5話:人徳と書いてコミュ力と読む
*NOTE
霊格。端的に言えば強さであり、或いは如何に人間離れしているかの指標。
まず悪魔の存在規模を表す値が先にあり、それと同程度となるように測られていると考えられている。
そしてレベル1の悪魔とレベル5の悪魔には雲泥の差がある。レベル1の悪魔ならば一般人でも殺すことが可能だが、例え武装した軍人であろうと対悪魔用兵装を所持していなければレベル5の悪魔とは戦闘すべきではない。
§――――――――§
*NOTE
友好的な悪魔。悪魔の中にも交渉可能な者は居り、アイテムを入手出来たり、仲間になって貰う契約を結ぶことも出来ることがある。
クーシーもこの例に当て嵌まるが、本来、人語を話せない場合は『ワイルドトーカー』で翻訳したりしなければ仲間に出来ない。
……まぁ、何事にも例外はある。
「……よし、この部屋で二階の探索は終わりだな」
一通り巡業したことを俺はマップで確認した。
追加で五~六十体は倒したが、残念ながら月子のレベルは変わっていない。まぁそんなもんだ。
しかし治療薬やら換金出来そうな物は拾えたのと、体力や魔力を回復出来る施設、その名も『回復の泉』が有ったのは大きい。また、この廃ビルは四階層になっているという情報も有った。
「三階に出口が有れば当然脱出するが、まぁ四階まで上がる必要あるだろうなぁ……」
「そうだね、悪魔が私達を待っているだろうし」
輝くような笑顔を浮かべた月子の目が$マークになっている。
「見事に金の亡者になっておる……」
「やだなぁ、閉鎖環境で脱出する為には敵を殺さなくてはいけないという状況では無意識的に殺して良い理由を探して自身の行為を正当化する作用が働いてもおかしくないだろう?」
透明な笑みを顔に張り付けて月子はスラスラと述べる。
「パースパスパス(笑い声)、冷静に理論武装出来てる時点で異常者パスねぇ」
まぁどちらかと言えば俺も反社会性パーソナリティ障害寄りだと思うが。
「それにさー、ここまでで差し引き四百DDは稼いでいる訳でしょ? ってことは二時間二人で四十万、時給十万! 真面じゃ居られなくなるのも仕方ないよね。うへへへへ……」
「こんなん序の口だぞ。悪魔が強ければ落とすDDが増えるってのは分かってるだろ?」
その言葉の意味を理解して月子は口笛を吹いた。
「あー、それはヤバいね。マジで語彙力なくなるレベル」
「……まぁ、下手打てば悪魔に頭から丸かじりだがな。俺も、お前も」
月子は一瞬固まって息を呑む。
「っ――――」
そして目をつぶり、ゆっくりと息を吐いた。
「……うん、クロの言う通りだ。ごめん、浮かれて死なないよう気を付けるよ」
「そうしてくれ。……とは言え、だ。余り慎重にやってる時間的余裕もない。油断はせず、急ぎつつ、レベリングして可能な限り強くなる、ということになる」
「難しいことを言うなぁ~……」
俺は月子の嘆きに肩を竦め、三階への階段を昇った。
§――――――――§
「……さて、と。やっぱり階段はなくなったね」
三階に上ると、予想通り今通った筈の階段が奇麗さっぱり消えていた。
「進むしかない、と……近くに反応があるな。だが何だ、これは……?」
俺はエネミーソナーをチェックして首を傾げる。
「どうしたの?」
「反応が妙でな。微弱というか朧気というか……。死に掛けてるのか?」
一応索敵範囲を拡げて確認してみるが、他の悪魔は普通に表示されている。
「うーん、取り敢えず確認してみる? 一体だけなんだよね?」
「そうだな」
「対応の難しいイレギュラーな事態なら近寄らなければ良いし、悪魔同士で殺し合って片方だけ生き残ってるだけとかならトドメを刺せば良いと思うよ」
デビルコーラーの道を立派に歩みつつある月子は合理的な提案をした。
「発想が殺伐としてんな~。採用!」
俺はグッと親指を立てて月子の意見に賛同を示す。
という訳で、目標の場所に偵察へと来てみたが……。
「……寝てるね」
「……寝てるな」
