっちに入られないように守ってくれてたら助かる。」
「おうよっ! 任されたぜっ!!」
何とか、ことが収まってやっと落ち着いて座れる……。
だけど、椅子は一個で……ノアは道中で与えたキューブパズルに夢中だから必要ないか。
『あなた、あの人はこの子をここまで運んでくれた方なのですよ、せめてお礼ぐらい言ったらどうなのですか?』
「あっ、あぁ……そうだな。そうすべきだった。」
長らく冒険者だから言わないことに慣れてきた所為で中々言えない。言う時は言うさ?
だけどあぁいう人は、よく一緒に仕事をする手練れの冒険者のような人と重ねてしまって言葉に出ない。
直すべきなんだろうけど……直らない。
『はぁ、構いませんが、あんまり良い顔されませんよ?』
「分かってる。慣れてるよ。」
『…………はぁ。』
角砂糖に説教されたり溜息をつかれる日が来るとはな……。
“…………何ですか、この本。ウサギとカメとカメとカメ……。”
『ウサギさん、一体何匹のカメに喧嘩売ったの……?』
あっ、例のアイテムバッグ仕様の本だ。中には魔石がザックザク……。
ユーリアはその本に向かって触手を伸ばす。
「それ……開けない方がいい。」
『開けちゃ駄目って言われたら開けたくなるんだけど。』
正直に言うべきかどうか。
「あっ、いや……それは――――」
「あら、ルピナスちゃーん……と何この玩具みたいなのは?」
…………今まで何処に行ってたのかあのクソダヌキが帰ってきた。
『うわぁ、胸めっちゃくちゃ大きい……。』
“何ですか、腹の立つ体ですねぇ。”
『ちょっと静かにして下さいよ。病人が寝ているんです。』
「ちょっと待って、それアタイのベッドなんだけど――――」
困惑した表情が少しずつ崩れ、微笑みから更に悪人じみた表情へと遷移する。
こいつ、間違いなくカネを搾り取る気だ。
「はーい、使用料取るわねぇ。」
チッ、やっぱりか。このクソ野郎、死ななければ分からんらしいな。
『えっ!? お金取るのっ!?』
『はぁぁ? 使用料? 聞き間違いではないですよね?』
“両手の指がお金欲しいのマークになってますね。何ですかねこの卑しい肉袋は。”
……何というか、コメットが憎しみと嫌味を込めた口調でクソダヌキを責めてるが、一体どういう人工知能が積まれてるんだ?
「使用料一分あたり100エルね。」
“豚の貯金箱ですかあなたは。叩き割り……いいえ、その肉袋ごと爆破しますよ?”
『とんでもない守銭奴……あなたですねぇ、確かに勝手に使って申し訳無いとは思っておりますが…………。』
クソダヌキは満面の笑みで手のひらを角砂糖へ向ける。徴収するまで居座られるやつか。
“絶対に払わないでください。払った分が全てこの醜い豚袋に溶けてますます巨大化してしまいます。”
『コメットちゃん……言ってることがえげつないんだけど……。』
“彼女のような巨大な胸を目にすると無性に腹が立つのです。腹が立ちますっ!! はらわたが煮えかえりますっ!!!!”
何だかこいつから暖房器具みたいにかなりの熱を感じるんだが、はらわたというか中の電子機器、大丈夫なんだろうか。
『……分かりました。落ち度は勝手に使用したわたくしどもにあります。少々お待ちください。』
角砂糖は何もない所に手を突っ込んで大きな大きな白い袋を引っ張り出そうとしている。
“自由に呼び出せるタイプのアイテムバッグですか。珍しいですね。”
『へぇ……だったら四次元バッグとか持ってる必要ないじゃん。そんなの何処で入手するんだろ?』
『フェニー殿、裁判官たちに与えられる特権です。わたくしはフェニー殿の代理で呼び出しているだけに過ぎません。ところで……あのルピナスさま、不躾なお願いですが、この袋を引っ張り出すのを手伝って頂けませんか?』
「あっ、あぁ、構わないけど。」
十中八九、通貨が詰まった袋なんだろうけど……クソダヌキは腕組みをしてニヤニヤ微笑んでるだけで何もしない。ちっとは手伝えよ、クソが。
『よし、あと少しで……取れたっ!!』
白い袋は宙を舞う。思ったより軽かった。
開けた袋からは土の付いた玉ねぎが飛び出る。待て、通貨じゃねぇのかよ。
『あっ、いえ、これはマルス空軍基地の周囲に畑を作ってらっしゃるリル様から貰った玉ねぎです。当然これじゃありません。今時現金所持とか正気の沙汰じゃないですよ。この下になっているカードです。』
…………カードって、キャッシュカードだよな?
