第49話 反省会
「お姉さん、私ワイルドラビットのステーキをお願いします!!」
「それじゃ、私はそれのスープで……」
「かしこまりました!!」
元気よく注文を取るウエイトレス。
そして、料理が来るのを楽しみに待っている女性たち……
ここは……宿屋【旅人の宿り木】の一階にある食堂だ……
日が落ち、街が暗くなると冒険者や商人、旅人が訪れる、トリーシティでは有名店である!!
特に先ほど女性達が注文していた【ワイルドラビットのステーキ】とワイルドラビットからダシを取った【ワイルドラビットのスープ】は絶品で、このメニューだけを目当で来るお客も少なくない。
宿屋の利益より食堂の方が収入が高いくらいだという……
おかけで、今日も満員御礼だ。
そんな中……食堂の隅で……
「だから、納得できないんですって!!」
「しかしな、ミラ……」
「そうですよ、ミラさん……」
「むぅぅ……やっぱり、カケルさんもラックさんの味方なんだ……」
僕達は、道具屋カマーの模擬戦を終えてからラックと合流し、そのまま【旅人の宿り木】に戻り食堂で夕食をする……
と、言う流れだったのだが……
「違いますよ、あれは完全に僕の負けですって」
「違うもん!!」
ラックにカマーとの戦闘の話をした途端、ミラージュが異議申し立て……いや、愚痴を言い始めるのだ……
なんか、少し照れくさいかな。
「カマーさんも怪我をしたけど、まだ余裕もあったハズです……なのに……負けを認めるなんて……」
「ミラさん……」
まるで、自分が負けたように怒ってくれている……そんなミラージュを見て僕は嬉しく思うのだが……
「ミラさん、あれは模擬戦ですよ……確かに本気の決闘なら不本意かもしれないけど、僕的には十分な結果だと思っています」
「むむむむ……」
ミラージュは口を厶の字にしてむくれている……
「ミラ……お前どっちの味方だ?」
「カケルさんに決まってるでしょ!!」
「なら、カケル殿の意見を尊重しろよ」
「むむむむ…く、悔しい〜!!」
おお、流石ラックさん大人の発言だ!!
流石のミラージュもこれには反論できない。
「わかりました!!お姉さん!!エールを3つ追加お願いします!!」
「は、はい、かしこまりました」
大声で近くを通り過ぎるようとしたウエイトレスさんを止めてお酒の注文をするが……
「ミラ……飲みすぎるなよ……」
「分かってますよ」
不本意ながら、僕の説得には応じてくれたようだ……
しかし……ミラージュの言う通り、あの終わり方は少し疑問が残るのも確かだ……
■ 数時間前……
「いや〜参ったわ……もう完敗ね♪」
カマーは怪我をした腕を押さえながら僕たちの方にゆっくり歩いてくる。
「だ、大丈夫ですか、カマーさん!!」
「平気よ……っと言いたいけど…流石に先ほどのポーションを使わせてもらいたいわね」
「なら、僕のハイヒールで直します」
「あなた……回復魔法も持っているの?」
僕はカマーの折れた腕に手をあて回復魔法【ハイヒール】を唱えた。
「凄いわね……」
カマーは回復しながら同時に驚きもしている……
「ありがとう」
「い、いえ…でも、カマーさん……その……この勝負は……」
僕もこの模擬戦には、少し異議があると思っていた……
カマーに直接聞かないとならない事なのだが……
「カケルちゃん、これは貴方の力量を知る為の模擬戦よ♪」
カマーは笑顔で答えた。
「あなた……なかなか見どころはあるわ」
「へぇ?」
「次に戦えるのが楽しみだわ♪」
〈つ、次も戦うの……〉
その後、軽くウインクをされ、終了となったが……僕は背筋がゾッとする体験をしする羽目になった……
そして、現在に至る。
「しかし、カケル殿には良い体験だったと思うぞ」
「そ、そうですね……」
「ミラもそれで納得しておけ」
「は、はい……でも……次こそは……」
