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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第二章 蟻巣島
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69 薬草地

 翌朝、蟻の巣の入口近くにある広場へやってきたグドンは、リンタロウの姿を探しながらあたりを徘徊することになった。薬草とりに参加する者は朝一で広場に集まる必要がある、そう教えられたものの、それ以外、何の知識もなかったからだ。

 グドンとしては、先輩であるリンタロウに頼るしかなかった。元々は、一緒に宿舎を出ようと考えていたが、リンタロウの部屋を訪ねたとき、彼はもう宿舎におらず、コン一人が寝台で眠っていた。

 グドンは仕方なく広場へ一人でやって来ることになった。

 だが、グドンをさらにげんなりさせたのは、彼の視線を一番最初に捉えたのが、リンタロウではなくホウカだったことだ。

 彼女は、グドンを見つけると、ぱっと顔を輝かせ、小走りに彼の傍へ近寄ってきた。いや、小走りというより、小躍りと表現したほうがいいかもしれない。それほど、彼女の顔は笑みに溢れていた。

 一瞬、グドンは逃げようかとも考えたが、結局はその場に留まると決めた。万が一にも今日の使役に参加する機会を逃したくなかったからだ。

「絶対にきみが現れると思ったよ」

 疲れた顔でグドンはそう皮肉を言ったが、ホウカのほうは、今にもグドンの腕をひっ掴まんばかりの喜びようだった。

 いつからこうした状況になったのか、グドンは不思議で仕方なかった。

 間違いなく湖の一件があってからだという気がしたが、どうして、こうした変化が起きたのかは、どう考えても謎だった。

 二人の関係を一から始めたい。そうした彼女の言葉を思い出すと気が滅入ってくる。裏にきっと何か落とし穴のようなものがある、と確信していたからだ。

 グドンは彼女を無視することに決めた。今できそうなことはそれ以外になかった。

 彼女から遅れること数分で、リンタロウが姿を現した。

 昨日同様に笑顔を見せていたが、その瞳の奥に疲れが滲んでいることは、誰の目にも明らかだった。

「妹さんは大丈夫?」

 会うなりそう訊いたグドンに、リンタロウは少し驚いた顔になったが、すぐ笑みを取り戻すと、

「ありがとう。よく眠っていたからすぐ元気を取り戻すと思うよ」

 と頷いた。それからすぐに気持ちを切り替えるように、

「これから、各自がどの蟻の巣へ入るのか、その入口を決める抽選会があるんだよ」

 と説明した。

「抽選会?」

 グドンは興味を引かれ、遊園地へ乗り出すこどものような顔になった。

「そう。入口は何か所もあって、それぞれ別の薬草地へ繋がっている。薬草地には当たりはずれがあって、薬草が十分に残っている場所もあれば、すでにほぼ枯渇している場所もある。誰でも、条件の良いところへ入りたいから、抽選が必要なんだ」

「枯渇したところにまで入る必要があるの? 人手不足なのに?」

 と、ホウカが当然の疑問をぶつける。

「枯渇といっても、まるで薬草がないわけじゃない。それに、一般の薬草地は元々人手が足りてるんだ。今でもね。人手不足なのは聖地へ入る人間だけ」

「それは、聖地が危険で、希望者が少ないから?」

 とグドン。

「その通り。今のところ、聖地へ入るかどうかは強制じゃない。でも、それも最近は怪しくなってきている」

 広場には、少なくとも百人近い人間が集まっていた。

 大半は若い男女だが、中にはかなり年配に見える者もいる。グドンの視線に気づいたリンタロウがそのあたりの事情を説明した。

「島民は使役期間を終えると、この島を出ていくか、この島に残るかを決めることを迫られる。出ていく者はいいとして、残った者の一部は使役者を管理する部門へ配属される。そこで力を示せば幹部への道も開けるわけさ。でも、それは一部の人間であって、多くは島での雑用であったり、島外との交易に従事することになる。また、数は少ないけど、あえて薬草摘みの仕事に残る選択をする者もいるんだ。正直言って、彼らは使い捨てだし、明るい将来もないけど、責任を負うのを嫌う人の中には、わかっていても、そうした選択をする人がいる」

 きっと薬草とりに従事している年配者は、そうして島に残る選択をした者たちなのだろう、とグドンは理解した。ひとは皆様々で、中には責任を負うことを何よりも嫌う人もいる。それに、薬草摘みに従事しながら、彼らの年齢まで生きながらえているということは、かなり運に恵まれた者たちとみることもできた。