角砂糖は立派な財布から黒光りするカードを取り出す。これは……商業ギルドのブラックカード……こんな超ハイレベルなもの初めて見た……つか、こんな荒野で人生初とは思わなかったわ。というか、一つしかないから仕方無いんだろうけど、汚損したり紛失するとヤバいカードを一緒に入れるな。
『この中に億単位のエルが入っております。当然、フェニー殿とわたくしグラモが汗を垂れ流し稼いだ真っ白なお金です。そこから前金100万エルを支払います。』
「うん。それで、どうやって引き下ろすの?」
『それは当然、ネットワークで…………ん? 圏外……?』
そりゃ、ここは現世と引き離された隔絶された荒野だから繋がるわけがない。
『待ってください、天下のマジョール電気通信社の電波が繋がらないだなんて…………ありえませんよっ!!』
「はーい、ダメー。」
『いけませんっ!! では……このタマネギは一個で黄金一塊の価値がある世界最高級の代物です。これ全部、どうでしょうか?』
「ダメー。」
ぶん殴りたくなる笑顔だな。現にコメットは体を横にして突っ込む気満々だ。
『では、ではではではでは…………あっ、このエリクサーはどうでしょうか?』
“エリクサー……その印はエーテルランド製の最最最最最最最最最高級品じゃないですかっ!! どっ、どこからそのような神器をっ!?”
最が多いな。鑑定が機能しないから分からないけど、何をしてそんな超高級品を貰ったんだよ。まさか、賄賂か?
『過去にエーテルランドにてお仕事があった際にアネモ・エンターテイメント社の重鎮の方から記念にと頂いたものです。』
“ちょっ……それをこの下賤な焼き豚に与えないでくださいっ!! ハツやガツ、レバーや胸の贅肉袋に溶けて肥大させるだけですっ!!”
「……うーん…………うるさい。」
ここの誰とも無い声がする。まさか、目が覚めたのか?
『あぁ、良かった……。フェニー殿のご厚意が無駄にならなくて……。』
そこはそっちなのかよ。
「じゃあ、このエリクサー貰っとくわね。高値で売りつけちゃおう。」
“うわぁぁぁっ!! あんな貴重なものを…………。グラモさま、今後あのような神々の贈り物をあんな豚女に与えないでくださいねっ!! 聞いてますかっ!!!?”
『何故あなたはあの人にそんなに悪態をつくのでしょうか……。下手しなくても侮辱罪ですよ。』
ようやくクソダヌキは部屋から出て行ってくれた。勝手に借りてるのはわたしたちとはいえ複雑な気分。
“ねぇ、もういいかしら?”
……ルナクローラーの声がする。同時に何かをコンコンと叩く音がする。音のする方を向くと窓にルナクローラーが張り付いていた。心の臓にとても悪い。
『……虫の裏側……キモい……。』
「おい、悪ふざけも大概にしろクソムシが。」
“クソムシじゃなくてフンチュウ。ところで、ここ開けてくれない?”
正面から回れよ……。隣の部屋ならジョンさんが開けてくれるだろ。
『はぁー、一体何です――――ッ!!!!!!???』
―――――――――ッ!!!!
…………………。
…………角砂糖の声にならない絶叫で心臓が飛びかけた。ユーリアは意識が飛んだのか浮力を失い床に落ちてしまった。ただ、ノアだけは平然とキューブパズルを回し続けている。
「うるさい。」
“あのマンドラゴラを引き抜いたような悍ましい絶叫を圧縮してピッチと音圧を上げたような大絶叫で、よく平然としてられますね、この子……。”
なんだその表現。
「あぁ、ノアはそういう子だ。大抵の事は動じないから。」
一瞬だけガクガク震える角砂糖の方を向いて、またキューブパズルに戻る。間違いなく大物になるな。
『むっ……蟲ッ!!!?』
「虫苦手なのかよ……。」
さっき、あれだけ人々を地蟲と言ってた奴が何を言うか。
“あら、色んな子が増えてるわねぇ。なぁにその怯える積み木みたいなのは?”
『うっ、限界……で……す……。』
角砂糖も頭や胴体がバラバラになって床に転がってしまった。ユーリアはいいとして、こいつのこれは元に戻るのか?
