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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
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20/53

20 診察

 そのことに気付いたグドンは、初めてボウを責める気持ちになった。

 伝染病とわかっていて、おいらをここへ連れてきたの?

「でも、わたしたちとあなた方の病は違うみたい」

 グドンの思いを察したようにボウが首を振った。

「あなたの仲間はこの鉱山を離れたあと、健康を回復したと聞いている。特に治療をしたわけではなく、自然治癒したと。だから、そのことを知った病人の中には、一時的にここを離れた者もいた。ここを離れれば自分たちも自然に治るんじゃないかって。でも、治るどころか、症状は少しずつ重くなった…。結局は全員がここへ戻ってきたわ」

 ということは、町の半妖が罹った病と霊族の病は別物ということだろうか? それとも、同じ病でも病状の軽重が違うのか?

 これで霊族が抱えている問題が何なのかはわかった。ボウが彼に何を求めているのかもわかった。問題は、彼女の期待する能力をグドンがまるで持ち合わせていないことだ。これまで以上にグドンは気持ちが重くなった。まるで心に重い分銅をぶら下げたようだ。

「あなた方霊族は、ここにどれくらい住んでいるの?」

 グドンはわざと話を逸らせた。

「もう数百年になると思う」

「数百年?」

 驚いたグドンは開いた口が塞がらなかった。

 こんな何もない山の中で、彼らは数百年もの間、何をやっていたのだろう? 

 閉塞された山の中、しかも地下深くに、何か快楽があったとは思えない。霞を食べて生きる仙人ならいざ知らず、ボウたちはまだ若い。グドンと同様、きっと好奇心も旺盛なはずだ。それなのに…。

「あなたの思っていることはわかるわ」

 ボウが言ったので、

「え?」

 と、彼は思わず戸惑いの表情になった。心中で霊族を揶揄することを考えていたからだ。

「こんな重篤な病気が発生したのなら、病人はともかく、健康な者たちはなぜもっと早くここから逃げださなかったのか、といいたいんでしょ? 大半が一刻も早くここを離れていれば、事態はここまで深刻化しなかった、と」

 そんなことは考えてもいなかったが、グドンは仕方なく頷いた。

 ボウが続ける。

「今考えれば、そうすればよかったと思う。でも、当時は事態がここまでひどくなるとは思わなかったし、一部には体の変化を前向きにとらえる仲間もいたの」

「前向き?」

「そう。長い間、わたしの部族がずっと失っていたものが戻った気がしたのよ。味覚とか嗅覚といった体の感覚ね。体が実体化するにつれ、そうした感覚が強くなった。だから、病はむしろ進化の過程だと主張する者がいた。でも次第にそれが間違いだとわかって…。後悔したときには、もう手遅れになっていた」

 グドンには、彼らの気持ちがどことなくわかる気がした。誰にとっても、残酷な現実をすぐに受け入れるのは難しい。無意識に己を騙そうとしてしまうものだ。

「それに、この土地以上に自分たちに合った場所があるか自信がなかったの」

 とボウ。

「なぜかわからないけど、ここの空気はわたしたちにとってとても快適なのよ。だから、祖先もここに定住した。時々、別の土地からやってくる仲間がいるけど、一度住んだら、誰もここから離れようとしない。ここの噂を聞いて遠くからやってくる仲間もいるくらい」

 話を聞いていたグドンは、霊族と町の住民がどこか似ている気がした。

「もしかして、あなた方も元々はどこかから逃げてきたの?」

 グドンは何となくそんなことを言った。

「よくわかるわね」

 ボウが驚いた顔になった。

「わたちの祖先は元いた土地から追われてここへやってきた、と歴史家から聞いたことがあるわ。あなた方もそう?」

「たぶんね。でも、よくわからない。おいらはずっと町の仲間と一緒にいたわけじゃないから」

 正直言えば、グドンも町の住民がなぜここへやってきたのか、詳しい理由を知らなかった。セイイツが何かの理由で元いた場所を離れようとし、それに多くの者が従った、知っているのはそれくらいだ。だから、セイイツには、何か元の場所を離れざるを得ない事情があったのではないか、推測していた。

「よければだけど…」

 短い逡巡ののち、言いにくそうにボウが切り出した。

「もっと近くで病気の仲間を診てくれると嬉しいわ。どんなことでもいい。わかることがあれば教えてほしいの」

 それはグドンが一番恐れていた台詞だった。病気の伝染を恐れたからではない。グドンには彼女たちを助ける力がある、とボウが期待しているのが辛かった。

 誰も彼も、どうしておいらに特別な力があると思うんだろう? 

 呪いのかかった湖を渡らせろとか、聞いたこともない病を治せとか、信じられないことを平気で言い始める。

 仮にソウエイの墓の前で何かに噛まれていなかったら、ボウの姿を見る力さえ無かったに違いないのに。

 もちろんこれはすべてセイイツのせいだった。グドンは会ったこともない父親が心底恨めしくなった。

 でも今は泣き言をいっている場合ではない。仕方なく、ボウと並んで寝台の一つへ近づいた。

 その男性は、静かに寝台に横たわったまま、じっと何かに耐えるように眉根に皴を寄せている。

 グドンはまず男の手に触れた。

 何も特別なものは感じなかった。

 次に男の頬に触れた。

 やはり何も感じない。

 足に触れてもそれは同じだった。

 グドンは馬鹿々々しくなって溜息をついた。

 おいらに病のことがわかるはずがない。きっとムダイがここにいてもお手上げだと肩を竦めて見せただろう。ましてや、おいらは何の能力もないただのこどもなのだ。しかし、すぐ隣りではボウが期待に満ちた眼差しを向けている。

 お願いよ、奇跡を起こして。あなたは半妖の英雄セイイツの後継者でしょ?

 グドンはまさに泣きたい思いだった。

 彼はやっても無駄だとわかっていながら、己の瞳にえいっと力を込めた。そうすれば、男の病原が透けて見えるかもしれないと期待して…。

 そして奇跡が起きた。

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