表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキル『半額シール』で異世界無双!〜ただの紙切れで敵のステータスを値引きしてたら、いつの間にか神造兵器を量産してました〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/62

EP 5

偽勇者の乱入と、課金ステータスの絶対防御

 絶望的な包囲網の中、瓦礫に背を打ち付けたリーザが、五歳の少女ミリィをその細い腕で必死に抱きしめていた。

 死蜘蛛機ネクロスパイダーの無機質な複眼が赤く点滅し、オークたちが下劣な笑い声を上げながら、完全に逃げ場を失った二人にじりじりと迫る。

「う、ううっ……。こないで……っ!」

 少女の悲鳴が響き渡り、魔物の凶悪な爪が振り下ろされようとした、まさにその絶対絶命の瞬間。

「――待たせたな、可憐な少女よ!!」

 ドッッッガァァァァァァンッッ!!!

 上空から、目も眩むような黄金の閃光が突き刺さった。

 轟音と共に大地が砕け散り、巻き上がった土煙の中から、一人の男がゆっくりと立ち上がる。

 輝くオリハルコンの鎧。風に舞う純白のミスリルマント。そして、不自然なほど白く光る歯を見せつけて微笑むその男は、紛れもなく、炎上神ワイズの契約者――偽勇者ゼロス・ディバインであった。

「ゆ、勇者様……!?」

 避難していた村人たちが、スーパーの窓越しに希望の声を上げる。

「もう大丈夫だ。この私、勇者ゼロスが来たからには、貴女たちに指一本触れさせはしない!」

 ゼロスはマントをバサァッと翻し、上空で待機しているカメラドローンに向かって、完璧な角度で決めポーズを取った。

「シャァァァッ!」

 背後から襲いかかってきたオークを、ゼロスは振り返りもせずに剣で一閃する。

 ズバァッ! という音と共に、オークの巨体が真っ二つに両断され、光の粒子となって消滅した。

「す、すごい……! 一撃でオークを……!」

 村人たちが歓声を上げる中、ゼロスは爽やかな笑みを浮かべ、座り込むリーザへと歩み寄った。

「怪我はないかい、美しいお姫様? さあ、私の手を取って……」

 ゼロスが、カメラ映りを意識しながら、まるでロマンス劇の主役のようにリーザの腰を抱き寄せようと手を伸ばした。

 彼にとっては、ここが最大の『見せ場(集金ポイント)』だ。悲劇のヒロインを救い出し、全世界の視聴者から莫大なスパチャと称賛を浴びる、計算し尽くされた完璧なシナリオのクライマックス。

 ――しかし。

「……触らないでくださる?」

 パァンッ!!

 リーザは、差し出された勇者の手を、容赦なく思い切り引っぱたいた。

「なっ……!?」

 ゼロスの爽やかな笑顔が、一瞬だけピシッと引き攣った。

「あ、あなた、何を……私は君を助けに……」

「助けに来た? 冗談じゃありませんの」

 リーザは腕から血を流しながらも、サファイアの瞳に強烈な怒りと嫌悪を宿して、ゼロスをキッと睨みつけた。

「そんな胡散臭い笑顔と、金ピカの鎧で私を騙せると思ったら大間違いですの。あなたからは、私の大事なファン(村人)をゴミみたいに捨てる、ドス黒くて吐き気のするような『安物の葉巻と口臭スプレーの匂い』がしますのよッ!」

 図星を突かれ、ゼロスの顔からスッと表情が消え失せた。

「おい、てめェ……」

 ゼロスが、マイクに拾われないほどの小声で、チンピラのようなドス黒い声を漏らした。

「大人しく俺に抱かれて『ありがとう勇者様!』って泣き叫べばいいんだよ。空のカメラが見てんだろうが。俺の『絵(PV)』を壊す気か、この三流地下アイドルが」

「……っ!」

 ゼロスが無理やりリーザの腕を掴もうとした、その時だ。

「俺様の推し(リーザたそ)に、気安く触ってんじゃねェェェッッ!!!!」

 ドゴォォォォォォォンッ!!!

