表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第四章 再びの渉不城
PR
200/203

200 目には目を

 グドンとボウは同時に目を覚ました。

 二人はドミアールの隠れ家があった別荘の中にいた。しかし、建物の中ではなく、かつて庭だったと思える何もない雑草だらけの場所だった。

 幻覚の中での最後を、二人ははっきりと覚えていた。

 グドンの影に完全に乗っ取られたジュウイツの体を、ドミアールが破壊し消滅させた。

 その後、彼女も自害して果てた。

 それは悲劇的な最期だったが、グドンとボウはドミアールに露ほども同情しなかった。

 幻覚はしょせん幻覚に過ぎないとわかっていたからだ。幻覚で自害した女性に同情したところで何の意味もない。

 しかし、もしかすると、ドミアールにとっては、あの幻覚は意味があったかもしれないという気がした。

 二人の横に並んで横たわっていたドミアールの目から涙が流れていたからだ。

 二人と同時に目覚めているはずの彼女は、しばらくの間、目を開かず、起き上がりもしなかった。

 厳しい顔つきのセイイツが佇む傍らで、グドンとボウは先に起き上がり、ドミアールが行動を起こすのを待った。

 セイイツが語っていた、夫婦の必要とした時間が終了したことをどちらも感じていた。

 このあと待っているのは、生死をかけた戦いだ。

 そのための準備がグドンにはもうできていた。

 しばらくして、ドミアールがゆっくり目を開く。

 その瞳はいつものドミアールで、かつて同様に冷たい光を湛えていた。幻覚の中で見た優しい母親のそれではない。

 彼女は立ち上がると、まずセイイツに顔を向ける。

「あんな幻覚を見せたところで、わたしの決心は変えられないわよ」

 彼女の言葉に、小犬のセイイツは脚で耳をかき、

(決意を変えさせる気などない)

 と感情なく言ってから、ついでのようにグドンに目を向け、

(おまえも何か文句があるなら聞いてやる。我々夫婦の問題につき合わせたのだから、必要なら謝罪してもいい)

 ドミアールとボウは意外そうな目で見たが、グドンは表情を変えず、

「文句なんてないよ。仕返ししてやるつもりでいたけど、あなたの覚悟がわかったから、やめにした。それに、あなたはジュウイツだけでなく、おいらのことも愛していたんだと思った。ほんの少しだけね。ずっとおいらを追いかけていたのもそれが理由だ。だから、貸し借りなしのチャラでいい」

 今度は、セイイツが「ほう?」と驚きの表情を見せる。

(ゴウイツが、父が、おまえは非常に聡明な青年だと話していた。冗談かと思っていたが、そうではなかったようだ)

「この期に及んで、まだそんな冗談が言えるなんて、おいらこそあなたに敬服するよ」

 グドンの返事に、セイイツがさらに何か言おうとしたとき、二人の会話を聞いていたドミアールが、癇癪を起したようにそれを遮った。

「いい加減にしてちょうだい。ケリをつけるつもりなら、余計な御託は抜きにして早く始めましょう」

 セイイツが頷くと、ドミアールは最後の忠告といった口調で、

「あなたに助けてほしいとはいわないわ。でも、この子が死にそうになっても、絶対に手出しをしないと約束して」

(手出しする気なら、きみはもう生きていない。ドミアール)

 彼女は一瞬言葉に詰まったが、

「手出しするの? しないの?」

(しない)

「それだけ聞けば十分よ」

 とグドンに向き直る。

「おいらを殺せば、ジュウイツもこの世から消えることになるよ。それでもいいの?」

 微塵も怖れを見せずグドンが言う。

「今さら命乞い? おあいにく様。あなたを殺しても、ジュウイツが消えてしまうとは限らない。あの子は、あなたのような下等なただの半妖とは違うの。セイイツですら殺せなかった生命力を持ってる。母親のわたしは、その力に賭けるわ。いずれにせよ、あなたなんかに乗っ取られているよりずっとマシ」

 グドンが頷くと、ドミアールは宙に浮かび上がった。

 しかし、グドンは平然とドミアールを見上げ、

「最後に一つだけ、不思議に思っていることを質問してもいい? 今後はもうその機会がないと思うから」

 と言った。

 ドミアールは返事をせず不機嫌そうにセイイツへ視線を向ける。

 セイイツが知らん顔で彼女に背中を向けると、ドミアールは舌打ちをし、仕方なくグドンへ、

「いいわ。何でもいいから早くして」

 と吐き捨てた。

 グドンは頷き、

「おいらが天妖都に着いたとき、ケンシたち半妖を隧道へ送り込んだでしょ? あれはなぜ? 今もその理由がわからない。おいらを天妖都へおびき寄せるため?」

 ドミアールは深く溜息をつき、

「何かと思えば、そんなどうでもいいことなの…」

 とさらに腹を立てた様子で、

「天妖都の半妖に隧道の存在を教えれば、大騒ぎになると思ったのよ。そして、大勢で隧道へ出かけていく。そこで大蟻の大群に出くわす」

「大蟻? あなたはそのことを知っていたの?」

「もちろんよ。大群に出くわして死者がいっぱい出れば、その後にやって来たあなた方二人は必ず天妖都に興味を持つでしょ? とくにその被害者に半妖がいるとなればね。それに、大勢死んだあとで、あなた方がひょっこり現れれば、天妖都の住人もあなた方を逃がさないと思った。どちらにしても、あなたは天妖都に入ることになる。まあ、計算通りにことは進まなかったけれど」

