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15話:これぞ恋天使の鉛の矢(※45ACP)

 イシュメール・コーヒーでアイテム整理をした俺達は再び廃ビルの探索に戻った。

 目的は情報収集と戦力強化、そしてボス部屋の発見である。

 補給拠点が出来てDDを稼ぐ意味が追加されたことは大きい。幾ら現金に換金出来るとは言っても、ここを脱出出来なければ何の価値も無いが、生き残る為の投資に回せるのなら話が変わる。


 という訳で、生きる為に雑魚狩り巡業をしているのだが……。


《Ooあぁ……》

《ぐぎ……グ、Giぃぃ……》

《うぁぁ亜亜……》


 薄暗い部屋の中から悍(おぞ)ましい呻き声が漏れ出ている。

 ちらりと覗き込めば、生物(バイオ)が災害(ハザード)な世界観の亡者共が檻の中に閉じ込められていた。


 うーん、何匹か倒したけどこいつら悪魔としてはゾンビじゃなくて亡者なんだよな。日本の冥界寄りだから概念が地獄の亡者に寄っているのか、それともこれもゲームの影響だったりするのか……。

 まぁそれは良いとして、これ部屋の中にノコノコ入っていったら絶対入口が閉まって檻が開く奴だろ。見え見えだっつーの。


(アレ(・・)を使う)

(了解)

 俺は月子とアイコンタクトを交わし、用意していた物を取り出す。


 敵が集まっている密室に投げ込む物と言えば、そう、手榴弾(ハンドグレネード)だ。

 勿論悪魔の店(ショップ)で購入したアッティラおじさん印の特別製である。何でフン族の王がトレードマークになってるんだよ。


(1、2、3……!)

