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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第二章 蟻巣島
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59/203

59 リンタロウ

 とりあえず、グドンは住居の割り当てを受けて、そこに落ち着くことにした。

 こどもたちの住居は、年齢別に、同年代の先輩(以前に攫われてきたこどもたち)と同じ建物に割り振られた。

 宿舎そのものは、捕虜を扱うようなおんぼろ小屋ではなく、十分な設備が整った清潔な建物だった。各建物には、彼らの世話役である専任の女性までも配置されている。こうした点は、荷馬車で一緒だった美婦人の言葉どおりだった。

 しかも、ここのこどもたちは、すぐに使役にかり出されるのではなく、十六歳までは無条件に衣食住を与えられ、教育さえ受けられるという。

 それが事実なら、美婦人の話に嘘がなかっただけでなく、渉不城でのグドンより境遇はずっと恵まれているといえた。

 こどもたちは将来の島の構成員として大事に育てられる、

 先輩のこどもたちも口々にそう証言した。

 グドンとホウカは、当然ながら別々の宿舎に割り当てられた。

 ホウカは使役御免のこどもの宿舎へ、グドンは、ほぼ同年齢の青年たちの住む使役付き宿舎へと振り分けられた。

 グドンの部屋は個室だったが、いっぽうでその待遇を受けるため、一定の使役が課される。使役の内容が何かは不明だったが、使役に就けば、島民の置かれた状況も、自分が求められている役割もおのずと見えてくると思えた。だから、むしろ彼には大歓迎だった。

 正直にいえば、地下に広がる蟻の巣を早く見てみたくて仕方なかった。

 夕食までの間、特にすることもなく、グドンは一人、部屋で時間をつぶすことになった。

 余りの手持無沙汰に、外へ出て散歩でもしようかと思案していたとき、部屋の扉がノックされた。

 グドンが扉をあけに立つと、ひょろりと背の高い、色黒の青年がにこやかに入ってきた。

 彼はエビサワリンタロウ(海老沢麟太郎)と名乗った。

「おれも、二年ほど前にここへきたばかりだよ」

 人生はすべて愉快なことの連続だ、と言わんばかりの笑顔で、リンタロウは自己紹介した。

「よかったら、おれの部屋へこないか? 温かい飲み物もあるし、少しならお菓子もね。来たばかりだから、色々訊きたいこともあるだろ? 答えられることなら、何でも話してあげる。よかったら、友達になろう」

 もちろん、グドンに否はなく、まさに願ったり叶ったりだった。

 ちょうど、この島の事情を訊く相手を探したいと思っていたし、同年齢ですでに使役にもついているリンタロウは、格好の情報源になるはずだった。

 彼の予想に反し、リンタロウの部屋を覗くと、そこは無人ではなく、十二三歳と思えるツインテールの女の子が待っていた。

 色白というより、病弱で蒼白と表現したほうがよいその少女は、グドンを見ると、恥ずかしそうに笑って、小さくお辞儀をした。

 グドンが来ることは彼女も承知だったらしい。というより、二人で彼を部屋に誘ったというべきか。

「おれの妹、コン(紺)だ。見た通り、体があまり丈夫じゃないから、同年代の子に相手にされなくて、いつもおれにくっついてる。邪魔かもしれないけど、勘弁してやってくれ。もう少し大きくなったら、おれの妹にしては可愛いし、目の保養にはなると思う」

 そういうと、リンタロウは大口を開けて、あははと笑った。

 とたんに、コンが顔を真っ赤にした。

「出鱈目ばっかり、お兄ちゃんは」

 救いを求めるようにグドンに目を向け、

「わたしがここにいるのは、知らない人がお兄ちゃんの嘘に騙されないようにするためよ。とにかく口がうまいの。でも、半分以上は出鱈目だから、用心して。信じたら最後、きっと後悔するから」

 と兄を揶揄した。

 呆気に取られて二人を見比べたグドンは、何といってよいかわからず、やはりあははと笑うしかなかった。

 それにしても、島の連中は、どうしてコンのような少女まで誘拐してきたのだろうか? グドンは、内心不思議でたまらず首を捻った。何かの役に立つどころか、戦力としては足手纏いにしかならない。それとも、ここへ来てから、体の具合を悪くしたのか?

「グドンだよ、よろしく」

 彼は笑顔で小さく挨拶の手を挙げた。

 コンがまた小さく笑ってお辞儀する。

 二人に笑顔を向けていたリンタロウは、

「おれたち三人は気が合うと思っていたよ。だから、声をかけた。薬草とりの相棒にならないか誘おうと思ってね」

 リンタロウが自分を誘った理由を知りたいと思っていたグドンは、

「薬草とりの相棒? 薬草とりというのは、使役のことだよね? 使役には相棒が必要なの?」

 知らないことばかりのグドンは、勧められた椅子に掛けると、すぐ興味津々で、リンタロウの話に食いついた。

「ここは薬草とり以外、やることはないからね。でも、難しいことは何もない。本当を言えば、まず薬草の基礎を学んで、どんな薬草の価値が高いかとか、保存はどうすればいいかとか、そうした知識を身に着けてから蟻の巣へ出かけたほうがいいんだけど、最近は、非常事態だから、そんな余裕はない。まあ、そのあたりは先輩であるおれに任せて、とりあえずついてくれば大丈夫。手取り足取りでおれがすべて教えるから」

「ちょっと待って」

 グドンは、慌ててリンタロウを制した。

「非常事態? それはどういうこと?」

 まさにそこが肝心な部分だった。

 ところが、リンタロウは驚いた顔になった。

「え? おれそんなこといった?」

 あまりに大真面目で訊き返すので、グドンは笑ってしまった。

「言ったでしょ? どこまでが真面目でどこから冗談かわからないの。いつもこうなのよ」

 コンが兄を睨む。

「でも、非常事態の話は本当よ。最近、薬草の採取場所で事故が多発しているの。結局、ひどい人手不足になってる。だから、島の大人たちは必至でこどもを攫ってくる。グドン兄さんも、即戦力として、すぐ現場に送られると思うわ」

 グドン兄さん、と可愛い少女にいわれて、彼も悪い気はしなかった。

 だが、非常事態に話を戻せば、島民たちの緊張と苛つきは、そんなところに原因があるのかもしれない、とグドンは想像した。

「その事故というのは、具体的に何があったの?」

 とグドン。

 リンタロウとコンは顔を見合わせると、どちらも溜息交じりに視線を逸らせ、

「薬草とりの際には、よくある事故なんだよ」

 と、やっと気を取り直したリンタロウが不自然な笑顔で言い訳した。

「それは違うでしょ?」

 と、妹が厳しく訂正を迫る。

 リンタロウは仕方なく頷いて、

「うん。まず説明すると、薬草とりには二種類あるんだ。一つは普通の薬草地での使役、もう一つは聖地での使役」

 聖地とは何なのか、グドンは訊きたくて仕方なったが、話の腰を折るのが嫌で、口から出かけた言葉をのみ込んだ。

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