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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第一章 渉不城
14/20

14 鉱山

 目を覚ましたとき,、辺りは薄暗くなりかけていた。

 口の中は泥だらけで腕や足は不自然な形に曲がっていた。だが、痛みはなかった。

 骨折していないか確かめるつもりで体のあちこちを伸ばし、大丈夫とわかるとそろそろと這うように体を起こす。

 二度三度頭を振ってから視線をあげると、ソウエイの墓碑が見えた。 

 自分は虫に噛まれて意識を失ったあと、ずっとここに倒れていたようだ。

 おいらは死んだんじゃないのか?

 自分がまだ生きて呼吸をしていることが、グドンには信じられなかった。

 地面に胡坐をかいて座り、とにかく考えをまとめようとした。

 いったいどれくらいの時間ここに倒れていたのだろう? 倒れたのは確か早朝だったはず。辺りが薄暗いということは十時間、いや、もう少し長いだろうか?

 だが、グドンはすぐそれが間違いだと気付いた。

 今は夕暮れじゃない。夜が明け始めているんだ…。

 時間がたつにつれ、空がどんどん明るくなっていく。となると、まる一日近く気を失っていたことになるが、そんな長時間倒れていた感覚はまるでなかった。

 さらに、グドンはあることに気付いてあっと声を上げた。

 おいらは墓碑周辺の雑草をきれいに毟ったはずだ。それなのに、いつの間にか周囲がまた雑草に覆われている。周囲の雑草は、すでに十センチほどの背丈があった。

 これが一晩で伸びる長さとも思えなかった。

 いったい全体何が起こったのか?

 改めて周囲を見渡すと、若干ながら地面に濡れた痕跡があった。

 まさか、雨が降ったんだろうか?

 そう思ってみてみれば、衣服も所々湿っているようだ。

 自分が気を失ってから、いったい何日が経ったのか…?

 そう思ったとたん、グドンはあることに思い至り、慌てて腰を浮かしかけた。

 何日もここに倒れていたということは、住んでいた小屋は、その期間ずっと無人だったはずだ。とても散歩に行っていたではすまされる時間ではない。ムダイたち町の住民たちが血眼になった捜索している可能性があった。

 探されるのは初めから計算の内だが、こんな所で見つかって、町へ連れ戻されるようなことがあっては元も子もない。

 元々の計画では、墓参りを終えたのち、いったん頂上付近まで山を登るつもりだった。山脈の向こう側には有毒ガスの沼地があるから、沼地側はもちろん、山頂付近も住民たちの立ち入り禁止区域になっている。

 グドンはそれを利用し、しばらくそこに隠れているつもりだった。

 一度探して見つからなければ、すぐ諦めるはずだ。今はグドン一人にかまっている余裕も暇もはない。そのあとは閉鎖された鉱山へ向かう。そういう計画だった。

 だが、今ここで捕まれば、すべてが水の泡になったしまう。

 そこまで考えたグドンは、奇妙な点に気付き、少し待てよと首を捻った。

 探しに来るにしては時間が経ちすぎていないか?

 ソウエイの墓地はグドンがやってくる可能性の最も高い場所の一つだ。それは大人たちも分かっているはずで、彼を探すなら真っ先にやってきても不思議ではない。それなのに、自分がいまだに発見されていないのはなぜか?

 住民たちは、グドンが思うほど自分を大事に思っていなかったのか? それとも、もっと差し迫った大事が渉不城で起きたのか?

 どちらの可能性もあったが、今ここで頭を悩ませるのは無益な気がした。それより、とにかく一刻も早くここを離れるべきだ。

 どこへ向かうべきかしばらく思案し、計画していた山頂には向かわず、閉鎖された鉱山へ直接向かうことにした。

 気を失って何日もたっているなら、今さら山頂で時間稼ぎをする必要はない。 

 

 鉱山はソウエイの墓地からまる一日ほど山中を歩いた南向きの斜面にあった。 

 坑道の入り口付近は、樹木がきれいに伐採され、平らに整地されている。平地は山の斜面に沿って幅が五十メートル、長さが三百メートルほどもあった。

 以前、入口の左右には、鉱山から掘り出された岩石が山と積まれていた。その量は平地の半分ほどを埋めるほどもあったという。そうした岩石を中央に、右側が鉱夫たちが住む小屋、左側は巨大な作業所が三棟建っていた。

