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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第四章 再びの渉不城
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184/203

184 時間の能力

 夢に見たのは、渉不城へ向かう道中の自身とボウだった。

 それはやはり、夢というより過去に起きたことの再現といったほうがよかった。

 おいらは、どこかでこれと同じ経験をしたことがある。

 グドンはすぐそのことに気づいた。

 そうだ。あれは確か、天妖都で囚われていた獄中でのことだ。牢獄を出る直前、夢の中で、四人の最高幹部との戦闘シーンを見た。まるで記録された映像を観客になって見ている感覚だった。今回もそれとまったく同じことが起こっている。

 馬車に揺られうつらうつらしているボウを、グドンが愛おしそうに眺めている。

 ただ単に絵として場面が再現されているだけではなく、当時の感情や感覚までが事細かに伝わってくる。それも獄中で見た夢とまったく同じだった。

 それにしても、なぜ、こんなシーンを夢に見ているのか? 

 グドンは、何とも不思議で仕方なかった。

 四人の最高幹部と戦ったシーンを見た際には、夢のどこかに相手を打ち負かすためのヒントが隠されているのではないか、と疑った。

 しかし、今回は、ただの日常的な生活の一コマといってよい。馬車に揺られていることも、その中でボウが転寝(うたたね)していることも、とりたてて特別なところは何もない。当たり前だが、そんなシーンを分析したところで、戦闘能力が上がるはずもなかった。

 そうは思うものの、夢に見ているからにはきっと何か意味があるはずだ、と夢の中のグドンは感じていた。

 もちろん、ボウの顔をぼんやり眺めているだけでも十分楽しかった。当時も、愛おしくて、彼女に触れたい衝動を必死で抑えていたのを覚えている。

 そう思ったとき、ほんの一瞬、再現中の映像が静止したように思えた。

 そう見えただけでなく、映像が小さく震え、自分がそのシーンに吸い込まれるような錯覚に捉われた。

 錯覚はすぐに消え、映像もまたすぐに動き出したが、間違いなく今何かが起こった、とグドンは確信した。

 彼は緊張したまま夢の中の情景に目を凝らす。

 こうした過去の経験のどこが特別なのか? おいらは、なぜ、こんな過去の映像を夢に見ているのか?

 だが、彼の戸惑いにはお構いなしに情景はどんどん流れていく。

 馬車の外はどこまでも続く荒れ地だ。

 車内に目を戻すと、ボウが薄っすらと口を開け寝息を立てている。

 しばらく眺めていると、その瞼がほんの微かに痙攣した。長い睫毛が震え、彼女が今にも転寝から目を覚ましそうに見える。

 実際、彼女は薄く目を開き、彼の視線に気づくと、一瞬恥じらいの表情を見せたあと、少し睨むような仕草をした。

「ひとの寝顔をこっそり盗み見するなんて失礼よ」

 そういう彼女の口の動きに合わせ、夢を見ているグドンも同じセリフを口ずさむ。

 その瞬間、映像が巻き戻った。

 映像が巻き戻る!?

 あっとなったグドンは映像の意味がわかった気がした。

 映像の内容が問題なんじゃない。これはおいらに新しい能力を見せようとしているんだ。先ほどは画面がいったん静止した。そして今回は巻き戻った。つまり、これは時間に関する能力だ。もしかすると、こうした能力を利用すれば、いったん時間を止めたり、過去に逆戻りしたりできるのかもしれない。

 それに気づいた彼は愕然となった。

 もしそんなことが無制限に可能なら、戦闘では無敵になるといっても過言ではない。勝利するまで、何度でもやり直せばいいのだから。

 時間を静止させる能力についてもそうだ。仮に、能力を使う中で、グドンだけはその能力に拘束されず動けるとすれば、無抵抗な相手に何でもやりたい放題できる。

 そこまで考えたグドンは、自分がまだ何か大事なことを見落としている気がして、思考を止めた。

 待てよ…。そうだ。画面が静止したあの瞬間だ。あのとき、おいらは何かに吸い込まれるような錯覚を覚えた。だけど、吸い込まれるって、いったいどこへだろう? 普通に考えるなら、あの時間帯の自分へではないか? もし、自分に能力があったら、あの地点へ移動出来ていたということか?

 ということは、つまり、時間を逆戻りする際に、どこまで戻るかは、グドン自身が選べるということだ。今回、それができなかったのは、まだその能力が備わっていないか、備わっていても力が弱すぎるからだろう。一日以上前の時間帯まで戻る能力は、今の自分にはまだ備わっていない。だから、一瞬吸い込まれる感覚はあったが、実際には移動できなかった。

 驚くべき可能性に、グドンは心臓の高鳴りを抑えることができなかった。

 それにしても、なぜ、おいらはこんな夢を突然見るようになったのか? そう思ったグドンは、夢の世界から急速に覚醒し、がばと跳ね起きて周囲を見回した。

 セイイツ! 

 セイイツがどこかすぐ傍にいて、また彼にこんな夢を見せているのではないか? そう思って必死に辺りを探したが、それらしい影は見当たらなかった。

 影どころかほかの生き物の気配すらない。

 もちろん、セイイツの力をもってすれば、グドンに気配を悟られずどこかに身を潜めていることは可能だろう。だが、今回のこととセイイツを結びつけるのは、どこか違和感がある気がした。

 前回同じ夢を見たのが、天妖都の牢獄の中だったということもある。

 獄中と湖畔…。

 これでは、セイイツが四六時中グドンをつけ回していることになる。

 それに、今大事なのは、誰が夢を見せたということより、時間に関する能力をいかに身に着けるかだった。

 仮にほんの少しでもこの力を自分のものに出来れば、ドミアールとの戦いでも、きっと有利な立場に立てる。

 幸いなことに、ボウが目を覚ます気配はなかった。

 グドンはそっとその場を離れ、彼女に影響が及ばないところまでくると、やっとそこに腰を下ろして胡坐をかいた。

 目を閉じ、先ほど夢に見た能力を実行してみる。

 ただし今回は、夢に見た何日も前の映像ではなく直前の自分を思い描いた。

 夢を真似ると、眠っていた自分の映像が流れ始める。その一場面に意識を集中し、その地点まで時間を遡ろうした。

 だが、目論見は無残にも失敗した。

 こんなに短い時間でも駄目なのか? 思わず溜息が口をついて出る。

 もう一度過去を頭に思い描く。

 今回は今溜息をついた自分だ。

 意識を集中し時間を遡ろうとすると、次の瞬間、グドンは溜息をついていた。

 溜息をついた?!

 時間を逆行することに成功したんだ! そう思ったとたん、後頭部に激しい痛みを感じ目の前が真っ暗になった。意識を失う寸前、グドンは自分の脳に過大な負荷がかかったのを自覚した。

 溜息をついてから時間を遡るまで、どれくらいの時間があったろうか? 一分? 二分? それでも今の自分には、能力の限界を超えていたということだ。

 そう思ったのを最後に、グドンは完全に闇の中に吸い込まれた。 

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