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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
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38 実験の準備

 空が明るくなると、グドンは待ちきれぬ様子で鉱石を選別精製するための作業小屋へ急いだ。正確にいうと、小屋に併設された研修施設へだ。そこは、初めてここで従事する者たちが鉱夫としての訓練を受ける場所だった。

 あった。これだ!

 倉庫にあった小さな収納箱を散々ひっかき回し、保管されていた雑多なガラクタの中から、グドンはようやく目当てのものを見つけた。

 その木箱には緑金石と書かれ、中に鉱石の標本が入っていた。さらに別の袋には、緑金石を含む岩石を黄閃砂ごと粉にすり潰したものも添付されている。

 グドンはまずその粉状のものを暗がりへ持っていって詳細に観察した。

 結果は彼が予測したとおりだった。

 粉に含まれた黄閃砂に温かみはなく、粉が光を放つこともない。

 きっと仙族はこれを検査に使ったんだ。だから、病に対する影響はないと判断した。黄閃砂は、緑金石と分離する際、虚淋酸と結合することで仙族に害を及ぼすものに変化するのだろう。

 虚淋酸そのものに害があるとは思えなかった。虚淋酸といえば、思い出すのは緑金石を精製するための水を採取していたあの池だ。しかし、仙族は以前から沐浴にあの池を使っていたという。害があるなら、もっと早くから病が蔓延していたはずだ。

 虚淋酸によって性質の変化した黄閃砂。それが問題の根源だ。

 今、仙族が取るべき行動は、一刻も早くこの土地を離れることだった。重症者も含めて全員で別の土地へ移動する。黄閃砂が原因なら、伝染性はないだろう。ちゃんと説明すれば他所の仙族も理解してくれるはずだ。理解してもらえないなら、ほかの仙族がまったくいない土地を探せばいい。

 もう一つできることがあるとするなら、黄閃砂の廃棄物をどこかへ移動させ、すべて埋めてしまうこと。

 最近、目に見えて重症化するようになったとすれば、それは五年前鉱山が閉鎖され、黄閃砂の廃棄物が放置されるようになったからだろう。残った廃棄物の量からして、以前はどこかへ移動させ、埋めるなり何なり処分していたはずだ。

 残念ながら、今のグドンにそんな力はないし、仙族に運ばせるというのも問題外だ。それに何より、この方法は一時凌ぎに過ぎない。だから、仙族は結局ここから逃げ出すしかない。

 もちろん、逃げ出したとして病が治るわけではないから、治療法は別に見つけ出す必要がある。しかし、それには時間がかかるし、不可能かもしれない。今はできることをまずやるべきだ。

 厄介なのは、仙族に速やかな移動を促すためには、どうしても、こうした事情を彼らに説明しなければならないことだ。それを考えると、グドンは頭が痛くなった。

 説明すれば大騒ぎになるだろう。黄閃砂は半妖と関係しているから、また、彼に怒りをぶつけようとする者が出るかもしれない。しかも、治療法はまったくわかっていないのだから、彼にとっては、まさに出口のない最悪の状況と言ってよい。

 いっそ黄閃砂のことには目をつぶり傍観者を決め込もうか、とグドンも思わないではなかった。どうせ今回のことは自分とは無縁な、他人ごとだ。これ以上、他人の面倒に巻き込まれるな、そんな心の声が聞こえる気がした。

 だが、本当に、ボウが苦しみ死んでいくのを見て見ぬ振りすることができるだろうか? とてもそんなことはできない気がした。

 いつ、どう話すかはともかく、結局は黄閃砂のことを打ち明けるしかない。

 しかしその前に、自分の考えた仮説が正しいことを実証し、出来ることなら、病を治す方法を見つける。打ち明けるのはそれからにしよう、と彼は決めた。

 グドンは、ガラクタの中から空き瓶をいくつか探し出し、それを室内で見つけた袋に詰めた。空き瓶は、仙族の体内に残った黄閃砂を消し去る実験のために使う。とにかく思いつく方法を手当たり次第に実行していくつもりだった。

 目標は、黄閃砂を完全に仙族の体内から消すこと、もしくは虚淋酸との結合を解除することだ。

 実は、昨夜小屋に戻ったあと、彼はやったことがひとつあった。それは、自分自身が病に侵されていないか調べることだ。己が死にかけているのも知らず、人助けにかまけていたら、笑い話にもならない。

 また、多少なりとも自分の体内に黄閃砂が見つかれば、治療法探しをするうえで、自分を実験台に出来る可能性もあった。

 だが、幸か不幸か、彼の体内から黄閃砂は見つからなかった。

 この病はやはり仙族特有のものなのだろう。昨夜、坑道の入口で、ほのかな光がボウの体内に吸い込まれるのを見たとき、そうした推測は確信に変わった。

 グドンは廃棄物の山へいって黄閃砂を瓶につめた。触れたとしても害はない気がしたが、出来る限り直接手で触れないよう心掛け、簡易のマスクもつけた。

 瓶を再び袋に入れ、その場を離れようとしたとき、誰かに見られている気がして、ふと振り返った。ボウかと思ったが、残念ながら、余り会いたくない相手だった。タンタンだ。

 彼女はグドンのそんな思いを無視するように近づいてきて、

「あなた、ボウに何をしたの?」

 と責めるような声を出した。

「ひとり塞ぎこんだまま、話しかけても返事さえしない。昨日、ゲゲたちと何か話したんでしょ?。それは彼女と関係があることなの?」

 恐らく、ボウやゲゲたち指導者は、昨日の会話の内容をほかの仙族にはまったく話していないのだ。話していれば、タンタンがグドンのところへ来ることはなかったはずだ。

「塞ぎこんでいるのは、本当においらのせいなの?」

 彼も突き放すように答えた。優しさを見せず、自分を利用することしか考えない相手に、自分も優しくするつもりはなかった。

「相談の内容が気になるならゲゲに訊けばいいよ。ゲゲが話さないということは、きみに訊く資格がないんだ」

「そういう態度なのね」

 タンタンは冷たく言ってふんと鼻を鳴らし背を向けようとする。

 今のタンタンはホウカとそっくりだ、とグドンは思った。少し違うのは、タンタンが真剣にボウを心配していることだ。

「もし、時間があったらおいらに会いに来るよう、ボウに伝えて」

 彼女の背中へグドンが声をかけると、憤りのこもった目でタンタンが振り向いた。何か言いそうになるのをグドンは平然と手で制し、

「わたしはあなたの小間使いじゃない、とかいうんでしょ? わかってる。面倒ならいいよ。凄く大事な話だけど」

 今度はグドンが先に背中を向けた。

 タンタンは口をへの字に曲げ、

「覚えておきなさい」

 とグドンを脅した。

「覚えておくよ」

 振り返ることなく言うと、彼は次の目的地に向けもう歩き出していた。

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