とりあえず、虫の裏側を見せつけられても気分が悪くなるだけなので窓をあけてやろう。
“マンドラゴラの話は強ち間違っては無いわね。ところで、こんなにも虫が嫌いな子、今時まだ居るのね。”
「うっ、う~ん…………さっきからうっせぇんだけど…………。」
寝言で発した言葉に口の悪さがにじみ出ている。まさか、こいつもか。口悪いヤツばかりのこの地にまた一人加わるのか。
“うふふっ……ルピナスちゃんにパロマちゃんにアイビーちゃんに……屈強な女の子達が揃いに揃ったわね。”
“アイビー…………?”
“あら、どうしたの?”
“いえ…………何でもありません。”
『う~ん………………知らない天井だ……。』
気絶していたユーリアが目覚める。
「起きたか。大丈夫だ、角砂糖はバラバラになったからあんな絶叫は出せん。」
『えっ、あっ!! グラモちゃんがバラバラっ!!!!』
グラモって誰だよ…………そういえばあいつ、さっき自分で言ってたな。いや、あの時にも一回言ってたか。
「まぁ、その内戻るだろ。」
『戻らなかったらどうすんのよ。』
「少なくとも、ルナクローラーがここに居る間は起こすなよ。また耳と脳がやられて気絶する羽目になるぞ。」
“虫が嫌いなんて、可愛い子ねぇ。あっ、この子もうそろそろ起きそう。”
瞼が動く。それを別の事に夢中なノアと気絶したグラモ以外全員で覗き込む。
「う…………あれ……ここは…………?」
“えーっとチャンネルチャンネル…………よし。ねぇ、あなた、体の方は大丈夫?”
「……誰? あんたら。金髪のガキに……クリオネみたいな何かとデカい虫?」
口……想定よりもかなり悪いな……。
“人の振り見て我が振り直せ。古いことわざよ。ね?”
チッ……分かったよ……。
「…………ここ、どこ?」
「さぁな。お前が知る世界じゃないってのは確実だ。」
「はぁ? なに分けわかんないこと言ってんのよ。うぇ、横の奴、クソムシじゃん。きったな。こっち寄んな。」
“はい、クソムシ一本入りました。クソムシじゃなくてフンチュウ。フンチュウ。覚えてね?”
「知るかよ、クソムシが。」
一体何人にクソムシって言われてるんだよこいつは。
“皆からクソムシと言われてお怒りにならないその精神力、感服致します。”
……まぁ、外見はクソム……フンチュウそのものだからな。
『あのさ、もしだけど、飛行機に乗った記憶とか、それより前の記憶とか、ある?』
何だか分からないが、眉間にしわが寄ってた顔がパァっと晴れる。
「この声……少し電子音が混ざってるけど……ユーリアさま?」
さま?
“……ルーナディアさまを知っておられるのですか?”
「棒は黙ってて。ってか、何で棒が喋んのよ。気持ち悪い。」
『えーっと、そのさ、その口調やめない? あたしはいいけど、他の人達の気分を害するからやめよう?』
「わたしはアステラ、あなた、ユーリアさまよね?」
人の話聞いちゃいない。でも、ユーリアの方を見て目を爛々と輝かせる。一体コイツとどこで知り合ったというのか?
『う~ん……確かにあたしはユーリアだよ。だけど――――』
「やっぱりっ!!!!」
『おわぁっ!!!!』
アステラと名乗る子はユーリアを掴んで胸に引き寄せ押しつぶすように強く抱きしめる。ユーリアはもがきながら何とか引っ張り出した触手で体をビシビシと叩くが、全く意に介していない。
“あの、ルーナディアさまが――――”
「黙れ。ルーナディアって誰? この方はユーリア様。わたしの騎士様なのっ!!」
騎士様って……お前、過去に一体この子に何をした?
“これは……ユーリアちゃん以外の言葉は絶対に聞かないわね。寧ろ、ユーリアちゃんの言葉は絶対に聞くということかしら。”
いや、絶対に聞いてないだろ。ユーリアも限界が来たのか触手をだらんと垂らしてるし、気絶してる。
「おい、ユーリアが気絶してんぞ。」
「何よ、気安く…………あら、本当だわ。」
『おうふ…………苦しいから、やめてね? ……ぐふっ。』
「ダメよ、せっかく逢えたのに、このアステラを置いて勝手に死んではダメっ!!」
今度は気絶したユーリアをビシビシと叩いている。とんでもねぇ暴力女だ。
龍族の子って言ってたな……。コハルさんのような人も居れば、この子も居て……一度コハルさんに合わせてみようか。
“その方が良いわね。今ならパロマちゃんも居るし、いい感じに叱ってくれるかも。”
パロマって、あの時ノアのような羽が生えてたあの子か。
害にならなさそうなら移動した方がいいな。ここに居るとあのクソダヌキからあれやこれやケチ付けて使用料を増やされそう。
「ねぇ、これもう一本ある? 鑑定したらそりゃもう、金銀財宝がザックザク……。フフフフッ……。」
噂をすれば
“うわぁ……図々しいイベリコ豚がまた来ましたよ。あるわけないでしょうが。さっさと視界から消えなさい。ブタ。”
“色黒だからってイベリコ豚は……ほんと、さっきから罵詈雑言の極みだわ。何があったのよ?”
