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11話:呼び覚ませ、刻(とき)を超え、我らを

 猿夢を倒し、階段を上って俺達は4階に到着した。

 階層を上がったらまずやるのはお決まりの索敵、そして偵察だ。


「……どうやらこの階には悪魔らしい悪魔が多いみたいだな」

 敵と遭遇しないように距離を取りつつ偵察した結果を月子と共有する。


 下の階と比べて種類が多いというか、別々の悪魔ばかりだ。

 それぞれの名前を挙げるのは面倒なので、ゴエティアとか地獄の辞典だとかに載ってるような連中といってしまえば早いだろうか。


「正直、一体一体が2階のトロール並みかそれ以上じゃない?」

 霊格(レベル)も上がって分析(アナライズ)が段々と上達してきた月子はそう言った。

「だろうな。流石にタフさの面で上回る奴はそうそう居ないと思うが、魔法とかのスキルも使うことを考えると出会い頭にガンガン喧嘩売るってのはキツい」


 レベル帯としては5から7。あのトロールがレベル5だったことを考えれば、まぁ推して知るべしだ。

 といっても、あのブサイクゴリラも武力と再生力に特化した悪魔だったから、レベル通りの強さって訳でもないのだが……。


「もしかして猿夢位に強い奴も居たりするかな?」

「んー、あれはまぁ例外だ。結界で自分の縄張りを作って他の悪魔も餌にしてたから、かなり効率良くスピリタイト溜め込んでただろうしな」


 正直言って、3階の平均レベルからするとちょっとGM(ゲームマスター)の顔面にパンチ食らわせたくなる程度には逸脱した強さだった。

 それを倒せたのは運もあるが、情報を集めることで勝ち筋を構築出来たからだ。

 パワーレベリングだけで何とかなる程、デビルコーラーは甘くねぇぜ……。


「でも多分この階のボスもあれと同等以上なんでしょ?」

「うーん、そうなんだよなぁ……」

 月子の指摘に俺は渋い顔をする。


 猿夢は例外的な強さではあったが、この廃ビルの出口たる4階のボスも法外に強い可能性は高い。

 いやまぁ断言しても良い位の確率だな……。最低でも猿夢と同程度は見ておくべきだろう……。


「ということは」

「この階でも雑魚狩り(レベリング)をしますが、情報収集を重点的に行います」

「アイアイサー。因みに私はレベル4になって長宮さんが疾風魔法(ルン)を覚えたであります」

 月子はゆるっと敬礼し、ボス戦の成果とも言える成長報告をした。


「十分早過ぎる位のペースではあるが、ボスと戦う前にあと1は上げておきたい所だな軍曹」

「誰が軍曹だ。それともう一体位仲間が欲しいね。クーちゃんにせよ長宮さんにせよ、物理主体だから魔法使える子が必要だと思う」

「一理あるが……そう都合良く見付かるかだなぁ」

 俺は腕組みし、うーむと唸る。


 月子は既に二体仲間にしてる訳だが、俺からするとこの時点でかなりラッキーだ。

 実を言うと俺の仲間は初期悪魔のロキを入れて三体で、ユニコーンは本人と直接交渉した訳ではないから、自分でスカウトしたのは残りの一体だけだったりする。


 はっきり言って、野良の悪魔と契約するというのはかなり難しいことである。

 ボールを投げ付けて捕獲する訳でもなければ、倒したら起き上がってこっちを見てくる訳でもない。まず友好的な悪魔に出会わないとほぼ仲間になるかどうかの選択肢すらないといえよう。


「因みに雷神を解禁するという選択肢は?」

「ない。ぶっちゃけコーラーになりたてだったから一瞬暴走しただけで済んだが、より深く力を引き出して狂う可能性もある。自壊しながら暴れ続ける状態とかになったら目も当てられんぞ」

