表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキル『半額シール』で異世界無双!〜ただの紙切れで敵のステータスを値引きしてたら、いつの間にか神造兵器を量産してました〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/84

EP 2

買収工作と、限界労働者たちの忠誠心(?)

 スーパー折原の強固すぎる『産地直送(魔物と人魚のコネ)』システムを前に、物流封鎖という最大のカードを秒で無力化されたメガ・マーチャント商会の専務、ザルド。

 彼はポポロ村の村外れに停めた漆黒の装甲馬車の中で、ギリッと奥歯を噛み締めていた。

「……おのれ、辺境のスーパーの店長ごときが。巨大チェーンの嫌がらせを鼻で笑いおって」

 ザルドは、高級な革張りのシートを拳で叩いた。

「だが、あの店の強さの根源は分かった。あの規格外の魔力と戦闘力を持った従業員たちだ。竜人が肉を狩り、人魚が魚を呼び、ウサギの村長が野菜をかき集める。……ならば、話は簡単だ」

 ザルドは、ニヤリと冷酷な笑みを浮かべた。

「圧倒的な資本力で、あのバケモノどもを『引き抜き(ヘッドハンティング)』してやればいい! 金を積まれてなびかない労働者など、この世界には存在しないからな!」

 翌日の昼下がり。

 スーパー折原の裏手、休憩スペースとして使われているバックヤードの勝手口に、怪しい漆黒のスーツ姿の男――ザルドが忍び寄っていた。

 彼の両手には、ズッシリと重いアタッシュケースが握られている。

「……フッ。ちょうどいい、一人でサボっている奴がいるな」

 ザルドの視線の先には、積み上げられた空の段ボールの陰で、ピンクの芋ジャージを着てポテトチップスを貪っている女神、ルチアナの姿があった。

「そこの彼女。少し、いいかな?」

 ザルドは、極めてスマートな笑みを浮かべてルチアナに近づき、バチンッ! とアタッシュケースを開いて見せた。

 中には、眩いばかりに輝く『金貨』が、山のように敷き詰められている。

「ひゃっ!? き、金貨の山!?」

 ルチアナが、ポテチを落として目をひん剥いた。

「いかにも。私はメガ・マーチャント商会のザルド。君のレジ打ちの才能(?)を高く評価している。どうだ? 我が商会に転職すれば、今の時給の十倍……いや、百倍を約束しよう。このアタッシュケースの金貨は、契約金として君に――」

「ほ、ほんとにぃぃッ!?」

 ルチアナは、飛びつくようにアタッシュケースの金貨を両手で掬い上げた。

「やったぁぁっ! これでソシャゲのガチャが回し放題! 天井までいけるわァァッ!」

 ザルドは勝利を確信した。

(フッ、チョロいものだ。やはり金。金こそが絶対の正義……)

 ――しかし。

 ルチアナが金貨を自分のジャージのポケットに入れようとした、その瞬間。

『ピロリロリンッ! 天界クレジットカード・自動引き落としシステム作動!』

 ルチアナの頭上に謎の光の輪(主神オリンのシステム)が出現し、彼女の手にあった金貨が、シュゥゥゥゥッ! と音を立てて光の粒子へと変わり、虚空へ吸い込まれてしまった。

「……え?」

 ザルドが呆然とする中、ルチアナは膝から崩れ落ちて号泣し始めた。

「ああっ! そうだったぁぁッ! 私は主神様から『金貨七億枚』の借金を完済するまで、スーパー折原の給与天引き以外の収入を一切禁じられてるんだったぁぁッ! 外で現金をもらっても、全部システムに強制回収されちゃうのよぉぉッ!」

「な、ななおく!? 借金七億だと!?」

 ザルドの計算式(エリートの常識)が、完全にバグを起こした。

「ど、どういうことだ!? なぜパートのレジ打ちが七億もの負債を抱えている!? それに、あの謎の光はなんだ!?」

「うるさいわねこのスーツ男! 金貨の回収を見せつけないでよ! あんたの百倍の時給なんて、リボ払いの利息で一瞬で消し飛ぶのよぉぉッ!」

 ルチアナは、逆ギレしてザルドにポテチの粉を投げつけた。

「ぐわっ!? な、なんだこの女は……ッ! わけが分からん!」

 ザルドはアタッシュケースを抱えて逃げるように後ずさった。

(チィッ! あいつはダメだ、完全に多重債務で首が回っていない! ならば、次は……あいつだ!)

 ザルドが次に目をつけたのは、勝手口の横でモップを洗っていた、緑色エプロン姿の魔王ラスティアだった。

「そこの君。君ほどの強力な闇魔法の使い手が、なぜこんな便所掃除のような真似をしているのだ?」

 ザルドは、咳払いをして威厳を取り戻し、ラスティアに声をかけた。

「……あ? なによアンタ」

 ラスティアが、赤い瞳でザルドをギロリと睨みつける。

「我がメガ商会に来い。君なら、一部門を統括する『エグゼクティブ・マネージャー』として迎え入れよう。ふかふかの椅子と、立派な執務室。そして何十人もの部下を思いのままにアゴで使える権利を与えてやる」