 俺は3つカウントしてから聖なる手榴弾を部屋の中に投げ入れた。

 カツッと言う硬い物が床にぶつかる音が響く。

 次の瞬間、牢獄の入り口からボンッ、と爆風が噴き出た。


《GYあぁぁぁぁッ……》

《ヒぃ異い……》


 断末魔の悲鳴も僅かな時間で途絶え、部屋の中は無音となる。

 中を覗いた俺達は想像以上の威力に顔を引き攣らせた。


「……わーお」

「死屍累々だね。死んでるのは元からだったけど」

 亡者達は一匹残らず吹き飛び、残骸が辺り一面に飛び散って大変スプラッターな光景となっている。

 すげえな、聖なる手榴弾。中部屋モンハウ(モンスターハウス)を一掃かよ。


「ゲームだと単体攻撃の方が全体攻撃より火力高くなるもんだけど、実際火力が高くなると範囲が拡がる方が正しいよなぁ……」

 改めて目の前のこれがゲームではないことを実感する。

 監獄内は死臭と共にタンパク質が焼け焦げた臭いに包まれており、亡者の残骸は溶けるように消えていった。


「でもこれ下手に室内で使ったら自分や仲間も巻き添え喰らうから扱いには気を付けないと駄目だね」

「まぁ範囲攻撃する時の基本だわな。あと水場で電撃放ったら感電とかもある」

 真面目に考えるとどうやって電気を誘導してんだろうな。もしかすると魔法だから物理法則無視して目標に自動命中するようになってんだろうか。


「あー、ありそう。……ところで気になったんだけどさ、あんだけゾンビ達が居たのにDDが落ちてなくない?」

 月子の指摘に俺はふむ、と顎を撫でる。

 さっき倒した亡者達は普通にDDを落としていた。アイテムで倒したからといってそこが変わる訳もない。


「そうだなぁ。考えられるのは実はあれで死んでないか、もしくは猿夢の時と同じで本体が別に居て、今のは眷属のパターンとか」

「ってことは……」


 俺達の視線は自然と部屋奥の扉へと向かった。

 不自然に大きな扉の向こうからドスドスと重たい足音が響き、軋みを上げて扉が開く。


《……腐ぅ宇宇宇ウウウ》

 暗闇の中からぬぅっと異形の人型が現れた。


 肥大化した筋肉で全身が覆われた、内臓染みた肉色の、鬼。

 顔には般若面を着けており、丸太のような金棒を肩に担いでいる。

 そして、ガシャンと鉄格子の落ちる音が俺達の前後から響いた。


「……結局罠じゃん」

「知らなかったのか? イベント戦闘からは逃げられない!」

 はぁ、と月子が溜息を吐き、俺はヤケクソ気味に笑みを浮かべる。


「降霊《コール》、『キューピッド』!」「降霊《コール》、『サキュバス(リリ)』!」

 即座に俺達は悪魔を降霊して戦闘態勢に入った。

 俺が呼んだのはロキ、ユニコーンに続く三体目の仲間であり、服装が改造法衣に切り替わる。


《汚ォおOOOOOッ!!》

 地獄の鬼が咆哮すると周囲にいくつもの鬼火が灯り、亡者達へと変わった。


「はいはい、二度手間二度手間。で、クロはどっちやる?」

「んじゃデカブツやるわ」

「りょーかい。……じゃ、闘(ヤ)ろっか♪」


 俺は月子と拳をぶつけ、敵に向かって走り出す。

 戦闘開始だ。


        §――――――――§


 敵前衛に肉壁、もとい亡者達。動きは鈍く、頑丈で、力が強い。

 掴まれると厄介なので――――近寄られる前に殺す。


《おッ》《ぎッ》《あ》

 パン、パン、と乾いた発砲音と共に死人の脳天へ鉛の弾丸が吸い込まれた。


「やっぱりゾンビ物といえば銃だよなぁ~!」

 天使(キューピッド)を降霊(おろ)した俺は二丁のM1911(コルトガバメント)で道を開ける。


 これまで俺がキューピッドを使わなかったのは戦力の秘匿という面もあったが、武器である銃の弾丸が僅少という問題があった。しかしショップで弾薬を補充出来たので、ようやく好きに撃てる。


【となればワシの出番! という訳じゃな!】

 頭の中にソプラノボイスの声が響いた。

(ゼウ、邪魔だから黙ってろ)

【ガーン! 折角出て来たのに冷たくないかのう!? というか女の子とのお喋りもワシだけずっと除(の)け者(もの)とか薄情過ぎるじゃろ!】

 ゼウこと無駄に美少年の悪魔はキーキーと文句を言う。


 天使なのに悪魔という妙な存在である。まぁ、超常的な概念生命を纏めて『悪魔』と呼んでいるので天使も悪魔の一種ということだそうだ。真面目な一神教徒が聞いたら脳の血管ブチ切れそうな話だな。

 元の概念が愛の弓を持つ為、弓や銃といった飛び道具を使っても悪魔を攻撃出来るのがキューピッドの強みの一つだ。呪物化してれば関係無く使えるがな。

 因みに降霊すると蛍光グリーンのラインが走るサイバーパンクっぽい法衣(カソック)姿になる。何で? 


(お前そう言う性格だから出したくなかったんだよ……っと!)

「『ホーリーショット』」

 俺は獄卒鬼が金砕(かなさい)棒(ぼう)で殴り掛かってきたのを回避し、そのままするりと銃を構えて発射。スキルを乗せた弾丸は狙い過たず般若面の額に直撃する。


《ッ!》

 ボッ、と肉が抉れて面にも弾痕が残ったが、致命傷を与えた感じではなかった。


「チッ……、弱点じゃないのか。それとも面を割らないと意味が無かったりするのか?」

《我、Gいギぎィ……!》

 鬼はこちらの行動を注視し、攻撃に対して警戒している。

 その間に俺の方は銃のマガジンを入れ替えてリロード。


【隙を見せても襲って来ないあたり、ノーダメだった訳じゃあなさそうだのう】

「だな。……それじゃ悪いが、慣らし運転にもう少し付き合って貰うか」

 ガシャ、とスライドを引いて俺は再び敵に照準を合わせた。


        §――――――――§


《飢ぅぅぅウウウ!》

《ヲォ亜亜亜―!》

 亡者達の壁(・)が獲物に向かって襲い掛かる。


「近くで見ると本当グロいなぁ……」

 サキュバスを降霊(おろ)した月子はボヤきながらゾンビ達の顔面に魔力弾を撃った。

 指鉄砲の先から放たれた〝力〟は針のような細さで死人の頭蓋を撃ち抜き、内部で拡散して後頭部を破裂させる。


 最初の内は球状の魔力塊をぶつけるやり方だったが、捻りを加えて収束させることで弾速と命中精度、そして殺傷力を向上させられることに気付いてからは処理速度がアップした。


