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ハズレスキル『半額シール』で異世界無双!〜ただの紙切れで敵のステータスを値引きしてたら、いつの間にか神造兵器を量産してました〜  作者: 月神世一


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EP 7

サウナ上がりの甚平と、月明かりの乾杯

「ぷはぁぁぁぁっ……! 最高ぉぉぉッ!!」

 スーパー折原の屋上に、天界のトップ・女神ルチアナの野太い声が響き渡った。

 極限まで熱されたサウナのロウリュウで汗を流し、氷水のような水風呂で毛穴をキュッと引き締めた後、秋の夜風を全身に浴びる。いわゆる『ととのう』という境地に達した彼女の顔は、神々しいほどにツヤツヤと輝いていた。

「はぁ〜、生き返ったわ。ここ数日の『偽勇者のヤラセ配信阻止』とか『顔面パイの暴動』とか、いろんな疲労がドバッと抜けていった気分よ」

 ルチアナは、俺が地球の知識ルルナのガチャで用意した『甚平(紺色の涼しげなやつ)』をラフに着崩し、濡れた髪をタオルで拭きながらテーブルの席についた。

「本当にね。魔王城の薄暗い大浴場より、ここのサウナの方が絶対に質が高いわよ。お肌の調子が全然違うもの」

 隣に座った魔王ラスティアも、お揃いの甚平(こちらは黒)を着て、恍惚としたため息をついている。

 その後ろからは、ウサギの耳をタオルでワシャワシャと拭いているキャルル、ほっぺたをピンク色に上気させたルルナ、そして「アイドルのお肌が完璧に仕上がりましたの!」とドヤ顔を決めているリーザが、それぞれ涼しげな甚平や浴衣姿で上がってきた。

「おう、女子ども! サウナ上がりで喉がカラカラだろう! 俺様が極上の火加減で焼いた『ロック鳥のネギマ串』が、バッチリ焼き上がってるぜェッ!」

 ドラム缶コンロの前でトングを振るうイグニスが、香ばしい煙と共に声を上げる。

「うわぁっ、いい匂い! 早く、早く飲ませて店長! 喉が砂漠みたいに乾いてるのよ!」

 ルチアナが、バンバンと木箱のテーブルを叩いて催促する。

「慌てるな。今作ってやるから、ジョッキを持って並べ」

 俺は、クーラーボックスからキンキンに冷えたジョッキを取り出し、手際よく氷を放り込んだ。

 そこに、度数40の悪魔の芋酒『イモッカ』を注ぎ、強炭酸水を勢いよく注いでマドラーで一回だけステアする。シュワァァァッ! という爽快な音と共に、細かい気泡がジョッキの底から立ち昇る。

「まずは、ルチアナとラスティア、そしてキャルルの大人組に『イモッカ・ハイボール』だ。度数が高いから、一気飲みはするなよ」

「「「やったぁぁっ!!」」」

 三人が、目を輝かせてジョッキを受け取る。

「俺様は『サケスキー』のロックで頼むぜプロデューサー! ガツンと来るやつが飲みたい気分だからな!」

「ああ、わかってる。ルルナとリーザは未成年(※アナスタシア世界の基準)だから、地球の『ジンジャーエール』な。これでも十分にシュワシュワして美味いぞ」

「はいっ! いただきます!」

「むむっ、子供扱いですか。でも、泡がパチパチしてて美味しそうですの!」

 全員の手にジョッキやグラスが行き渡り、イグニスが焼いた熱々のネギマ串が大皿に盛られてテーブルの中央にドカンと置かれた。

 秋の涼しい夜風が、香ばしい醤油の匂いを運んでいく。

 頭上には、まあるい満月が、俺たちの宴を祝福するようにぽっかりと浮かんでいた。

「……よし、全員揃ったな」

 俺は、自分のグラス(俺は酒が弱いので薄めのサケスキー水割りだ)を手に持ち、立ち上がった。

「今日は本当に色んなことがあった。店の入り口が半分ぶっ壊れたり、偽勇者が空の星になったり、顔面にパイをぶつけまくったり……おまけに給料日に絶望したりと、相変わらずドタバタな一週間だったが」

 俺は、従業員たち――神、魔王、竜人、月兎族、神官、人魚姫の顔を、順番に見渡した。

「俺一人じゃ、あのクソ勇者のヤラセ配信で、店ごと消し炭にされていた。お前らがいてくれたから、スーパー折原は今日という日を、無事に、そして売上目標を達成して乗り切ることができたんだ。……本当に、感謝してる」

 俺が本音でそう言うと、みんなが照れくさそうに笑った。

「さあ、シリアスな話はここまでだ。今夜は俺の奢りだ、腹がはち切れるまで食って飲んでくれ!」

 俺はグラスを高く掲げた。

「スーパー折原の平和と、明日の特売の大入りを祈って――乾杯ッ!!」

「「「「乾杯ァァァァァッ!!!」」」」

 カチィィィィンッッ!!

