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ハズレスキル『半額シール』で異世界無双!〜ただの紙切れで敵のステータスを値引きしてたら、いつの間にか神造兵器を量産してました〜  作者: 月神世一


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EP 8

悪魔のおもてなし(罠)と、エリートの葛藤

「……おい、エリートさん。せっかくウチの店に遊びに来てくれたんだ。まあまあ、そんなカリカリしないで、これでも食って温まってくれよ。……奢りだぜ?」

 スーパー折原の屋上。深夜の冷たい風が吹き抜ける中、泥酔した店長・折原晴也は、極上の(そしてどう見てもド黒い)営業スマイルを浮かべ、メガ・マーチャント商会の専務ザルドの前に、一つの『ワンカップラーメン』を差し出した。

 普通のカップ麺ではない。熱湯の代わりに、度数40の強烈な芋酒『イモッカ』を沸騰させて注いだ、狂気の沙汰としか思えない【イモッカップラーメン】である。

「な……ッ! ふざけるな!」

 ザルドは、手に持っていた爆炎の杖を震わせながら、目の前のプラスチック容器を睨みつけた。

「私を誰だと思っている! アナスタシア世界最大の巨大チェーン企業、メガ・マーチャント商会の次期社長候補筆頭、このザルドだぞ! 普段口にしているのは、三ツ星レストランのフルコースや、最高級の熟成肉だけだ! こんな……こんな、見るからに体に悪そうな下賤のジャンクフードなど、口が裂けても食うものかァッ!」

 ザルドは、エリートとしての矜持を振り絞り、全力で拒絶の声を上げた。

 ……だが。

 彼のその威勢の良い言葉とは裏腹に、彼の視線は、カップ麺から立ち昇る『妖しい湯気』に完全に釘付けになっていた。

 モワァァァァッ……。

 度数40のアルコールが揮発し、醤油とアミノ酸(化学調味料)のジャンクな匂いを乗せて、ザルドの鼻腔を容赦なく蹂躙していく。

(ぐ、うぅ……! なんだ、この暴力的な匂いは……ッ!)

 ザルドの胃袋が、キュルルルッ! と、彼のエリート人生で最も情けない音を立てて鳴り響いた。

 無理もない。彼は昨日から、スーパー折原の異常な強さを前にストレスを溜め込み、昼間の『ダンピング大失敗』の対応に追われ、まともな食事を一切とっていなかった。

 極限の疲労。

 猛烈なストレス。

 そして、深夜という、人間の食欲のタガが最も外れやすい魔の時間帯。

 そこに、地球の科学の結晶であるジャンクフードと、異世界最強のアルコールが融合した『匂いの爆弾』を直撃させられたのだ。ザルドの肉体(生物としての本能)は、すでに白旗を上げていた。

「ガッハッハ! おいプロデューサー、これマジでヤベェぞ!」

 ザルドの横で、竜人イグニスが目を血走らせながらカップ麺を貪り食っていた。

「麺を啜るたびに、イモッカの強烈なアルコールがガツンと脳天を殴りにきやがる! なのに、地球の醤油のしょっぱさがそれを中和して、無限に箸が止まんねぇ! 竜の肝臓でもブッ倒れそうなパンチ力だぜェッ!」

 ズズズズズッ! と、豪快に麺を啜る音。

「……ふふっ。悪くないわね」

 魔王ラスティアも、普段のクールな態度はどこへやら、頬を真っ赤に染めて黄金色のスープを啜っていた。

「アルコールの熱気で、体の芯から燃えるように熱くなるわ……。地球の『MSG(化学調味料)』って言ったかしら? これ、絶対に合法な成分なの? 魔王軍の秘薬よりよっぽど依存性が高いじゃないの……あぁ、スープが止まらない……」

「ひぃぃッ! 辛い! 喉が焼けるぅッ! でも美味しいですぅぅッ!」

 ピンクの芋ジャージを着たルチアナは、涙目で咳き込みながらも、麺をズルズルと口に運んでいる。

「これ、借金七億の現実を完全に忘れさせてくれる味よ! 一口食べるごとに、ソシャゲのガチャで爆死した悲しみがアルコールで溶けていくわ! 究極の現実逃避メシね!」

 限界労働者たちが、次々とイモッカップラーメンの虜になり、快楽の沼へと沈んでいく光景。

 ザルドは、それを横目で見ながら、ゴクリと大きく生唾を飲み込んだ。

(ば、バカな……。あんな、ただお湯……いや、酒を注いだだけの乾燥麺の塊が、それほどまでに美味いというのか?)