 抽選の結果、グドンたちは七番の入口を割り当てられた。だが、その番号を見るなり、リンタロウは落胆した表情になった。

「おいらたちはハズレを引いたわけ? 薬草が枯渇した薬草地?」

 グドンが尋ねると、リンタロウは意外にも首を振った。

「薬草摘みの場所としては一等地といっていいと思う。だけど、ほんの少しだけ危険なんだ」

「危険?」

 とホウカ。

「うん。聖地ほどではないけど、犠牲者が出ることもある」

 リンタロウが落胆したのは、自分の安全を考えてのことだろう、とグドンにもわかった。リンタロウ一人だけならむしろ喜んだはずだ。

「得るものあれば失うものありというわけだね?」

 グドンが笑うと、リンタロウは不思議そうな顔になった。

「危険だと聞いて、心配じゃないの?」

「心配じゃないよ。元々、直接聖地へ行きたいくらいなんだ。薬草地としては大当たりなんでしょ? おまけに死ぬ危険があるというなら、聖地へ入るための模擬体験としても最高なんじゃないかな」

 リンタロウは親指を突き上げ、グドン同様笑顔になった。

「それでこそ、おれの相棒だ」

「そうそう。その相棒の役割についても訊かないと…」

 グドンが言いかけるのを、ホウカが制して、

「二人とも、冗談をいってる場合なの? 命を落とす危険があるんでしょ? 薬草摘みなんてどうでもいい作業のために、死の危険を冒すなんて愚かだと思わないの?」

 グドンはホウカを冷笑した。

「心配なら、お嬢様はここから引き返せばいいよ。一緒に行ってくれなんて頼んでない。だいたい、アサホはこのことを知ってるの? きみが薬草地へ入るのを許可した?」

 ホウカは、グドンを無視してリンタロウに向き直った。

「妹さんは心配するでしょ? こんなこと許してくれると思う?」

「こんなの、おれたちにとっては日常茶飯事さ。コンもこの程度ではビクつかない」

「さっき、暗い顔になったのは、おいらたちの安全を気にしてくれたからだよね? 本音をいえば、収入が多ければ多いほどいい。たとえ危険があっても。違う?」

 リンタロウはあははと笑った。

「おれはグドンを一生の相棒と決めたよ」

 グドンも笑った。取り残された感じのホウカは口をへの字に歪めた。

 そんな彼女を無視し、二人は肩を並べて七号の入口を入ると、地下へと続く階段を下りて行く。

 ホウカはつかず離れず彼らの後を追った。

 彼ら以外にも、七号へ振り分けられた十数人の若者が、すでに彼らの前を歩いている。いわば、グドンたちは集団のしんがりだった。

 それでも、リンタロウに焦った様子は見られず、にこにこしている。

 最後尾になっても心配不要なくらい、七号の薬草が豊富なのか、それとも、早く現地についたからといって、必ずしも有利になるとはとは限らないということか?

「さっきの相棒の件だけど…」

 ゆっくり階段を下りながら、リンタロウが説明を始めた。

「薬草地そのものに大きな危険はないんだよ。だけど、時折、妖獣や妖虫の大群と出くわすことがある。そうした場合は、いち早く逃げることが大事。ある程度離れると、どうしたわけか、彼らはそれ以上追ってこなくなる。でも、薬草摘みに集中していると、どうしても周りに気が回らなくなる。奴らに囲まれてやっと気づくようでは手遅れなんだ。だから、一人は必ず見張りに就く。妖獣に出くわす可能性は本当に低いけど、これは絶対に侮れないルールだよ」

「どこが、薬草地そのものには危険がないの? もう十分に危険じゃないの」

 聞き耳を立てていたホウカが背後から皮肉を言った。

 グドンは、リンタロウに目を向けたまま、

「それはつまり、薬草地の本当の危険が、それとは比較にならないほど凄いということだよね?」

「頭のいい相手と話すのはだから好きさ、余計な説明は必要ない」

 グドンがホウカを振り向くと、彼女は白目を剥いて見せた。

「どう危険なのかは、現場に着けば、すぐわかると思う」

 リンタロウはそれ以上の説明を避けた。

 必要以上にグドンやホウカを怖がらせたくないと思ったようだ。

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