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7話:カムフロム魔界

 俺が警戒しているのは「自分を狙って作られた異界」の可能性である。

 経歴の浅い俺がピンポイントで狙われたというのは考え難いとしても、「簡単な調査依頼に釣られたデビルコーラー」を狙った罠ならば十分に有り得るだろう。


「あ、そう言えばレベル上がったよ」

 ふと思い出したらしく月子が自己申告してきた。

 トロールを倒したことによる格上殺し(ジャイアントキリング)のお釣りは多かったらしい。レベル2から3に上がるまでに倒した敵の数は二十体を少し超える程度だ。


「おー、おめでとう。普通のコーラーは心霊スポットでちょこちょこデブリを倒して数ヶ月から数年とか掛けてレベル3になるらしいぞ」

「パワーレベリング様様だね。クーちゃんのスキルもまた増えて三個になったし、動きも良くなってる」

 青髪の美少女が鉈と斧の合いの子をビュンビュンと軽く素振りして感触を確かめる。


「いや、お前は初期悪魔さえ何とかなったら一人でも同じように出来たと思うがな……」

 デビルコーラーとしての適性の高さを傍から見ている俺はハハハと乾いた笑いを漏らした。

 実体験である。俺でも出来たんだからこいつにも多分出来るだろう。


「ところで武力や敏捷は攻撃力と素早さって感じで分かるけど、感覚って何に関係するの?」

「命中、回避、奇襲判定、その他諸々」

「うーん、必須ステ感……」


 レトロゲーマーは端的な説明を聞いて唸った。

 命中と回避判定に関わる能力値を疎かにする者(キャラ)は役に立たない。ルルブにもそう書いてある。


「まぁ降霊している悪魔で変動するから基礎ステは参考値だけどな。あー、それと感覚に限らずだが、スキル獲得に一定のステータス値が求められたりするぞ」

 補足説明を加えつつ俺は目ぼしい物が無いか周囲を探索する。


 悪魔は霊格(レベル)が上がることで新たなスキルを手に入れることがある。

 例えばロキの場合はレベル2で『脆甲魔法(ツイニ)』、レベル3で『幻影魔法(ファース)』が使えるようになった。これらの場合はステータスではなく霊格の強化によりアンロックされたというべきだが、レベル7で『全体火炎魔法(アラスアグニ)』等が使えるようになったのはステータスが必要値に達したからだ。


「へー、そう言えばスキルって魔法のことも指すの?」

「ああ。その辺の異能をざっくり一纏めでスキルと呼んでるようだ。権能だけは別だが」

 俺の発言を聞き、月子は「あ」と何かを思い出した。


「そう言えばクーちゃんや長宮さんも権能持っているけど、悪魔も全員権能持っているの?」

「個体別じゃなく種別っぽいがな。二階のトロールの再生能力だって権能だし」


 俺は話しながら見付けたポーションを霊体化してDDCの『保管庫(インベントリ)』に収納する。

 容量無制限とはいかずとも、重量も無視して自由に物を持ち運べる『保管庫』は公開されれば世界が一変する超技術だ。当然ながら俺も月子も仕様の穴を突く利用方法(例:巨大な瓦礫を入れておいて、敵の頭上から落とす等)を考えはしたが、普通に使うだけで十分に有用という結論が一旦出た。


「あー、そっか、その悪魔が持つ特性とイコールって感じなのかな? 例えばクーちゃんの『陣風(ガスト)』は自分の周囲に風を発生させて移動の補助や遠距離攻撃を避けたり出来るんだけど、妖精の加護みたいな概念が元になっているのかも」

