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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第三章 天妖都
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163/203

163 チンスの推理

 グドンと最高幹部たちの戦闘のあと、天妖都は混乱に陥った。

 最高幹部に死傷者が出たばかりでなく、無傷であるはずの幹部までが、都内から忽然と姿を消してしまったからだ。

 グドンとの戦いに勝利を収めたはずの幹部の側が、なぜ、姿を消す必要があるのか? 

 多くの者が不思議に思うと同時に、不安を感じた。この町では今、自分たちの想像もできない地殻変動が起きようとしているのではないか? 体制に変化が起これば、町のシステムそのものが根底から覆る可能性もある。これで混乱が起きないほうが不思議だった。

 幸いだったのは、町から姿を消すに際し、最高幹部たちが近い将来に必ず戻ってくると帰還を確約していったことだ。そうでなければ、町はさらにひどい状況になっていても不思議ではなかった。

 そんな中、情報局は、戦闘で建物の一部が損壊したものの、すぐに別の建物へ機能を移転し活動が再開された。チンスの執務室や情報伝送室など、一応被害を免れた施設は、雨漏りを防ぐための簡単な修理が行われたあと、そのまま利用されることが決まった。

 突如、直属の上司がいなくなったチンスは、宙ぶらりんな心境のまま執務を続けることになったが、気になるのはやはり、グドンのことだった。

 戦闘のあと、最高幹部と共に、グドンの姿も消えていた。

 最高幹部の行方はともかく、敗れたグドンは当然どこかに囚われているものと思われた。

 いや、それはまだ生きている場合の話で、すでに処刑されてしまっている可能性もわずかながらあった。可能性がわずかなのは、戦闘中殺害する機会があったにもかかわらず、幹部が彼を生け捕りにしたからだ。生け捕りにしながら、すぐ処刑するのは明らかに矛盾がある。

 仮に監禁されているなら、何とか救出してやりたかったが、自分にそんな力がないのは、チンスにも痛いほどわかっていた。

 望みの綱は、戦闘で彼が殺されるのを阻止した誰か、だった。

 普通に考えるなら、天妖都の最高幹部より上の誰かだ。だが、そんな人物をチンスは想像すらできなかった。それが誰かわかれば、グドンを監視、足止めした理由もわかるし、救出する方法も見つかるはずだった。

 そうは思ったものの、いったい何から手を付ければよいのか、チンスには見当もつかなかった。そうして頭を抱えていたチンスの元へボンコから報告が届いた。

 報告書の一行目を見た彼女は、自分の目が信じられず、その文言を二度見三度見した。

 そこには、グドンは半妖の英雄セイイツの息子、と書かれてあった。

 セイイツの息子ですって?!

 たまげた彼女はしばらく、報告書の先を読み進めることすらできなかった。

 彼女はもちろん、セイイツの名前を知っていた。

 それは、情報局の幹部として、この国の大物に関する知識を持っていたからだけでなく、ある事情から、これまで何度もその名前を聞かされていたからだ。

 天妖都の最高幹部四人…今は三人になってしまった…は、元々セイイツの手下だったと噂されていた。しかも、四人は、配下の中でもそれほど重要な地位にあったわけではなく、いわば三下だったらしい。その四人、いや、三人が今は天妖都の頂点にいるのだ。

 そう考えれば、セイイツの力が当時どれほどのものだったか、わかろうというものだった。

 グドンは、そのセイイツのこども?

 とても信じられないと思ういっぽう、そうであれば、彼のとんでもない能力も納得できる気がした。

 ボンコの報告書によれば、情報は、かつて渉不城の鉱山に居住していた仙族たちからもたらされたものらしい。

 今は片田舎の山間の町に隠遁しているその仙族の集団は、多くがグドンのことを知っていた。だが、当初は、彼について何も喋ろうとしなかった。それは、彼らがグドンに何らかの恩義を感じているためらしかった。

 多くの者は最後まで口を噤んだままだったが、極く一部に、ボンコの出した条件へ飛びついた者がいた。そうした者たちは皆、グドンがセイイツの息子であると認めた。少なくとも、渉不城の半妖からはそう信じられていたし、グドン自身もそう話していた、と。

 それで、最高幹部たちはグドンにあれほど強い執着心を持っていたのね…。

 チンスは、いったんそう考えたが、どこか矛盾がある気がして眉を顰めた。

 そうだ。グドンがセイイツの息子と知っていたのなら、なぜ、最高幹部は彼を痛めつけ、最後には殺そうとまでしたのか?  