「うわっ、なにこのオバサン?」
「おっ、オバ……っ!!?」
豚だの肉袋だの言われて全く動じなかったのに、オバサンの四文字でここまで眉間がしわくちゃになるんだよ。
“あぁ、これね、この人、ガチでヤバいから、チャンネルが合わないのよ。だから、コメットちゃんの言う事は恐らく聞こえてないわ。”
“あなたにヤバいって言わしめる人って……一体何者なんですか?”
“わたしの語彙力では言い表せないほどガチでヤバいから、本当にヤバいから絶対に手出さないの。もう全体的に異常。XSランクの上、XYZが幾つもある感じの異常体。下手したら理の超越者……カオスもコスモスもあるわ。”
“こ、この養豚がですかっ!?”
「何よ、オバサンにオバサンって言って何が悪いのよ?」
「そりゃもう極悪だわ。増額するわよ?」
今、口だけ少し微笑んだような気がするけど、まさかとは思うけど、脅迫して増額させるための演技……?
「はぁ? 増額って何よ?」
「あぁ、それね、このブ……女の人にベッドの使用料払ってんだ。このベッド、この人のなんだ。」
「ぐぇ、加齢臭がわたしの体に遷りそう。このベッド、返すわ。」
“わたしは賛成よ。この異常体の傍に長く居たくない。”
“同感です。この醜い乳袋が感染したら豚になってしまいますッ!!”
“それ、多分うつんないわ。”
「あ、あぁ分かった。払う金ないから引き払う。スマン、邪魔したわ。」
「ダーメ、アタイの心は傷ついちゃった。慰謝料払いなさい。」
クソ野郎が。金目の物はバッグの底にやたら大量にあるけど、これをやってしまうとユーリアが怒るかもしれないが、丁度気絶してしまっている。鬱陶しいし、ルナクローラー曰く危険人物っぽいのでさっさと出しちまうか。
「これ一個で手打ってくれないか?」
「あら、綺麗ね。これなら高く売れそう。」
“それは、ユーリアちゃんが闇の魔石とガラスを錬金して作った宇宙ガラスじゃないの。駄目よ、こんな人にあげちゃ。”
“これが例の……ルーナディアさまから事情を聴かないといけませんね。”
「いいわ。じゃ、三分以内に引き払ってね。」
短いな。これだけのものあげてそれかよ。
「なぁ、アステラさん、動けるか?」
「フンッ、何よあの茶色いオバサン……態度クソじゃないの。」
まぁ、お前もな。
◇◇◇
教会も少しずつ人が捌けてきて、屋内もようやく空気が綺麗になってきた。ベッドが一つだけの部屋の壁にもたれ、ずっとコハルの様子を見ていたが、笑顔を絶やさずただひたすら人々を治癒魔法で癒していた。
だが、心なしか顔色が悪くなっている気がする。あのクソムシが言うに、あいつは光属性だけで闇属性は持っていないと言っていたな。それで治癒魔法は自殺行為以外の何物でもない。
バカなのかあいつは、そう思ったが……人の笑顔が心の拠り所なんだろうな。
……アタシもあいつが丁寧に耕した畑のおかげで命を救われたんだし、感謝すべきだろうな。
はぁ…………クソッ、目の前に居るってのに、どうすりゃいいんだよ……。
「コハルちゃーん、ありがとねぇっ!!」
「ウフフッ、お気をつけ下さいね。」
よくやるもんだよ。お前の体の中、人体の闇を吸収し過ぎてヤバいんじゃねーかよ。どうやって放散するんだよ……。
「ふぅ~……やっと終わりましたね。あら、どうされました?」
「あっ、いや、アタシは……どうともないよ。ただ、見ていただけだ。」
「ウフフッ、不思議な方です。ところで、とても疲れているように感じます。こちらへ来てお見せ下さい。」
“パロマちゃん、変な気起こしちゃ駄目よ。”
起こさねぇよ……。つーか、アタシには無理だ。
「……ちょっといいか?」
「どうされました?」
「お前、あのクソムシから聞いたが、闇属性が使えないのにどうして人の治療なんかしてるんだ? 下手すると死ぬぞ。それでもいいのか?」
「…………そうですね。ですが――――」
『治療終わったのっ!?』
床のハッチが開いてさっきののっぺらぼうが飛び出してきやがった。
片手には何やら茶色い液体の入った瓶をもっている。
…………昔、オークどもの拠点に潜入した時に投げてきやがった爆弾に似ているな。確か、糞をどうかして作ったという……。
「あらら、駄目ですよ、まだ患者様が居られます。」
『いーじゃん、一人ぐらい。よいしょっと。』
いや、色が薄い。底からプツプツと気泡が立っている。栓もされてるし……ちょっとでも衝撃が加わったら爆発しそうな……。そうでないのなら、一体何なんだあれは。
『ふぅ、では一本、ぐいっと。』
「屋内で開けないで下さい。」
『じゃあ、そこの壁の穴から外に出て、ッポーンと。』
爆弾の栓を開けて一体何を――――ッ!!!!!!??
