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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第四章 再びの渉不城
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191/203

191 事件の背景

 一瞬、誰もがグドンの発言の意味を理解できず困惑した表情になった。

 グドンは、ジュウイツによって大ぜいのこどもが殺され、自分もその一人であったことなどを細かく説明した。

 だが、話が、ジュウイツは父親セイイツによって殺害され、グドンの魂がその肉体に憑依したあたりになると、全員が愕然とした表情を浮かべ、大半は信じられぬというように何度も首を振った。

「あなたは、ジュウイツとは全然別の個体だったの? ジュウイツに殺されたはずのこどもの一人?」

 全員の不信と困惑を代表するように、コウギシが彼の話を復唱する。

「そうだよ。おいらは元々容姿もまったく違う、グドンという名の別のこどもだった」

 彼の答えに、意外にも多くの者は、長年抱えていたモヤモヤが解消された様子で大きく息をついた。だから、この少年はグドンなどという似つかわしくない名を名乗っていたのか…。恐らく、ジュウイツの体に憑依するまでの彼は、愚鈍で、頭のはっきりしない、のろ間なこどもだったに違いない。

 グドンが話を続ける。

「ドミアールがなぜおいらに関心を持ち続けていたかはわからない。単純に息子の肉体が成長していく様を見たかったのか、それとも、何か別のものを予感していたのか…。結果として、ムダイからの報告は、彼女に大きな転機をもたらすことになった」

「転機をもたらした?」

 ヤセイが思わず訊き返す。

「そう。ジュウイツの復活だよ」

 ジュ、ジュウイツの復活? 

 その言葉の持つ響きに、自分の体で起きた変化でないにもかかわらず、ほとんどの者が心に痛みを感じ、何やら不気味なものが迫りくる恐怖に寒気を覚えた。

「復活という表現は正確じゃないかもしれない。元々、隠れて存在してものに、最近気づいただけの話だから」

 そういうと、グドンは、今自分の脳内にはジュウイツの欠片が存在していることを説明した。しかも、その力が増している可能性があることも。

「そのことを知ったドミアールが、この町へ現れたわけね?」

 とコウギシ。

「それはつまり、彼女がおまえをというか、ジュウイツをここかから連れ出そうとし、それに気づいた者を次々に殺害したということだな?」

 ジャキュウが当然のように結論付けた。

「いや、それは違うんだよ」

 グドンが否定すると、ジャキュウは不満そうな顔になった。

「違うはずがないだろう。彼女以外に、そんなことをする者がどこにいる?」

 自分に対する反感から、グドンが嫌がらせを言ったとジャキュウは勘繰ったらしい。

「まさか、ムダイや彼の仲間が、町の住民たちを…」

 何人かが口をそろえて疑惑を口にした。

 自然と、住民たちの視線がまたホウカに集まる。彼女は居たたまれず青白い顔をさらに白くした。

「そうじゃない。むしろ、ムダイも彼女がやったと疑っていた一人だったと思う」

 グドンの言葉が、彼女に助け舟を出す形になった。

「コウギシが見たのは、きっと、そのことで言い争っているときの二人だよ。ムダイは皆を裏切るような真似をしていたかもしれないし、おいらも好きじゃないけど、といって、極悪非道の罪人のように扱うのは間違っていると思う」

「それなら、誰がやったと言うんだね?」

 リャクナンが口を開いた。

「ドミアールでもムダイたちでもないというなら、いったい、ほかに誰が…」

「セイイツだよ」

 グドンが言うと、周りは重苦しい雰囲気に包まれた。

 真っ先に反論したのはコウギシだ。

「そんな出鱈目は我慢がならないわ! グドンらしくもない。そんな嘘を言って、あなたにどんな得があるの? あなたの肉体を奪ったのは息子のジュウイツかもしれないけど、セイイツがあなたに新たな命を与えてくれた。それは間違いないでしょ? それなら、彼はあなたの命の恩人じゃないの」

 グドンは思わず視線を落として溜息をつく。

 セイイツを崇拝しているコウギシに現実を直視させるのは至難の業だった。彼女にとってセイイツは英雄であるだけでなく、完璧であり、心の拠り所なのだ。

 それでも、彼はあえて現実を指摘するほかかなかった。

「セイイツを完全無欠だと考えるのは間違いだよ、コウギシ。彼も一人の半妖で、感情がある」

「感情? どんな?」

 ヤセイがコウギシの心の高ぶりを抑えようと腕をとったが、彼女はそれを邪険に振り払った。これには、多くの者が顔を背けた。コウギシの一番の泣きどころがセイイツであり、それを哀れに思う者も少なくなかったからだ。