 ザルドは、権力と地位という、最も人間を狂わせる蜜を提示した。

 だが、ラスティアの反応は、ひどく冷ややかなものだった。

「……部下の管理? マネージャー?」

「いかにも! 君ほどの威厳があれば――」

「バカじゃないの? なんで私が、自分からそんな『胃痛のタネ』を背負い込まなきゃいけないのよ」

「……は?」

 ラスティアは、モップを絞りながら深いため息をついた。

「私ね、つい最近まで『魔王』なんていう、究極のワンマン経営エグゼクティブをやってたのよ。毎日毎日、血の気の多い魔将どもの喧嘩の仲裁をして、下克上に怯えて、勇者の対策を練って……。おかげで肩こりと胃痛で死にそうだったわ!」

「ま、魔王……!? 貴様が、あの伝承の魔王だというのか!?」

 ザルドが驚愕で顔を引きつらせる。

「そんな地獄みたいな管理職、二度とごめんよ。言われたところを掃除して、たまにレジを打って、終わったら店長の作った美味しい『まかない(コロッケ)』を食べる。……責任は全部店長が被ってくれる。こんなに最高で気楽なポジション(平のパートタイマー)、絶対に手放すわけないじゃない!」

「魔王が! 責任と権力を捨てて、コロッケとレジ打ちに魂を売っただとォォッ!?」

 ザルドは頭を抱えた。巨大チェーンの幹部である彼にとって、「出世と権力に興味のない実力者」など、全く理解できない未知の生物であった。

「……ええい、こうなったら最後の手段だ!」

 ザルドは、ちょうど特設ステージの片付けをしていた人魚姫のアイドル、リーザの前に立ち塞がった。

「そこのお嬢さん! 君はアイドルだな! 私は君の才能を見込んだ! 我がメガ・マーチャント商会の圧倒的ネットワークを使えば、こんな辺境の駐車場ではなく、王都の巨大ドームで『メジャーデビュー』させてやれるぞ! 世界中が君に熱狂する!」

「メジャーデビュー! 王都の巨大ドームですの!」

 リーザのサファイアの瞳が、キラキラと輝いた。

「いかにも! 個人店スーパーの専属などというケチ臭い枠組みは捨てて、私と契約――」

「で? そのメジャーデビューとやらをしたら、私はお客様に『金貨十枚でクリームまみれのチェキ』を押し売りしたり、半額の刺身を抱き合わせで買わせたりしてもいいんですの?」

 リーザが、小首を傾げて極めて純真な笑顔で尋ねた。

「…………は?」

 ザルドは耳を疑った。

「バ、バカな! そんな悪徳商法、商会のコンプライアンスが許すわけがない! アイドルたるもの、清純で健全なイメージを保ち、適正価格のグッズで薄利多売を――」

「だったらお断りですの!」

 リーザが、ベェッ! と舌を出した。

「私、たくさんの人に愛されるより、一人の石油王(VIP)から極限までお金を搾り取る『地下アイドル』の方が性に合ってますの! プロデューサーさん(店長)の作るステージなら、私のやりたい放題ボッタクリが許されますの! それに、あの人は私の最高のプロデューサーですの! マネーのないチェーン店なんかにお引越ししませんのーだ!」

「コンプライアンス無視のボッタクリがやりたいから、巨大チェーンのオファーを蹴るだとォォッ!?」

 ザルドの脳の血管が、ピキピキと悲鳴を上げた。

 ――メガ・マーチャント商会が誇る、完璧な「ヘッドハンティング工作」。

 それは、多重債務の女神、管理職(魔王)のストレスから逃げ出した魔王、そして強欲を極めた地下アイドルという、スーパー折原の『限界労働者たちの異常すぎるエコシステム』の前に、完膚なきまでに叩き潰されたのであった。

「おい、そこの黒服のおっさん。さっきからウチの従業員に何ちょっかい出してんだ?」

 騒ぎを聞きつけて、店長のハルヤがバインダーを片手にバックヤードから出てきた。

「て、店長さん! このおじさん、私をメジャーデビューさせて薄利多売させようとしましたの! 慰謝料として金貨百枚請求しますの!」

「だからお前はどさくさに紛れてボッタクろうとするな」

 ハルヤはリーザの頭を軽く小突いてから、ゼェゼェと肩で息をしているザルドを見下ろした。

「……あんた、メガ商会の専務だっけ? 仕入れルートの封鎖がダメだったから、今度は引き抜きか? やることがいちいちセコいんだよ、エリートさん」

「き、貴様ァァッ……!」

 ザルドは、屈辱で顔を真っ赤にして、ハルヤを睨みつけた。

「お、覚えておけ! 私の買収工作を断ったこと、必ず後悔させてやる! 貴様の店の前に、我が商会の『真の恐怖(暴力)』を打ち立ててやるからなァァッ!!」

 ザルドはアタッシュケースを抱え、半狂乱になりながら漆黒の装甲馬車へと逃げ帰っていった。

「……真の恐怖ねぇ」

 ハルヤは、走り去る馬車を見送りながら、呆れたようにため息をついた。

「巨大チェーンのお偉いさんが、わざわざ泥臭い嫌がらせをしてくるとはな。……まあいい、来るなら来い。小売業の最前線スーパーで鍛え抜かれた俺とこいつらの日常が、そう簡単に崩れるもんか」

 だが、この時のハルヤたちはまだ知らなかった。

 プライドを完全にズタズタにされたエリート専務が、チェーン店の持つ『最大の暴力』――すなわち、圧倒的な資本に物を言わせた【物理的な物量作戦】に打って出ることを。

 翌朝、スーパー折原の目の前に現れる『絶望の光景』を前に、さすがのハルヤも冷や汗を流すことになるのであった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