 屋上に、グラスとジョッキがぶつかり合う快音が響き渡った。

「ングッ……ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……!」

 ルチアナが、イモッカ・ハイボールを信じられない勢いで喉に流し込む。

「……カァァァッ!! 効くゥゥゥッ!!」

 ルチアナがジョッキをテーブルに叩きつけ、満面の笑みで叫んだ。

「なによこれ! サウナ上がりの乾いた体に、強烈なアルコールと炭酸が暴力的に染み渡るわ! 芋の甘い香りが鼻に抜けて……もう、最高ッ! 天界の『神酒ネクタル』なんかより、こっちの方が百倍美味いわよ!」

「本当ね……! この喉が焼けるような強烈な度数、魔界の灼熱を思い出すわ……。でも、炭酸のおかげでスッキリ飲めちゃう。危険な酒ね、フフフッ!」

 ラスティアも、頬を朱色に染めながら、ジョッキの半分を一気に空にしている。

「ぷはぁーっ! アタシも最近の村長業務のストレスが、全部アルコールに溶けていく気がするわ〜!」

 キャルルもウサギの耳をパタパタと揺らしながら、ご機嫌でグラスを傾けた。

「よォし! 酒が回ってきたところで、こいつを食ってくれ! 俺様特製の『ロック鳥のネギマ串』だぜェッ!」

 イグニスが大皿を勧める。

「いただきまーす! はむっ……! んん〜っ、美味しいですの!」

 リーザが、ネギマ串にかぶりつき、幸せそうに目を細めた。

「お肉がすっごくジューシーで、炭火の香ばしい匂いが最高ですの! 店長さんの特製醤油ダレが、噛めば噛むほどお肉の甘みを引き出してますのーっ!」

「こっちの唐揚げも絶品ですよ! 外はサクサクなのに、中は熱々の肉汁がジュワッて溢れてきて……ジンジャーエールにすごく合います!」

 ルルナも、両手で唐揚げを持ってハフハフと頬張っている。

「ガッハッハ! 食え食え! 今日はプロデューサーの奢りだからな、遠慮はいらねぇぜ!」

 宴は一瞬にして、極上のハイテンションへと突入した。

 美味い飯と、体に染み渡る強い酒。

 限界まで働いた(そして給料を失った)労働者にとって、これ以上の報酬はこの世に存在しない。

「……あー、美味い。やっぱり、こういう『当たり前の平和』が一番だわ」

 宴が中盤に差し掛かり、ジョッキを三杯ほど空けたルチアナが、トロンとした目で月を見上げながらポツリとこぼした。

「そうね……。数日前は、あの偽勇者ゼロスと炎上神ワイズのせいで、この村がどうなるかと思ったけど」

 ラスティアも、甚平の襟元を少しはだけさせながら、串焼きを齧る。

「あの時は本当に腹が立ったわ。あいつら、人間の命や平和な村を、ただのPV(数字)を稼ぐためのオモチャだと思ってたんだもの。……でも、店長の『顔面パイ』の暴動を見てたら、なんかもう、全部どうでもよくなっちゃったわね」

「アハハハッ! 確かに! あの特売日はヤバかったわ!」

 キャルルが腹を抱えて笑う。

「でも、店長はすごかったわよ」

 ルチアナが、酔った瞳で俺をジッと見つめてきた。

「相手は、システムでステータスをバグらせた、神話級の無敵の勇者だったのよ。普通なら、いくら怒りがあっても、あの圧倒的な暴力の前には足がすくんで動けないはずだわ」

「……」

 俺は、無言でサケスキーの水割りを口に含んだ。

(いや、俺も足はすくんでたし、漏れそうなくらいビビってたんだってば……)

「それでも、あんたは一歩も引かなかった。そして、あの意味不明な『半額シール』と『廃棄処理シール』で、あいつの金で買ったメッキを見事に剥がしてやった。……あれは、天界のどの神の奇跡よりも、痛快で、胸が熱くなる光景だったわ」

 ルチアナが、ジョッキを掲げてニカッと笑う。

「俺様も痺れたぜェッ! プロデューサーが『お前、装備と金を全部剥がしたら、一体何が残るんだ?』って言い放った時のあの背中! 一生ついていこうって心に誓ったぜ!」

「私もですの! 私の大事なファンと、このお店を守ってくれたプロデューサーさんは、世界で一番かっこいいですの!」

 イグニスとリーザも、身を乗り出して俺を称賛してくる。

「……よせ。俺はただ、店の入り口が塞がれるのと、赤字になるのが嫌だっただけだ。お前らみたいな戦闘狂じゃないんだからな」

 俺は照れ隠しにそっぽを向き、唐揚げを口に放り込んだ。

「フフッ、店長ったら素直じゃないわね。でも、そういう『自分の手が届く範囲の日常(店)』を何よりも大事にするアンタだからこそ、私たちはここでこうして、安心してバカみたいに酒が飲めるのよ」

 ラスティアが、優しく微笑む。

「……そうだな。俺たちは、ただのスーパーの店員だ。世界を救う勇者でも、大陸を支配する魔王でもない。……でも、ここにある『日常』だけは、誰にも奪わせないさ」

 俺がそう言うと、みんなが深く頷き、再びグラスを合わせた。

 月明かりの下、イモッカの強いアルコールが、激闘の重さも、給料日の絶望も、すべてを温かい笑いへと溶かしていく。

 誰も世界を支配したがらない。誰も大きな野望を抱かない。

 ただ、明日の特売のために働き、夜はこうして気のおけない仲間と酒を飲む。

 そんな『矮小で、最強に幸せな日常』が、スーパー折原の屋上には確かに存在していた。

「――よぉし! 腹もアルコールも良い感じに整ってきたわね!」

 ルチアナが、ドンッ! と空になったジョッキを置き、目をギラリと光らせた。

「店長! そろそろアレの出番じゃないの!? 地球の神聖なる夜食……『ワンカップラーメン』とやらを、早く私たちに食わせなさいよ!!」

「ウオォォォッ! 待ってましたァッ!」

 宴はいよいよ、禁断のシメ――深夜の炭水化物という最大の背徳へと突入していく。

 だが、すでに完全に酔っ払っていた俺たちが、この後『とんでもない暴挙(調理法)』に出ることなど、月だけが静かに見下ろしているのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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