6話:悪魔を殺して強くなれ
「……『全体火炎魔法』」
ロキを降霊した俺はぼそりと魔法を唱え、集団の敵に奇襲する。
指の先から飛び出た炎が羽根を広げるようにぶわっと膨らみ、蛾人間のグループを飲み込んだ。
《アVあァアAAA!!》
《ギャAAアぁあAR!!》
悲鳴を上げているのはUMAだけではない、緑色の小鬼達も火に包まれてのたうち回っている。
因みにゴブリンも妖精の一種だが、二階の妖精ゾーンには居なかった。
《Gぃイ……》
火炎属性弱点のモスマン達はポトリと地に落ち、そのまま力尽きる。
残ったのは数匹のゴブリンだけである。
「――――『拾間薙ぎ』」
ラミアを降霊した月子が大蛇の尾をくねらせ、離れた距離から敵にスキルを放った。
衝撃が空中を伝播し、命中した瞬間にバンッと打擲音が響く。
言葉にすれば軽いが……、肉の詰まった袋が鞭で叩かれて爆ぜる音だ。
《……――》
ゴブリン達がどさりと崩れ落ちる。
口から溢れたのは断末魔の悲鳴などではなく、血泡や潰れた内臓だけ。
「……」
俺はじろりと周囲を見回し、生き残りが居ないことを確認した。
死んだ悪魔達は一匹、また一匹と霧散していく。残ったのは床の焦げ跡と悪魔の貨幣だけだ。
「……良し、戦闘終了。上出来だ」
俺は降霊を解除して、神鉄ワイヤーをしまった。
肉屋の包丁は月子が持っている。こいつなら十分に使いこなせるだろうからな。
「ふー……、やっぱり乱戦じゃなくて初手で一方的に殺れると楽だね」
降霊を解除して半人半蛇形態から人間の姿に戻った月子は物騒な感想を述べる。
尚、乱戦になったらなったでクーシーを降霊して切り込んで行く好戦的なスタイルだ。
「ってか長宮さん強えな……。炎で焼いてなくても一発だったろ多分」
俺は半ば呆れつつ新たな仲間の戦闘性能を評価した。
因みに一間は約1.82メートル。十間は約18メートルな訳だが、流石にそんな広範囲が対象ではない。
最大射程範囲としても今の月子では10メートル程が限界だろう。
「凄いよね、馬力が明らかに違う感じあるよ。ただ、動かすのに少し溜めが必要で、俊敏性や反応速度ならクーちゃんがずっと上だね」
月子は焼け焦げたコンクリート床の上に遺されたお金を拾い集めながらそう言った。
まぁ犬の妖精であるクーシーと比べれば、下半身が蛇のラミアは鈍重と感じるに違いない。
「良く考えて使い分けろよ。燃費の差も有るだろうしな」
「確かに……。活性霊子の消費速度は三倍から四倍って所かな……」
重ッ! あーでもクーシーのコスパが良過ぎるのはあるか。ざっくり計算したが同レベル体の悪魔と比べて七、八割のコストだったしな。
そう考えると長宮さんは多少大食いってくらいか。レベルも3でちょっと高いし。
「んー、まぁ悪魔の霊格が高いと霊子消費量も増えるからなぁ。ほれ、例の雷神なんて霊子爆食いしたからすぐガス欠になったろ」
「あー、あれかぁ……」
見事に暴走した初降霊の時のことを例に出され、月子は決まり悪げに頬を掻く。
八種雷神の時は初降霊だったとはいえ、一分かそこらで霊子切れになっていた。
クーシーが月子と同じレベル1で加入したのに対し、雷神はレベル10からのスタート。幾ら月子のステータスが高くとも実力を引き出し切れず、制御出来る見込みがない為に現状は実用性がない。
「ケチケチして死んだら元も子もないので出し惜しみはしなくて良いが、必要な時に霊子不足とならないように気を付けろよ」
「はーい」
先輩からの指導に後輩デビルコーラーは元気良く返事した。
まぁ俺もまだデビルコーラー歴一ヶ月なんだがな。
「……ところでゴブリンの内臓にだけ衝撃与えてたけど、あれってどう言う原理なんだ? 浸透勁? もしかして実は凄腕の拳法家だったりする?」
俺は一目見た時から気になっていたことを月子に聞いてみる。
衝撃波飛ばすだけなら見たことあるが、内側に威力を集中させるなんて実際に出来るんだな。
正直、達人って感じでカッコいいし俺もやってみたい。内心ワクワクである。
「え? こう、衝撃波をぐにゃ~って出来るだけ柔らかくするイメージで……?」
しかし期待していた答えは得られず、余りに感覚派な教え方に俺はがっくりと肩を落とした。
「……ハァ、やっぱり月子に聞くのは時間の無駄だったな……」
「そっちから聞いてきておいてその反応は酷くない!?」
§――――――――§
「『全体電撃魔法』」
「『拾間薙ぎ』!」
