165 ケンシの帰還
グドンとボウがそれぞれの苦難に直面していたとき、天妖都へ戻ってきた者たちがいた。
グドンたちと隧道で知り合った半妖ケンシとその仲間たちだ。
結局、彼らは五日間隧道を前進し、何も得ることなく、そのまま廃墟の入口まで引き返すことになった。
隧道はどこまで歩いても際限がなく、行き止まりどころか途中にあるはずの出入り口を見つけることさえできなかった。
食料が尽きかけたため、彼らは止む無く、傷心のまま来た道を戻ることになった。
こんなことなら、無理にでもグドンたちと一緒に町へ戻るべきだった、とセイアは愚痴を零したが、それを咎める者はいなかった。皆、同じ思いだったからだ。
幸いだったのは、寝台下の入口へと繋がる扉が隧道側からも開いたことだった。
鍾乳洞や倉庫へは行けなくなったが、その代わり、隧道への行き来は自由になっていた。
疲れ切った体で城内に入った彼らは、町がただならぬ雰囲気に包まれているのを感じた。そして、当然のことながら、グドンが引き起こした大騒動を知ることになった。
彼らの留守中、グドンが幹部の一人を殺害し一人に重傷を負わせたという情報は、彼らに言葉に出来ないほどの強い衝撃を与えた。グドンの能力が高いことはわかっていたが、まさかこれほどとは夢にも思わなかったのだ。
最高幹部は、彼らが会ったことすらない雲の上の存在だった。その彼らと互角に戦ったグドンの能力は、まさに想像を絶しているといってよかった。何といっても、グドンはまだ二十歳にもならない若者で、尚且つ、彼らと同じ半妖なのだから。
驚きから覚めぬまま自宅へ戻ったケンシをさらなる追い打ちが待っていた。グドンからの手紙だ。そこには妻ミトの裏切りと、ゴヒ一味がケンシたちを殺害しようとしていたことが詳細に記されていた。
このことは、グドンの騒動とはまた別の意味で、ケンシに大きな衝撃を与えた。正直、地獄へ突き落された心境だったといってよい。
タクエンカやツイホウセンたちは慰める言葉さえ見つからず、ただ彼を見守るしかなかった。
だが、こうした悲劇がケンシに一つの決断を促した。
「わたしはこの町を離れる」
仲間に向かい、ケンシはそう宣言した。
「どんなに侮辱されようとかまわないから、渉不城へ行って、あそこで受け入れてくれるよう頼んでみる。こんなところで泣きべそをかいているより、グドンの育った町で、一からやり直してみたいんだ」
彼のこうした決断はほかの仲間たちの共感を呼んだ。
次々に彼の決意に賛同し、渉不城行きに同行したいと言い出す者が現れた。彼らは皆、天妖都での生活に閉塞感と限界を感じていた。そんな中でのグドンの出現は、彼らにとってまさに一筋の希望の光を齎すものとなった。
もちろん、これらはすべてケンシたちの誤解から発したことだった。もし仮にここにグドンがいたとしたら、何とも申し訳ない気持ちでいたたまれなくなったに違いない。渉不城がグドンの才能を育てたのではなく、ましてや渉不城のほかの半妖たちにグドンと同じ能力があるわけでもなかった。グドンはあくまで特別な存在で、彼らが渉不城へ行っても何の役にも立たないのは明らかだった。だが、残念ながら、彼らはそれを知らない。
とはいうものの、彼らの決意が新たな希望を生んだことも事実だった。ケンシと仲間たちは、久しぶりに心が躍るのを感じた。
「今、グドンは、どこに監禁されているのかしら?」
セイアの言葉に、皆は同じ思いで顔を見合わせる。
「助けてやりたいが、わたしたちにはその力がない」
ケンシが言うと、全員が言葉なく項垂れた。
「渉不城へ行って、今の状況をグドンの仲間に話すというのは、どうだろう? 何か行動を起こしてくれるかもしれん」
ツイホウセンが期待を込めて言った。
「グドンを生んだ町の人ですものね」
と、セイアも賛同する。
「だが、ここで起きたことを渉不城の半妖に伝えるとなると、逆に、この町の行く末を心配しなくてはいけないかもしれない」
ケンシが難しい顔になった。
「どういう意味?」
とタクエンカ。
「グドンは、あの年齢で最高幹部と互角に戦う能力があった。渉不城の幹部たちがどれほどの能力の持ち主か、わたしたちには想像もつかない。そんな彼らが大挙してここへ押し寄せてきたら…」
ケンシの答えに、ほかの者たちもさすがに動揺の色を見せた。この町を捨てると決めたといっても、ずっとこの町で生活してきた彼らには、家族や知り合いが大勢いた。
「むしろ、手加減してくれるよう頼む必要があるな。怒りに任せて一気に踏み込まれたら、どんでもないことになってしまう」
ツイホウセンが大真面目に言うと、タクエンカも、
「渉不城には、色々な噂があるものね。一夜にして一つの町を全滅させたとか…」
全員が二人に賛同した。
実のところ、彼らの妄想はどんどん現実から逸れていたのだが、誰もそれに気づかなかった。
「とにかく、一刻も早くここを離れる準備をしよう」
ケンシが締めくくると、ほかの者たちの顔にもやっと笑顔が浮かんだ。




