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ハズレスキル『半額シール』で異世界無双!〜ただの紙切れで敵のステータスを値引きしてたら、いつの間にか神造兵器を量産してました〜  作者: 月神世一


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EP 9

監査結果と、給与天引きの刑

 ガラガラガラガラッ……。

 夕闇が迫るポポロ村に、スーパー折原の重厚な防護シャッターが下ろされる音が響き渡った。

「ふぅ……。本日の営業、これにて完全終了だ! 全員、本当にお疲れ様!」

 俺――折原晴也がパンッ! と手を叩いて宣言すると、店内のあちこちから「お疲れ様でしたーっ!」という、疲労と達成感の入り交じった声が上がった。

「あーっ、死ぬかと思ったわ! さすがに遠征組の主婦たちのパワーはヤバいわね……」

 ウサギの耳をだらんと下げたキャルルが、レジカウンターに突っ伏す。

「私も、品出しで店内を百周くらい走った気がしますぅ……」

 ルルナもフラフラと歩きながら、近くの段ボール箱に腰を下ろした。

 月に一度の大特売日。その狂乱のタイムセールは、店長である俺の胃壁を削り取る過酷な戦いだったが……今日に限っては、最大の『功労者』の存在により、かつてないほどのスムーズな店舗運営が実現していた。

「……見事だ」

 静まり返った店内に、低く、威厳に満ちた(そしてどこか清々しい)声が響いた。

 三番レジの前に立つ、純白の高級スーツの上に緑色のエプロンを纏ったハゲ頭の男。天界の絶対神にして、本部のスーパーバイザー(SV)を名乗っていた男、オリンである。

 彼は、真っ黒なサングラスを外し、夕日に照らされたピカピカのスキンヘッドを輝かせながら、レジのドロワー(引き出し)の中を見つめていた。

 そこには、溢れんばかりの銅貨、銀貨、そして金貨が、ずっしりと詰め込まれている。

「たった数時間……。私のこの両手でバーコードを読み取り、客に商品を渡しただけで、これほどの『価値(利益)』が生み出されたというのか」

 オリンの目は、もはや部下の粗探しをしに来た厄介な監査官のそれではない。

 労働の尊さと、客からの直接の「ありがとう」という対価を知ってしまった、一人の『真の小売業者』の顔になっていた。

「どうだSV。現場フロアの地獄……いや、小売業の醍醐味はたっぷりと味わえたか?」

 俺は、冷えた麦茶の入った紙コップを二つ持ち、オリンの隣に並んで立った。

「ああ。……これほどまでに心が震え、魂が満たされた時間は、私の数万年の神生においても初めてのことだった」

 オリンは麦茶を受け取り、ゴクリと喉を鳴らして飲み干した。

「……店長君。私は今日、この店舗の『粗探し』をするためにやってきた。法的な抜け道、コンプライアンスの違反、倫理的な腐敗……。それを暴き出し、天界の権限をもってこの店を営業停止にするつもりだった」

「知ってるよ。嫌な目つきで店内をウロチョロしてたからな」

 俺が鼻で笑うと、オリンは真剣な表情で俺に向き直り、深々と頭を下げた。

「謝罪しよう。私の目が曇っていた」

「……お?」

「この店に、不当なコンプライアンス違反など存在しない。竜の炎も、魔王の闇魔法も、すべてはお客様に『最高の商品と安全』を届けるための、究極の企業努力オペレーションに過ぎなかった。……そして何より」

 オリンは、胸に手を当て、熱を帯びた声で語った。

「この店には、働く者の『喜び』がある。お客様からの『感謝』が、ダイレクトに心に響く素晴らしい環境が整っている。これこそが、真の労働のサンクチュアリ(聖域)だ! 天界の無味乾燥な執務室などとは比べ物にならない、至高の職場であると、この私が保証しよう!」

「……へぇ。本部のSV様から、そこまで言ってもらえるとはな」

 俺は照れ隠しに前髪をかき上げた。

(まあ、揚げたてのビーフコロッケと、胃腸薬で完全に餌付けした結果でもあるんだがな。それに、神速のレジ打ちの快感に完全に脳が焼かれちまったみたいだし)

「よって、特任視察員オリンの権限において、スーパー折原の監査結果を『特Sランク(完全合格)』とする! この店は、下界の民の笑顔と、私の胃袋を支える重要な拠点として、永遠に営業を許可するッ!」

「ウオォォォッ! やったぜプロデューサー!」

「さすがですのーッ! おじ様、話が分かりますのーッ!」

 イグニスやリーザたちが、歓声を上げて拍手喝采を送る。

 だが、その歓喜の輪の中で、ただ一人だけ、顔面を土気色にして後ずさっている者がいた。

「……よかったわね、店長。それじゃ、私はこれで……今日はもう上がらせてもらうわね。ソシャゲのスタミナが溢れちゃうから……」

 ピンクの芋ジャージを着た女神ルチアナが、抜き足差し足でバックヤードの扉へと逃げ込もうとしていた。

「――待ちなさい、ルチアナ君」

 ピタリ。

 オリンの声が、先ほどまでの「感動したおっさん」のトーンから、絶対零度の『天界の主神』のトーンへと切り替わった。

 その声に込められた神威に、ルチアナの体がビクゥッ! と硬直し、カクカクとした動きで振り返った。

「は、はいぃぃっ……! な、なんでしょうか、主神様ぁ……」

「この店舗の素晴らしさは、よく理解できた。……だが、それと『貴様の犯した罪』は、全くの別問題だ」

 オリンは、純白のスーツの内ポケットから、一枚の赤い紙——『天界クレジットカードの利用明細(督促状)』を取り出し、ルチアナの目の前に突きつけた。

「ひぃッ!?」

「ソシャゲのガチャ天井費用、動画配信サイトへのスパチャ代……。さらには、天界のファイアウォールを物理的に破壊し、ドローンの回線をジャックしたことによるサーバー修繕費。……合計リボ払い残高、【金貨七億枚】」