《餓ぁアア亜!》

「おっと、っと、よっ、ほっ、はっ!」

 別方向から襲ってきたゾンビの掴み攻撃を回避し、躱(かわ)し、避けて、跳び越え、踏み付ける。


 煽情的な恰好の美少女がふわりと宙返りし、見上げる化物達と視線を合わせた。

挿絵(By みてみん)

「――――『魅了の魔眼《チャームアイ》』」

 紫の妖(あや)しい光が淫魔を降霊した月子の瞳から放たれる。


《ゥ……ぁ……》《Gぅ…………》

 亡者達は光を浴びた途端、揃ってだらりと棒立ちとなった。


 悪魔的美少女の可愛さに見惚(みと)れた……からなどではない。

 死の苦痛で染まった精神を一瞬にして掌握され、暴力と飢餓しか残っていない壊れた頭の中が一時的に漂白されたからだ。

 無論、その隙を見逃す程、蒼鷺月子は甘くない。


「か~ら~の『悦楽の魔宴(オルギアサバト)』!」

 着地した月子が踊るように全身を使ってくるりと回転する。

 花の蕾が開くが如く、魔力が周囲へと拡がって魅了状態の悪魔達を包み込んだ。

 そして根が水を吸い上げるように活性霊子《スピリタイト》をぐんぐん吸引する。


《ぁ…………》

 無抵抗なまま存在する為のエネルギーを吸われた亡者達はボロボロと朽ち果てた。


「……マッズい。体力魔力は回復したけど、マズ過ぎて体調悪くなりそうだよ。ゴミクズ共め」

 青肌の美少女は冷たい表情で吐き捨てる。


 ――――リリの権能、『悦楽の魔宴(オルギアサバト)』は行動不能状態の敵を対象とした吸収(ドレイン)攻撃である。

 使用に条件こそあれど、範囲攻撃且つ効果は強力。雑魚相手ならば一撃で葬り去ることが可能だ。


【マスターって戦闘中メチャ口悪くなるよね~】

(あー、テンション上がるとついそうなっちゃうんだよね、私)

 脳内で雑談をしながら、若き天才は魔法を頭の中で組み立て、狙いを付ける。


「死に腐れ! 『全体氷結魔法(アラスイサズ)』!」

 月子は回収した魔力を攻撃に回し、チャームアイの範囲外だった亡者達に氷柱(つらら)の雨を降らせた。


《がッ》《具ぉッ》《Gィ異ッ》

 既に半分腐っている死人達は身体を氷の槍で貫かれ、砕かれ、凍らされる。

 動く死体は完全に凍って動きを止め、仮初の命を失った。


【やっるぅ~。さっすがマスター♪】

 頭の中で煽て(ヨイショし)てくるリリの声を聞きながら月子は溜息を吐く。

(……人間の形をしているとやっぱり気分良くないなぁ。ハイになっている間は大丈夫だけど、冷静なままってのは難しいね。クロみたいには出来そうもないや)


 月子は震える手をギュッと握り締め……、後ろから近付いて来ていた亡者の腐った頭を一瞥もせずに裏拳で砕いた。

 バゴンッと鈍い音を立てて致命的命中(クリティカルヒット)。ゾンビの顎から上が消滅する。


「うぇっ、バッチい!」

 慌てて手を振るう契約主の中でリリは嘆息した。


【……ご主人サマは十分イカレてるよ……】

*NOTE

 獄卒鬼。地獄にて亡者達に刑罰を与える役割の鬼。牛頭(ごず)鬼(き)や馬頭(めず)鬼(き)が有名。

 外島達が遭遇したのは阿傍羅刹(あぼうらせつ)という名称で、他にも全身が棘で覆われた阿傍夜叉(あぼうやしゃ)という鬼も居る。

        §――――――――§

※NOTE

 キューピッド。ギリシャ神話における恋と性愛の神エロース、と同一視されるローマ神話のクピドーが由来。

 パブリックイメージとしては恋に落ちる矢を持った裸の幼児。厳密には天使ではなく神その物だが、しばしば創作の中では天使面して登場する。

 恋心を起こす金の矢と敵対心を起こす鉛の矢を持っているという。なお、本作では敵対者の心臓を止める鉛の矢(物理)のみ。

       §――――――――§

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