 怒髪天を衝いた竜人・イグニスが、猛烈な闘気を纏った大斧を振りかざし、ゼロスの横っ腹に向けて全力の一撃イグニス・ブレイクを叩き込んだ。

「イグニスさんッ!」

 リーザが叫ぶ。

 竜人の全力の一撃だ。まともに食らえば、鋼鉄のゴーレムですら粉微塵に砕け散る。

 ――だが。

 ガァァァァァァンッッ!!!!

 凄まじい金属音がポポロ村に響き渡ったが、砕け散ったのはゼロスではなかった。

「……な、にッ!?」

 イグニスが驚愕に目を見開く。

 彼の全力の大斧は、ゼロスのオリハルコンの鎧に傷一つ、いや、ミリ単位の凹みすらつけることができず、逆に凄まじい反発力によってイグニスの両手が弾き飛ばされたのだ。

「ふん……。野蛮なトカゲ風情が。私の『神聖なるオーラ』に傷をつけられるとでも思ったか?」

 ゼロスは冷たく嗤うと、空いた手でイグニスの胸ぐらを掴み、そのまま軽々と十メートル以上も後方へ投げ飛ばした。

「ガァァッ!?」

 スーパーの壁に激突し、イグニスが血を吐いて崩れ落ちる。

「イグニス! このッ……!」

 援護に入ろうとしたキャルルが、流星脚の構えから飛び蹴りを放つ。

 しかし、ゼロスは振り返りもせず、背中に纏ったマントを軽く振るっただけで、目に見えない衝撃波が発生し、キャルルは空中で弾き飛ばされて地面を転がった。

「きゃああっ!」

「無駄だ。私には神の加護がある。お前たちのような底辺の連中が束になっても、私の足元にも及ばない」

 ゼロスはマントを払い、鼻で笑った。

 その光景をレジの裏から見ていた俺は、ガチガチと歯の根を鳴らしながら、絶望的な戦力差に戦慄していた。

(ひぃぃッ! な、なんだあいつのデタラメなステータスは!? 最強の竜人の全力攻撃をノーダメージで弾き返した!? あんなの、勝てるわけがない……!)

 しかし、俺の『小売業としての観察眼』は、恐怖の中でもあいつの異質さを正確に捉えていた。

(……おかしい。あいつの動き、武術の素人どころか、運動神経の悪い素人そのものだ。重心はブレブレだし、あの厚底ブーツのせいで足首がグラついている。キャルルの蹴りを弾いたのも、あいつの反射神経じゃない……『鎧に付与された自動防御システム』が勝手に発動しただけだ)