部屋の外からそっと見てみた所、中に居たのは眠れる美女だった。
但し、下半身はとぐろを巻いた大蛇だが。
「……ラミアだな、『分析』でもそう出てる」
「状態は?」
「睡眠。体力も満タンだし本当に寝てるだけっぽい」
「え~、そっか……。どうする? ちょっとあれをサーチアンドデストロイは気が引けるなぁ。上半身ほぼ人間だし」
ちらりと蛇の美女を見て月子は困り顔を浮かべる。
下に居た妖精達はなんだかんだ人間っぽくなかったのだが、あのラミアは上半身だけでは人か悪魔が判断出来ないような見た目をしていた。
カラフルな編み込みの入った長く美しい髪は見事に青く、エキゾチックな化粧とも良く合っている。
「人のエゴという感はあるが同意だ。……まぁもしかしたら人を丸呑みにしてお腹一杯だから寝てるという可能性もあるがな」
世界最大の蛇は体長十メートル近くにもなり、人程度ならば余裕で丸呑みに出来てしまうらしい。
「ええー? いや人の口だと物理的に入らないでしょ」
「そう考えるのも分かるが、悪魔は概念の生命体なんだから多少の無理は通るんだよ」
《でも流石に、丸呑みはお行儀が悪いから……しないわねぇ……》
「ほら、本人もこう言っているし」
「ふーむ、確か、に……?」
俺は言葉の途中で違和感を覚えて、すいと横を見る。
月子も同じだったらしく同じ動きをした。
「……」「……」《……》
頬に手を添えて悩まし気な仕草をする美女、の上半身。
「「うわぁ起きてるー!?」」
慌てて距離を取る俺達に、眠たげな目をしたラミアはひらひらと手を振る。
《は~い、はじめまして……。ニンゲンがこんな所に居るなんて、珍しいわねぇ……》
いかにも寝起きといった調子で、友好的な悪魔が話し掛けてきた。
§――――――――§
(どうする?)
(取り敢えず交渉だ。殺気もなかったし敵対せずに済むかもしれない)
(了解、よろしく)
一瞬の間に俺と月子は視線を交わしてお互いの考えを汲み取る。
「……俺達はこの異界の調査に来た。協力してくれるなら危害を加えるつもりはない」
武器を持ったまま俺はラミアと会話を試みた。
悪魔によっては武装を解いてから会話をしなければ怒る場合もあるが、悪魔相手に丸腰で交渉しようだなんて馬鹿にしてるのかと怒る場合もある。
どちらにせよ襲われる可能性があるのだからこの辺は真面目に考えるだけ無駄である。
《わたしも別に戦う気はないわぁ……。協力出来るかどうかは……内容次第だけどね……》
しゅるしゅると蛇の胴体が床を這って部屋の外に出てきた。
真面目に会話をしてくれる気があるとも取れるが、戦闘態勢の準備を整えているとも取れる。
「こちらの最優先目標はここからの脱出だ。もし知ってたらここから出る方法を教えてくれないか?」
《ん~、残念だけど私も知らないわぁ……。ふわぁ……。ここが何処かも知らないし……》
ラミアは欠伸交じりに答えた。
どうやらこの異界が出来た元凶とは何も関係ない悪魔のようだ。
「ふむ……、そっちは何が目的で来たんだ?」
欲しい情報は持ってなさそうなので仲魔に出来ないか、という方向に俺は舵を切る。
向こうの目的がこちらの利益を阻害しないのであれば協力関係を結べるかもしれない。
《わたし? わたしはねぇ……、そう……、何となくかしら……?》
こてん、と首を傾げるラミア。
「いや、俺に聞かれても知らんがな……。あー、月子、パス!」
俺は諦めて月子へ対応を放り投げた。
「えぇ? もう、仕方ないなぁ……」
新米デビルコーラーはコホンと咳払いをして女悪魔に向き合う。
「……はじめまして、私は月子って言います。あなたのお名前をお聞きしても良いですか?」
《あら、礼儀正しい子ねぇ……。わたしはナーガの……》
半身が蛇の美女は喋っている途中で言葉を詰まらせた。
「どうかしました?」
月子が聞くと、女悪魔はころころと笑う。
《ふ、ふ、ふ。名前、忘れちゃった……♪》
俺達は無言でこけた。
「……というかアナライズにはラミアって出てるが?」
