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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
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27 タンタンの魂胆

 驚いたのは、ボウたちが現れるのを予期しなかったからではない。

 鹿を捌いているときも、遠くからずっとこちらを眺めていたから、来る可能性はあると思っていた。何しろ、グドンが初めて捕えた獲物だ。一声かけたくなるのが人情、いや、仙情だろう。

 意外だったのは、先導して近づいてきたのが、ボウではなく、タンタンだったことだ。彼と挨拶を交わすことを拒否し、ずっと知らん顔を続けていた少女だ。

 ボウのほうはといえば、どちらかというと気が乗らなそうな、申し訳なさそうな視線を、グドンへ向けている。

 タンタンはいっさい悪びれた様子を見せず、当然といった顔で彼の隣に座ると、断ることなく肉の串を掴んで口へ運んだ。

 ボウは彼に軽く会釈したあと、タンタンとは反対側に腰を下ろした。

「これでもう、ボウが食事のお世話をする必要はなくなったわね?」

 そういうと、タンタンは、自分は何でも知っているとでもいいたげに小さく笑って見せた。グドンがボウに関心を持っていることも、ボウのお人好しをよいことに、それを利用し、仙族の中での彼女の立場を微妙なものに追いやっていることも。

 顔は笑っていても、目は笑っていなかった。

 グドンは身に覚えのない敵意に困惑し頭を掻いた。

「この人のことは気にしなくていいの」

 ボウはタンタンを睨んだまま言った。

「根は悪くないけど、時々、誰も理解できない行動をとるから」

 彼女の言葉に、グドンだけでなくタンタンも笑った。

 グドンは焼けた肉を選んでボウに差し出した。

「あなたたちも肉を食べるならだけど」

 ボウは当たり前のように首を横に振った。

 肉の塊を口元まで運んでいたタンタンは、つまらなそうに溜息をつき、肉の串を元あったところに差し戻した。

「わたしたちのことを随分知っているみたいじゃないの」

 今回はそれほど悪意のない声でタンタンが言った。

「肉を食べないこと? 多くはないけど、知識として知っていることはあるよ」

 グドンは正直に答えた。

「たとえばどんなこと? それは誰が教えてくれたの? 町のお仲間はわたしたちのことを知らないんでしょ? ボウが教えたとは思わないし。あなたのお父さん? 英雄とかいう」

 ボウも答えを知りたそうにグドンを見た。

「あなた方は誤解しているかもしれないけど、おいらはセイイツと一度も会ったことがないんだ。というか、本当に父親かどうかも、おいらは半分以上疑っているよ」

 ソウエイの墓の前で見た夢を思い出しながら、それでも父であることを疑がっている自分に気付いて、グドンは内心溜息をついた。

「どういうこと?」

 タンタンは疑うように眉を顰め、ボウは単純に驚いた顔になった。

 グドンは、七年前まで、自分が路上生活をする浮浪児だったことや、その後、見知らぬ女性に連れられて渉不城へ来たこと、それまではセイイツの息子だとはまったく知らなかったことなどを、大まかに二人に話した。

 聞き終わった二人は、どちらも目を丸くした。

 仙族は元々、他の種族に無関心で、積極的に関わろうとはしない。半妖の英雄に息子がいるかどうか、どんな生い立ちなのかなど知るはずもなかった。 

「じゃ、あなたを町へ連れてきた女性があなたのお母さん?」

 ボウの問いに、グドンは再び首を振った。

「おいらも初めはそう疑ったけど、違うと思うよ。もしかしたら、二人のこどもがおいらとそっくりで、勘違いしてるんじゃないかと思ったけど、それも違うようだった」

 ボウとタンタンもさすがに言葉を失い、何というべきか戸惑う表情を見せた。

「そのニセ物母さんと会うまでは、あなたはどこにいたの?」

 とタンタン。

 だが、正直な話、グドンは元いた町の名前を憶えていなかった。仕方がないので、どのように路上生活をしていたかを細かく話した。

 別にそのことが恥ずかしいとは思わなかったし、むしろ、当時の仲間は渉不城の住民より心許せる近しい存在だったんじゃないか、と今さらながらに自分でも気付いた。

 もし過去へ戻れるなら、渉不城へなどやって来ないで、路上生活に留まるほうを選んだかもしれない。もちろん、当時の自分にそんな選択の自由があったとは思えないが…。

 ボウは同情する視線を向け、彼の手に自分の掌をそっと重ねた。彼女の手は思ったほど温かくなかったが、彼の心を包み込むように柔らかかった。

 二人の様子を無表情に眺めていたタンタンは、

「それじゃ、誰にも教えられていないし、何かで読んだわけでもない。だけど、仙族のことをあれこれ知ってるわけね?」

 と皮肉めいた口調で言った。

 この子に悪意はなく、ずっとこういう物言いなんだ、とグドンは思うことにした。

「そういうこと」

 グドンが断言すると、タンタンはむしろ納得した顔になった。この子には、やっぱり特別な力がある。そう確信した顔だ。

「他には? 他にはどんなことを知ってるの?」

「他には…?」

 グドンは戸惑って、言葉に詰まりボウの顔を見た。

 これはどういうこと? きみたちは何が知りたいの? 

 さすがに誘導尋問されている気がして、不快感を隠せなかった。

「わたしたちの婚姻については?」

 質問するタンタンの腕をボウが強く掴んだ。彼女が何を言うつもりかわかったからだ。彼女が積極的にグドンに話しかけた理由も、やっとわかった。

 タンタンがボウの手を振り払う。

「わたしたちが苦しんでいる病が、婚姻とつながっていることは知ってる?」

「病が婚姻と…?」

 いったい何の話だろう? この娘は自分を何に巻き込もうとしているのか?

 グドンは疑問に思うと同時に、何か作為的なものを感じて眉を顰めた。

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