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半妖グドンの選択  作者: すいかあたま
第三章 天妖都
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117 三つの目的地

「それに、入口がそれほど見つかりにくい構造だったのなら、そこからこどもが入ったということ自体考えづらいよね?」

 グドンが疑問を口にした。

「万が一、入ったとしても、こどもが進める距離はたかが知れてる。それなら、すぐに見つけられても可笑しくないよ。難しい仕事でも何でもない」

 ケンシたちは皆、厳しい顔で黙り込んだ。

 難しい難しくないの問題ではなく、今回の仕事の依頼そのものがあまりにも奇妙で、怪しいものに思え始めたからだ。

「こどもは廃墟でいなくなったと言ったけど、廃墟自体はもう調べ終わったの? どれくらいの広さで、どんな状態の場所?」

 グドンの問いに、タクエンカが皆を代表する形で、

「廃墟そのものはかなりの広さがあるわ。でも、多くは瓦礫の山で、原型を留めている建物は少ない。でも、こどもがわざと隠れていたりすると、探すのはかなりやっかいかも。でも、何日も隠れていることはありえないし、仲間全員で懸命に探したから、廃墟に倒れたりしている可能性はかなり低いと思う」

「それじゃ、その廃墟をもう離れたということは?」

 とボウ。

「ないわ」

 セイアが答える。

「廃墟を離れると、辺りはずっと荒れ地なの。だから、いるかいないかは一目瞭然。町までは距離があるしね」

「おいらの意見を言っていい?」

 とグドンはケンシに向き直った。

「もちろん。何でも聞かせてくれ」

「おいらは、その依頼そのものが怪しいと思う。だから、こどもが行方不明になったという事実が本当にあったのかどうか、それを確認することが先だと思う」

「つまり、わたしたちに仕事を譲った人たちが嘘をついているということ?」

 と、タクセンカが厳しい目になる。

「それはわからない。こどもの親だという依頼者が嘘を言ったのか、あなた方に仕事を譲った人たちが何か魂胆があったのか、おいらにもわからない」

「だが、いずれにせよ、何だって、そんなことをするんだ?」

 とケンシ。

「金を払ってまでおれたちをコケにして何になる?」

「それを知るためにもまず町へ戻ることが大切だと思うけど…」

 言いながら、グドンは扉のほうへ目を向け溜息をついた。

 全員が閉まったままの扉へ視線を向ける。

 肝心の扉が閉まったままでは、町へ戻りたくとも戻りようがない。

「残念ながら、今は、こどもたちがいるはずのない隧道の先へ進むしかないのね。それはわたしたちも同じ」

 ボウも仕方なさそうに溜息をつく。

「うん」

 ケンシたちは、すでにぞろぞろと隧道のほうへ戻り始めていた。

 これ以上、開かない扉の前に立っていても意味がない。

 そんな中、グドンだけがその場に残り、炎でも焦げ目一つつかなかった扉に手を添えた。そうすることで、扉の力の一端でもわかるかと期待したのだがが、残念ながら扉からは何も感じなかった。秘密を探ろうにも反応そのものがない。

 今のグドンに、この扉の謎を解明する力はなさそうだった。

 グドンは失望の溜息を漏らしながら、ふと、この扉は誰が作ったのだろうと考えた。隧道は十中八九セイイツの創造物と考えてよい。であれば、この扉もそうなのか? その可能性も十分にあった。ただ、何かが違っている気もした。

