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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
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33/59

33 罹患者は誰?

 ゲゲがずばりというと、ドウとマキだけでなく、ボウも息をのんだ。 

「こ、この子に病が見える?」

 マキは衝撃に耐えきれず思わず立ち上がってしまった。

 ドウはといえば、手が震え、飲むふりをしていたお茶の湯飲みを落としそうになり、ボウは呆然と目を丸くしたまま動けないでいる。

「それは本当なのか?」

 ドウはゲゲの顔を睨みつけた。

 冗談なら、相手が首長でも許さないぞ、そんな張りつめた緊張感が彼の表情から覗いている。それにしても、これほど大事な情報をゲゲがどうしてこれまで隠蔽していたのか、ドウもマキもとうてい理解できなかった。

「本当なの?」

 マキも同じことを言った。

 しばらくの静寂ののち、グドンが頷くと、三人はそろって何度も首を振った。

「信じられない…」

 マキが呟いたが、信じられないのはグドンにそうした能力があることか、それを黙っていたゲゲの不実か、判然としなかった。

 それよりも、ゲゲが彼のそうした能力をなぜ知っているのか、グドンはそのことのほうが気になった。恐らく、ボウと一緒に仙族の罹患者を診察した際、ゲゲにずっと観察されていたのだ、と彼は推測した。

「でも、それが何なのか、どうしてそうなっているのか、どう治せばいいのかは、おいらにはわからない。だから、話さなかったんだよ」

 と、グドンは弁解した。彼らに余計な期待をもたせ仙族全体を混乱させたくなかった、と言いたかった。

「君の気持はよくわかる。わたしも同じ理由で黙っていた。話したところで事態を混乱させるだけで、何も得られるものがない、と」

「この子の気持ちがわかるですって?」

 マキの声には相手を非難する響きがこもっていた。

「病気の治療に直結しなくても解決の糸口はつかめたはずよ。皆で力を合わせれば、新しい展開もあったかもしれない。それをこれまで隠しておいて、この子の気持ちがわかるとか何とか、そんな言葉で胡麻化そうとするの?」

 ドウも同意するようにゲゲを厳しく睨みつけた。

「じゃ、どうして今日はおいらを呼んだの?」

 彼らの口論を無視してグドンはゲゲに訊いた。

「状況が変化したからだ」

 ゲゲが答えた。

「状況が変化した?」

「計画を変更したといってもいい。我々はここを離れる決心したんだ。つまり、集団移住する」

 ドウとマキは驚いてゲゲの発言を止めようとしたが、もう手遅れだった。

「そんなことを話してどうする? 我々の状況がそこまで切羽詰まっているとこの子が知ったら…」

 心の動揺を隠せないドウとマキとは対照的に、グドンは落ち着つき払っていて、無表情のままだった。

「驚かないね?」

 ゲゲがグドンに訊いた。

「我々が病人を残してここを去ると知っていた?」

 グドンが頷く。

「何となく」

 ゲゲが問い質すような視線をボウに向けると、彼女は慌てて首を振った。

 話したのはわたしじゃありません!

「ボウが話したんじゃないよ。それに、仙族の中には、そのことを知っている仲間がもう少なからずいると思う。皆、家財道具の売却を進めて、ここから離れる準備をしているから」

 彼の話を聞いたボウは、サンサンたちのやり取りを思い出し、そういうことだったのかと今さらながらに驚いた。

 ゲゲが、同僚であるドウとマキに視線を移すと、二人は内心の後ろめたさを胡麻化すように顔を伏せた。

 ゲゲの溜息が大きくなる。

「まあ、それはともかく…」

 彼は仕切り直す口調で、

「我々がここを離れる上で、誰が病に侵されていて、誰が健康体なのか調べる必要があるのだよ。だが、我々にそんな力はない。そこで、グドンくん、是非ともきみの協力をお願いしたいんだ」

 やっと事態がのみ込めたようにグドンも頷いた。

「そういうことなら、別に構わないけど…」

 それなら、確かに自分にも力になれるかもしれないという気がした。ここを離れたはいいが、新たな土地で、ひとり、また、ひとりと患者が出れば、もう取り返しのつかないことになるだろう。そうならないためには、予め誰が罹患者か確認しておく必要がある。

「でも、それは、仙族全員の健康状態を確かめるということ?」

 グドンが訊くと、ゲゲが大きく頷いた。

「もちろん、ここを離れる予定のないものは除外される」

 グドンは考える顔になった。

 それだけ大人数ということになれば、かなりの時間と労力を使うことになる…。

「お願いよ。我々を助けてちょうだい」

 やっと平静を取り戻したマキが懇願した。

「頼む」

 とドウも頭を下げる。

「もし力になってくれたら…。そうだ、ボウを婚姻の候補者から外してもいい」

 何としても協力させたい、そんな焦りから出た言葉だったが、ゲゲが強く舌打ちした。

「何をいう。失礼ではないか。交換条件など出す必要はない」

「いや、わたしは…」

 言い訳しようとしたが、羞恥心から目を伏せたボウの姿を見て、すぐ自分の非を認め、

「すまなかった。今の言葉は撤回する」

 それをグドンは片手を上げて制した。

「いいよ。おいらで力になれるなら」

「え?」「本当かね?」「本当?」

 四人全員がほっと胸をなでおろす。

「誰と誰を診ればいいのか、それだけ教えて。結果が出たあとはそちらに任せます。おいらはそれでお役御免ということで、すぐに地上へ戻してもらえると助かるかな」

「もちろん、いいとも」

 ゲゲが請け合った。

「とりあえず、ここにいる四人からお願いできると助かる」

 グドンも勿体をつけて時間を無駄にしたくなかった。椅子から立ち上がると、壁の一面を指さし、

「壁に向かって並んで立ってもらえます? つまり、こちら側に背中を向ける格好で。服を着たままで構わないから」

「立つだけでいい? 横にならなくていいのね? それに前から見てもらったほうが詳しくみられるんじゃないかね?」

「その必要はないよ」

 彼らの内臓を覗こうとすれば、どうしても裸まで見えてしまう、とはいい辛かった。それに、ボウの裸はともかく、ほかの三人の裸を見るのは、出来ることなら願い下げにしたかった。

 四人はいわれるまま壁に向かって立った。

 誰もが緊張と興奮を抑えきれないでいる。もし自分が罹患していたらどうすればいい? そんな不安が心の中で渦巻いていた。

 万が一にも罹患していた場合は、ほかの患者とともにここに留まることになる。恐らく死ぬまで…。

 彼らの思いにはかまわず、グドンは一人ひとり観察を始めた。

 ゲゲ、ドウ、マキ、最後にボウ…。

 しかし、その目が次第に暗澹となり、最後は全身に緊張が広がった。

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