「ぐあっ!!!!!!」
「あらら、風がぶわぁっと入って来ましたね。」
凄まじいほどの糞の臭いが部屋に入り込む。逃げようと思ったが、その臭いで気力が一気に減退する。気絶しそうなほどの猛烈なこの糞は……あの空軍基地近くのかつて聖剣の森と呼ばれた岩に囲まれた盆地の森に腹を下したドラゴンが糞をして名前が聖剣の山とか龍糞山とかになってしまった……まさにそこから放たれてる糞の臭いと同じ……。
ドラゴンの糞は猛毒を含むと言われる。下手に嗅いだら死ぬ。マジで死ぬ。
「あっ、あの、大丈夫ですかっ!?」
「……大丈夫なわけねーだろ…………。」
意識が遠のく。まさかこんな所で龍の糞を嗅がされると思わなかったよ、クソが。
つーか、あの液体は何なんだ……。
◇
この子のステータスはどこまで浸食されてしまっているのだろうか。
少し荒れてはいるが、概ね平坦な道だ。そのはずだが、何もない所で躓きそうにいなり、顔を真っ赤にして悪態をつく。
「……ねぇ、あなた。そういう趣味があるの?」
「はぁ? …………何がだ?」
「べったりくっついてるじゃない。女の子が。」
「あぁ、ノアか。コイツがわたしをとても気に入ってるみたいでな……いつもこうなんだ。気にしないでくれ。」
……しかし、出逢ってそう日数も経ってないが、いつになったら直るんだこれ……。
「ふーん。」
じっとりとした目線でこっちを見る。その顔に微笑みなどなく、眉間にしわが寄っているわけでもなく、ただただ呆れ顔のようなその表情……誤解されてるのか?
“前向いて歩いて下さいよ。今度こそは転倒してしまいますよ。”
「……ふん。 きゃっ!!!!」
今度こそは派手に転げ、膝に傷を作る。
「んんああああああっ!!!! いったーいっ!!!!」
“あぁ、言わんこっちゃない。”
“グラモちゃん、まだ起きないわよ。教会に戻ったら、いい薬があるから、我慢しなさい。ウフフフッ。”
“なっ、なんですか、その不気味な微笑みは?”
あー……アレか。気絶しているユーリアとグラモをほっといてノアを連れて先に逃げるか。
“ウフフフフフッ、そうねぇ……。”
“何だか嫌な予感がします……。”
◇
いつもの教会。庭にはちらほら集落の人々が座り込み、じっと空を眺めている。
あの謎の大穴は……埋められずに残っていた。
“大穴ですね……アンデッドにやられたのでしょうか?”
「さぁな。本当は井戸があったんだが、いつの間にかこんな大穴になっちまってた。」
しかし、瓦礫の下に埋まったか何かの拍子で枯れたか、水が完全になくなってしまっている。これからどうするんだ?