 グドンは考えるのをやめ、ケンシたちのあとを追おうとした。そのとき、誰かに腕を握られた。

 ボウだった。

 彼女がすぐ横に立っていたのに気づかなかった自分に、グドンは驚いた。

「いつからいたの?」

「ずっといたわ」

 とボウが笑う。

 その笑顔を見て、グドンは、ボウがお面を被っていないことに気づいた。

 彼の心を見透かしたようにボウがいう。

「仙族の姿でいるときは、存在感が薄れるから」

「うん。でも、どうしてお面をとったの? ケンシたちに見つかると、いや、きみが突然いなくなったことに気づかれると困るでしょ?」

「この扉をすり抜けられないか、試してみたくて」

 彼女は、離れていくケンシたちのほうをちらりと見やりながら、茶目っ気たっぷりに小さく舌を出した。

 本当は、扉が開かないとわかったときにすぐ試してみたかった。だが、ケンシたちの前ではできずにいたのだ。

 面を被った状態では、容貌が変化し体が実体化するだけでなく、仙族としての能力も若干弱まる。試すなら、仮面をとった状態でやりたかった。

 扉へ近づいたボウの姿が薄くなったあと、突然、グドンの目の前から消えた。

 実際には消えたのではなく、扉の向こうへ通り抜けたのだ。

 ボウが成功したと気づいて、グドンはまるで自分がやったことのように嬉しくなった。

 ドキドキしながら、グドンはボウが戻ってくるのを待つ。

 十秒、二十秒、三十秒…。

 だが、ボウはなかなか戻ってこない。

 時間が過ぎていくにつれ、何か変だと、さすがにグドンも不安になり始めた。

 扉の向こう側へ行ったのはよいが、ボウは、こちらへ戻れなくなってしまったのではないか? 彼女が何か危険ね目に遭っているとは思わなかったが、万が一にも、別れ別れになるのは嫌だった。

 それに、時間が長くなれば、さすがにケンシたちにも感づかれる。そのとき、いったいどう言い訳すればいいのか? もちろん、ケンシたちがどう思おうと大した問題ではないが、ホウカが偽物だと知られてしまうのはやはり気まずいものがあった。

 考えあぐねていたとき、突然、目の前の扉が開いて、ボウが顔をのぞかせた。いや、正確にはホウカだ。彼女はまたお面を被っている。

 心配したのが馬鹿らしくなり、グドンは笑ってしまった。

「ごめんなさい。すぐにはこっちへ戻れなくて」

 と彼女が言い訳した。

「戻れなかった?」

 とたんにグドンは興味津々の表情になる。戻れなかったとはどういう意味だろう?

「この扉には本当に不思議な力があるのよ」

 勿体をつけるようにボウが言う。グドンの知らないことを知っているのが嬉しくて仕方ない様子だ。

「向こうへ行ったあと、扉を開こうとしたの。そうしたら、開けたのはいいけど、繋がっていたのは、ここじゃなくて別の場所だったのよ」

「別の場所?」

 グドンが目を丸くする。

「そう。面白いでしょ? ここと同じように狭い洞窟のようなところだったけど、もっと薄暗くて、空気がじっとりと湿ってた。もちろん、わたしはその中へ入っていくこともできたわ。でもね…」

「入るのをやめて、一度扉を閉めてから、もう一度開いてみたんでしょ?」

 グドンが言うと、ボウが得意満面の笑顔になった。

「わたし一人でもちゃんとやれたでしょ?」

「ボウの頭がいいのはわかってるよ」

 彼が誉め言葉を口にすると、ボウは照れたように体をくねくねさせる。

「それで? そのあとは?」

「もう一度扉を開くと、驚いたことに、そこもこことは別の場所だった。ざっと見渡しただけだけど、どこかの倉庫のような部屋だったわ。だから…」

「もう一度扉を閉めて、改めて開いた」

「そのときは、少し胸がドキドキしたわ。もし、繋がっているのがまた別の場所で、永久にここへ戻ってこられなかったら、どうしようって…。でも、幸いにも、三度目の正直でここへ出られたの」

 グドンとボウが、二人の世界に浸りきって会話を楽しんでいると、心配したケンシたちが戻ってきた。

「きみたちは、いつまでもこんなところでお喋りをしてるんだ。どうせ、この先へは…」

 行けない、と言いかけたケンシが、開いたままの扉に気付いて言葉を途切らせた。扉は再び閉まることがないように、グドンが腕で支えている。戻ってきたほかの者たちも、その光景に口を大きく開けたまま動けなくなった。

