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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第三章 天妖都
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123/203

123 それは無理

 タクエンカたちは、隧道の地面に横たわるグドンに目を瞠った。

「この子、こんなところで何してるの? まさか、ケンシに追い出されたとか?」

 中には、グドンが病で倒れたのではないかと心配する者もいた。

 だが、ケンシとセイアだけは、何とも微妙な表情で顔を見合わせた。そして、あとから姿を現したボウに気づくと、慌てて彼女から視線を逸らせた。グドンがお疲れなのは、別に原因があるからだと勝手に思い込んでいる。昨夜、ボウがセイアのテントへ戻ったのは、彼女が眠ったあとだった。

 ボウもそれに気づいたが、あえて何も釈明しなかった。

「食事の準備が整うまで寝かせてあげましょ」

 平然と言ってのけるボウに、ケンシとセイアは、彼女の別の一面を見た気がして目を丸くする。女性とは何と偉大で力強いものか。同じ女性であるセイアも彼女に敬服する目を向けた。

 ケンシたちは、寝ているグドンに気を遣い、あえて昨夜とは別の場所を選んで火を熾し、食事の準備を整えた。

 グドンが目を覚ましたのは、ほかの者たちがほぼ食事を終えるころだった。それも、自然に目が覚めたというより、食べ物の匂いに誘われたといったほうが正確だった。

 彼らの食事に加わったグドンは、ボウと違い、本当にガツガツと料理を頬張った。

「そんなにお腹を空かせて、夜中に何をしていたの?」

 何気ないタクエンカの冗談にも微妙な雰囲気が漂った。

 ケンシとセイアだけでなく、ほかの者たちも何か感じとっていたようだ。

 そんな中でボウだけが澄ました顔であらぬほうを向いている。

「さあ、これからどうするか、改めて相談しようじゃないか」

 食事の片付けが終わり、改めて焚火の周りに集まった仲間を前に、ケンシが宣言した。

「決めるも何も、選択肢は二つしかないんでしょ?」

 セイアが冷めた声を出す。

「それに、グドンたちの話を冷静に分析してみると、たとえ隧道を進んでも、どこかの出口へは出るまでにはかなりの時間がかかるはずよ。しかも、行き先には大蟻の大群が待っているかもしれない。違う? それでも、先へ進もうというの?」

 とタクエンカ。

「それじゃ、皆そろって、このまま町へ戻るのか?」

 ツイホウセンの声には強い不服の色合いが滲んでいる。

「誰も、手ぶらでは帰りたくないさ」

 とコシュウ。

「だが、現実は受け入れねばならん」

 しばらくは沈黙したまま、誰も口をきかなかった。

「隧道がどこかへ繋がっているとして、仮にそれがどこかの町だとしよう」

 ケンシがやっと口を開いた。

「隧道がここからそこまでの最短ルートになっているとしたら、交易の役には立つはずだ。そうした情報を持って帰れば、何も持たず手ぶらで帰るよりはずっといい」

「出口の町がこれまで天妖都と交易のない場所で、しかも、向こうにも交易する気があればの話でしょうけど…」

 タクエンカが疑わしそうにいう。

「それに、出口があったとして、それはここの入口同様、周囲の人には気づかれないよう細工されている可能性が高いわよね。蟻巣島でも、島主しかその存在を知らなかったというし、知ったのもいわば偶然でしょ? そうしたものの存在を明らかにしてしまうことは、双方にとって危険を伴わない?」