 月子から出された代案を俺はばっさり切り捨てた。

 正直リスクもそこまで高い訳ではない筈だが……、何か嫌な予感がするというのが本音ではある。


「うへー……」

 そりゃ勘弁、という表情を月子は浮かべる。


 どうやらリスクを認識してくれたようだ。余程ボスとの相性が良い場合でもなければ、制御出来ない悪魔を使う選択肢はない。

 ……等と考えていると、スマホの画面が勝手に切り替わって妖しい男の姿が映った。


《クククッ、余り後輩を脅かすなよ。それは最悪のケースだろォ?》

 如何にも性根のひん曲がった喋り方をする悪魔は俺の説明に余計な口を挟んでくる。

「黙っとけロキ」

《お前自身、破滅的な暴走をする可能性は低いと読んでいる。その上で、短時間の運用なら……》


「〝黙れ〟」

 これ以上喋るな、と俺は悪戯の神(トリックスター)を睨み付けた。


 降霊中に頭の中で会話していると、つい本音が漏れてしまうことがあるのが厄介な所だ。

 俺もこの嘘吐きにならって念話でも自由に嘘を吐けるよう練習した方が良いかもしれん。嘘だが。


《クク……、過保護だねェ……》

 ロキはオーバーな仕草で肩を竦め、すぅっと消えて行く。


「はぁ……、全くこれだからあの悪神は……」

 残された俺は悪態を吐き、それを見て月子が苦笑した。

「ま、私はクロの判断に従うよ」

「……悪ぃな」


 俺の謝罪に対して、月子はからからと笑う。

「気にしないで。信じてるから」

「……あいよ」

 幼馴染にして親友であり恋人から向けられる無防備な信頼がむず痒く、俺はガリガリと頭を掻いた。


        §――――――――§


《ツイてねえ……。酒が……足りなかった、か……》

《悪酔いしてしもうたみたいやな……》

《クソ、飲み足りねぇ、ぜ……》

「……何だったんだろうね、あの酒クズ三連星」

「別に酒と関係ある伝承持ちでもないしなぁ……」


《悪いわね、私も用事があるから仲間にはなれないわ。でもカップラーメンとやらは美味しかったし、お返しにコレをあげるから許して頂戴》

「お、邪視の指輪。呪詛耐性装備は有り難いな」

《それと、もしニスロクって悪魔と会えたら教えて欲しいの。それじゃあ、また会える日を楽しみにしてるわ。美味しい物を用意しておくようお願いね》


「ふーん……。何らかの目的があって物質界に来ている悪魔も居るんだね」

「さっきの酒クズ達も酒を集める目的で作られた分霊だったのかもしれないな」

「そんなことある?」

「わからん」


《オイ、クソヒューマン! 有り金寄越しな! 安心しろよ、パチで勝ったら返すから!》

「こいつこれで友好的な悪魔ってマジ?」

「見事にクズだね。っていうか悪魔なのにパチスロやったこと有るの?」

《有るぜ、今は超高レートの沼(スワンプ)って台にハマってる!》

「首までハマってる……! 百パーイカサマに……!」


《クックックックッ……、捧げられし供物は受け取ろう。だが貴様らの願望を満たす契約ではない》

《プレゼントありがとう、でも君達の仲間になることは出来ないんだ。約束もしてないからね》

《我が罪科(ざいか)の炎を畏(おそ)れよ! 穢れなき身とて等しく闇の炎に呑まれることとなろう!》

《自分は悪い奴なので余り仲良くしない方が良いよ。影響受けるかもしれないし》

《我が覇道を共に征かんとするならば一切の善を捨てることだ!》

《仲間にしたかったら悪属性になってきてね》

《フォルネーーウス! 一々要らんことを言うな!!》

「新手の漫才コンビか?」


        §――――――――§


「――……はぁ、中々仲間になってくれる悪魔は居ないねぇ」

 月子は肩を竦めて溜息を吐く。

 何やかんや戦闘も交渉も何件かこなしたが、どれも一筋縄で行く相手ではなかった。

 結局釣果はゼロ。DDやアイテムは得ているが、ボス悪魔についての情報も今の所無しである。


「まぁそういう時もある。いつもいつでも上手く行く保証はどこにもないからな」

「J●SRACが来そうな台詞やめい」

 ボールを投げてゲット出来るのならもっと簡単だったのだが。


「でも思ってたより交渉可能な悪魔が多い。これなら一体位スカウト出来そうなもんだが、っと……!」

 手首の傷痕にピリッと走る痛痒。これは中々の気配だ。

 しかもこちらに気付いている。エネミーソナーには敵対存在と表示されてはいないが……。


《――――ちょっとそこのニンゲン、アタシの質問に答えないと殺すわよ》


 現れて早々に物騒な脅しを掛けてきたのは、やたら露出度の高い恰好をした少女姿の――青い肌に白目が黒い金眼で角を生やしてはいるが――悪魔だ。

 敵意はないのかと思ったが、結構ピリ付いてないかこれ?


「聞くだけ聞いてやるよ」

 俺は処刑人の斧(ヘッズマンアックス)を構えて話の先を促した。

 戦闘に入るにしても、アナライズの時間を稼いでおくのは悪くない。あとは名前でも分かれば解析速度も上がるんだが……、コイツ(・・・)は(・)何(・)だ(・)?


 相手に質問をして来るといえばスフィンクスが有名だが、全然その要素はない。赤い紙青い紙しかり、口裂け女しかり、日本の怪異にも質問をしてくるのは居るし、探せば他にも色々と居るだろうが……。


《……アンタ、サキュバス(・・・・・)ってニンゲン(・・・・)だと思う?》

 俺が目の前の悪魔の正体について考えを巡らせていると、思いも寄らぬ質問が飛んできた。

「はあ?」

 思わずアホみたいに聞き返す。


 何だそりゃ。そんな質問をしてくる伝承とか思い当たらないし、俺の知らない悪魔か? それとも謎掛け(リドル)とは全く関係ない悪魔だったりする??


《いいから答えなさいよ……!》

 焦れた様子で青肌の女悪魔が俺に答えをせっついてきた。

 この手の質問は間違えたりすると不味いことが多いが、まさかこの答えが違うとはならない筈だ。


「……そんなの人間に決まってる(・・・・・・・・)だろ。サキュバスの正式名称は『第二種ヒト由来分泌物摂食体質』、人間扱いしないのはシンプルに差別だぞ」


 俺がごく普通の常識を答えると、正体不明の女悪魔は頭を抱えてうずくまり、ぶるぶると震える。

 そして叫んだ。


《――うわー! ヤバい世界に来てしまったーっ!!》

*NOTE

 第二種ヒト由来分泌物摂食体質:この世界における、いわゆるサキュバス。生命維持に男性の精液を食べる必要がある体質を指す。

 1980年代までの学術的な名称としては医療的共生種・二型。亜人の一種として差別されていたが、現在は人種の一つに認められている。2020年時点で人口比はノーマルが75%、獣人(アニマロイド)が10%、サキュバスとヴァンパイアとエルフとドワーフが合わせて14%、残りの1%が混血とされている。

 遺伝子によって特定の外見的形質が発現することは科学的に解明されているが、彼らの起源については謎が多いとされている。

 因みに神話上の逸話としては残っているので、サキュバスという悪魔/概念が完全に消滅している訳ではない。但し、人種としてのサキュバスに〝持っていかれる〟ので、普通は悪魔として存在を確立出来ず、仮に出来たとしても段々と弱体化して消滅してしまう。

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