「どうやって、開けたの?」

 セイアが駆け寄って中を覗き込む。

「そうそう。わたしたちはここから隧道へ出てきたのよ」

「どうやったのか教えてくれ」

 と、ケンシも信じれない表情だ。

 皆、グドンが開けたと勘違いしているらしく、彼のほうへ視線を向け答えを待っている。

「開けたのは、おいらじゃないよ」

 グドンが言うと、彼らは顔を一斉にボウへ向けたが、半ば戸惑いの表情だった。

「彼女が開けたの? 嘘でしょ?」

 タクエンカは不信の色を隠せない。グドンは恋人に花を持たせようとしている、そう考えたようだ。

「嘘じゃない。彼女がやったことだよ。どうやったかは秘密だけど」

 本当にボウが開けたらしいとわかると、ケンシたちはなぜか、意気消沈した顔つきになった。セイアは羨むようにボウをグドンを見比べている。

 グドン一人ならともかく、ボウにさえこれほどの能力がある。同じ半妖でありながら、なぜ自分たちと彼らには、これほどの能力の差があるのか? 彼らの目には、そうした自己憐憫の感情がのぞいていた。

 それでも、ボウが扉の向こうで経験したことを話すと、ケンシたちもようやく立ち直り、扉に強い関心を示した。

「この扉にそんな力があったとは驚きだ。だが、そうなると、すべてを一から考え直す必要があるな」

 とケンシが口を切る。

「改めて、これからどうするか決めないと」

 と、タクエンカも明るさを取り戻した声で指摘した。

「これで選択肢が増えたわけよね? 扉の向こうから町へ戻らず、別の場所へも移動できる。こどもたちは扉を通って違う場所へ抜けたのかも」

「もしかすると、仕事を回してきた奴らも、隧道とは別の場所へいったのかもな。そこで何かあって、それ以上の捜索を断念した」

 ツイホウセンがいったが、ケンシがそれをすぐに否定した。

「いや、扉を見つけたかどうかはともかく、この依頼に手をつけていたという話自体が怪しい。手を付けていたら、報酬の半分をおれたちに渡すはずがない」

「そうとは限らないでしょ?」

 と再びタクエンカ。

「彼らの行った場所が非常に危険で、わたしたちを陥れるためにやったとしたらありえるわ。それに、扉は一度閉めるとこちら側からは開かない。そのことを知っていたとすれば、事実上、わたしたちをここに閉じ込められるともわかってた」

「わたしたちは、そこまで憎まれてるのか?」

 と、コシュウが苦笑する。

「わからないわよ。あいつら、特にケンシさんを嫌っているから」

 歯に衣着せぬ性格のセイアが言った。

 会話が次第に脱線しかかるのを黙って聞いていたグドンは、

「今は、色々な想像をするより、実際にすべての場所へ行って、一つ一つ確かめることが大事なんじゃないかな?」

 と冷静さを求めた。

「そうだな」

 とケンシも頷く。

「それにしても、誰が、どんな目的でこんな扉を造ったのかしら」

 とボウが呟いた。

「扉をつけた人が、こんな不便なところに、何の目的もなくこんなものを造ったとは思えない、きっと何か理由があったはずよ。ひょっとして、この上の廃墟は造った人の住処だったのかしら?」

 ツイホウセンがにたりと笑ってセイアを見た。

「何?」

「彼女とおまえは同じ年頃だろ? 随分デキが違うじゃないか?」

 言われたセイアはふんと鼻を鳴らしムクレて見せる。

「あなたとグドンもデキが違うと思うけど?」

 全員が声をあげて笑い、その場の空気が一気に和んだ。

「とにかく、扉の向こうへ戻ろうじゃないか」

 ケンシが皆を促した。

「グドンが言うように一つ一つ扉の行き先を確認しよう。どの行き先へ向かうかは、そのあとで決めればいい」

 ほかの者たちにも異論はなかった。

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