第31話 閃光の盲点と監視者の誤算
廃坑の闇を、ドローンの赤い光だけが導いていた。
湿った空気。足元を走るネズミの気配。
だが、地下深くへ進むにつれ、匂いが変わる。
――機械油。
――低く唸るモーター音。
人工的な光が、坑道の先から漏れ出していた。
『ようこそ』
ドローンが空洞の中央で停止する。
『ここが我々の聖地――新世界の管制室だ』
私は足を止めた。
古い石壁に、無数のケーブル。
床を這う配線。壁一面の、不揃いな液晶モニター。
そこに映っているのは、後宮の門、西離宮、そして――今の私。
すべて、彼らが放った「虫」たちの視界。
中央の粗末な椅子に、ひとりの男が座っていた。
「はじめまして、ソラさん」
若い。二十代半ば。
整った顔立ちだが、右半分が赤黒く爛れている。
「君の顔は、画面越しに何度も見たよ」
――K。
カノウの元助手。狂信者たちの教祖。
「……随分と良い装備ですね」
私が言うと、Kは誇らしげにモニターを叩いた。
「ああ。先生は天才だったが、臆病だった。
この『目』を誰にも見せず、腐らせていた」
指が走る。
画面が切り替わり、山肌を登る人影が映った。
ガクたちだ。
「君の仲間は、あと五分で終わりだ」
「裏口のセンサーが反応した瞬間、排気ダクトに炭疽菌を流す」
薄く笑う。
「原始的な別働隊など、現代戦の前では無意味だよ」
そして、私を見る。
「取引しよう。その腕時計を渡せ。
そうすれば、スイッチは切ってやる」
――彼は勝ったつもりでいる。
モニターの中に世界があると、信じ切っている。
「……分かりました」
私は両手を上げ、ゆっくりと歩み寄った。
「ですが、ひとつだけ」
「画面ばかり見ていて、目が痛くなりませんか?」
「は?」
「暗闇で強い光を見続けると、瞳孔は開いたまま固定されます」
私は懐に手を入れた。
「つまり――」
和紙に包んだ球体。
導火線に、火打ち石。
「急激な光量変化に、対応できない」
シュッ。
火花。
「受け取ってください。私の知識です」
投げた。
次の瞬間。
――カッ!!!!
白。
ただ、それだけ。
太陽光の数百倍の輝度が、地下空洞を塗り潰した。
「ぐあああああッ!!」
Kが絶叫する。
ドローンの映像が一斉に飛び、墜落音が重なる。
神の目は、潰れた。
「目が……!」
私は腕で顔を覆い、瞼を閉じていた。
開く。
残像は残る。だが、動ける。
「――今です、ガク様!」
ドォォォン!
壁が内側から破壊された。
土煙を切り裂き、黒い影が躍り込む。
「待たせたな、ソラ!」
ガク。
剣が閃く。
拳銃を抜きかけたKの手首を、叩き落とす。
「科学の武器か知らんが……」
剣先が、Kの喉元に突きつけられる。
「……眩しくてな」
「閃光弾です」
私は冷ややかに言った。
「モニター越しに世界を見ていた罰です。
直接、現実を見ていれば――私の手に気づけた」
Kは、涙と怒りで歪んだ目で私を睨む。
「原始人が……!」
「ええ」
私はスマートウォッチの録画を止めた。
「石を投げて、光らせただけですから」
神は、地に落ちた。
だが、まだ終わりではない。
奥の部屋。
そこに、彼が隠した「本当の毒」がある。
「拘束を。
私は、システムを止めます」
生存理学――制圧フェーズ完了。
必要なのは、最新技術ではない。
相手が依存している“器官”を潰す、
ただそれだけの生理学だ。




