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ハズレスキル『半額シール』で異世界無双!〜ただの紙切れで敵のステータスを値引きしてたら、いつの間にか神造兵器を量産してました〜  作者: 月神世一


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EP 3

炎上神の台本シナリオと、限界オタクのサイバー攻撃

 天界の奥深く、一般の神々すら立ち入れない厳重なセキュリティに守られたVIPルーム。

 そこに、専用の最新型ノートPCを広げ、マイタンブラーでカプチーノを優雅に啜る一人の若い男神がいた。

「うん、いい数字(PV)だ。やっぱり『ざまぁ』と『復讐劇』は数字が取れるねぇ」

 新入りの惑星創造神――炎上神ワイズは、PCの画面に表示されたゴッドチューブの莫大な再生数とスパチャの額を見て、薄暗い笑みを浮かべた。

 彼の手元には、限度額が『無限』に設定されたエンジェルすまーとふぉんが置かれている。彼はその無尽蔵の予算(システム権限)を使い、下界に意図的に魔物を発生させ、人為的な悲劇を作り出していた。

「でも、第7エリアの村焼きはあくまでテスト(予行演習)だ。本命は、今一番バズっているポポロ村の地下アイドル……リーザだよ」

 ワイズは通信アプリを開き、現地で待機している契約勇者、ゼロス・ディバインに音声をつないだ。

『こちらゼロス。ポポロシガーの火消しと口臭スプレーの準備は完了していますよ。厚底ブーツのソールも、一番高く見える十センチのやつに履き替えました』

「お疲れ。いいかいゼロス、悲劇というのはスパイスだ。ただ助けるだけじゃあ、視聴者の財布の紐は緩まない」

 ワイズはカプチーノを喉に流し込みながら、残酷な台本シナリオをすらすらと読み上げた。

「俺がこれからシステム権限で、ポポロ村の周辺に魔物の大群――オークやゴブリン、死蟲機ネクロバグの残党を召喚してけしかける。村人は逃げ惑い、村は火の海になる。君は森の中で身を隠し、悲劇がピークに達するまで待機しろ」

『悲劇のピーク、ですか』

「そう。あの生意気な地下アイドルが魔物に囲まれ、絶望に顔を歪め、死の恐怖に涙を流す瞬間だ。そこで君が、課金マネーで限界までステータスを引き上げたオリハルコンの鎧を輝かせて颯爽と登場する。そして魔物を一掃し、彼女を抱き寄せるんだ」

 ワイズはPCのエンターキーを、ターンッ! と大げさに叩いた。

「『絶望の淵からアイドルを救う、愛と正義のイケメン勇者』! これなら絶対に世界中でバズる! 彼女は君の専属ヒロインになり、俺のチャンネルは伝説になるってわけだ。……どうだい、最高の絵だろう?」

『ははっ! さすがワイズ様、極悪ですねぇ。了解しました、俺は安全な森の中から、村の連中がミンチになるのを高みの見物と洒落込みますよ』

 二人の下劣な笑い声が、通信回線を通して不気味に響き渡った。

 彼らにとって、他人の命や日常など、PVを稼ぐためのゲームの駒(小道具)に過ぎなかった。

     *

「ひぃぃぃぃぃッッ!! や、ヤバいヤバいヤバいッ! どうしよう、魔物の大群が来るなんて聞いてないぞォォッ!」

 一方、ポポロ村のスーパー折原。

 第7エリアから全速力で逃げ帰ってきた俺――折原晴也は、レジカウンターの裏で頭を抱え、ガタガタと震えながら売上金を金庫に放り込んでいた。

「店長、落ち着きなさいよ! 震えすぎて小銭落としてるわよ!」

 村長のキャルルが、ダブルトンファーを構えながら周囲を警戒している。

「落ち着いていられるか! 村が火の海になるってことは、俺の店(店舗物件)も特売の在庫も全部灰になるってことだぞ! 今月の家賃すら払えなくなるゥゥッ!」

 俺は半泣きになりながら、さすまたを握りしめた。

 相手は魔物の大群と、課金でステータスをバグらせた厚底の偽勇者だ。戦闘力ゼロの俺が真正面から立ち向かえば、一秒で消し炭にされるのは目に見えている。

「プロデューサーさん……!」

 純白のフリルドレスを着たリーザが、特設のみかん箱ステージの前に立ち、マイクを両手でギュッと握りしめていた。

「私……絶対に逃げませんの。ここは私の大事なステージで、村の人たちは私に愛(お金)をくれる大切なファンですの。それを、あんな奴らのヤラセのために壊されるなんて、絶対に許しませんの!」

「俺様もだぜ! 俺様の推し(リーザたそ)を悲劇のヒロイン気取りのダシに使うたぁ、万死に値するぜェッ!」

 イグニスが大斧を肩に担ぎ、竜人の闘気を爆発させている。ルルナも「防犯用のアイテム、いつでもガチャで出せます!」と意気込んでいた。

 バァンッ!!

