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ハズレスキル『半額シール』で異世界無双!〜ただの紙切れで敵のステータスを値引きしてたら、いつの間にか神造兵器を量産してました〜  作者: 月神世一


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EP 5

神と魔王をダメにする『VIP専用・ドリンクバー』

 熱狂のゲリラライブが終わり、夕闇がポポロ村を包み込み始めていた。

 スーパー折原の特設みかん箱ステージの前には、今日も凄まじい光景が広がっていた。

「……燃え尽きたわ……。まさか、この魔王の私が、一介のアイドルの煽りに乗せられて、国庫の予備費まで全額投げ銭してしまうなんて……」

 魔王ラスティアが、空っぽになった巨大な麻袋を抱きしめながら、パイプ椅子の上で真っ白な灰になっていた。

「もう……何も残ってない……。クレカの枠も、天界の隠し財産も……。ヴァルキュリア(天使長)にバレたら、確実に神聖雷雨の刑で消し炭にされるわ……」

 女神ルチアナもまた、芋ジャージの膝を抱え、焦点の合わない瞳で虚空を見つめている。

 二人の絶対者は、リーザの放つ『強欲の魅了魔法(Love & Money)』によって全財産を搾り取られ、圧倒的な満足感と、その後に訪れる絶望的な賢者タイムの波に呑まれていた。

「プロデューサーさん! 今日も大漁ですの! 二人とも、持ってるお金ぜーんぶ吐き出してくれましたの!」

 ステージの裏で、純白のドレスを着たリーザが、山積みにされた金貨の山を前にVサインをキメていた。

「ああ、よくやったリーザ。お前の集客力と搾取力は、もはや一つの国家予算を凌駕している」

 俺はエプロンのポケットに売上金を押し込みながら、冷徹な目で燃え尽きたVIPたちを観察した。

「……店長。さすがに可哀想じゃない? あの二人、いくら非常識なバケモノとはいえ、すっからかんよ。野垂れ死ぬんじゃないかしら」

 月兎族の村長、キャルルが心配そうに人参ジュースを啜る。

「バカを言え。イベント終わりの疲れ切った客を、そのまま放り出すような三流の真似はしない。小売業において、ライブ後の疲労感は『さらなる売上(囲い込み)』を生み出す最大のチャンスなんだ」

 俺はニヤリと笑い、教会の神官であるルルナを呼んだ。

「ルルナ。例の『新施設』の準備はできているな?」

「はい、店長! ドブ掃除とゴミ拾いで貯めた『善行ポイント・1万P』を全ツッパして、地球の神聖なる機材(ファミレスの設備)を完全錬成してきました!」

 俺は大きく頷き、疲れ果てて座り込む神と魔王の前に進み出た。

「お客様方。ライブでの熱烈な応援、誠にありがとうございました。全財産を使い果たし、お疲れのトップオタのお二人のために、当店から特別な『癒やしの空間』をご用意させていただきました。どうぞ、こちらへ」

「……え? 癒やし……?」

 俺が二人の背中を押し、スーパーの店舗の奥――ドワーフの木工職人たちに突貫工事で作らせた『増築棟』の扉を開け放った。

「ようこそ。スーパー折原が誇る、トップオタのための究極のオアシス。――『VIP専用・ドリンクバー&サウナ付き休憩室』です」

「「……なっ!?」」

 扉の向こうに広がっていたのは、異世界には絶対に存在しない光景だった。

 ふかふかのボックス席。暖色系の目に優しい照明。そして、部屋の中央に鎮座する、銀色に輝く奇妙な四角い魔導具ドリンク・ディスペンサー

「……なんなの、この空間は。この奇妙な機械は一体……」

 ラスティアが警戒しつつも、フラフラとボックス席に吸い込まれるように座った。

「ああっ……! なにこの椅子! 適度な反発力と柔らかさ! 魔王城の硬い玉座なんかより、一万倍座り心地がいいわッ!」

「ふふふ。驚くのはまだ早いですよ」

 俺は氷の入ったグラスを二つ取り出し、銀色のディスペンサーの前に立った。

「こちらは『ドリンクバー』と呼ばれる、地球の英知の結晶です。お二人は当店の『VIP(太客)』ですので、この機械から出る神酒ジュースを、なんと『無限』に飲むことができます」

「む、無限だと……!?」

 俺は機械のボタンを押し、グラスに鮮やかなエメラルドグリーンの液体を注いだ。

「さあ、お試しください。当店イチオシの『メロンソーダ』です」

「……毒でも入ってそうなどぎつい緑色ね。でも、喉がカラカラだし……」

 ルチアナが恐る恐るグラスを受け取り、一口飲んだ。

「――――ッ!!?」

 瞬間、ルチアナの瞳孔がカッと見開かれた。

「な、ななな、なんという甘さッ!? そして、口の中で弾けるこの刺激(炭酸)は一体なんなのッ!? 神界の霊薬ネクタルすら霞むような、暴力的なまでの糖分と爽快感ッ!」