ラックはそう言いながら上機嫌で酒を飲むが、ミラージュは再戦がしたいようだ……
逆に僕は正直カマーとの戦闘はしたくないのが本音だ……
「ところで、ギルドはどうだった?上手く話が進んだろ」
「は、はい」
ラックは、すかさずギルドカードの話にすり替えてきた。
「はい、かなりスムーズに話が進みましたよ」
「それはなりよりだ」
「まぁ……他にもオマケが付きましたが……」
「ああ、調査の依頼だな」
「え?」
ラックは、予想してたかのように切り返してきたが……
「ラックさん、なんで調査依頼を知って……」
「あれは、元々私や別メンバーの依頼だったからな」
「へぇ?」
「ドレシアに頼んでカケル殿に振ってもらったんだ」
〈ギルドマスター……ドレシア・リーン……
そう言いえば、ドレシアさんもラックさんから僕の事を聞いていたようだけど……〉
「お待たせいたしましたーッ!!」
あれこれ考えていると……ウエイトレスさんが、先ほどミラージュが頼んだお酒を持ってきてくれた。
「待っていました♪カケルさん、はいどうぞ♪」
ミラージュは先ほどの不満な顔が何処に行ったのやら……ニコニコ笑顔でウエイトレスさんからお酒を受け取り僕に渡してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
僕もお酒を受け取り飲みながらラックと話を進めた。
「そう言いえば、ドレシアさん……ラックさんから僕の事を気に掛けてくれたとか……色々とありがとうございます」
「いや、私は大したことはしていないよ」
「本当ですよ、ラックさんが凄いんじゃなくてドレシアが偉いんです!!」
「お前……もう酔っているだろ?」
上機嫌になったミラージュ……それに受け答えするラック……
〈なんか……羨ましいな……〉
この二人を見ていると、仲の良い兄妹のような……いや……それ以上の恋人と言ったところだろうか……
生前の僕は兄弟もいなかったし、レースばかりで彼女もいなかった……
確かに僕のファンもいたが……特定の女性とお付き合いなんてする気も起きなかった……
もしかしたら、もう少し人付き合いもちゃんとしていたら……
前世で少しはレース以外でも楽しめた事もあったかもしれない。
そう思いながらお酒を飲みながら、ラックとミラージュのやり取りに感心していると……
「もう、ラックさんの奥さんにしているのが勿体ないですよ〜」
「へぇ〜……奥さんね……」
〈………………〉
この瞬間……時間が止まった。
そして……
ブハーーーッ!!
「きゃっ!!カケルさん!!」
「ゲホッ、ゲホッ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
喉に含んでいたエールが驚きのあまり逆流してしまった……
「す、すみません……だ、大丈夫です……ところで、奥さんと言うのは?」
「あれ?言っていませんでしたっけ?ラックさんとドレシアさんはご夫婦なんですよ」
「ふ、夫婦!?」
これは流石に驚いた。
随分ギルドと友好的ではと思っていたが……
「初耳ですよ……まさかラックさんが結婚していたとは……」
「しかも、第ニ婦人さんですからね〜」
「だ、第二婦人!!この国は一夫多妻制なんですか?」
更に驚き、ラックに聞き返してしまった……
「カケル殿の故郷は違うのか?」
「基本、奥さんは一人ですよ!!」
「ちなみに、ラックさんの正妻さんは王都の会計課でお仕事をしていますよ♪」
「それを言うなら、ジョージ様……ミラのご両親も4人ほど奥方様がいるがな……」
「よ、4人……」
「でも……生まれた子供は私だけなんですよね……」
もはや、何処からツッコミを入れたらよいか……かなり悩んだ……
――だが、この国の一夫多妻制が
笑い話では済まされない理由を、
僕はこの後、思い知ることになる。




