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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第三章 天妖都
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125/203

125 待ち伏せ

 声を抑えず言ったグドンの言葉に、ボウは目を見開いた。

「監視されてる?!」

 慌てて周囲を見回す。それをグドンもとめなかった。今さら気づかない振りをしても無意味だ。案の定、どこからか男の声がした。

「わたしたちの存在に気づくとは大したものだ」

 声に強い悪意のようなものは感じられなかった。少なくとも追剥が獲物を見つけた口調ではない。といって、好意に満ちているわけでもなかった。

 二十メートルほど離れた瓦礫の陰から、中年の男性が姿を現した。

 そして、また一人、さらにまた一人…。合計七人。男もいるし女もいる。

 だが、グドンが驚いたのは、彼らが皆半妖だったことだ。それは相手も同様だったらしく、

「半妖か?」

 と、中年男が驚きの声を上げると、ほかの者たちの間からも、

「こいつら、やっぱりケンシの知り合いじゃないですか?」「どっちも知らない顔だ」「どこから来たのかしら?」

 といった様々な反応が上がった。

 そんな彼らを中年男が無言でひと睨みする。半妖たちは、一人の例外を除いて、皆、慌てて首を竦め口をつぐんだ。中年男はこの男女のリーダーらしい。例外は大きな鷲鼻をした陰湿そうな顔つきの背の高い若者だ。

「寝台の下にあった入口から上がってきたんだろう?」

 中年男が決めつけたようにグドンに訊く。言外に、嘘をつくなと脅す色合いが滲んでいた。

 短髪でかなり白いものが混じっているが、日に焼けた顔はまだ三十代後半にも見える。細い目と角ばった顔が特徴の、中肉中背の男だ。

「地下でケンシという男やその仲間と出会っただろう?」

 と、再び決めつけるように言う。

 グドンは答える代わりに、相手を無言で凝視した。

 男の落ち着いた物腰は、普段から周囲の者に一目置かれる存在だからだろう。初対面だというのに自己紹介もせず、当然のように自分の関心事だけを尋ねる。それに答えるのが相手の義務だとでもいいたげだ。

 グドンはこの手の男が好きではなかった。

「あなたは誰?」

 自分の感情を顔には出さずグドンが質問を返す。

 ケンシたちと知り合いのようだが、互いが親密な関係とは思えない。恐らく、ケンシたちが話していた彼らに仕事を回した連中だろう。となると、この一団が見張っていたのはグドンではなく、ケンシやタクエンカたちということか。

 グドンの非礼な物言いに、何人かが表情を変え凄もうとした。

 それを中年男が手を挙げて制する。

「わたしはゴヒ(鼯飛)という。先ほど言ったケンシという男は、わたしの仕事仲間だ。彼らが突然音信不通になったので探しに来た。どうだ、下で会わなかったか?」

「会ってないよ。ここへ来るまで、誰にも会わなかった」

 グドンは平然と嘘をついた。

「そうか…」

 ゴヒが残念そうに言う。残念なのは、ケンシたちに会わなかったことではなく、グドンが嘘をついたことだと言いたいのは明らかだった。

「おまえ、答え方を間違えたな」

 鷲鼻男がグドンに冷たい目を向ける。

「おまえらは寝台下の秘密の通路を通ってきたんだろう? あそこを通る以外、ここへ突然現れる方法はないからな。仮にそうなら、その先の扉を開けて隧道のほうから来たとしか思えない。だったら、ケンシたちと会っていないのは変だ」

 鷲鼻男がべらべらと喋るのを誰も止めない。喋った中には、本来、グドンに聞かせるべきでない内容も含まれていたが、誰もそれを気にしていないようだ。

 この男女がグドンとボウをどう扱うつもりか、グドンもわかった気がした。

「ということは、あなた方も扉の先の隧道のことを知っているわけだね?」

 とグドンが訊く。

 この男女が扉を通って行った先は、ケンシたちが想像した鍾乳洞ではなく、隧道だったのだ。隧道へいったん出たが、そのあと引き返した。不思議なのは、隧道を見つけたあと、彼らがなぜ仕事をケンシたちへ譲ったのかだ。 