「マジで!? 私にも飲ませなさいよ!」

 ラスティアもグラスを奪い取り、ゴクリと喉を鳴らした。

「うおぉぉぉぉっ! 美味いッ! ライブで枯渇した魔力が、この甘さで一気に回復していくわ! これが無限に飲めるって、どういう魔法なの!?」

(フッ……チョロいな。原価数十円のただのシロップと炭酸水だとも知らずに)

 俺は内心でほくそ笑んだ。

「素晴らしいのはそれだけではありませんよ。このドリンクバーの真髄は『調合ミックス』にあります」

 俺は別のグラスを取り出し、メロンソーダに少しだけカルピス(に似た乳酸菌飲料)を混ぜ合わせてみせた。

「こうして、異なる飲み物を混ぜ合わせることで、自分だけの『オリジナル神酒』を創り出すことができるのです」

「「そ、そんな禁忌の魔法(錬金術)が許されるというの!?」」

 神と魔王の目の色が完全に変わった。

 そこからは、まさに地獄カオスだった。

「おいルチアナ! 私の『コーラ・オレンジ・烏龍茶ミックス』を飲みなさいよ! 複雑な味がして魔王にふさわしいわ!」

「バカ言わないで! コーラに少しだけメロンソーダを入れた『神の沼ミックス』のほうが絶対に美味しいに決まってるわ!」

「ガッハッハ! にわか共が! ジンジャーエールにカルピス原液を少し垂らすのが、地球のオタクの王道なんだぜェッ!」

 いつの間にか乱入してきたイグニスも交え、世界のトップたちが『ファミレスのドリンクバーで飲み物を混ぜてはしゃぐ中学生』へと完全に退行していた。

「……なんなの、これ」

 キャルルが頭を抱えている。

「一国を滅ぼすバケモノたちが、原価の安い色付きの甘い水でキャッキャウフフしてるわよ……。神話の威厳が、音を立てて崩れ去っていくわ……」

「威厳など小売業には不要だ。客が満足して、店に居着いてくれればそれでいい」

 俺はエプロンのポケットから、次なる切り札を取り出した。

「さて、お腹がタプタプになったところで、ライブの汗を流していただきましょうか。当休憩室には、ルルナが神の力で錬成した『超高温サウナ』と『キンキンに冷えた水風呂』が併設されています」

     *

 二時間後。

 休憩室の畳の小上がりスペースには、見るも無惨な姿に成り果てた二人の絶対者が転がっていた。

「……もう、無理……。天界、帰りたくない……」

 女神ルチアナは、スーパー銭湯で売っているような『甚平じんべい』をだらしなく着崩し、畳の上に寝転がりながら、コーヒー牛乳の瓶を咥えていた。

 彼女の周囲には、ルルナのガチャで排出された地球の少女漫画が散乱している。

「だって、天界に帰ったらヴァルキュリアが書類の山を持って待ち構えてるのよ……? ここにいれば、メロンソーダは飲み放題だし、サウナで『整う』こともできるし、リーザちゃんのライブも毎日最前列で見られる……。私、神様やめるわ……」

「……奇遇ね、ルチアナ。私も同じことを考えていたわ……」

 魔王ラスティアもまた、色違いの甚平姿で、腹をボリボリと掻きながら仰向けに倒れていた。

「魔王としての世界征服とか、もうどうでもいいわ。勇者とか来てもめんどくさいし。ここで毎日ニンニクアブラ飯食って、サウナ入って、アイドルに貢ぐ生活……最高じゃない……。もう、一生ここでダラダラしてたい……」

 神と魔王。

 二つの強大なオーラは完全に消え失せ、そこにあるのは、休日のファミレスとスーパー銭湯に魂を囚われた、ただの『ダメな大人たち』であった。

「……信じられない」

 キャルルが、戦慄の表情で俺を見上げた。

「店長……アンタ、武力も魔法も一切使わずに、ただの『ドリンクバー』と『サウナ』だけで、世界の脅威を完全に骨抜きにして、ニートに落とし込んじゃったわよ……。アンタこそが、本当の魔王なんじゃないの?」

「人聞きの悪いことを言うな。俺はただ、お客様に最高の『ホスピタリティ』を提供しただけだ」

 俺は、彼女たちがこぼしたメロンソーダの飛沫を布巾で拭き取りながら、冷徹に言い放った。

「それに、彼女たちはただのニートじゃない。ドリンクバーとサウナの利用料、そしてリーザへのスパチャ代を稼ぐために、明日から当店で『時給・銅貨二枚の皿洗いアルバイト』として馬車馬のように働いてもらうからな。借金ツケは労働で返してもらうのが、スーパー折原のルールだ」

「ひぃっ……! 資本主義のエコシステム、悪魔よりえげつないわ……ッ!」

 キャルルがドン引きして後ずさる。

(ふふっ……これで、厄介なクレーマーたちの無力化と、優秀な労働力の確保が同時に完了した。明日のシフトも安泰だ)

 俺はズキズキと痛む胃に胃薬を流し込みながら、平和な日常(店舗運営)が守られたことに、安堵の息を吐き出した。

 神と魔王をアルバイトとして飼い殺す、狂気のスーパー折原。

 ポポロ村の平和は、今日も店長の社畜的・接客マニュアルによって、ギリギリのところで維持されているのだった。

お読みいただきありがとうございます!


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