「薬があるんなら、早く出しなさいよ。」
“ウフフフッ、ちょっと待ってねぇ。ウフフフフッ。ルピナスちゃん、開けて頂戴。”
“何ですかこの子、本当に……。少し喝を入れないとダメですね。”
「あんた、可愛らしい名前してんのね。フフフッ。」
うるせぇよ。つーか、クスクス笑ってんじゃねーよ。
『……あれ、ここは何処でしょうか。あのー、誰かいますかーっ!?』
バッグの中から声がする。バラバラになったグラモを突っ込んでたが、いつの間にか目を覚ましたようだ。
“あら、また絶叫されちゃ、劣化した窓ガラスが粉々になるわね。先行ってるわ。”
ルナクローラーが中に入ったと同時にグラモはバッグから自力で出てきた。部品はさっきまでのように揃って装着されており、欠けているものは無いみたいだ。良かったな。
『あら、わたくし……何を?』
「おい、角砂糖。わたしの足の傷を治しなさい。」
…………。
“どう転んでも、回復の他に看病までしてくれた方に向かって言う言葉ではありませんね……。”
『…………無事、目を覚ましたのですねぇ……ではありませんよっ!!!! 何ですか、その命令口調はっ!?』
「はぁ? あなた、治癒魔法が使えるんでしょ? 減るもんじゃないし、早く――――」
『はぁー、何ですかねぇ? せっかく看病してあげたというのに……。』
「ふーん。」
半目で睨みつけた後、何かを思いついたのかニヤリと微笑む。
……コハルさんのあの薬で痛い目を見た方がいいな。
「きゃーっ、クソムシーっ!! 角砂糖がわたしを――――」
教会の中に入り慌ただしく奥の部屋に向かって駆け抜け、数秒後に絶叫が上がる。あいつは虫は平気だが、何を見たのだろうか……?
『コハルさま、膝に傷のある子供が入って泡吹いて気絶したんだけど?』
テルミナの声だ。あぁ、そうか。あののっぺらぼうを見たんだな。慣れてたから忘れていた。
“コハルさま……この先に……。”
…………?
「あら、大変。とにかく膝を治療して、ベッドに寝かせ……パロマさまが使っていますね。横に並べましょう。」
パロマって、あの時のか。戦いに参加して重症を負ってしまったんだろうか。
『フンッ、何を見たのか分かりませんがいい薬ですよ。』
『あっ、ルピナス、遅かったじゃん。何してたの?』
『ヒィィッ!!!!!!』
奥の通路から出てきたテルミナを見てグラモは悲鳴を上げる。音圧はさっきよりは遥かにマシだが、隣にいるわたしの鼓膜は深く傷ついた。
「なっ、なぁ、もう少し声絞れよ。あと、耳に治癒魔法をくれ……。」
『わっ、白い塊が喋った。』
『なっ、なななななななっ、なっ、何なんですかあなたはっ!!?』
何なんだよお前は。のっぺらぼうにしても虫にしてもビビり過ぎだろ。
それにしても何か匂うなぁ……。この腐った卵みたいな匂い……トイレから漏れてるのなら最悪だぞ。
『うわっ、硬いのかなと思ったけどグニグニしてる。新感覚だわ。』
『痛い痛い痛い痛いっ!! そんな汚い手で触らないでくださいっ!! 第一、あなたの手や体から……あの…………とても不健康な糞の臭いが致しますっ!!!! 今すぐに体を洗ってきてくださいっ!!!!』
『えーっ? これコハルさまのエキスの香りだよ?』
…………こいつ、またあのクソポーションを全身に浴びたのか……。
『んなぁっ!!!!? ちょっ……ちょっと待って下さい? 少し脳みそが追いつかないのですが……。』
“……グラモさまの頭が横にクルクルと回っておられます……。”
『なにこれーっ? 頭がクルクルクルクル……面白ーいっ!!』
頭の回転は止まり、細長い角棒のような手で薄っすら茶色いテルミナを指さす。
『さてはあなた…………………変態ですかっ!!?』
テルミナはぽかーんと立ち尽くす。まぁ、グラモの気持ちも分からんでもないが、別に答えを出す必要もないように感じる。こういう事は考えるだけ無駄、不毛でしかない。好きなものは好きなのだろう。ただ、それだけだ。
“あのクルクルの時間の大半が、答えを導き出す時間というよりも、無数のイメージと言葉の圧縮に要した時間のように感じますが……。”
“言い得て妙ねぇ。けど、アブノーマルなものを突き詰め、煮詰め、どう調理しても変態の二文字にしかならないと思うわ。あっ、わたし個人的な意見だからね。ところで耳の方は大丈夫?”
何処にいるのか知らんがルナクローラーの声がする。
重低音響く耳は徐々に回復し、マシにはなった。治癒魔法はもういいか。
“そう。ちなみにわたしはその壁の裏の台所に居るわ。今なら懺悔でも何でも聞いてあげるわよ。”
告解室かよ。わたしはねぇけど、ユーリアは気絶してるし……。
“コメットちゃん?”
“えっ、あっ、なっ、なんですか?”
“あなたなら、一つぐらい、あるわよねぇ?”
コメットは徐々に後ろに下がり、壁に当たる。こいつは人間みたいにやたらよく喋るし、クソダヌキの時の罵詈雑言のように、ある意味人間味があるし、でも、単なるドロップアイテムとは聞いたが……あいつがそこまで詰め寄った言葉を発する感じ、一体何が……?