 そのことをグドンが訊くより先に、ゴヒがまた質問した。

「教えてくれ。おまえたちはどうやってあの扉を通った? あれは隧道側からは開かないはずだろう? それとも、ケンシの仲間がまだ扉のこちら側に残っているのか?」

「さっきも言ったけど、ケンシなんて人は知らない。会ったことないよ」

 グドンが嘘を繰り返す。

「こっちも、それは嘘だと言ったはずだぞ」

 鷲鼻が鼻で笑うように返した。

「じゃあ、仕方ないよね」

 グドンが肩を竦めると、鷲鼻が何歩か前へ出た。

「大丈夫だ。殺したりはしない。ただ大人に対する口のきき方を教えてやる」

 そう言って拳骨を固める仕草をする。

「小僧を痛めつけてもつまらないぞ。それより、可愛い女の子に訊いてみたらどうだ? きっと教え甲斐があるぞ」

 背後から男の下卑た笑い声がした。

「やめてよ。男はそればかりなんだから」

 と女の一人が不満を口にする。

「もういい」

 ゴヒが強い声で彼らを黙らせる。それから、再度、グドンへ向けて、

「もう一度訊くぞ。どうやってあの扉をあけた? ケンシたちは隧道をどちらの方向へ向かった?」

 グドンは疲れた顔で肩を竦めた。

 ゴヒがグドンからボウへと視線を移す。

 ボウもグドンを真似て肩を竦めて見せた。

「ほう…」

 ゴヒが意外そうに目を細めて彼女を値踏みする。

「この子が誰か聞いたら、そんな暢気な顔はしてられないわよ」

 と女の一人が鷲鼻を指していう。

「あなた方、血紋会という名前を聞いたことがある? 天妖都の血紋会よ」

 女の口調を聞くかぎり、その名前を聞いた者は恐れおののいてひれ伏さないではいられなくなるらしい。もちろん、グドンは苦笑を浮かべて、

「聞いたことないけど、何なの?」

 と短く答えた。

 本当に訊いたこともなかった。だが恐らくは天妖都にある暗殺集団か何かだろうと想像は出来た。鷲鼻はきっとその組織の一員なのだ。

 次の瞬間、鷲鼻が動いた。

 気づいたときには、グドンのすぐ目の前でにやにや笑いを浮かべている。

 しかし、手がグドンの首に伸びようとしたとき、突然、その目が白濁し、意識を失ってその場に昏倒した。

 ゴン!

 倒れた際、鷲鼻が瓦礫で頭を打ちつけたらしく鈍い音が響く。

 ゴヒの仲間の誰もが、何が起きたかわからず呼吸を止めた。

 世界がいきなりすべての機能を停止した瞬間だった。

「どういうことだ?」

 ようやく口を開いたゴヒも、そういうのが精一杯だ。

「どういうこと? 見た通り、この人はおいらに負けたんだよ。正直、弱すぎて話にもならない」

 それを聞いた何人かが本能的に体を翻し逃げようとした。

 しかし、一メートルも行くことなく、逃げ出した全員が鷲鼻と同じようにその場に崩れ落ちた。

 残ったのは、ゴヒと鷲鼻を指さした女の二人だけだ。

「さあ、知ってることを全部話してくれる?」

 とグドンが女に訊いた。このために、グドンは女を故意に残したのだ。

「おじさんに訊いてもつまらないから、綺麗なお姉さんに訊くことにするよ。そのほうが教え甲斐があるかもしれないし」

 先ほどの男の口調をそっくり真似るグドンに、ボウが小さく喉の奥で笑った。

「お願い、殺さないで! わたしたち、半妖の仲間でしょ?」

 倒れた仲間はもう全員殺された、と女は勘違いしたようだ。

「待て、こいつらは…」

 彼女の発言を制しようとするゴヒを、グドンがまた一瞬で眠らせる。

 地面に崩れ落ちたゴヒが激しく地面に顔を打ち付け鼻から血を流した。その光景に、一人残った女はもう体の震えが止まらなくなった。グドンが何もしなくても、その場にへたり込んでしまいそうだ。

「頼むから、倒れないでよね」

 グドンは冗談ともとれぬ口調で女に頼んだ。

「あなたが倒れたら、ほかの誰かをもう一度起こさなくちゃならない」

 それでも女は耐えられなくなったようにその場に座り込み、しばらくしてから、やっと、グドンたちを見上げるようにした。

「何を喋ればいいの? 許してくれるなら、何だって喋る」

 と哀願するように言う。

「まず、あなた方はこども探しの仕事を最初に請け負った半妖だよね? それをなぜケンシたちへ譲ったの? それにこんなところで隠れていた理由は何? 彼らが戻ってくるのを待ってたの?」

「こども探し? そんなことまで知ってるの?」

 と女は恐れ入ったようすだ。

 グドンが黙っていると、慌てて、

「仕事を彼らに譲ったのは、どう考えても依頼の内容が奇妙だったからよ」

 と、女は訥々とこれまでの事情を話し始めた。

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