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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第三章 天妖都
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126 かっぱらい

 ゴヒたちがこども探しの依頼を受けたのは昨日のことだ。

 最初は彼らもその依頼の法外な報酬に飛び上がって喜んだ。実は、ケンシたちへ渡したのは全報酬の四分の一に過ぎなかった。たとえこども探しに成功し、残りの半分を渡しても、報酬の半分は彼らの手元に残る。たとえ半分でも普通なら考えられない金額だった。

 ゴヒたちはすぐに捜索を開始したが、開始してすぐ奇妙だと感づいた。廃墟がこども連れの休憩場所に相応しくなかったうえ、こどもの親はいっさい姿を見せなかったからだ。

 そう疑って考えてみると、依頼者が失踪したこどもの親に見えなかったことも奇妙に思え始めた。さらに、探す先で不思議な扉や隧道を見つけたことで、彼らの疑念は極限まで高まった。まるで、この扉や隧道を見つけさせるために誘導されたようだと感じたからだ。

 それでも彼らは隧道の先へ進み、しばらくは捜索を続けてみたという。だが、どこまで行ってもこどもは見つからない。これは絶対に変だとなった。こどもがこんなに遠くまで来られるはずはないし、隠されていた入口を見つけられたかどうかも大いに疑問だ。廃墟の中はすでに探しつくしていた。

 これは裏に何かあると感じ、町へ引き返すことを決めた。

 だが、そこで彼らもケンシたちと同じ壁にぶつかった。隧道側からは扉が開かなかったのだ。彼らはそのときはめられたと確信したという。理由はわからないが誰かの罠にかかったと。

 ケンシたちとの違いは、彼らが扉の向こうにも仲間を待機させていたことだ。

 町へ戻った彼らは相談し、こども探しをケンシたちへ譲ることを決めた。

 自分たちの代わりにこども探しへ行かせ、何かあったら運が悪かったなと他人事で笑ってすませばよいし、成果があった場合は横取りしてしまえばよい。いずれにせよ、金の半分は自分たちのものになる。

 ゴヒたちが廃墟にいたのは、ケンシたちが隧道を進んだと知り、あとをつけることにしたからだ。そこでたまたまグドンたちに出会った。

「ケンシたちが隧道へ入ったかどうか、どうしてわかったの?」

 不思議に思って訊くグドンに対し、女がはじめて口ごもった。逡巡した理由はそこにケンシの妻が絡んでいたからだ。ケンシの妻はゴヒたちの仲間だった。

 グドンたちは知らなかったが、隧道側へ閉じ込められたとき、ケンシは伝音符を使い彼女と連絡をとっていた。いざとなれば、扉を反対側から開けてくれるよう頼むつもりだったようだ。

「でも、ケンシの奥さんが、どうしてあなた方の仲間なの?」

 混乱して訊くグドンに、女は、

「わかるでしょ?」

 と思わせぶりな表情になる。

「わからない」

 本気で首を振るグドンとボウへ、女はゴヒとケンシの妻がすでに良い仲であることを打ち明けた。

 グドンは驚くと同時に、頭を抱えた。今回のことが夫婦間の揉め事にもつながっていると気づいたからだ。どんな理由あれ、彼はそんなものに巻き込まれるのは嫌だった。

 それはボウも同じらしく、言葉を失い目を伏せる。

「ケンシたちをつけて行って、具体的にどうする気だったの?」

 グドンは何やら嫌な予感がして訊いた。

「わたしたちの代わりに危険な目に遭ってくれれば面白いし、何か大きな成果があった場合は…」

 女はそこで言い淀んで、

「少なくともゴヒはケンシを消してしまうつもりでいたと思う」

 と仕方なさそうに答えた。

 グドンとボウは暗い気持ちになり溜息をついた。そのことに、ケンシの妻も一枚噛んでいるとしたら…。

「でも、その場合、ケンシ一人を殺しても仕方ないでしょ?」

 女は黙って頷いた。

 つまり、口封じに皆殺しということだろう。

 ケンシが、天妖都の奴らは金のためなら何でもやる集団と言っていたのを、グドンは思い出した。

 それはともかく、今回の一件は二つに分けて考える必要があるとグドンは考えた。

 一つはこども探しの依頼。もう一つは男女関係も含めた半妖内部での争いごとだ。この二つはまったく別のものとして分けて考えなくてはならない。ゴヒが仕事を再依頼したことは、元々の依頼とは何の関係もないことだ。

 二つの内、やっかいなのは、むしろ、ケンシたちのことをどうするかだという気がした。

 グドンは夫婦の問題や半妖の内輪揉めにかかわりたくはなかった。だが、今の状況では知らん顔をするのも難しい。ケンシの妻が浮気しているだけでなく、ケンシの殺害計画にも関わっているとなると、放っておける話ではない。では、どうすればよいのだろうか? 