“わっ、わたくしは手すりです。高齢者を転倒から守る安心安全の手すりです……。”
……擬態した。
“フッ、まぁいいわ。”
『ねぇ、この角砂糖、うっさいんだけど。』
『――――ですから――――それで――――…………聞いてますっ!?』
『聞いてない。そういえば、師匠はどこ?』
ユーリアの事か。バッグから取り出したが、しっかりと伸びていた。
『師匠っ!!!?』
テルミナはユーリアを奪い取り、廊下の奥へ消えた。
『待ちなさい、まだ話は終わって――――』
“グラモちゃーん?”
『ヒィッ!! こっ、この声は…………。』
“わたしはそこの壁の裏に居るわ。あなたとコメットちゃんにはお話があるからそこでステイよ。”
“わっ、わたしもですか…………。”
“ルピナスちゃん他は好きにしてて頂戴。”
とりあえず、パロマって子が来てるみたいだし、顔出しとくか。
寝室に入ると、ベッドの上にユーリア、アステラ、そしてあのパロマって子が仰向けで寝かされている。ユーリアはともかくパロマもそう背は高くなく、やや華奢な体系なので、そこまで大きくないベッドに丁度二人が収まっていた。
「あら、ルピナスさま、ノアさま、お帰りなさいませ。お怪我はございませんか?」
「いや、無いけど、パロマって子……だろ? 怪我してるのか?」
「いえ、そうではありませんが…………。」
コハルさんは頬を赤くして俯く。あぁ、これにテルミナの件を加えると……察した。
巻き込まれて気絶しているだけで、怪我が無いんならいいや。
……ヤバい、疲れが限界に達した。丸一日ぶっ通しだもんな。遠征中でも最低限の睡眠時間ぐらいはあるよ。クソッ、中途半端な体だなぁ。
ノアは……元気なもんだ。フッ、壁に腰かけて、寝るか。
◇◇◇◇◇
“ねぇコメットちゃーん。何か言うこと無ーい?”
”…………。”
何度も念話を飛ばすのに反応してくれない。擬態し切れてないのに、手すりの振りを続ける。ぜーんぶお見通しなのにねぇ。
『あの、わたくしも向こうへ行きたいのですが……。』
“フフッ、ここ通ったら……バァッ!! って――――”
『ヒッ!!』
まだ出しても無いのに悲鳴を上げる。どんだけ虫嫌いなの?
この子をあんまり虐めるのもよくは無いわね。聞きたいことはあるけど、この子に悪意は何一つ無いみたいだし。
一通り話を聞いたら通してあげようかしら。珍しく完璧な治癒魔法が使える子だし、こちら側に引き込めたらコハルちゃんの負荷もぐっと減るわ。
“あら、この子なーに?”
廊下の奥からプラムちゃんが入ってきた。
『――――――――ッ!!!!!!??』
うーん、この声……音波兵器のそれよねぇ。何処からこんな右耳から入って脳みその中で乱反射して左耳からビーッて出てくるような奇声が出るのかしら。
“おぅぁ…………耳が…………。なっ、なにこれ……脳みそもイッちゃいそう……。”
“んぐ…………外装と基幹システムに重篤な障害が…………。”
“グラモちゃん、いい加減にしなさい。裏側が気持ち悪い硬そうな虫ならともかく、蝶程度で悲鳴をあげないで。”
…………グラモちゃんの体は浮力を失い、バラバラになって床に散らばった。さっきはこの状態で復活したけど、本当に心臓の悪い崩れ方するわね。本当に死んでないのかしら?
「あー……クソ、うっせぇな……。誰だよ、こんなキンキン声出しやがって……。」
“ぱっ、パロマちゃんが起きたわ。”
丁度二人揃ったわね。
……ところで、寝ていればノアちゃんを除いて全員が起きる声だし、起きてても何事かと一人ぐらいは見に来るはずだが、誰も来ない。テルミナちゃんなんか、クソムシうっさいぞーって……何でわたしの所為になってるのかしらって。
「……何でアタシだけ寝てんだ?」
“あっ、起きた。あなた、テルミナちゃんが開けたアレで気絶したのよっ!!”