 のちに岩石の山はなくなり、鉱夫たちの住む小屋は、入口の比較的近くに建て直された。もう倒壊寸前とはいえ、今もその痕跡が残っている。

 鉱山は五年ほど前に閉鎖された。それ以来、坑道の入口には木材の遮蔽物が置かれ、人が近づくのを拒んでいた。

「坑道には化け物が出る」

 そんな噂が立ち始めたのは、鉱山が閉鎖される一年ほど前のことだ。

 何人もの鉱夫が実体のはっきりしない影のようなものに襲われ、山の崖から滑り落ちそうになったり、何もないはずの場所で足をとられ転倒したりした。

 同時に、鉱夫の間で得体のしれない病が蔓延し始めた。

 病状はそれほど深刻なものではなかったが、体の痺れや不眠、下痢などを訴える者が相次いだ。

 坑内での仕事を辞退し山を離れようとする者が一人、また一人と現れ始めた。それがやがて複数になり、最後には何十人もの集団となった。

 鉱山の運営を継続することは不可能になった。

 元より町は、個々の住民の意思尊重を第一に運営されていた。仕事の選択も強制ではなく、山を離れたいという者を誰も止めることはできない。鉱山は閉鎖され、周辺は一種の禁区となった。

 身を顰める場所として、グドンがここ選んだのもそうした事情があった。

 普段ならここへは誰も近づかない。グドンを探すためとはいえ、多くの者はやってくることを尻込みするはずだ。ましてや、今は、夜間に外出する者はいないから、昼間だけどこかに隠れていれば、見つかる心配はまずなかった。

 それでも、大がかりな捜索は、ほかの住民たちにとっては大迷惑に違いない。それはわかっていたが、グドンはあえて無視した。住民たちはずっと自分を軟禁し、ひどい生活を強要した。それを考えれば、これくらいの貸しは返してもらって当然だ、とグドンは考えることにしたのだ。

 さらに、グドンがここへ来たのにはもう一つ別の理由があった。

 それは、自然の中で体を鍛え、一人で生きていく能力を身につけることだ。

 生活をするには何よりも食料の調達が欠かせない。自然の中でいえば、狩りや果物の採取などだ。体を鍛えると同時に、そのための経験を積み、生活能力を高めるつもりだった。

 渉不城を出れば、どうせ一人で生きていかなければならない。路上生活の経験のあるグドンには、一人で生きていくことの大変さがよくわかっていた。このままの状態で外の世界へ出れば、野垂れ死にするのは目に見えている。そうならないためには、破釜沈舟の覚悟で己を鍛える必要があった。

 

 迷った末、グドンは、鉱夫たちが住んでいた小屋を住居として使うことにした。

 坑内に隠れ住めば、発見される可能性は下がるだろうが、生活の質も低下することになる。暗くジメジメした中で寝泊まりするのは、誰にとっても憂鬱なものだ。そこまでする必要はないとグドンは判断した。

 昼間はできるだけ森の中で過ごし、日が暮れてから小屋に戻るようにすればよい。それより、住民が来た時のために、室内に生活の痕跡を残さないことが重要だった。。

 どこで眠るかを決める前に、まずすべての小屋と坑内をざっと見て回ることにした。

 鉱夫の住居には、意外なほど多くの設備や備品が残されていた。

 とりあえず必要なのは獲物を狩るための道具だ、とグドンは考えていた。

 銃はないし、あっても使う技術もないから、剣か刀のようなものがいい。ほかには夜間に火を起こす場所を考えておかなくてはならない。さらに、雨の日どこで過ごすかも大事だろう。

 武器はすぐに見つかった。鉱夫たちが護身用に使っていた小型の剣や調理用の包丁、薪を割る斧などが、数多くそのまま捨て置かれていたからだ。

 どれも刃に錆が浮いており、刃毀れもあって見てくれは悪かったが、当座凌ぎには十分だった。

 グドンは小剣を腰に差すと、次は、やはり捨てられていたランタンに火を入れ、坑道へ入った。

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