 俺は、ゼロスの腰に提げられた奇妙な革袋から、チャリン、チャリン、と絶え間なく金貨が消滅していく光景を見逃さなかった。

 ユニークスキル【マネー】。

 課金すればするほど、物理法則を無視してステータスが跳ね上がる反則能力。

 あいつの無敵の防御力も、圧倒的な攻撃力も、すべては『金で買ったシステム上の数値』に過ぎない。中身は、努力も覚悟も欠片もない、ただの空っぽの男なのだ。

「フン。邪魔者が消えたところで、撮影ライブの再開といくか」

 ゼロスが再びリーザに向き直り、カメラを意識した爽やかな笑顔を作ろうとした――その時。

『ザーッ……ガガガッ……! エラー……接続が切断されました……』

 上空を飛んでいたカメラドローンの赤いランプが激しく点滅し、火花を散らして急降下し始めた。

「なっ!? おい、ドローン! なにやってんだ!」

 ゼロスが慌てて通信機を叩く。

『……クソッ! ゼロス、聞こえるか!』

 通信機から、炎上神ワイズの焦りまくった声が響いた。

『ダメだ! 配信のサーバーが何者かによる異常なサイバー攻撃(DDoS)を受けてダウン寸前だ! 回線が安定しない!』

「はぁ!? ふざけんな、ここが一番の『投げスパチャポイント』だろうが! 早く復旧させろ!」

『やってるよ! だが、相手のハッカーのタイピング速度がおかしい! まるで魔王と神が二人掛かりでスパムを送りつけてきているような絶望的なトラフィック量だ!』

     *

「「オラオラオラァァァッ!! 死ねぇぇワイズのクソガキィィッ!!」」

 スーパー折原のバックヤードでは、ルチアナとラスティアが、残像が見えるほどの速度でキーボードを叩き(破壊し)まくりながら、狂気的な笑い声を上げていた。

「私のお気に入りのサウナ(店)を燃やそうとした罪は重いわよ! あんたの配信の画角を、全部モザイクとスパム広告で埋め尽くしてやるわ!」

「天界のプロキシを全部踏み台にして、一秒間に一億回のアクセス(物理)をぶち込んでやる! PVの数字ごと地獄に落ちなさいッ!」

 限界オタク神と魔王による、意地とプライドを懸けたサイバー嫌がらせ攻撃が、見事に炎上神のインフラを物理的に崩壊させつつあった。

     *

「チッ……! 使えねぇ神様だぜ!」

 ゼロスが舌打ちをし、通信機を乱暴にオフにした。

「まあいい、配信が繋がらないなら、長引かせる意味はねぇ。さっさとこの魔物どもを処理して、このアマを抱えて凱旋(事後報告)すれば、絵としては成立する」

 ゼロスは苛立ちを露わにし、オリハルコンの剣を無造作に振り上げた。

 その刃の先が、リーザのすぐ横に迫っていた魔物ではなく、なぜかリーザ自身のドレスの裾を掠めるような軌道を描こうとしている。

(わざと怪我をさせて、悲劇性を高める気か……!)

「リーザ!!」

 俺の口から、張り裂けるような叫びが出た。

「プロデューサーさん……!」

 リーザが、恐怖に目を瞑りながらも、少女を庇って背中を向けた。

 俺は……俺は、ただのしがないスーパーの店長だ。

 戦う力なんてない。あんな剣で斬られれば、確実に死ぬ。怖い。死にたくない。逃げ出したい。

 だが。俺の足は、いつの間にかレジカウンターを飛び越え、広場へと猛ダッシュしていた。

(ふざけるな……! PVのために、俺の店の看板娘(商品)に傷をつけるだと!?)

 俺は、右手に『半額』のシールを、左手に『廃棄処理』のシールを限界まで強く握りしめた。

 俺の店を、俺の従業員を、テメェのくだらない承認欲求と小銭稼ぎのために利用するクレーマーは、この俺が『店長の権限』で叩き出(返品処理)してやる!

「――おい、そこの不良在庫(パッケージ詐欺)」

 ドサッ、と。

 ゼロスとリーザの間に、緑色のエプロンを着た俺が、防犯用さすまたを構えて滑り込んだ。

「なっ……なんだてめぇは。スーパーの店員か?」

 ゼロスが、薄汚い虫でも見るような目で俺を見下ろす。

「スーパー折原の店長だ」

 俺は、ガクガクと震える膝を必死に堪えながら、ニヤリと冷酷な営業スマイルを作ってみせた。

「金で塗り固めたハリボテのステータスで、随分とイキっているようだが……。当店では、お前のような『中身が空っぽの不良品』は、市場に出回る前に強制的に『マークダウン(値引き処分)』することになっているんだよ」

 震えるビビりの社畜店長と、金で無敵の力を買った偽勇者。

 絶対に交わるはずのない、最弱と最強の理不尽な対峙。

 スーパー折原の命運を懸けた、メッキ剥がしの『大特売(決戦)』が、今、始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