「『全体火炎魔法』」
「『拾間』……素殴りで倒せそうだし別に良いか」
「おっと、モスマンとヴォジャノーイか。電撃無効と火炎耐性の組み合わせはちょっと厄介だな」
「ふんふん……、私に良い考えがある!」
「その台詞はダメなフラグじゃなかったか?」
「まぁ聞きなよ。まず私が切り込んで暴れてー、クロがその隙に各個撃破してー、残った敵はー……」
「死ぬまで殴る?」
「正解!」
§――――――――§
――――という具合に新戦力の実力を確かめた俺達は押し込み強盗を続行。経験値と金とアイテムを回収していた。
「……それにしても、この階は出てくる敵の種類が取り留めないよね」
月子が人差し指を頬に当てて首を傾げる。
確かに出てきたのはギリシア神話の怪物ラミアに、アメリカのUMAであるモスマンに、ヨーロッパの妖精のゴブリン、ロシアの水妖ヴォジャノーイ等、出身も種族もバラバラだ。
「まぁ異界だとそう言うもんではある。……が、疑問はあるな」
「というと?」
月子に尋ねられ、俺は今まで棚上げしていた問題を口にすることにした。
「〝この異界はどうして出来た?〟、だ」
「ふむ……?」
曖昧な問題提起に月子はハテナマークを浮かべる。
「この階はってお前も言ったろ? 一階はモロに心霊スポット、二階は妖精エリア、と法則性があった。だがこの三階は違う」
「うん、何というか……空気も違う。下と比べて廃ビルっぽくない、って言えば良いのかな。重苦しい雰囲気は変わらないんだけど、苔とか雑草が生えていたりね」
「お? 成程、良く見てるな」
月子の指摘通り、確かに下の階と比べて緑が多い。まるで洞窟の中を歩いているようだ。
「まぁこの廃ビルの中って広さとかおかしいし、登った階段は消えるし、そう言うこともあるのかなって思っていたけどね」
先入観なく受け入れていた初心者コーラーの言葉に俺はそれもそうだと苦笑する。
正直言って俺もまだひよっこ同然であり、月子の感覚も分かった。
「異界だからなぁ……。ぶっちゃけ俺の単なる考え過ぎの可能性もあるが、事前予想より遥かに脅威度が高くなっているのは何かしらの原因がある」
そもそも精々が屑霊の吹き溜まりになっている程度の心霊スポットの筈が、何階層にも分かれた異界になっているというのがおかしい。
少なくとも最初に発見された時点ではそこまで危険な場所ではなかったということであり、そこから大して時間を置かずに異界化することは普通起こり得ない。
「その原因と、複層構造になっていることがリンクしているんじゃないか、ってこと?」
「ああ。例えば別々の異界がくっ付いて出来た、とかな」
俺は考えていた一つの仮説を挙げた。
これなら法則性が途中でなくなったのも、階層の雰囲気が変わったのも説明が付く。
しかし月子の方は納得しかねる表情で首を傾げた。
「うーん……、くっ付いたというより取り込まれたとかじゃない? 構造については廃ビルがベースのままだし、元々の心霊スポット自体がショボい物だったとするならその方が自然な気がするなぁ」
「おっ、鋭い。それなら下の階が異界化した理由も説明出来るな。……しかし、取り込まれた側の廃ビルがメインになっているのは何故か? という点が気になる。そもそもくっついたり取り込まれたりというのが有り得るのかも分からないが……」
ふーむ、と俺達は首を捻る。
現時点での情報からでは答えは出そうになかった。
「うーん……、まぁ謎ではあるけど考えても仕方ないことなのでは? 分かった所で私達には関係無いような……」
よっ、と月子は休憩を終えて立ち上がる。
「いやいや、割と重要かもしれないぜ?」
何故なら、と俺は続けた。
「この異界は〝誰かが意図的に作ったかもしれない〟ってことなんだからな――……」
*NOTE
魔法。パッケージ化された超常現象。長々とした詠唱、時間の掛かる魔法陣、踊りや掌印などの動作魔術、供物や様々な発動媒体、それらを省略して『結果』を持ってくるのが魔法である。
魔法を行使するには前提として「その超常現象を起こすことが出来る」必要があり、魔法の名はあくまでも単なるショートカットキーに過ぎない。
名称として用いられているのは各地・各神話などに登場する神や概念だが、それその物ではなく音が集合的無意識によって収斂したと考えられる。アグニはインド神話の火神、イサズは氷のルーン文字、ラームはヘブライ語の雷、ルンはサンクリット語の風と同じ音。