 オリンが、地獄の底から響くような声で読み上げる。

「な、ななおく!? 金貨七億枚ですの!?」

 リーザが、その天文学的な数字を聞いて白目を剥いて卒倒しかけた。

「ば、馬鹿野郎……。国家予算レベルの借金じゃないか。いくら神様でも、どうやって返すつもりだったんだ……」

 俺も、さすがに引いてしまった。

「ち、ちがうんです主神様! あれは、どうしても推しのアイドルの危機を救うために必要不可欠な経費でして……! て、天界の経費としてなんとか……!」

 ルチアナが、ポロポロと涙を流しながら見苦しい言い訳を並べ立てる。

「黙れッ!!」

 オリンの怒号が、店内の空気をビリビリと震わせた。

「私に代行で決裁書類を押し付け、私の慢性神経性胃炎を悪化させた挙句、天界の予算を食いつぶした大罪! 本来ならば、神格を剥奪し、魔界の最下層にある『無限書類整理地獄』へ一万年ほど叩き落とすところだが……」

 オリンは、そこで言葉を区切り、スッとサングラスを掛け直した。

「私にも慈悲がある。そして、この素晴らしい店舗の『労働の価値』を知ったからこそ、貴様に最も相応しい更生プログラム(判決)を言い渡してやろう」

「こ、更生プログラム……?」

 ルチアナが、すがるような目でオリンを見上げる。

「うむ。ルチアナ君。貴様は今日から向こう【一千年間】。天界への帰還を禁ずる」

「えっ?」

「この『スーパー折原』において、住み込みのアルバイトとして働き続けなさい。そして、お客様の笑顔のために汗水垂らして労働し、その対価として得た時給から、毎月きっちり【給与天引き】で、金貨七億枚の借金を返済するのだ!」

「…………は?」

 ルチアナの口から、間の抜けた声が漏れた。

「そして、労働の尊さと、五円玉の重みを、その身に魂レベルで刻み込むのだ! これは主神オリンの名において下す、絶対の判決である!」

「い、一千年!? スーパーのレジ打ちで、金貨七億枚を返済!? む、無理よ! そんなの、永遠にリボ払いの利息しか払えないじゃないのォォォッ!!」

 ルチアナが、床に突っ伏して絶望の叫びを上げた。

 時給数百円のパートタイマーが、数十億円の借金を返す。それは文字通り、神の寿命をもってしても終わりの見えない『真の地獄』の始まりを意味していた。

「自業自得だ。ま、せいぜいウチの店で馬車馬のように働いてくれよ、ルチアナ」

 俺は、絶望する女神を見下ろしながら、容赦なく言い放った。

「これで、優秀な(サボり癖はあるが)レジ打ち要員が、向こう一千年は確保できたってわけだ。人手不足に悩む小売業としては、最高の判決だな!」

「鬼! 悪魔! 店長のドケチィィィッ! 私のソシャゲライフが、人生がぁぁぁッ!」

 ルチアナが、床をバンバンと叩いて号泣する。

「ガッハッハ! よかったじゃねぇかルチアナ! これで一千年はプロデューサーのまかない(コロッケ)が食えるぜ!」

「慰めになってないわよバカ竜人ォォッ!」

 天界のトップ・主神オリンによる抜き打ち監査は、こうして『スーパー折原の完全勝利(合格)』と、『ルチアナの永遠の労働地獄』という、あまりにも対照的な結果をもって幕を閉じた。

「……フッ。見事な采配だっただろう、店長君」

 オリンは、満足げに頷き、自分の着ていた緑色のエプロンを丁寧に畳み始めた。

「ああ、助かったよ。これで明日からも安心して店が開ける」

 俺が言うと、オリンはピタッと手を止め、サングラスの奥で目を輝かせた。

「明日……そうか、明日もこの店は開くのだな」

「ん? まあ、スーパーだからな。年中無休だ」

「…………そうか」

 オリンの口元に、何かを企むような、妙にウキウキとした笑みが浮かんだのを、俺は見逃さなかった。

 だが、この時の俺は、タイムセールの疲労で思考が鈍っており、その笑みの意味を深く追求することはしなかったのである。

 ルチアナの悲痛な叫び声が響き渡る平和なスーパーの閉店後。

 俺たちは、また明日から始まるドタバタな特売日に向けて、静かに英気を養うのだった。

 ……そう、この店の平和を脅かす『新たなる脅威』が、隣町まで迫っていることなど、知る由もなく。

読んでいただきありがとうございます。

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