 しっくりとくる推論が出来た月子は成程成程と頷く。


「ふむ、良い権能だな。俺も似た様な使い方をしてるから分かるが風は用途が広い。攻撃魔法としては相手を選ぶが、足音を消したり毒を撒いたりと色々便利だよな」

 うんうん、と俺が頷いていた所、月子はげんなりとした表情を作る。

「頭暗殺者(アサシン)過ぎるでしょ……、一緒にしないで欲しいな……」

「あれっ!? ワレワレナカマ! オナジアナムジナ!」

「片言でラップすな」


        §――――――――§


「疾(と)く速やかに死ね!」

「悪いけどデバフ(これ)は受取拒否だよ! 『禁じられた遊戯(カースザギャザリング)』!」

「纏めて真っ二つだっ! 『辻斬(つじぎ)り一文字(いちもんじ)』!」

「ハハッ! ゴブリンの膾(なます)お待ちっ!」

「よぉし! ロシアン河童の刺身、一丁上がり!」

「潰れて爆(は)ぜろ金袋(かねぶくろ)!」


「相方の戦闘ボイスが治安悪い件」

「ワイヤー首絞めとか酒瓶殴りからの汚物は消毒(エンチャントファイア)コンボ決める奴に治安悪いとか言われたくないなぁ」

「古来より酒はお清めアイテムだし、火も同様だぞ」

「物は言い様だね」

「あとワイヤーはこれぞ本当の〝締め縄〟ってね」

「もう黙っていて欲しい~」


「お、『退魔チェーンソー』を手に入れた!」

「何そのアイテム入手テキスト風台詞は? というか退魔チェーンソーって何??」

「退魔チェーンソーは退魔チェーンソーだろ。ゾンビやサメに特攻があるぞ」

「神もバラバラに出来そうだね」

「俺が言った効果も冗談だが、それも有り得ないとは言えんな……」

「ところでもしかしてこれの退魔要素ってデカデカと書かれた『悪霊退散』のことだったりする?」

「多分そうじゃねえかな」

「これで強かったら釈然としないね……」


「『陣風(ガスト)』! アーンド、『辻斬(つじぎ)り一文(いちもん)字(じ)』!」

「ご注文はチェーンソーですか!? 今ならケチャップ掛け放題! お代は命で結構ですよっ、と!」


「ヒュー♪ やるねぇ。クーシーでもバリバリに複数敵を一撃死させてるじゃねえか。新技も使いこなせるようになって一人でも十分……どうした?」

「いや、釈然としないなぁ、って……」


        §――――――――§


「――――ふと思ったんだけど、〝この異界がどう言う物なのか〟聞いてみるってのはどう?」


 未探索エリアも残り少なくなってきた所で月子が一つ提案した。

 グッドアイデアである。虐殺(デストロ)っていたので俺もうっかり悪魔会話というコマンドの存在を忘れていたが、地道な情報収集こそがTRPGでも大切だ。


「良し、その辺の悪魔にちょっと尋問(ヒアリング)してみるか」

「こらこら、長宮さんに聞けば良いでしょ」

 パキパキと指を鳴らしてストレッチしてた所に月子が呆れ顔でツッコミを入れる。

 正論である。という訳でアプリから長宮さんを呼び出して話を聞いてみることになった。


《あら……どうかした……?》

 スマホにビデオ通話のような状態で表示された青髪のラミアがこてんと首を傾げる。


「かくかくしかじかで」

《まるまるうまうま、ということね……》

 月子の説明を聞いた長宮さんは下唇に指を当てて柳眉を寄せた。


《うぅん、わたしもここがどこかは知らないのよね……。良い感じの穴(・)があったから潜ってみただけ、といえば良いかしら……》

「穴?」

《ええ、物質界(・・・)との穴よ……》

 月子が聞き返し、長宮さんが補足を入れる。

 俺はそれを聞いて頷いた。


「ほう、つまり魔界から直接来たって訳だ。てっきり分霊かと思ってたが、言い方は悪いが零落した本体ってことか?」

《そうなるのかしら、ね……?》

 半人半蛇の美女は頬に手を添えてしなを作る。

 相変わらず自己認識が薄ぼんやりしてんなぁ……。だが一つヒントは手に入ったか。


「……ねぇねぇ、分霊って何?」

 手に入った情報について考えていると、俺の袖をちょいちょいと月子が引っ張った。


「ん、簡単に言えば力を分けたコピーだ。強い悪魔は霊子が多く必要になるだろ? だから省コスト版の自分を作って動かしてるらしい」

「へー、成程。概念の存在だからそんなことも出来るんだー」

「分霊には他にもメリットがある。魔界と物質界は遮断されてるからそうそう物質界(こっち)には来られない。だが異界に分霊を送り込むのは比較的容易だ」


 俺の説明を聞き、月子はふーむ、と首を傾げて自分なりに解釈する。

「つまり、家から出られないけど、VR世界にアバター作るのは大丈夫みたいな感じ?」

「いや、言い方。引きニートに唯一可能な対人コミュニケーション手段みたいに喩えるな」

「でも大体合っているでしょ?」

「……まぁな。世界の階層(レイヤー)が違うって点まで含めてその認識で合ってる」


 身も蓋もない表現に俺は呆れを浮かべつつ同意した。

 なおこれは余談だが、アバターの語源はサンスクリット語で神の化身を意味するアヴァターラである。月子の喩えは一周回って的確だと言える……かもしれない。


「で、長宮さんはVR世界に生身でログインしたみたいな訳だよね」

「ああ。といっても、魔界から出て来れないのは霊格がある程度以上の連中だ。制限に引っ掛からない規模の霊格で、更に魔界との間に道があれば本体だろうとこっちに出て来られる……筈だ」

「とすると、魔界から通じる穴があったから長宮さんは来られた。で、もしかしてこの廃ビルが異界になった原因って……」

「俺もそう思った。確かにそれならショボい心霊スポットが異界化したのも納得ではあるが……。」


 理屈としては通るが、そうなると今度は〝魔界と繋がったのは何故か〟ということが謎だった。

《ワンっ!》

 唐突に月子のスマホから犬の吠える声が響き、ラミアからクーシーに映像が切り替わった。


「クーちゃんどうしたの?」

《ワンっ》

 青い毛並みのシベリアンハスキーに良く似た犬が飼い主の質問へ答えるように吠える。

 翻訳アドオン(ワイルドトーカー)を入れていないので人間の言葉に翻訳されたりはしていないのだが……。


「〝黄泉の国の臭いがした〟?」

《クーン》

 何で通じるんやろなぁ……。


「そっか、クーちゃんも魔界から来たんだ? 教えてくれてありがとう! 偉いねー」

《ワフっ》

 月子に褒められ、クーシーは嬉しそうに返事して画面から退場する。


《んふふ……、賢くて可愛らしい子ね……》

 再び現れた長宮さんは話に割り込まれたことを気にする様子は見せず、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

《わたしは直接この階に来たから、上の階については知らないけど……、この階を牛耳っている悪魔のことなら少しだけど知っているわ……》

 僥倖……! 予想外の情報獲得だ。


「おお! 名前は分かるか?」

 俺がそう聞くと、ラミアの美女は色っぽく首を傾げ、記憶を辿った。

《確か……〝猿夢(さるゆめ)〟、といったかしら……》

*NOTE

「退魔チェーンソー」:両手剣。剣と言うには余りに機械、工具と言うには余りに凶悪。取り回しは劣悪だが、破壊力は高い。

        §――――――――§

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