 グドンは驚いて、

「そのためだけに、大勢死んでもかまわないと思ったの?」

「そうよ。話はもう終わったでしょ? さあ、かかってきなさい。偽物の息子の力がどれほどのものか、見てあげる」

「これで、あなたに対して残っていたわずかの同情もなくなった」

 次の瞬間、グドンの姿が消えていた。

 瞬間移動したのだ。

 ボウが気づいたとき、彼はドミアールの背後十メートルほどの空中に浮かんでいた。

 目には見えなかったが、グドンは手加減せず、戦闘開始後すぐに必殺技を仕掛けたのだ。だが、驚いたことに、ドミアールはそれをあっさりかわした。

 まるで何事も起きなかったように笑顔で宙に浮いている。

「そんなにゆっくり動いていたら、わたしを殺すのは無理ね。ホントに蠅が止まりそう」

 緊張感で固まったボウが無意識に拳を固める。

 しかし、当のグドンはまだ平然としていた。

「確かに、逃げ足が速いのは認めるよ」

 自身が瞬間移動した刹那、ドミアールの姿が一瞬小さく揺れたのがわかった。恐らく彼女はグドンより速く瞬間移動できるのだ。

 そして、すぐに元の場所へ戻った。 

 これは魔族本来の能力だろうか? それとも、のちにセイイツから学んだものか? グドンに勝ち目はない、といったセイイツの言葉が嘘ではなかったとわかった気がした。

 グドンは、腔妖術を使うため、迷わずドミアールの脳海へと飛び込もうと試みた。だが、腔妖術をかけるどころか、彼の分身は脳海へ入ることすら出来ず、何か固い壁にぶつかって撥ね返された。彼は、その勢いのまま自分の本体に戻ると、気づいたときはドドドと数歩後退していた。

 ゴウイツから教えられた脳海を守る方法をドミアールも使えるのだ、とグドンもすぐにわかった。

「ほかに何か能力はあるの? なければ、あなたはもうお終いよ。ちなみに、炎や風の力を使っても無駄。どれも、わたしの力のほうが上回っているから」

 ドミアールはそう嘯いたが、グドンの表情にはまだ余裕があった。

「逃げる能力と防御する能力はわかったよ。でも、攻撃する能力は?」

 今度は自分のほうがおまえの能力を試してやるとでも言いたげだ。

 ドミアールの顔に軽侮の表情が浮かぶ。グドンの言葉をこどもの強がりと受け取ったようだ。

「じゃ、これなら、どう?」

 言い終わった瞬間、ドミアールの姿が消えた。

 やはり瞬間移動の能力だった。グドンが使ったのと同じ能力を使って彼をやり込めてやるのが、心理的にもより効果的と考えたのだろう。

 だが、残念ながら、彼女の目論見は空振りに終わった。

 先ほどのグドンと同じように、ドミアールの攻撃は彼にあっさりかわされた。

 試みに失敗した彼女の顔が強張った。こうした結果をまったく予想していなかったようで、事実を受け入れられない様子だ。グドンが平然として薄ら笑いを浮かべているのを見て、驚きと同時に憤りを隠せないでいる。

「ほらね。防御と攻撃は違うでしょ?」

 してやったりと、グドンは胸を張る。それを見て、ボウも思わず拍手を送った。

 続いてドミアールはグドンの脳海に侵入しようとしたが、それもグドンに撥ね返された。

「これで、五分と五分だよね?」

 グドンは余裕の笑みを見せる。

「そうかしら? こうした攻撃法はあなたの得意技でしょ?」

 とドミアールが言い返す。

「それなら、わたしの得意技ならどうかしら? あなたにやり返す力がある?」

「試してみてよ」

 興味津々と言いたげに、グドンが唆す。

 口をへの字に曲げたドミアールは、瞬間移動で彼に接近した。今回は、彼のすぐ傍で姿を現すと、人差し指でその背中に軽く触れる。

 グドンはわざと避けなかった。

 まるで小さな稲妻が走ったように、グドンは激痛を感じ、体を二つ折りにする。

 それを見たボウは悲鳴を上げそうになり、慌てて掌で口元を覆った。ドミアールの仕草は、彼女が嫌というほど見飽きたものだった。牢獄で、彼女に躾けをしていたときの病巣を植えこむやり方だ。病によっては、体内で内臓がドロドロに溶けたように感じ、痛みで立っていられなくなる。今のグドンも、そのときの彼女と同じだろうと想像できた。

 思わず駆け寄りそうになるのを、グドンが手を掲げて制する。

「大丈夫。大した痛みじゃないよ」

 笑顔を浮かべようとするが、緊張で頬が引きつっている。

「強がりを言うのもそこまでね」

 ドミアールが声をあげてグドンをあざ笑う。自分の力に絶対の自信を持っているのは間違いなかった。

 ボウは、無駄と知りながらも、セイイツに視線を向けずにはいられなかった。セイイツは、こうしてグドンがやられてしまうのを本当に黙って見ているつもりだろうか?

 だが、残念なことに、彼は我関せずといった表情でそっぽを向いたまま、どこか遠くを眺めている。その無責任な態度に、ボウは再び破裂するほどの怒りを感じた。

「順番からいえば、次はおいらだよね?」

 グドンの声が聞こえ、ボウは慌てて彼のほうへ視線を戻す。

 瞬間移動したらしく、グドンの姿が消えていた。

 自分のすぐ傍に現れるはず、とドミアールはそれを待ち構えるように笑顔で宙に浮かんでいる。

 案の定、グドンが姿を現し、ドミアールの仕草を真似るように人差し指で彼女の脇腹を突いた。

 ドミアールはそれを笑顔のまま受け流そうとしたが、次の瞬間、突然襲った激痛に思わず体を二つに折った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