 その時、バックヤードの扉が蹴り破られ、ものすごい剣幕の二人が飛び出してきた。

「遅いわよ店長!! あんたたちが出張販売に行ってる間にシステムログを辿ったら、ワイズのクソガキがポポロ村に向けて魔物を大量召喚してるじゃないの!!」

 ピンクの芋ジャージを着た女神ルチアナが、エンジェルすまーとふぉんを振りかざして絶叫する。

「許さない……! 私の管轄の魔族をオモチャにした挙句、私のお気に入りのスーパー(癒やしのサウナ)を更地にする気!? 今すぐ私が行って、ブラックホールで魔物も勇者も全部飲み込んでやるわ!!」

 魔王ラスティアが、ゴシック鎧から漆黒の魔力を間欠泉のように噴き上げさせた。

「待てェェェェェッ!!」

 俺は恐怖でちびりそうになりながらも、さすまたを床にドンッ! と叩きつけて二人を制止した。

「お前らが表に出たら、村どころか大陸が沈むだろうが! しかも、あいつらの目的は『悲劇の中でヒロインを救う勇者の絵(PV)』だ! そこに神と魔王がしゃしゃり出たら、ただの怪獣大決戦になって絵が崩れる。ワイズはそれを『不測の事態で村が消滅した。悲しいね』と都合よく編集して、またPVを稼ぐだけだ!」

「じゃあどうするのよ!? このままじゃリーザちゃんが危ないわ!」

 ルチアナが怒鳴り返す。

「……力で対抗するなと言っただろうが。あいつらの最大の武器は『剣』じゃない」

 俺は冷や汗を拭いながら、ギリッと奥歯を噛み締めた。

「あいつらの武器は『カメラ(配信)』と『世論』だ。綺麗なパッケージで偽装した不良品を、ゴッドチューブという市場に流して儲けている。……なら、その通信網インフラごと、裏から破壊してやる」

 俺は、ルチアナの持っているスマホと、ラスティアを指差した。

「お前ら、普段からネットに張り付いてる限界オタクだろうが。その無駄に高いタイピング力と魔導知識を使って、バックヤードからワイズの配信サーバーに『DDoS攻撃(魔法的ハッキング)』を仕掛けろ」

「「……は?」」

「あいつのカメラドローンの死角を突いて、配信の画角を荒らすんだ。通信速度を遅延させ、コメント欄をスパムで埋め尽くせ! 勇者が気持ちよく活躍する『絵』を、絶対に視聴者に届けるな!」

 俺の狂気的(極めて陰湿)な指示に、神と魔王は一瞬ぽかんとしたが、すぐにその顔にドス黒い、そして極めて邪悪な『ネット荒らし(オタク)』の笑みを浮かべた。

「……フフッ。なるほどね。要するに、あいつの配信にサーバーダウン規模の『荒らし』をかませってことね?」

 ルチアナがチュッパチャプスを噛み砕き、指をボキボキと鳴らす。

「魔王軍の暗号化技術と、限界オタクのタイピング速度を舐めないでちょうだい。ワイズの野郎の画面を、エラーコードとフリーズの地獄に叩き落としてやるわ!」

 ラスティアも痛バッグを放り投げ、バックヤードの魔導端末パソコンの前へと猛ダッシュした。

 カタカタカタカタカタッ!! ターンッ!!

 バックヤードから、世界の頂点に立つ二人が、目にも留まらぬ速度でキーボードを叩く異常なタイピング音が鳴り響き始めた。

 物理的な暴力ではなく、サイバー攻撃という裏方バックヤードからの嫌がらせ。これが、小売業の店長が導き出した『神と魔王の正しい使い方』である。

「よし、情報戦インフラの妨害はあいつらに任せる。俺たちは店頭で、商品の防衛だ!」

 俺がエプロンの紐をキツく締め直した、その時だった。

 ズズズズズズッ……!!

 ポポロ村の大地が、不気味な地鳴りを上げて震え始めた。

 空がどす黒い雲に覆われ、森の方角から、木々をなぎ倒す不気味な足音と、飢えた獣の咆哮が幾重にも重なって聞こえてくる。

「……来たわね。魔物の大群よ」

 キャルルがトンファーを構え、低い声で告げた。

「ひぃぃぃッ! やっぱりメチャクチャ怖いィィッ! 誰か警察呼んでくれェェッ!」

 俺はさすまたを握りしめたまま、ガクガクと震える足を止めることができなかった。

 炎上神の極悪な台本シナリオが、ついにポポロ村を舞台に幕を開けた。

 逃げ隠れする偽勇者と、迫り来る魔物の大群。

 戦う力を持たないビビりの店長は、スーパーの従業員(仲間)たちと共に、この理不尽な悪意に立ち向かうための『絶望の防衛戦』へと身を投じていった。

お読みいただきありがとうございます!


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