 ザルドは、震える目で、自分の前に置かれたカップ麺を見下ろした。

(いや、騙されるな! これは罠だ! あの狡猾な店長が、私を毒殺……あるいは腹を下させて、明日の役員会議に出席できなくするための策略に違いない!)

「ほら、エリートさん。食わねぇの?」

 ハルヤが、ジョッキに残ったイモッカの原酒を呷りながら、意地悪く笑った。

「食えば分かるさ。クーラーの効いた本社で、綺麗なグラスに入ったワインを傾けてるだけじゃ、絶対に辿り着けない『味』ってヤツがな」

「……ッ!」

「あんたら巨大チェーンは、俺たち個人店を『泥臭くて小汚い』って見下してるんだろうが……。本当に美味いモンってのは、そういう泥臭い現場の、深夜の屋上の、こういうバカみたいなノリの中から生まれるもんなんだよ」

 ハルヤは、割り箸の先で、ザルドの胸元をツンと突いた。

「どうした? 巨大商会の専務サマは、未知の味に挑戦する度胸もねぇのか? だから、ウチの店に客を全部持ってかれるんだよ」

 ――ピキッ。

 その言葉が、ザルドの薄っぺらいエリートのプライドを、見事にへし折った。

「……き、貴様ッ! 巨大商会を、この私を舐めるなよッ!」

 ザルドは、握りしめていた爆炎の杖をバンッ! と木箱の上に叩きつけた。

「いいだろう! そこまで言うなら、その下賤なジャンクフードとやらを食ってやる! そして、こんなゴミのような代物が、いかに不味く、いかに価値のないものかを、エリートである私の完璧な味覚で証明してやるわッ!」

 完璧なまでの『負けフラグ(言い訳)』を構築したザルドは、乱暴な手つきで割り箸をパチン! と割った。

(そうだ、これは毒見だ。敵の出す商品の『品質チェック』の一環に過ぎない。一口だけ……一口だけ食って、あとはペッと吐き出して、「こんな不味いもの食えるか!」と鼻で笑ってやればいいのだ!)

 ザルドは、割り箸をカップの中に突っ込み、スープの染み込んだ縮れ麺を、ガバッと大きくリフトアップした。

 その瞬間。

 ブワァァァァッ! と、麺に絡みついた熱々のアルコール蒸気と、醤油パウダーの暴力的な匂いが、ザルドの顔面を直撃した。

「ぐふッ……!」

 目に染みるほどの強烈なアルコール。普通ならむせ返るところだが、ザルドの極限まで空腹だった胃袋は、その匂い信号を『極上のご馳走』として脳に誤認伝達した。

(く、くそッ! なんだこの、頭の芯を揺さぶるような匂いは! 早く……早く口に入れて、この匂いの正体を確かめなければ……!)

 ザルドは、もはや自分が「不味さを証明する」ために箸を持ったことすら忘れかけ、本能のままに、大きく口を開けた。

 そして。

 ズズズズズッ……!!

 ザルドは、イモッカップラーメンの麺を、勢いよく啜り込んだ。

 熱々の麺が、唇を通り、舌の上へと滑り込んでくる。

 ――カッ!!