 しかし、グドンは冷静に彼女の目を凝視した。

「ドミアールはおいらをここから連れ出してどうしようとしたか、それを考えてみて。いうまでもない。現在、息子の肉体を支配しているおいらを追い出して、ジュウイツを生き返らせようと考えた。でも、セイイツはそれをどう受け取ったろうか? たぶん自分への反抗であると同時に裏切りと考えたはずだ。しかもそれは、結果として世の中に大きな災厄をもたらす可能性がある。セイイツはもの凄く腹を立てた」

 グドンの意図するところがわかり、心の中の憤りがコウギシの中で急速に萎んでいく。

 グドンは続けた。

「腹を立てた対象は、もちろんドミアールだよ。でも、彼女に制裁は加えられない。なぜか? セイイツは今も彼女を愛しているからだ」

 その言葉を聞いたコウギシは二三歩背後へよろめくと、慌てて両腕を差し出したヤセイに支えられ、やっと転倒するのを免れた。

「彼の憤りは、自然、別の者へ向けられた。自分を裏切りドミアールに加担した者たちへだよ。本来なら、一番にムダイが殺されていても不思議ではなかったと思う。そうならなかった理由は、おいらにもわからないけど、ドミアールがお気に入りとして守ろうとしたのか、元々、彼はおいらを町から連れ出すことに関わっていなかったのか…。ドミアールとムダイの言い争いの原因は、この辺りにもあったのかもしれない」

「セイイツが犯人だったのか…」「では、本当にセイイツは今も生きている…」

 住民の口から夫々様々な驚きの言葉が漏れた。

 そうしたざわめきが収まって静かになると、誰もが途方に暮れたように互いの顔を見つめ合った。自分たちはこれからどうすればいいのだろうか…。

 そのとき、突然、

「でも、それはあなた一人の言い分よね? それに大半はただの推測でしかない」

 と誰かが言った。

 住民たちが、聞こえた声のほうを振り向くと、蒼ざめた顔のホウカが立ち上がり、グドンに指を突き付けていた。

「もしかすると、あなたの話は全部作り事で、本当の犯人はあなたかもしれない。セイイツが生きているなんて嘘で、父もあなたが連れ去ったのかも」

 言葉もなく、驚愕の表情で彼女を見つめる住民たちをホウカは見返し、

「あなた方も見たでしょ? グドンには今、町の全員を殺すのに十分な力があるのよ。それを今まで隠していたの」

 グドンは思わず苦笑する。

「実は、きみが今言った中には当たっていることもあるよ」

 グドンは別天袋にいるムダイの姿を思い浮かべて言った。自分が彼を連れ去ったというのはその通りだ。

「まあ、それはともかく、おいらがわざわざ町へ戻ってきて、嘘をつく理由は何? それでどんな利益が生まれるの?」

 一瞬言葉に詰まったホウカだが、すぐに何か思いついた様子で、

「まさに、それよ」

 と勝ち誇ったように笑顔を見せた。

「あなたは、この町を乗っ取るつもりなのよ。町の実権を牛耳って思い通りに皆を動かし利益を得たいの。違う? そのために、父が邪魔になった」

「きみはまるでこともだ」

 溜息交じりにグドンが吐き捨てると、ホウカの顔が強張った。

「そっちこそ、もっと理路整然と反論できないの?」

「この町の実権を握る? 渉不城に今、そんな価値があるの? 町の半分の半妖が逃げ出そうとしている。ほかの住民もこれからのことが心配で混乱している。もし、町を離れることで生活が安定するなら、ほとんど全員が喜んで町を捨てるはずだよ。そんな町の実権て、何? おいらはいらないよ」

 容赦のないグドンの言葉に、多くの住民が衝撃を受けた。

 英雄の帰還が町に新たな安定と繁栄をもたらすと期待していたからだ。グドンが戻ってきたのは、自分たちを救うためだと考えていた。それをグドン自身が否定したのだ。

 もうホウカを相手にするのはやめ、グドンは住民たちに改めて向き合った。

「おいらが今回戻ってきたのは、一連の事件の背景を皆にわかってもらうことと、これから町をどうしていくのか、皆に考えてほしかったからだよ」

「そのためには、グドン、きみの力が必要だ」

 誰かが大声を上げると、大ぜいがそれに賛同した。それは大きな渦となって住民全体に広がっていく。もう、ホウカが横槍を入れる余地などなかった。

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