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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
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32 隠していた力

 仙族の居住区へ入ったグドンとボウは、ゲゲが住む洞府へ向かった。

 脳裏に浮かんだ情報で、仙族の住居は洞府と呼ぶべきだ、とグドンは知った。

 このとき初めて、住民たちの活動拠点であるいわば街なかを歩いて抜けた。

 前回の経験から、地上から直接ゲゲのところへ行けるはずだ、とグドンにもわかっていた。にもかかわらず、わざわざ歩く手間をかけて遠回りするというのは、彼に仙族の生活を見せたいからだと思えた。見せることで仙族に対し親近感を持たせ、彼の協力を促そうというのだろう。

 しかし、そうだとしたら余りに考えが幼稚ぎる、とグドンは苦笑せずにはいられなかった。自分はコウギシら知人が一杯いる渉不城さえ捨てようとしてるのだ。仙族の日常生活を見たくらいで、何が変わるというのだろう。

 こうした策略をボウが考えつくとは思えないから、ゲゲたちの指示に違いなかった。

「仙族はどうして、隠れるように地下に住んでるの?」

 通りすがりの住民一人一人へ笑顔を向けるボウに、グドンは内心の思いはおくびにも出さず訊いた。

「仙族は雲の上か、標高五千メートルの山の頂上に住んでると思ってた」

 どういう事情でここへ移ってきたのせよ、他にもっと環境の良い場所はあるはずだった。

 ボウは朗らかに笑った。

「少なくとも雲の上には住めないわね。それに、ここはグドンが考えるほど住み心地が悪くないのよ。半妖の人たちと違って、仙族はいつでもこの山を離れて外の町へも行けるし。何より、他の種族に煩わせられないのがいいわ。仙族には、それが一番大事」

「そう…」

 もしかして、セイイツが渉不城に隠棲したのも同じ理由からなのだろうか? 

 グドンはふとそんなことを考えた。セイイツは他者との血生臭い争いに飽き飽きし、ここへ逃避してきた…。

 グドンがぼんやりしていると、突然足を止めたボウが中年の男と何か話を始めた。

 そこは、中古の家具などを扱う雑貨店のようだった。男はその店の主人と、自分の家財を売り払うための値段交渉をしていたようだ。

 ボウが話を終えて別れを告げると、男は口角泡を飛ばして値段交渉を再開した。

「このテーブルは樹齢一万年の檀色楡でできてるんだぞ。そんな値段で売れるはずないだろう」

「このところ、家財を売りたいという客が激増しているんだ。店の中を覗いてみろ。テーブルだけでも十本は並んでる。嫌なら他所へ行ってもらって構わない」

 と主人も負けていない。

 グドンは仙族の家にも家具があるということにまず驚いた。しかも、その中古を売る店が存在する。だが、考えてみれば、何もない部屋で生活はできないから、家具くらいあって当然だった。それでも、仙族と中古家具屋という取り合わせには強い違和感があった。

「さっきの男性はボウの知り合いなの?」

 店を離れ、しばらく歩いてから、グドンは訊いた。

 振り向くと、男と店主が会話を止めてこちらをじっと見つめている。見ている対象はボウではなくグドンだ。

 男たちは、おいらの存在を意識しながら気付かぬふりをしていたのか…。彼は一瞬、大ぜいの役者たちが演技する舞台に、一人だけ観客として迷い込んだ錯覚にとらわれた。

「サンサン(燦々)というの」

 ボウが答える。

「彼の息子さんも、わたしやタンタンと同じように、例の婚姻の試みに選ばれた人よ」

「へえ…」

 前方に視線を戻しながら、グドンは、

「そのことだけど、婚姻は、選ばれた者同士で相手を見つけるの?」

「初めはその予定だったらしいわ。でも、本人や一部の家族から強い反対が出て、今は候補者が自由に相手を選んでいいことになってる。相手が同意すればそれで決まり。同意しなければ、また別の人を探す」

「最後まで同意者が見つからなければ?」

 ボウは大きく溜息をついた。

「結局、選ばれた者同士で婚姻を結ぶことになるでしょうね。そうなる確率が高いとわたしは思う」

 グドンは改めて彼らの計画の杜撰さに言葉を失った。それじゃ、ボウたちを女郎屋かどこかへ売り飛ばすのと変わらないじゃないか。最も腹立たしいのは、ボウがそれを黙って受け入れていることだった。

「でも、様子が少し変わってきたの。婚姻の話も打ち切りになるかもしれない」

 とボウは静かに言った。

「打ち切りになる?」

 問いかけるグドンの視線を避けるように、彼女は小さく首を振り、

「グドンに手伝ってもらうことも、そのことと関係してるのよ。さあ、急ぎましょ。きっとゲゲたちが首を長くして待ってるわ」


 ゲゲの洞府では、前回会ったドウとマキが一緒に彼の到着を待っていた。他には誰もおらず、タンタンやタグらの姿も見えない。

 ゲゲの洞府は想像以上に簡素で、座ったグドンの前にある卓も、サンサンが売りに出していたものと違い、山に生えていた木を適当に伐採して自ら作ったもののように見えた。

 少なくともゲゲに強い物欲はないようだ、とグドンは少しだけ彼を見直す目になった。

 グドンは、自分のために用意された霊鍛果という茶菓子を辞退すると、お茶を一口だけ啜り、

「おいらは、何をすればいいの?」

 と単刀直入に尋ねた。

「病を治す力はないけど、それはわかってますよね?」

 ゲゲは優しい笑顔で頷く。

 ドウとマキは、期待半分、不安半分といった顔で二人の様子を窺っている。

 ひょっとして、この二人も、自分がなぜここへ呼ばれたのかよく知らないのかもしれない、グドンはなぜかそんな気がした。

 ボウは、彼らから少し離れた片隅で、やはり腰を下ろし四人の様子を心配そうに見ている。

 彼女は内心、自分がひどく緊張していることに気付き、わたしは本当にグドンの母親になったみたいだ、と密かに嘆息した。

「グドンくん、わたしはこれからきみの秘密を暴こうとしている。出来れば、それを許してもらいたい」

「おいらの秘密?」

 ゲゲの言葉には、グドンだけでなく、ほかの三人も驚いたようにぽっかり口をあけた。

 その中で一番早く平静を取り戻したのは、意外にもグドン自身だった。

「おいらに秘密があるとは思えないけど、どうぞ、何でも話してくれて構わないよ。それがあなた方の病気に関わることなら」

 と余裕の笑顔を見せる。

 ゲゲは満足そうに頷き、

「じゃ、はっきり言わせてもらおう。グドンくん、きみは我々が苦しんでいる病を見ることができる。そうでしょう?」

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