 もちろん、あの時は殺し合いのさ中にあった。自分の命にかかわるとあって、敵の命など考える余裕はなくなっていたとも考えられる。

 だが、彼らのグドンに対する態度は、かつての主人の息子に対するものではなかった気がする。礼儀はおろか、いっさいの親しみすら感じていないようだった。

 チンスは戦闘時の記憶をさらに細かくたどった。

 幹部たちは、グドンのことを“小僧”と呼んでいた。かつて自分の主人だった者の息子を“小僧”などと呼ぶだろうか?

 無論、可能性はなくはない。セイイツと彼らが主従関係にあったのはもう昔の話だ。最高幹部たち自身、今は力をつけ、自分に自信と誇りを持っているだろう。ましてや、セイイツ本人ならともかく、その息子なのだ。しかも、肝心のセイイツはすでに死んだといわれている。

 だが、それにしても…。彼らの行動には、どこか違和感がある気がした。

 少なくとも、戦闘が始まった時点において、幹部たちはグドンの素性を知らなかった、そう考えるのが妥当ではないだろうか? 

 仮にそうなら、グドンの素性を知っていたのは、幹部たちに今回の命を下した大物の誰かだけだったことになる。幹部たちも、詳しい事情を聞かされないまま、ただの駒として動かされていた。そう考えれば、すべての辻褄が合う。

 グドンは、幹部たちにとって少しだけ能力の高いただの小僧たったかもしれないが、実のところ、最高幹部たちのほうこそ、陰の誰かにとっては、チンスやバンゴコウ同様、詳しい事情を知らせる必要のない捨て駒だったのだ。

 今回の一件の中心は、あくまでも陰の誰かとグドンだ。それ以外は、チンス自身も含め、脇役として排除して考えねばならない。

 大事なのは、陰の誰かがグドンをどうしたいのかということだ。殺すつもりがなかったのは明らかだ。では、目的はいったい何か? グドンの能力を確かめたかった? グドンとボウを引き離し、彼を怒らせて本当の実力を引き出そうとした? 何のために?

 そのとき、報告書の最後の一文が目に入った。

 グドンの父親、半妖の英雄セイイツは、今も生存している可能性あり。

 セイイツが今も生きている?!

 チンスはその情報に身震いするほどの強い衝撃を受けた。

 それなら、仮に陰の誰かの狙いが、実はグドンではなくセイイツにあったとしたら、どうだろう? グドンはセイイツを誘き出すためのいわば餌だ。もちろん、餌には死んでもらっては困る。だから、殺さなかった。

 そこまで考えたチンスは、もう一つ別の可能性があることに気づいた。

 仮に、陰の誰かがセイイツ自身だったとしたら、どうだろう?

 セイイツは、息子の成長を確認したかった。同時に、彼の能力をさらに向上させる手助けがしたかった、そういうことかもしれない。

 息子の成長を陰から見守る父親…。

 そう考えると、戦闘後、なぜ最高幹部たちが姿を消したのかも理解できる気がした。セイイツは、当然、グドンを殺害する気などなかった。それどころか、陰から手助けしたいと思っていた。だが、自分の存在をグドンにはまだ知られたくない。戦闘が終わったあと、自分の存在を隠しておくためには、最高幹部たちが邪魔になる。仮にグドンが陰の誰かを探そうとすれば、最高幹部がそのための情報源となってしまう可能性があるからだ。それゆえ、いったん姿を消してもらう必要があった。

 そう考えれば一応の理屈は通るが…。そこまでして息子から隠れる理由は何だろう? 息子を手助けするために、なぜ、こんな面倒な真似をするのか?

 それに待ってよ。それじゃ、やっぱり、グドンとセイイツの関係を幹部が知っていたことになるじゃないの。いや、ひょっとして、セイイツが二人の関係を黙っていたとか?

 セイイツを誘き出すための罠であるにせよ、息子に対するセイイツの愛情表現であるにせよ、チンスは、強い違和感を覚えずにはいられなかった。

 彼女は何度か首を振り、気持ちを入れ替えるべく大きく胸を上下させた。

 とりあえず、陰にいる者のことは、あとで考えることにしよう。

 では、最高幹部が姿を消したあとは、何が起こるだろう?

 仮に自分なら、グドンを釈放するはずだ。でなければ、幹部に姿を消すよう仕向けた意味がなくなる。肝心なのは、釈放されたグドンが次にどんな行動に出るかだ。もう最高幹部たちに直接ぶつかることは出来ない。それなら…。

 いずれにせよ、結局は、グドンの行動待ちなのね…? 

 自分はただの観客でいるしかないのだと気づき、チンスは心底失望し溜息をついた。

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