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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第二章 蟻巣島
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57 島の抱える問題

「先に質問したのは、わたしのほうよ」

 と、ホウカは指摘したあと、

「でも、まあ、いいけど…。わたしが知っているのは、蟻巣島が今、何か問題を抱えているっていうこと、それだけよ。具体的には何も知らない。でも、その問題がグドンやわたしの誘拐と関係があるんじゃないかと思ったの。普段は攫わないわたしたちを攫ったのは、たぶん島が抱えている問題への穴埋めだって。これから島へ入る身としては、それが何か気になっても不思議はないでしょ? 違う?」

 そう言われて、イタチ男は狐に抓まれた表情になったが、美婦人はこれまでになく真剣な眼差しで彼女を見つめた。

 グドンも心底瞠目する思いだった。

 ホウカの情報量の多さにも驚いたし、島の抱える問題と彼らの誘拐を結び付けたことにも驚いた。

 しかも、彼女はほかにも何か知っていそうな気がする。

 今のホウカは本当に以前とは別人だ。湖で大けがを負ってから人が変わったようになった。だが、そんなことがありえるだろうか?

「今度はあなたが答える番よね? わたしたちを攫った理由、つまり、島が抱えている問題って何?」

 ホウカはそう言って、相手の返事を待った。

 グドンも今は、彼らが自分を誘拐した理由を心から知りたいと思った。

 美婦人はしばらく黙ったあと、結局、

「知らないわ」

 と答えた。

 それを聞いたホウカは心底がっかりした表情を見せた。

「知らない?」

「いいえ。あなたがたを連れてきたのにはもちろん理由がある。でも、それは、あなたが期待するような特別な事情じゃない。ただの人材確保よ。島では今、極度の人手不足に陥っているの。だから、誰でもいいから人材を集めるよう、島の幹部から命令されてる。その集め方が少し強引だったのは認めるわ。でも、それだけ。この答えで満足?」

 ホウカと美婦人がしばらく睨み合った。

 美婦人はまだ何かを隠している、とグドンも感じたが、具体的にそれが何なのか見当もつかなかったし、美婦人を問い詰めても話すとは思えなかった。

 とはいえ、美婦人の反応を見る限り、島が今何か重大な問題を抱えているのは間違いなさそうだ。

 ホウカはそれ以上美婦人を追求せず、グドンへ視線を向けた。

 彼女の顔には、どう? これであなたも島の事情に興味を持ったんじゃないの? これでも蟻巣島へは行かないつもり?と書かれていた。

 グドンも、ホウカが美婦人と長々とやり合ったのは、それを彼に聞かせるためだったとようやく気づいた。

 一緒に蟻巣島へ行くよう、ホウカは自分を仕向けようとしたのだ。

 しかも、彼女の計画にまんまと嵌まったというべきか、グドンは、何やら面倒に巻き込まれそうな嫌な予感がするいっぽうで、島の事情に強い興味を引かれていた。

 正直、グドンはどうしようか迷った。好奇心は募ったが、やはり、ホウカに対する警戒心が働いたためだ。

 しかし、彼を決心させたのは、ほかならぬ彼女の表情だった。

 グドンをやり込めて勝ち誇る感じはまったくなく、むしろ、先ほどの会話で精根尽き果てた様子で、今はじっと上目勝ちに彼の反応を待っている。

 その顔には、むしろ、不安と哀願の色が濃く滲んでいた。

 彼女としては、一人で島へ渡るのは心配だし、もちろん、渉不城へ追い返されるのも嫌なのだ。

 グドンの心に、彼女に冷たくしすぎたかもしれないと反省する気持ちがわいた。

 ホウカとは確かに気が合わないし、実際、彼女はわがまま娘かもしれないが、最近の自分は彼女以上に攻撃的で、嫌な奴になっていたかもしれない。

 そう思うと、彼女の存在を理由に蟻巣島へ渡らないのは愚かである気さえした。

 さらに言えば、今の自分に、蟻巣島へ行く以外の選択肢があるかも疑問だった。

 このまま渉不城へ戻ることは考えられなかった。といって、ここから島以外のどこかへ向かう当てもない。元々、渉不城を出たときから、行き当たりばったりの計画だった。

 もし、人族に誘拐されていなかったら、自分はどうするつもりだったんだろう?

 グドンは考えたが、正直、何も思いつかなかった。

 これまでは、湖を渡り、渉不城から逃げることで精一杯だったという事情もある。

 湖を渡ることは、半分は命を落とすことも覚悟の上だったから、それ以降の計画を立てる余裕がなかったともいえる。

 それなら、新たに生活を始めるのが蟻巣島でも別にかまわないじゃないか、そんな気がした。

 元々、場所にこだわる必要などないのだ。

「二人で島へ入りたいなら、一緒に入ればいいわ」

 グドンとホウカが黙ったことで余裕が出たのか、美婦人がまた口を開いた。

「こっちは何も隠すものはないし、あなたたち二人のことを心配してるわけでもない。いっておくけど、連れてきたこどもを苦役させようなことはしてないわよ。島へいけば、それがわかってもらえるはず」

 と、やや見当違いのことを言ってから、

「どうする? 島へ渡る? 今夜はここに泊まるから、明日の朝までにどうするか決めて。渉不城へ帰るつもりなら送っていくわ」

 と、グドンたちの決断を促した。

「おいらはほかの子たちと島へ渡るよ」

 グドンがすぐに答えると、ホウカがほっとしたように吐息をついた。

「わたしも同じ。船に乗る」

 二人の即答に、美婦人はやっと小さく笑って、

「じゃ、島での生活を二人で楽しむことね。楽しむことが出来ればだけど」

 グドンとホウカは何やら複雑な表情になった。 

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