思わずツッコミを入れる。
ラミアはギリシア神話の怪物であり、ナーガはインド神話の蛇神である。
半人半蛇というのは同じだが、出身は全く別だ。
《あらぁ? うーん、ラミアになっちゃったのね……》
蛇の美女はペタペタと自分の身体を触って確かめ、困り顔を浮かべた。
それを見て月子が俺をツンツンとつつく。
「どう言うこと?」
「多分、魔界に居た時より霊格が弱まって別の悪魔の概念になったんだろう」
「えっ、悪魔ってそんなこともあるの?」
俺の答えに月子は目を丸くして驚いた。
「あるんだよ。それ位無茶苦茶な存在だってことだ」
恐らくだが、名前を忘れてしまったのも弱体化したことと関係がある。
名前と信仰は密接に関係しており、異教の神の名前を歪めて悪魔に貶めるのは良くある話だ。
《まぁ、別に良いわ……》
「いや良くはないだろ」「いや良くはないでしょ」
余りに投げやりというか雑な態度に俺達は声を揃えてツッコんだ。
《そうねぇ……。なら、名前をくれない……? そうしたら、お礼に力を貸してあげても良いわ……》
元ナーガらしきラミアは気だるげにそう述べる。
当然ながら名前を付けるというのは対悪魔において重大なことだ。概念を一個体として認識し、己の制御下に置くことに他ならない。つまりは契約である。
「んー、それじゃ長宮さんって呼んでも良いですか?」
……等と思っていたら月子があっさりと提案する。
いや良くそんな日本人チックな名前をスルッと外国の悪魔に提案出来るな。ってかナーガとラミアで長宮か。安直! 怒られねぇ?
《まぁ、素敵なお名前ね……♪》
(……セーフ!)
当の本人は嬉しそうに手を合わせて喜び、あわや戦闘突入かと危ぶんでいた俺はこっそり安堵の溜息を吐いた。
《それじゃあラミアのナガミヤよ……、今後ともよろしく……》
女悪魔は妖艶に微笑み、契約が完了して月子のDDCに取り込まれる。
こうして順調に戦力が増強しているかに見えたが、この階層の主が初見殺しの概念結界に引き籠ったレベル11というクソボスであることをこの時の俺達はまだ知らなかった……。
*NOTE
外島:レベル11・権能『末路を辿れ』・所持悪魔「アスガルドロキ」「?」「?」
月子:レベル1→2・権能『禁じられた遊戯』・所持悪魔「クーシー」「ラミア」「八種雷神(※封)」
アスガルドロキ:レベル11スキル『火炎魔法』『氷結魔法』『雷撃魔法』『疾風魔法』『脆甲魔法』『幻影魔法』・権能『イカサマ神様』
クーシー:レベル2・スキル『凶器乱舞』『辻斬り一文字』・権能『陣風』
八種雷神:レベル10・スキル『渾身撃』『雷撃魔法』
ラミア:レベル3・スキル『拾間薙ぎ』『呪毒魔法』・権能『毒化身』
「肉屋の包丁」:片手斧。鉈か大振りな中華包丁のような形状をした、骨ごと肉を叩き切る為の刃物。本来であれば精肉店で使われるべき物だろう。だが、その刃は既に人や悪魔の肉の味を知っている。
「神鉄製ワイヤー」:投擲具。射出装置と釣車付きのワイヤー。外島が個人的な伝手で購入していた物。鍛冶神を降霊したコーラーの作であり、絡み付かれれば神であろうと逃れられぬ。
「処刑人の斧」:両手斧。重い刃を備えた戦斧。その処刑具は明らかに呪われていた。
「桃の木剣」:片手剣。桃の木で作られた木刀。物理的な破壊力は低いが、悪魔には良く効く。特に屍鬼や幽鬼への特攻を有する。魔除けは直接ぶつけるのが効果的だ。
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*NOTE
霊技と権能。大雑把に言えば規格化された異能がスキルであり、個人の特性に由来する異能が権能である。
既に確立された概念としての異能は同じ名で括られ、様々な悪魔が使用出来る。例えば火を出す異能は火炎魔法という名で行使されている。しかし仮に「自分の体温を操作して身体を燃やすことで火を出す」という異能が有ったとすれば、それはスキルではなく権能となる。




