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後宮下女の生存理学 〜呪いも病も、そんなの全部ただの現象です〜  作者: 和三盆


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第29話 飛行する眼球と空からの招待状

昨日上げたお話が間違って、27話を上げてしまったので、同日に29話も掲載いたします。

 紫雲シウン宮の扉という扉、窓という窓は、すべてバリケードで封鎖された。

 外部からの侵入経路は断絶。水と食料の補給も、ガクが直接選別した部下に限定されている。


 ――完璧な篭城。


 だが、二日目の夜。

 私は一つの致命的な欠陥に気づいた。


 防御壁ファイアウォールは、水平方向の侵入には強い。

 だが、垂直方向には、無力だ。


 深夜二時。


 張り詰めた静寂を切り裂く、異音。


 ブイィィィィ……。


 低く、鋭い。

 生き物の羽音ではない。回転する、硬質な機械音。


「……虫か?」


 見張りのガクが、天井を仰ぐ。


「違います。羽ばたいていません。回っています」


 私は、この音の周波数を知っていた。

 西離宮のヒカリガ事件のような、偽物ではない。


 本物メカだ。


 音は、上空から――バルコニーの外側へ。


 私はバリケードの隙間から、夜空を覗いた。


 月明かりに浮かぶ影。


 四つの回転翼。

 赤く点灯するLED。

 その下に、黒い物体を吊り下げている。


 ――ドローン。


「な、なんだあれは……空飛ぶ籠か?」


「伏せて! 爆撃されます!」


 叫んだ瞬間、ドローンは手すりを越え、窓ガラスに張りつくように静止した。

 ガクが私と赤ん坊の寝床を、反射的にマントで覆う。


 だが、爆発は起きない。


 代わりに、ドローンは微調整ホバリングを続け、吊り下げていた“それ”を、コツンと窓に当てた。


 爆弾ではない。

 薄く、長方形の板。


 ――スマートフォン。


「……伝書鳩です、ガク様」


 心拍数が跳ね上がる。

 発電機とは、次元が違う。


 リチウムイオン電池。無線通信。ジャイロ制御。

 つまり敵は、安定した電力と操縦技術を持つ拠点を確保している。


「窓を開けます」


「罠だ」


「開けなければ、次は本当に爆弾です。

 敵は、制空権を握っています」


 ガクは歯噛みしながらも、剣を構えたままロックを外した。


 窓を開けると、プロペラの風圧が吹き込む。

 ドローンは器用に機体を傾け、スマートフォンを室内に落とすと、即座に上昇して闇へ消えた。


 非接触の接触コンタクト


 床に落ちたスマートフォンは、すでに画面が点灯していた。

 ロックなし。動画アプリが起動している。


 再生。


『やあ。はじめまして、当代の生存者サバイバー


 ノイズ混じりの、変声された男の声。

 画面には、紫の布と――割れた眼鏡。


 カノウの眼鏡。

 皇太后が所持していたはずの、片割れ。


『君の青カビは見事だった。合理的で、美しい。

 おかげで、私の可愛い紫の子たちは全滅だ』


 言葉は流暢だが、アクセントが歪んでいる。

 転生者ではない。


 現地人が、知識だけを飲み込んで変質した怪物。


「……こいつが、Kか」


『篭城は無意味だ。

 君たちは地面を守るが、我々は空にいる』


 声が、愉快そうに弾む。


『次は、その硝子の皇子の上に、焼夷弾を落とすこともできる』


 防御不能の宣告。


『だが、惜しい。

 君の知識インストールデータは、焼くには価値が高すぎる』


 画面が切り替わる。

 地図。山奥の鉱山跡。


『三日後、正午。君一人で来い。

 誰かを連れてくれば、後宮全域に炭疽菌を散布する』


 炭疽菌。

 汚染の王。


 ――カノウ先輩。

 あなた、どこまで地獄を残したんですか。


『聖地で待っている。

 この世界のエラーを、正そう』


 ブツン。


 スマートフォンは暗転し、焦げ臭い匂いを残して沈黙した。

 自己破壊。痕跡ゼロ。


「……一人で行くつもりか?」


 ガクの問いに、私は首を横に振る。


「取引条件には乗りません」


「ほう」


「『連れて行けばアウト』なら、連れて行かなければいい」


 私は髪を一房、ナイフで切り落とした。


「私は一人で行きます。

 向こうで、合流すればいい」


 ガクを見上げる。


「後宮は任せます。

 ですが、最強の部隊を別ルートで山へ」


 篭城戦は終わった。

 空を取られた時点で、安全地帯は存在しない。


 相手はドローンを持つ。

 だが、こちらには冷蔵庫と発電機、そして――ガクがいる。


「総力戦です」


 カノウの遺産をめぐる、最後の掃除クリーニング


 ――生存理学、野戦フィールドワークフェーズへ。


 私たちは自らバリケードを撤去し、死が待つ鉱山へと踏み出した。

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