「それなら、向こう側とはすぐに交渉せずに、町へ戻ってまず幹部へ隧道の存在を報告するだけでもいい。その後どうするかは町の幹部に任せる」

 とケンシ。

「それはありかもね」

 とセイア。

「隧道の出口が向こうの町の大通りにあるとは思えないし」

「確かに、こちらの入口も天妖都の中にあったわけじゃない」

 コシュウも彼女の意見に賛成した。

「問題は、やっぱり、ここから出口までどれほどの距離があるかだけど…」

 タクエンカの憂慮に、

「とにかく、おれは隧道を進んでみたい」

 とケンシが自分の希望を主張した。

「心配であれば、二日とか三日とか時間制限を設ければいい」

 何人もの半妖が「それでいこう」と声を上げた。

「グドンとホウカは、どうする? 我々と一緒に来るかい?」

 ケンシが二人に意向を尋ねると、ほかの者も一斉に視線を向ける。

「わたしたちは、ここから外へ出るつもり」

 答えたのは意外にもボウだった。

「それなら、わたしも…」

 セイアが同行したいと申し出ようとするのを、

「外へ出る前に、少しやりたいことがあるの。グドンと二人きりで」

 とボウが遮った。

 彼女がセイアの同行を拒否したのは明らかだった。

 ほかの半妖はもちろん、グドンさえも意外な思いで彼女を見た。どんな意図があるにせよ、彼女がセイアを傷つける態度をとるとは思わなかったのだ。

 失望の表情を隠せないでいるセイアの背中を、ケンシが軽く叩いて、

「元々、我々は別々の集団なんだ。グドンたちには彼らの計画がある」

 と優しく諭す。

 セイアも仕方なく頷いた。

「外へ出たあとは、天妖都へ行くんでしょ?」

 タクエンカの問いに、グドンも頷いた。

「そのつもりだよ」

「それなら、いずれまた会えるわね。わたしたちが戻るまでしばらく時間がかかると思うけど、ケンシや私の名前を出せば、誰かが面倒を見てくれると思う」

「ありがとう」

 彼らはテントの撤去を終えると、扉の前で別れを告げた。

 隧道の先へケンシたちが消えるのを見届けると、グドンは腰を下ろし改めてボウと向き合った。

「きみのお願いというのを聞くよ。セイアに冷たくしたのも、それが原因でしょ?」

 ボウが何の理由もなく、セイアの同行を拒絶したとは思えなかった。ただ単に、グドンと二人きりの世界を楽しみたいから、友人を足蹴にするような女の子ではない。考えられるのは、昨日、彼女が話していたお願いの一件のせいだろう。恐らく、その内容がほかの半妖には知られたくないものなのだ、とグドンは想像した。

「入口から外へ出る前に、もう一度倉庫へ戻りたいの」

 ボウも包み隠さず自分の計画を告げた。

「倉庫へ戻る?」

 思いもしないことを言われ、グドンは正直戸惑った。今さら、あの恐ろしい部屋へ戻って何をしようというのだろうか?

「あの倉庫に仙族の仲間がいないか確認したいの。もしいたら、あそこから救い出してあげたい」

 そういうことか、とグドンは納得したものの、とても賛成できるような内容ではなかった。ボウの仲間思いには共鳴するが、あの部屋には不確定な要素が多すぎる。何より箱の中の生き物は、とてもグドンが太刀打ちできる相手ではない気がした。

「確認するというのは、箱を全部開けて調べるということ?」

 グドンが訊くと、申し訳なさそうにボウが頷く。

「そうする必要があるのなら」

「開けたあとは? 仮に仙族がいたとして、その人をどうするつもり? おいらやきみに覚醒させる力はないよ。抱きかかえてここから出るなんて不可能だ。しかも、それが一人とは限らない。複数いたら、どう運べばいいの? それもどこまで?」

 ボウは、こどものように首を横に振った。学校で素行の悪さを教師に咎められ理由を訊かれて、「わかりません」と首を振っているこどものようだ。

「ボウはおいらの力を買いかぶってない? 作業している間に、何らかの弾みで、もし一体でも目を覚ましたら、おいらはどうすればいい? 絶対にきみを守れないと思う」

 グドンのいう意味がボウにもよく理解できた。

 グドンは彼女を守らないとか、守りたくないと言っているのではない。いざとなれば是が非でも守ろうとするだろう。だが、残念ながら彼には敵に対抗するだけの力がないと言っているのだ。しかもそうなれば、先に死ぬのは彼女ではなく、彼女を守ろうとしたグドンだ。

「箱の中の人たちは、そんなに危険だと思う?」

 ボウは蚊の鳴くような声で訊いた。

「わからない」

 とグドン。

「だけど、あの倉庫を作ったのがセイイツだとして、きっと彼に敵対していた奴らだ。それも、それなりに危険な存在だからああして監禁してるんじゃないかな。セイイツが危険視する相手を、おいらが何とかできるわけがない」

 ボウは自分の無謀さや愚かさを思い知らされ悲しくなった。これ以上わがままを言い続けることは、グドンを危険に晒すことに繋がる。

「わかったわ」

 頷いたものの、彼女のどこかに、こどものように拗ねた自分がいた。自分でも気づかぬうちに、

「わたしなんて、グドンを追いかけてこなければよかったわ」

 と呟いていた。

「え?」

 グドンは思わずひっくり返りそうになる。

 いったい、どこから、そんな言葉が出てくるの?

「わたしなんて、邪魔になるだけで、何の役にも立たないもの」

 彼に対し半ば背を向け、いじけたように体をくねくねさせている。

 その姿を見て、グドンは何やらホッとした。ボウは甘えて拗ねて見せているだけなのだ。彼女にもこんな一面があったのか、と気づくと同時に、こんな姿を見せるのは、自分を信じてくれているからこそだと思うと嬉しくなった。

 いつか湖畔でしたように、突然、グドンは彼女の脇腹を指でついた。

「あっ!」

 ボウは以前とまったく同じ表情、同じ反応で体をのけ反らせた。

 笑うグドンを睨み指を突き付ける。

「もう一度やったら、必ず後悔させてみせるから。女の子の体にこんなふうに触れるなんて失礼よ」

 彼女が言い終わるのを待つことなく、グドンがもう一度彼女の脇腹をつく。

 こどものように真剣で、負けず嫌いな表情を見せたボウは、自分もグドンの脇腹を指で突き返した。

 二人はそのまましばらくの間じゃれあった。

 誰かほかの者が見たら、心から馬鹿々々しいと思っただろう。

 だが、元々これは二人だけの世界だった。ほかの者の思惑など関係ない。仮に、ケンシたちがすぐ傍で見ていても、二人はじゃれ合いを続けていたかもしれない。

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