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ハズレスキル『半額シール』で異世界無双!〜ただの紙切れで敵のステータスを値引きしてたら、いつの間にか神造兵器を量産してました〜  作者: 月神世一


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EP 8

「Love & Money と、理性の値引き」

「オラァッ! イグニス・ブレイクッ! そして、ロマンス打ちィィッ!!」

 ポポロ村の防衛ライン最前線にて。竜人イグニスが、右手の大斧で敵の突進を弾き返しつつ、左手に握った『青く光るケミカルライト(サイリウム)』を残像が見えるほどの速度で振り回していた。

「な、なんだあの光る棒は!?」

 最前列の魚人兵サハギンが、恐怖に顔を引き攣らせて後ずさる。

「物理的な刃ではない……だが、軌道から目が離せない! まさか、視神経を直接破壊する幻惑の魔導具か!?」

「ガッハッハ! これはファンを導くための聖なる光だ! てめぇらも、すぐにこの光の尊さが分かるようになるぜェッ!」

 イグニスの謎のオタ芸に海兵たちが戸惑う中、キングクラブの背に乗った指揮官が苛立たしげに三叉の槍を振り上げた。

「ええい、怯むな! 相手はたかが数人、その後ろにいるのはみかん箱に乗った小娘一人だ! 一気に踏み潰してしまえッ!」

「「「オオオオオッ!!」」」

 指揮官の号令により、数百の魚人兵と巨大魔獣たちが、再び殺意をみなぎらせてスーパーの店頭へと雪崩れ込もうとする。

「……さて。お客様の熱気(殺意)が高まってきたところで、特売の準備といくか」

 俺はレジカウンターから飛び出し、エプロンを翻して『神回避インファイト・ステップ』を始動させた。

 目にも留まらぬ速度で、殺到する海兵たちの群れの中へと滑り込む。

「なっ!? 貴様、いつの間に懐へ……!」

「いらっしゃいませ。当店は、理性の硬いお客様には『強制的な割引』を実施しております」

 俺は右手にプリントアウトした大量の『半額』シールを、指揮官の甲冑、マグローザの鱗、そして先頭集団の海兵たちの額へと、流れるような手付きで次々と貼り付けていった。

『半額』

『 半額』

『 半額』

 シュゥゥゥン……!!

 シールが貼られた瞬間、海兵たちの殺意に満ちていた顔つきが、一瞬にして『ぽかん』とした間抜けなものへと変わった。

 半額シール。それは対象の価値を物理的に下げるだけでなく、精神的な『理性』や『敵対心』をも50%オフにする最強のデバフだ。今の彼らは、深夜のテレビショッピングを見ていて「あ、これちょっと欲しいかも」と財布の紐が緩みきった、極めて暗示にかかりやすい状態(チョロい客)に成り下がっていた。

「さあ、リーザ。客の財布の紐(理性)は緩めた。あとは君の『強欲』で、すべてを奪い尽くせ」

 俺がステージに向かって合図を送ると、みかん箱の上に立つリーザが、黄金のオーラ(プレミア・バフ)を纏ったマイクを両手で握り締め、サファイアの瞳をギラリと輝かせた。

「はいですの、プロデューサーさんッ!」

 ドンッ! とアンプから、これまでとは打って変わった、アップテンポでゴージャスなイントロが響き渡る。

 リーザの本気の勝負曲――『Love & Money』だ。

『愛! アイ! 愛! アイ! ラ〜ブラブ! (Fu Fu!)』

『マネー! マネ! ローン! ダーリン! グ! (Yeah!!)』

 ズッッッッドォォォォォン!!!

 ただでさえ強力な人魚の魅了魔法が、『プレミア(特上)』シールによって限界突破し、半額シールで理性が剥がれ落ちた海兵たちの脳髄に、ダイレクトに突き刺さった。

「あ、あれ……? なんだ、これ……。姫様の歌声が、オレの心の奥底に……スゥッと染み込んでくる……?」

 槍を振り上げていた魚人兵の手が、ピタリと止まる。

『朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)

私はまだ眠いわ (おはよー!)

朝シャンしなきゃ (Fu!)

朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)

鏡の前で メイクをしなきゃ (魔法をかけて〜!)』

 リーザがみかん箱の上で軽やかにターンを決め、フリルのスカートを揺らす。

 その神がかった可愛らしさと、圧倒的な音圧の前に、海兵たちの目が完全に『ハート型』へと変わっていった。

「ヒ、ヒメェ……! リーザ姫ェ……! なんて尊いんだ……ッ!」

「おれたちは、なぜこんな可愛い姫様に武器を向けていたんだ……!? バカだ、おれたちはバカだァァッ!」

 カラン、カランッ!

 次々と、海兵たちが手にした武器を砂浜に投げ捨てていく。彼らの敵対心は、完全にアイドルの放つ『愛の暴力』の前に屈服していた。

『今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)

全て上手くいくわ (絶対!)

愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)

ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)』

「うおおおおっ! 姫がダイヤを欲しがっているぞォォッ!」

「おれたちの愛で! 姫に宇宙一の幸せをォォッ!」

 もはやそこに、シーランの誇る海兵親衛隊はいなかった。

 いるのは、最前列のイグニス(古参)のオタ芸を見よう見まねでコピーし、巨体を揺らして熱狂する『新参のオタク集団』だけである。巨大なキングクラブまでもが、ハサミをサイリウムのように上下に振ってリズムを刻んでいた。

 そして、曲はクライマックス(搾取のフェーズ)へと突入する。

『だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの

綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ』

「そうだー!! 姫にパンの耳なんか食わせるなァァッ!」

 指揮官が、キングクラブの背で号泣しながら叫んだ。

『だから…もっともっと、愛して(課金して)ね? 覚悟はいい?』

「オ、オレのスパチャを受け取ってくれェェェッ!!」

 指揮官が懐から、シーランの女王から預かっていた『遠征用の軍資金(金貨の入ったズタ袋)』を取り出し、リーザの足元に向かって思い切り投げつけた。

 それを皮切りに、数百の海兵たちが一斉に自身の財布を開き、金貨、銀貨、宝石類を、ステージに向かって雨霰のように投げ入れ始めた。

『愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)

ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)

貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)』

「姫ェェッ! オレの人生も、ボーナスも、全部捧げますゥゥゥッ!!」

「Love & Money!! 最高だァァァッ!!」

 チャリンチャリンチャリリリーンッ!!!

 みかん箱の周囲には、瞬く間に黄金の山が築き上げられていく。

 リーザはマイクを握りしめながら、その狂気的な集金システム(ライブ)の中心で、最高の笑顔を浮かべていた。

『だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

だから、何処までもついて来てね♡

(一生ついていくよー!!)

ダーリン! (チュッ♡)』

 リーザの投げキッスと共に、曲がフィナーレを迎える。

 その瞬間、数百の海兵たちと、マグローザ、そしてキングクラブまでもが、完全に昇天したような笑顔を浮かべ、バタバタと砂浜に倒れ込んで白目を剥いた。

 極限の熱狂と、全財産を搾り取られたことによる『圧倒的な満足感(賢者タイム)』による、完全なる気絶(無力化)であった。

「……はぁ、はぁ。や、やりましたの! プロデューサーさん!」

 リーザが肩で息をしながら、山のような金貨の山を前にしてVサインを掲げた。

「ああ、見事な営業ライブだった。これほどの客単価、スーパー業界の歴史に残る売上だ」

 俺は床に散らばった金貨を拾い上げ、エプロンのポケットに仕舞いながら、冷徹な笑みを深めた。

「こ、こんなの……。武力どころか、オタクに洗脳してお金巻き上げただけじゃない……。アタシ、もうあの店長の思考回路が怖いわ……」

 後方で構えていたキャルルが、トンファーを取り落とし、ドン引きして青ざめている。

 だが、結果が全てだ。

 理不尽な軍隊の強襲は、一人の極貧地下アイドルの強欲と、スーパー店長の値引き戦術によって、一滴の血も流れることなく、ただの『超・大口の団体客の爆買い(スパチャ)』として平和的に処理ざまぁされたのだった。

お読みいただきありがとうございます!


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