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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
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22/69

22 不妊

 ボウたちの元を離れるのは、翌日の朝(ゲゲと別れたとき、外の世界では日が沈みかけていた)にして、その夜はボウたちのところに泊まることになった。

 用意された食事をとったのち、グドンは一人寝台で横になった。

 腹がくちて、のんびり体を伸ばしていると、心がそれまでにない解放感に満たされた。気持ちが充実すると、肉体までが一回り大きくなった気がした。

 久しぶりにゆっくり寝られそうだ。

 睡魔が襲ってくるまでの間、彼はゲゲとの会話を回想した。

 あのとき、老人に悪意のようなものは感じなかった。だがなぜか、どこかに言葉にできない違和感のようなものが残った。もしかするとそれは、ゲゲとボウの間に垣間見られたズレのようなもののせいかもしれなかった。

 ゲゲたちはおいらにまだ何か隠しているのだろうか? だとしたら、それはいったい何で、なぜ隠すのだろう?

 実のところ、老人との会話中、グドンの脳内では“仙族”に関する情報が溢れ出していた。溢れ出すといっても、情報はひどく断片的なもので、内容もあまり有用とはいえなかった。もちろん、病気の治療に役に立ちそうなものなど皆無だ。

 得られた情報はといえば、彼らが望まないかぎり、仙族は人族や妖族からは目視できない、寿命は長い者で千年近く、水、食料等の摂取は必要としない、栄養はこの世の万物から少量ずつ精気を吸い取ることによって賄う、彼らは生涯に一度、唯一の伴侶を選ぶ、交配は肉体だけによらず、主に魂の結合により行われる…等々だ。

 彼らが万物から精気を吸い取ると知り、グドンは思わずボウの顔を思い浮かべた。美しい亡霊に精気を吸い取られ、がりがりに痩せ細って死んでいく哀れな男…、そんな寓話を思い出したからだ。

 もし、おいらとボウが愛し合ったら、やはり精気を吸い取られ、やがては干からびて朽ち果てることになるのだろうか? 

 一度キスされるたび、体重が一キロ落ちていく…。

 グドンはそんな妄想にとらわれた。

 いや、それ以前の問題として、ボウは今、何歳なのだろう? 千年の寿命ということは二百歳? 三百歳? 

 彼女が祖母のような存在かもしれないと思うと、なぜか彼は切ない気持ちになった。

 三百歳のおばあちゃんとの恋愛?

 だがすぐに、そんな思いを自ら自嘲交じりに否定する。

 残念ながら、ボウとおいらの関係がそんなふうに深まることなどありえない…。

 グドンは、明日からのことに気持ちを切り替えることにした。

 地上に戻ったあと、まずは何をしようか? 

 とりあえず、猟をする力をつけることが先決だろう。生き延びるためには、食料を手に入れることが何よりも優先される。それは渉不城を離れても必要になる能力だった。

 問題は、自然界で獣を狩る術が自分にすぐ身につくかどうか…。

 仮に猟で食料を手に入れることが難しい場合、別の方法を考える必要がある。すぐに思いつくのは山の木の実や植物だろうが…。

 そんなことを一つ一つ考えているうち、グドンは知らぬ間に微睡み始めていた。


 その頃、別室では、仙族たちが集会を開いていた。

 今は、一番目の議題に関する議論が終了し、二番目の議題に移ったところだ。二番目の議題とは、グドンの処遇をどうするか、だった。

 仙族のグドンに対する考え方や対応はやはり、それほど単純なものではなかった。

 今は、十メートル四方ほどの室内に、三十人近い男女が集まり顔をつき合わせている。

 その中には、ボウや大広間で会ったゲゲのほか、ボウの父親ユン(潤)、母親ラク(洛)、ボウと同年代の少女タンタン(澹々)、ゲゲ同様この集団の指導者である老人ドウ(童)や老婆マキ(柀)らが含まれていた。

 集会者のうち、数人はすでに疲れ切った顔でぐったりしており、中には生気がなく、家族に支えられながらやっと立っている者もいた。

「議論をするも何も、ボウが、責任をもって小僧をここに引き留めるというから任せたんじゃないか。それなのに、一日もしないうちから失敗したなんて、約束違反もいいところだ」

 厳つい体格の中年男が、悪意のこもった口調で吐き捨てると、向かいに立つボウを睨みつけた。

 タグ(伉)といい、グドンを襲った四人の中の一人だ。

「わたしは、あの子を引き留めるなんて一度も約束していないわ。力を貸してもらえないか頼んでみると言ったの」 

 グドンには一度も見せたことのない厳しい口調でボウが反論した。

「大体、タグがどうしてここにいるの? グドンの一件で自宅監禁中のはずじゃなかったの?」

「娘の一生がかかっているんだ。爺さん婆さんが勝手に決めた処罰になど、従っていられるか!」

 タグの怒鳴り声に、ドウとマキが顔を見合わせる。

 多くの者がタグの勝手な言い草に苦い顔になったが、信じられないことに、中には、タグの言葉に同調する者もいた。

 残った者は黙ってタンタンに視線を向ける。

 タンタンはタグの娘だ。背は低いがボウ以上に発育がよく、その体とはやや不釣り合いな狐を思わせる容貌をしている。

 皆が彼女を見たのは、一番目の議題が彼女やボウに関係していたからだ。タグがいった娘の一生がかかっているとはそのことだ。

 今の彼女は、他人の視線など素知らぬ振りで笑顔を浮かべていている。

「まあ、もっと落ち着いて話をしよう」

 好々爺の物腰でゲゲが仲裁した。

「タグの同席はわたしが許可した。確かにタグには同席する権利がある。彼はタンタンの父親だ。ボウやほかの若者たち同様、今回は大事な役目を果たしてもらう。父親としても、黙って見ていられないだろう。我々も少しでもきみたちの心配要因はなくしたいからね」

 そういうと、その場にいた若い男女数人やその家族と思われる者たちへ敬意のこもった視線を向ける。

「でも、それは一番目の議題の話ですよね?」

 ボウは尚も言い返す。

「これからの話には、タグが参加する必要はないわ」

 それを聞いたドウがすまなそうに、

「必要はないが、彼を追い出すとなるとまた面倒だ。時間も無駄になる。今は、皆も、早く自宅へ帰りたいだろう」

 と、言い訳する。

 ボウは他の参加者へ視線を向けると、怒りを鎮めようと胸を大きく上下させた。

 確かに、多くの参加者が一番目の議論ですでに疲れ切っている。今は議論への集中力さえ欠いている状態だ。

 意気消沈している自分と同年代の少女に目を向けたボウは、これ以上タグの参加に拘って時間を無駄にするのはやめよう、と決めた。

 これほど彼らを疲弊させた一番目の議題…。

 それは仙族が苦しむ病と関係していた。

 今回話し合ったのは、彼女がグドンには秘密にした、この病気に関するある特徴的な症状、不妊についてだった。




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