 その瞬間。

 ザルドの脳内で、今まで彼が築き上げてきた『味覚のヒエラルキー』が、文字通り大爆発を起こして木っ端微塵に吹き飛んだ。

「!!??」

 ザルドの瞳孔が、極限まで開いた。

 最初に味覚を襲ったのは、地球のジャンクフードが誇る『圧倒的な塩分と旨味(化学調味料)』の暴力である。

 高級レストランの上品な出汁などではない。人間の「美味い」と感じる本能のスイッチを、バールのようなもので無理やりこじ開けるような、直接的で下品な旨味。

 だが、深夜の空きっ腹に、これほど染み渡る味はない。

 そして、そのジャンクな旨味を口の中で堪能した、まさに次の瞬間。

 遅れてやってきた【アルコール度数40の揮発爆弾】が、ザルドの喉から鼻腔へ向けて、凄まじい勢いで突き抜けたのだ。

「が、はッ……!? か、カァァァッ!!」

 ザルドの喉の奥が、カッと熱く燃え上がった。

 普通の酒を飲むのとは次元が違う。熱々のスープと共に気化した度数40のアルコールが、粘膜から直接血流に乗り、マッハの速度で脳へと到達する。

(な、なんだこれは……ッ! 醤油のしょっぱさの後に、焼けるような酒の熱さが……! だが、アルコールのおかげで、ジャンクフード特有の油っこさが完全に中和されて、むしろ『爽快感』すら感じるぞ!)

 ザルドの脳髄から、彼がエリート人生で一度も経験したことのない、凄まじい量のエンドルフィン(快楽物質)がドバドバと分泌され始めた。

 高級ワインを静かに嗜むのとは違う。これは、脳を直接アルコールと旨味の棍棒で殴りつけるような、野蛮で、そして最高に『気持ちのいい』体験だった。

「どうだ、エリートさん」

 ハルヤが、ニヤニヤと笑いながらザルドの顔を覗き込んだ。

「不味いか? 吐き出してもいいんだぜ?」

「……っ……」

 ザルドは、割り箸を持ったまま、ブルブルと全身を震わせた。

 吐き出す? 冗談ではない。彼の手は、彼の意志とは無関係に、二口目の麺を掬い上げるために自動的に動き始めていた。

(ば、馬鹿な……。こんな、こんな泥臭くて、体に悪そうな下賤な食べ物が……! 私が今まで食べてきた、どんな高級料理よりも……美味い、だと……!?)

 ザルドの目から、ポロリと一筋の涙がこぼれ落ちた。

「ズ、ズズズッ……!! はむッ、むぐッ……!!」

 エリートのプライドなど、もうどこにもなかった。

 ザルドは、漆黒の高級スーツの襟元に醤油のシミが跳ねるのも構わず、犬のように顔をカップに近づけ、無我夢中で麺を貪り食い始めた。

「う、うおおぉぉぉッ!!」

 一口啜るごとに、度数40のアルコールがザルドの理性をゴリゴリと削り取っていく。

「美味い! なんだこれは! 辛い! 熱い! でも美味い! 塩分が……アルコールが、私の疲労とストレスを、細胞レベルで癒やしていくゥゥッ!」

「ガッハッハ! 良い食いっぷりじゃねぇかエリートさんよ! ほら、スープも全部飲み干しちまえ!」

 イグニスが、背中をバンバンと叩いて煽る。

「言われるまでもないわァッ!」

 ザルドは、カップを両手で持ち上げ、黄金色に輝くイモッカ・スープを一気に喉の奥へと流し込んだ。

 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……!

 プハァァァァァァッッ!!

「……カァァァァァッ!! 最高だァァァァッ!!」

 ザルドは、空になったカップを放り投げ、深夜の星空に向かって咆哮した。

 だが、それは同時に、彼の中に残っていた最後の一ミリの『社会的理性』が完全に蒸発した瞬間でもあった。

 限界まで空腹だった胃袋に、度数40のアルコールをスープごと一気飲み。

 その結果がどうなるかなど、火を見るよりも明らかである。

「……おや? エリートさんの様子が……」

 ハルヤが、わざとらしく目を丸くした。

 ザルドの顔は、茹でダコのように真っ赤に染まり、その目は完全に焦点が合っていなかった。

 彼の内側で、抑圧されていたエリートのストレスと、強烈なアルコールが核融合を起こし、信じられない『モンスター』を産み落とそうとしていたのだ。

「ふ、ふふ……アハハハハハハハッ!!」

 ザルドが、突然、両腕を天に突き上げて狂ったように笑い始めた。

「……ん? なんだ? 酔い潰れて寝るんじゃねぇのか?」

 イグニスが首を傾げる。

 メガ商会の冷酷専務・ザルド。

 彼のエリート人生は、一杯の狂気のカップ麺によって完全にトドメを刺され、ここから彼自身すら予測不能な【完全なる社会的な破滅(全裸暴走)】へと突入していくのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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