EP 4
「ガチャ聖女と、アイドル衣装の錬成」
「契約成立だ。キャルル村長、イグニス、ルルナ! 明日のオープンは特売ゲリラライブだ! 準備にかかるぞ!」
俺がスーパー折原の専属プロデューサー(店長)として号令をかけた直後、レジカウンターからルルナが勢いよく飛び出してきた。
「店長! アイドルなら、あの芋ジャージのままではせっかくの集客力が台無しです! 可愛い衣装と、神の国の『声の拡張魔導具』が必要です! どうか、私のガチャにお任せください!」
「確かに、ヴィジュアルと音響は売上に直結する重要な要素だ。だがルルナ、狙った機材を出すには『カテゴリー指定』が必要になる。一回につき1000ポイント以上を消費するはずだが、残高はあるのか?」
俺が問いかけると、ルルナはフンスと鼻息を荒くし、誇らしげに自分の手のひらを見せた。そこには、うっすらと肉刺が潰れた跡がある。
「ふふふ……この日のために、村のドブ掃除、共同トイレの清掃、さらには道端のゴミ拾いを徹夜でこなして、善行ポイントを『5000p』まで貯め込んでおきました! 今の私なら、カテゴリー指定の十連ガチャだって回せます!」
「ル、ルルナさん……!」
その言葉を聞いたリーザが、芋ジャージの袖で目頭を押さえ、感動に打ち震えた。
「あなたも……欲しいもののために、泥水をすすって過酷な底辺労働(ポイ活)をこなしているのですね……! ドブ掃除でポイントを稼ぐだなんて、公園でラジオ体操のスタンプを貯めている私と同じ……いや、それ以上のハングリー精神ですの!」
「リーザちゃん……! 分かってくれますか、このガチャ(夢)にかける情熱を!」
無一文の極貧地下アイドルと、ポイント依存症のポンコツ聖女。
属性は全く違うはずなのに、なぜか『底辺を這いずり回って対価を得る』という一点において、二人の間に魂の共鳴(謎の友情)が生まれていた。
「えぇ……なによこの空間。アタシ、この店でまともなのアタシだけなんじゃないかって本気で思い始めてきたわ……」
キャルルがウサギの耳を萎れさせ、頭を抱えてドン引きしているが、構うことはない。スーパーの準備は時間との勝負だ。
「よし、ルルナ。さっそく引け。地球のアイドル衣装と、ポータブルのアンプマイクセットだ」
「はいっ、店長! 行きます!」
ルルナが空中に展開されたシステム画面を、祈るようにタップする。
「カテゴリー指定! 『地球』『衣服』『音響機材』『アイドル』……! 私のドブ掃除の結晶よ、今こそ神の国の奇跡を見せなさい!」
ピロリロリーン! という安っぽい電子音と共に、まばゆい光がバックヤードを包み込んだ。
光が収まると、そこに鎮座していたのは――。
「うおおおっ!? なんだこのヒラヒラした派手な布切れは!」
イグニスが目を剥く。
そこにあったのは、純白と水色を基調とし、フリルとリボンがふんだんにあしらわれた『王道アイドル衣装(地球産)』。さらに、バッテリー内蔵式の『ポータブルPAアンプ』と、ワイヤレスマイクのセットだった。
ルルナの運命力(善行ポイントの全ツッパ)が、見事に目当ての品を引き当てたのだ。
「す、すごいですの! こんなキラキラしたお洋服、ルナミスデパートのショーウィンドウでも見たことありませんの!」
「さあリーザちゃん、着替えてみてください! サイズはフリーサイズのようですから!」
数分後。
バックヤードの簡易更衣室から出てきたリーザの姿に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「……嘘でしょ」
キャルルが、持っていた煎餅を取り落とす。
小豆色の芋ジャージと健康サンダルを脱ぎ捨て、純白と水色のフリルドレスに身を包んだリーザ。透き通るような青い髪には星型の髪飾りが光り、海のように深いサファイアの瞳がキラキラと輝いている。
その姿は、先ほどまで「鼻に五円玉を詰めて腹太鼓をしていた野生児」とは完全に別次元の、本物の『深海の王女』としての圧倒的なオーラを放っていた。
「ど、どうですの……? 似合ってますの?」
リーザが少し恥ずかしそうにスカートの裾をつまんで一回転すると、フリルがふわりと花のように広がった。
「め、めちゃくちゃ可愛いじゃない……! リーザちゃん、あんたやっぱり素材は最高なのよ! なんであんな浮浪者みたいな生活してたのよ!」
キャルルがオカン特有の感動の涙を流しながら、リーザを抱きしめる。
「悪くない。視覚的な訴求力としては百点満点だ」
俺は冷徹なプロデューサーの視点で頷き、ルルナが錬成したワイヤレスマイクの電源を入れ、リーザに手渡した。
「テストだ。声を出してみろ」
「は、はいですの! ……あー、あー。マイクテス、マイクテスですの!」
『――マイクテス、マイクテスですの!』
アンプのスピーカーから、リーザの美声が増幅されて店内に響き渡った。
それだけではない。マイクという「声を遠くまで届ける魔導具」を通したことで、人魚族特有の『魅了のバフ』が、通常時の何倍もの密度で空気をビリビリと震わせたのだ。
ただのテスト音声だというのに、それを聞いたイグニスがビクゥッ! と肩を震わせ、胸を押さえた。
「な、なんだこの響きは……。鼓膜じゃなくて、直接『魂』を揺さぶられるような感覚だぜ……っ。俺様、なんだか無性にロックバイソンの肉を大人買いしたくなってきたぞ……!?」
「素晴らしい。機材の相性も完璧だ」
俺はニヤリと笑みを深めた。これなら、明日の特売商品は瞬く間に完売するだろう。
「ルルナさん! このマイクと衣装、本当にありがとうございますの!」
リーザがマイクを両手で握りしめ、ルルナの手にすり寄る。
「私、絶対に明日のライブで売上を巻き上げてみせますの! そしてお金が貯まったら、ルルナさんのガチャ資金に投資しますの!」
「リーザちゃん……! ええ、スーパー折原の売上のために、共に底辺から成り上がりましょう!」
極貧地下アイドルと、ガチャ依存の聖女。二人が固い握手を交わし、完全なる『最強タッグ』が結成された。
「よし、機材のセッティングはルーベンスにやらせろ。イグニス、お前は明日、ステージの最前列で『警備員』として客の熱狂をコントロールしろ」
「あぁん? 俺様が警備? けっ、あんな電波ソングで客が呼べるかよ。まぁ、店長の命令なら最前列で腕組んで睨み効かせててやるぜ」
イグニスが大斧を肩に担ぎ、鼻で笑った。
彼はまだ気づいていなかった。
明日の特売ゲリラライブにおいて、自分が『もっとも深い沼』へと叩き落とされる、哀れな最初の犠牲者(古参オタク)になるということに。
スーパー折原、伝説の『特売ゲリラライブ』の朝が、すぐそこまで迫っていた。
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