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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
15/21

15 力の覚醒

 ランタンには少量の油がそのまま残っていたが、年月が経っているので劣化がひどく、黒煙と酷い匂いを周囲にまき散らす。それでも足元を照らす役にはたった。

 坑内は暗く湿度が高かったが、若干薄気味悪いことを除けば、特段の危険はなさそうだった。しかも、坑道は想像以上に広く、グドンの身長の三倍ほどの天井高があって、狭い空間に閉じ込められた感じは一切ない。横幅もそれと同程度かそれ以上の広さで、坑内の中央には運搬用手押し車のレールまで設置されていた。

 そうした光景が、どこまでも目視できなくなるまで続いている。

 坑道の全長は、人族の二倍の速度で走れる半妖の成人が必死で駆けても、端まで行きつくには何十分もかかる、と生前のソウエイから聞いたことがあった。

 坑道は一見水平に真っすぐに伸びているように見えるが、実のところ、ゆっくりと歪曲していて、やがて行き止まりになっている。

 坑内には空気を流すための仕掛けも施されており、流れる空気で不気味な音がすることがある、といわれた。鉱山に化け物がいるという噂もこの音が原因ではないか、というのが住民たちの大方の見方だった。

 この広い坑道(通洞坑)からは、途中、無数の細い坑道が枝分かれして広がっている。これは、実際鉱石を採掘する際に、鉱夫たちが少しずつ掘り進めた痕だ。やがてそれは水平ではなく、垂直方向、つまり下へ向かって続いていく。

 こうした坑内の様子は、他の鉱山と似たり寄ったりだったが、ここが他と大きく違うのは、中央の太い通洞坑が、大ぜいの力によって少しずつ掘り進められたものではなく、セイイツ一人が一夜にして掘りぬいたもの、という点だ。つまり、中心となる通洞坑は、鉱夫たちが入山したとき、すでに存在していたことになる。

 採掘が行われていたころ、垂直方向の坑道には大量の水が沸き、それを除去するために専用の工具が設置されていた。しかし今は、水を汲みだす者もいないから、工具は放置され、坑道には水が溜まって先へは進めなくなっているはずだった。

 もちろん、グドンに、そんな奥まで入っていく計画はなかったから、坑道の先がどうなっていようと問題にはならなかった。

 彼が坑内に入ったのは、何か使える物がないか探すためと単なる好奇心からだ。

 入口を入ってしばらく歩いていたとき、グドンは周囲が異様に明るいことに気付いた。

 手にしたランタンは、足元をやっと照らせるだけの能力しかない。本来なら坑内はほぼ暗闇といってよいはずだった。ところが実際は、内部全体が月明かりに照らされたように明るく、視線の届く限りずっと遠くまで目視できている。

 こんなことがありえるだろうか?

 グドンはまず何度か目をこすり、目の錯覚でないか確かめた。

 錯覚でないとわかると、どこかに採光の穴か何かがあるのではないかと疑い、周囲を見回した。

 しかし、そんなものはどこにもなかった。

 仮にもし、天井に穴が開いていたら、雨の日は水が侵入して大変なことになるだろう。

 わけが分からないまま、グドンはそれでも歩き続けた。

 しばらく行くと、今度は、カビが生え黒ずんだ坑道の壁面がところどころぼんやり光って見えることに気付いた。しかもそれは単色ではなく、場所によって緑や紫、黄色など、様々な色に彩られている。

 緑は緑縁石、紫は紫鉄砂鉱、黄色は黄輝榴石…。

 なぜか、そんな情報が脳内に浮かんだ。

 緑縁石は宝飾品として価値が高く、紫鉄砂鉱は一般の岩石の数百倍の硬さがある。黄輝榴石は妖術を使う道具(妖器)の制作に使用すれば、その力を数倍高めることができる。また緑縁石は壁の表面から二十メートルほどのところに点在しており、紫鉄砂鉱は足元の下二百メールのところに鉱脈があって、黄輝榴石は天井のさらに上方に星のように煌めいている。

 こうした情景が目の前に広がるのと同時に、突然、あたかも泉が湧き出すように大量の情報が彼の脳内に溢れ出した。

 グドンは、しばらくの間、呆然と口を開けたまま身動きできないでいた。

 おいらは頭がどうかしてしまったのだろうか? 

 これまで、鉱石の名前など、学んだことはもちろん聞いたこともなかった。それなのに、なぜこんなことを知っているのか? しかも、知識として知っているだけでなく、あたかも壁の中が透けるように見えているのは、どうしたことだ?

 グドンはやっと気を取り直し、緑に光る壁面に近づくと、そこに掌をかざしてみた。

 壁面に触れれば、緑縁石があるところまで手が届く気がしたのだ。

 しかし、実際には、触れても、あたりはしんと静まり返ったまま期待したことは何も起きなかった。壁の中に手が吸い込まれて行くどころか、壁の表面のカビひとつ変化したようには見えない。

 自分がひどく滑稽に思えて、グドンは苦笑した。

 セイイツと同じ力が自分にも覚醒したのではないか、とそんなふうに期待したのだが、奇跡は起きなかったようだ。

 いや、奇跡はすでに起きたのかもしれない、と彼は思い直した。これまでの自分にはなかった能力が明らかに覚醒している。あとは能力の高い低いの問題だ。暗闇でものが見え、脳内には聞いたこともない鉱石の知識が溢れている。それだけでも、グドンには、十分に奇跡といえた。

 いつこんなことになったのだろうか? 首を傾げてグドンは思案した。

 特にそれらしいことが起きた記憶はない、と結論付けようとして、グドンは待てよと思い直した。そうだ。ソウエイの墓の前で虫に噛まれて意識を失ったときだ! 

 きっとあのとき自分の中で何か変化が起きたのだ。もしそうなら、虫に噛まれたこと自体偶然だったかどうか怪しくなる、とグドンは感じた。何しろあそこには、ソウエイ、いや、セイイツのモニュメントがあった場所なのだから。

 あのときの、グドンの一番の衝撃は、セイイツと例の見知らぬ女が、本当に自分の両親かもしれないとわかったことだった。以前は、そんなことはほとんど信じていなかったが、今は、半信半疑かそれ以上に変化している。

 そして今またこうして力が覚醒した。これはとりもなおさず、自分とセイイツとの間に血縁関係があることを意味しないか? いや、もちろん、こうした能力がセイイツから受け継いだものとは限らない。もしかして、妖族が持つありふれた能力の表れなのかもしれないから。

 そんなことを考えていたグドンは、ふと背後に何かを感じて視線を上げた。

 おいらは、誰か、いや、何かに監視されている! 

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