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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
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43/156

43 帰還

 グドンが坑道近くの小屋へ戻ったとき、黄閃砂の廃棄場所でタグと挌闘してから、すでに二日以上の時間が経っていた。

 とにかく寝床でひと眠りしようと室内に入ったが、そこで、俯いたままじっと座っている何かの影に出くわし度肝を抜かれた。

 え? 誰?

 影はボウだった。ずっと泣いていたらしく、目が赤く腫れている。仙族の目が赤く腫れることを知り、グドンは何だか可笑しくなった。

 その笑い声で、ボウは初めて目の前のグドンに気付いた様子だった。

 ボウはグドンを目にしたものの、それが現実とは信じられないらしく、束の間ぼんやりしたまま、視線を逸らせずにいた。

「グ、グドンなの?」

 蚊の鳴くような声で疑うように訊く。

 大声を出せば、目の前の幻影がふっと消えてなくなるのではないか? そんな不安でいっぱいの顔つきだった。

「坑道の中でも、ボウは同じことをいった気がするよ」

 グドンは笑おうとしたが、ボウの瞳から涙がこぼれ落ちるのを見て、慌ててそれを引っ込めた。

「あなたはもう死んでしまったと思ったのよ」

 ボウは立ち上がり、彼の体にしがみ付くと、その胸に頬を擦り付け、くぐもった声を出した。

「おいらが死んだ? どうして?」

 心身ともにボロボロで、世の中に自分以上に悲惨な生き物はいないと思っていたグドンは、ボウの姿にその考えを改めた。

 自分よりひどい顔をした子がここにいる。

 ようやく顔を上げたボウの目からは、また涙が溢れてくる。

 グドンは彼女が落ち着くのを待った。

 しばらくして、ようやく我を取り戻したボウが、グドンの腰に回していた腕を放し、彼から少し離れて恥じるように涙を拭った。

「タンタンから聞いたのよ。タグがあなたを追って廃棄場所へ向かったって。その時の様子からして、ただで済むとは思えないって」

 グドンはようやく彼女の涙の理由が理解できた気がした。

「わたし、廃棄場所へも行ったの」

 彼女は尚も続けた。

「廃棄場所へ行った?」

 驚いたグドンは、彼女の傍により、どこにも異常がないか改めて確かめた。

 手もあるし、足もある…。

「でも、あなたはどこにもいなかった。わかったのは、そこで誰かが争って、崖の下へ落ちたということ。だから、わたしはてっきり…」

 おいらが死んだと思ったわけか…。 

 確かにグドンとタグが戦って、彼が勝つと思う者はいないはずだった。

 実際、タグが病に侵されておらず、グドンの力を侮っていなかったら、ああした結果にはならなかったろう。

「大丈夫だよ。おいらは何ともない」

 グドンは彼女を励ましたくてそれだけ答えた。タグがどうなったかは話さなかった。できれば誰にも話したくない。

 だが、彼女はそれを許してくれなかった。

「タグはどうなったの?」

 グドンは大きく息をつくと首を振った。

「わからない。一緒に斜面を転がり落ちたけど…」

 そうはいったものの、グドンがここへ戻ってきた以上、結果がどうだったかは、誰にでも容易に想像できるはずだった。

「でも、悪いけど、おいらはタグに同情しないよ」

 グドンは正直に本音を言った。

 ボウはしばらく彼を見つめたあと、

「あなたが無事に戻ってきてよかったわ」

 と頷いた。

「それより、仙族の病のことだけど…」

 グドンは話を切り替えた。

「廃棄場所の黄閃砂はやっぱり変化していなかった。時間が問題を解決してくれると期待するのは駄目みたいだ」

 彼は廃棄場所で見たことをありのままに話した。ボウも現場へ行ったようだが、彼女には黄閃砂の変化の有無がわからないはずだった。

「仕方ないわ」

 と、頷いたボウは、それほど落胆した様子を見せなかった。元々こうした結果を予想していたのかもしれない。

「これで、あなた方仙族は移住する以外、ほかに方法がなくなったね」

 病気を治す方法が見つからない以上、彼らはここに留まることは出来ない。しかも、移住したとしても、問題が根本的に解決されるわけではないから、一安心というわけにもいかない。恐らく死者も出続けるだろう。そのことに、彼はいわれのない罪悪感を感じた。

「もう移動の準備を始めているところよ。すでに何人かが候補になる土地へ視察に行っている。戻ってきたら、すぐにでも出発するつもり」

 意外に明るい声でボウが現状を説明するのを、グドンは不思議な思いで聞いていた。

 仙族はもう前を向いているということか…。

「じゃ、黄閃砂のことを皆に話したんだね? 混乱が起きなかったのなら、よかったけど…」

 ボウは小さく首を振って、

「グドン、そのことであなたに話したいことがあるの」

 と言った。

「そのことって、黄閃砂が原因だと皆に知らせたこと?」

 訊かなくとも、仙族の反応はわかる気がした。決してグドンが望むものではなかったはずだ。

「ええ。でも、あなたが想像しているのとは少し違うと思う」

 彼女はなぜか表情を曇らせる。

「想像と違う?」

 グドンには、彼女のいう意味がわからなかった。言うまでもなく、仙族は半妖に怒りを募らせているはずだ。それ以外にどんな反応があるというのか? しかも、そのことで話がしたいとはどういうことだろう?

「ボウが話したいというなら、どんなことでも喜んで聞くよ」

 そう答えたものの、内心首を傾げた。

「いいえ。わたしじゃなくて、たぶん、マキが話すと思う。そのほうが分かりやすいと思うし」

「マキが話す? わかりやすい?」

 グドンは彼女の言う意味が益々わからなくなった。

 彼女はいったい何を言っているのか? 

 また処刑の話なのか? 処刑にボウも賛成し、自分からは言い辛いからマキに頼んだということか?

 そんなことは考えられない、とグドンは否定した。だが、それなら…。

 グドンの戸惑いを察したように、ボウは優しく彼の腕をとった。 

「今は皆、罹患者の収容場所にいると思う。マキもいるから、一緒に来て」

 グドンは狐に抓まれた気分のまま、仕方なく小さく頷いた。

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