「どうするの?」

 ボウも思いは同じらしく、困惑した表情で彼に尋ねる。

 グドンも気絶させた女を見下ろしながら、

「とにかく、まずこの半妖たちを何とかしないとね」

 とやっとの思いで答える。

「まさか、殺したりしないでしょ?」

 とボウは心配する表情になった。

「そこまでする気はないけど、このまま放置もできない。どうすべきかな…」

 グドンはしばらく考え、何か思いついた様子で、

「ボウも少し手伝って」

 と、ゴヒと鷲鼻の首元を掴んで持ち上げると、そのまま引きずるようにして、来た道を戻り始めた。

 ボウも彼の指示に従い、気絶している女と別の半妖を掴んで彼のあとを追う。

 扉への入口のある部屋へ到着すると、二人はいったんそこで彼らを下ろし、また先ほどの廃墟へ戻って同じ作業を繰り返した。

 全員がそろったところで、寝台下の通路を開放し、一人ひとり下ろすと、さらに扉の前まで運ぶ。このときには、ボウもグドンのやろうとしていることの凡その察しがついていた。

 扉を開く前にまず、グドンは七人全員の懐を探った。探したのはケンシたちも所持していた納戸袋だ。その中から、グドンは通貨である妖金と周辺の地図を取り出して一つの納戸袋へ入れ、それを自分の懐へ仕舞った。

 ボウは彼の行動を呆れた表情で眺めている。

「それは“追いはぎ”とか“かっぱらい”というんじゃないの?」

 と彼女が訊いた。

「だったら、やめる? ボウが反対するなら、おいらは彼らに返してもいいけど」

 少し考えたあと、ボウは黙って首を横に振った。

 グドンはにこりと笑い、もう一つの納戸袋を空にしてそれをボウに手渡した。

「食料品はボウには必要ないでしょ? テントか何か欲しい物があれば探して持って行けばいいよ」

 納戸袋を受け取った彼女はもう一度首を横に振る。

「これで、おいらとボウは共犯だ」

 グドンは心底嬉しそうだ。

「いいえ。誰かに訊かれたら、グドンに無理やり押し付けられたと答えるから大丈夫」

 そういいながらも、彼女は納戸袋を大事そうに懐へ仕舞った。

 その後、食料品と水を均等に分け、それぞれを二つの納戸袋へ入れると、一つはゴヒ、もう一つは話を聞いた女の懐へねじ込んだ。

 残った納戸袋と物資は、適当に別の者たちの懐へ戻す。

 そうした作業を終えると、グドンは扉を開き、ゴヒと鷲鼻を倉庫の中へ、残った者たちを鍾乳洞の中へ放り込んで、再び扉を閉じた。

 彼らに扉をすり抜ける能力がない限り、もうこちら側へは戻ってこられない。もちろん、彼らの仲間が探しに来れば話は別だ。

「二人を倉庫へ入れるのは人道上やり過ぎだ、とか言わないで」

 グドンがボウの機先を制して言った。

「言わないわ。やったのは全部あなた一人だし、わたしは何も見ていない」

 澄ました顔でいうボウを、グドンは横目で睨む。

「反対しないの? ボウにそんな冷たい面があるとは驚いた」

「お互い様ね」

 グドン同様、倉庫の中でゴヒと鷲鼻が目を覚ました時のことを想像し、ボウは密かにほくそ笑んだ。自分たちが恐ろしい生き物と一緒に閉じ込められたとわかったら、彼らはどんな顔をするだろう?

 二人とも良心の呵責は感じなかった。

 ゴヒはケンシを殺すつもりでいたようだし、仮にグドンが鷲鼻にやられていたら、ボウはひどい目に遭っていたろう。

 二人が受けた処罰は自業自得だった。

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