「……プラムか。というか、視界に入るやつ、ノア以外全員寝てるんだが?」
急いで様子を見に来ると、ルピナスちゃんは床に座り込み、コハルちゃんは椅子に座ったまま、テルミナちゃんに至っては、壁の穴から外に出てすぐの所でうつ伏せになり倒れている。起きてるのはプラムちゃんとパロマちゃん、キューブパズルを回し続けるノアちゃんとわたしとあの白い手すりだけ。
コハルちゃんが無防備なのは困ったわ。だって、パロマちゃんと――――。
“駄目です、ダメージが大きすぎてシステムを維持出来ません………………こうなれば仕方ありません――――”
「もう少し、もう少しでしたのに……。」
念話ではなく指向性のある、はっきりとした声でコメットちゃん……いえ、サンディちゃんの声が聞こえるわ。最悪かしら。
“あら、あの子、あのウサ耳の生えた白い子って、さっきまで居なかったよね?”
“……サンディちゃん、逃げようとしても無駄よ。”
「……ですよね。あんな音波兵器でいとも簡単に瓦解するとは思いもしませんでしたよ。」
“……パロマちゃん、ちょっと来て。”
「はぁ? 何だよ……アタシの隣で寝てやがるガキが邪魔だな……あっ! ……悪い、蹴っ飛ばした。痛くねぇか……? 何だよ死んだように寝てやがるじゃねーか。大丈夫か?」
“あれだけの事があったからね、疲れてるのよ。”
嘘。ついさっきからずーっと南の方角からうっすら歌声が聞こえる。それも凄まじいほどの高濃度の催眠魔法が乗ってる。混乱ではなく、眠らせるタイプのね。
声もそれに乗ってるからかなりの広範囲に飛んでるわ。
この波長のタイプからして水属性かしら。位置からして8キロメートルほど、即興で解析してみるに、この距離でこの濃度なのと、16777216を超えるチャンネル数にその全部を細かく制御し切る非常に緻密な制御能力、XSランクは最低でもあるわ。
迷い人なのかしら。毎度毎度、異常なほどに能力を持った子が来るわねぇ。何なのかしら本当に。
ノアちゃんに効果が無いのは当然だけど、それに対して全く効果の無いパロマちゃんとサンディちゃんも中々だわね。
“あー、ヤバい。何だか眠くなってきちゃった。”
“そうね。起きてても何も出来ないと思うし、ノアちゃんの頭の上で寝てなさい。”
“は~い。ふわぁ…………。”
あの顔の何処に欠伸出来る口があるのかしら。
それはともかく、サンディちゃんだわ。
「何だよ?」
「まず、この床に落ちてる白い積み木みたいなの全部拾ってちょうだい。」
「はぁ? まっ、まぁいいけど……何だこれ。」
落ちてるグラモちゃんは拾っとかないと、踏んで破壊してしまったらそれこそだし、その状態で復活してしまったらしまったで、とんでもなく長い説教が始まりそうだしね。
「拾って台所のシンクの上に置いたぞ。」
「上出来ね。次に、あそこに居るでしょ? 白い髪に白いウサ耳のとっても可愛い女の子。」
「あぁ? …………誰だ?」
「…………先ほどのパロマさまですか。あっ――――」
横で倒れてる白い棒がバチバチと音を立てて鼻に突く匂いを放つ白い煙が噴き出した。グラモちゃんの声、なんて破壊力なのよ。
「コメット8000がっ!! あぁ……修理しても治るのでしょうか……。」
「……それ、あいつが跨って飛んでた棒だな。」
“サンディちゃん、もう逃げ場は無いわね。”
「…………元よりありませんよ。あんな力を持った方々を見てしまっては困難だと……察しています。」
“困難? なら、まだ手はあるのね?”
「何の話してやがんだ。アタシはもう、時間がねぇぞ。別の手段を取るなら、その方法を考えないと間に合わん。」
タネ、明かしてしまった方がいいわね。一発、強者同士で戦わせてどちらが上か分かって貰った方がいいし。
サンディちゃんの能力も気になるし……何よりもう、結果が出てるしね。
◇◇◇◇
はぁ……やっと遊園地の裏山…………ミサイルサイロの調査が出来る。
……もし核漏れしてたらこの体でもただじゃ済まないから、後回しにしてきたけど、まさかここが最後に残るとはねぇ。
…………歌声?
昨日聞いたメーヴェちゃんの声だわ。本当に美しい歌声ねぇ。
美しいさらさらした金色の髪に白い肌、大海を凝縮したような澄んだ青い瞳に
この世の全人類のハートを射抜きかねない美貌…………本当に喋んなきゃ完璧なのにね。だけど、あの子はガイノイドだと言ってたわね。何処の世界最高の人形師
が設計したのかしら?
あっ、アプ……アプ……アプ何とかバウム…………デーツ出身ぽいからあの国に居るのかしら?
…………。
何だろう、脳内が白い霧に包まれるような…………。
「…………ごめんな、もっともっと話がしたいんだ。」




